【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~   作:行方不明

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第八十一話~夫婦とは~

 時は少しだけ遡る。

 その時、来人たちは次元の狭間を走りながら、先ほど見つけた“者”をまじまじと見つめていた。

 

「これは」

『ふむ。だいぶ弱っているようだが……』

 

 来人が抱えているその者は、先ほどまでこの次元の狭間をゆらゆらと漂っていた。

 気絶しているのだろう。目は閉じられていて、開く気配がない。一応生きてはいるようだったが、見た感じではだいぶ衰弱しているようである。

 青い子竜とでも言うべきデジモンだった。

 

『だが……ふむ』

「カミサマ。こいつさ、何か……」

 

 来人もカミサマも、知識としてはそのデジモンがどういう種なのかは知っている。成長期デジモンのブイモンだ。だが、彼らは同時にそれだけではない“何か”をブイモンから感じていた。

 

『おそらくそれで正解だろう。此奴は……ロイヤルナイツだ』

「あ、やっぱり?」

 

 カミサマの言葉に、来人は特に異を唱えることもなく納得した。“何か”を感じていた時点で、薄々そんな予感がしていたのである。

 

『おそらくは向こうの世界に渡っている途中に向こうの世界の入口が閉じたのだろう。出口も入口もなくなって、それでこの次元の狭間に消えたのだ』

「考えるとすっごい恐ろしい体験だな。世界の狭間に消えるって……」

『そうだな。我々もそうなりたくなければ、足を動かせ』

「わかってるよ」

 

 成長期まで戻っているのは、おそらくはこの空間で生き抜くために消耗を抑えようとしたのだろう。

 いつ出られるともわからない、いや、そもそも出られない可能性の方が遥かに大きい中、たった一人きりで出られる時を信じ生き抜こうとする。凄まじい精神力だ。

 さすがはロイヤルナイツに名を連ねる者、と言うべきか。来人は素直に感心していた。

 

「で、こいつどうする?」

『……そうだな』

 

 カミサマと来人は悩む。

 連れて行ってもいいが、連れて行って敵となったのならば堪ったものではない。このブイモンがどちら側なのかが確かめらればいいのだが、当の本人は未だ気絶したままの状態。

 

「うーん」

『……む』

「どうした?」

『残念だが、時間切れだ』

 

 悩んでいた来人たちだったが、カミサマが上げた声に来人は疑問の声を上げた。時間切れとは一体どういう意味なのか、と。

 

「って……!」

 

 だが、そんな来人もすぐに気づく。カミサマの言葉の意味を。

 視線の先には空間の裂け目が出来ていて、そこから見える景色は懐かしいもので――必死に脚を動かしていた来人は、勢いのままにその裂け目の向こうへと飛び出してしまった。その脇にブイモンを抱えたままで。

 

「いやぁ、懐かし――っ!?」

 

 本来ならば、ようやくたどり着いた故郷で一息つきたかった。

 だが、そんな来人の視線に飛び込んできたのは、狂気を纏う女神がアミに向かって攻撃を仕掛けようとしている姿で――。

 

「いきなりかっ!」

 

 ――怪我人にはキツイかもしれないが、そこは緊急事態だ。抱えていたブイモンをそこら辺に放り投げて、来人は走った。

 アイギオモンのままではキツイ。来人は進化する。幸いにも、カミサマが内側にいるから“それ”への進化は環境に関係なくできる。

 

「間に合えっ!」 

 

 来人が進化したのはアイギオテュース:ホーリーだった。

 進化して上がったスペックを余さず使用して、来人は女神とアミの距離を詰める。

 その結果。

 

「はは……帰ってきて早々……どういう状況だよ」

 

 結果、来人はギリギリで間に合った。突き出された女神の針をその手で掴む。

 もう少し遅ければ間に合わなかっただろう。そのあまりにも間一髪だった状況に、来人は内心疲弊していた。

 

「来人っ!」

 

 まるで確認するかのような、そんなアミの叫び。

 来人はアミを見て、周りを見た。全員、ものの見事にボロボロである。

 

「おー……アミ。で、これどういう状況?」

「知らないよっ!」

 

 少し怒ったような、拗ねたような。アミはそんな声で怒鳴った。そこには来人が無事であったことに対する歓喜の色があったのだが――この女神で手一杯な来人は気づけない。

 

「っ……!」

 

 一方で、女神は来人の登場に動揺しているようだった。即座に彼女は来人から距離をとり、そのまま観察するように止まった。

 

「ったく……おい、カミサマ」

『……驚いたな』

「何がだよ?」

『来人、貴様には()()()のか?』

「何……?」

 

 カミサマの言葉に、来人は眉をひそめた。

 本気で言っているのならば、彼にはあの女神の姿が見えていないことになるからだ。自分の妻である者の姿が。

 

「見えないのか?」

『うむ……このようなことは初めてだ。確かに目の前にいることはわかる。だが、その姿を認識できぬ。感知できない悪意……何者だ?』

 

 驚きと感嘆が込められた呟きだった。

 だが、その呟きを聞いた来人としては、おまえは何を言っているんだ、という話である。

 

「何者も何も……自分の妻だろ?」

『何? そのような訳がないだろう』

「これはボケているのか、それとも本気で言っているのか……」

 

 とはいえ、カミサマが嘘を言っていないことくらい、来人にもわかる。急にその目が節穴になった訳でも、その頭がポンコツになった訳でもないだろう。

 であれば、カミサマが目の前の状況を認識できないのは――。

 

「アンタの仕業か……。アンタ、“ユノモン”だろ? カミサマの……ユピテルモンの妻であるはずだ」

 

 ユノモン。オリンポス十二神の一柱にして、ユピテルモンの妻。それが女神の正体だった。散々ユピテルモンについて言及していたのだ。今更、正体を隠すことなど出来はしない。

 

「……」

 

 ユノモンは黙ったままだった。だが、それは沈黙を保つことで、逃れしようとしているのではない。

 彼女にとって、今の姿を夫であるカミサマに知られることは最も恐れることなのだ。だからこそ、この姿はカミサマだけには見えないようになっている。

 だというのに、そのカミサマと同化している来人には、彼女の姿が見えている。ありえないことだ。だが、現に彼は彼女の姿が見えている。であれば、彼を通してカミサマにも見えてしまうかもしれない。

 僅かに浮かび上がった可能性を前に、女神の内心は気が気でなかったのである。

 この醜い姿を夫に見られたくない。声を上げればバレてしまうかもしれない。その一心で彼女は黙っている。僅かな可能性さえも潰そうとしているのだ。

 

「だんまりか」

『まさか、本当に……?』

 

 震える声で、カミサマが呟く。

 信じられない。直接言葉にしなくても、そう言いたいのは明白だった。

 

『……来人』

「何だ?」

『すまぬ。我の妻が迷惑をかける』

 

 どこか元気をなくしたカミサマの言葉。それの意味するところは、彼が来人の言うことを信じたということで、目の前にいる自分が認識できない誰か、それが自分の妻であると認めたということだ。

 

「……ま、気にするな。女に迷惑をかけられるのは慣れてる」

 

 いろいろとショックだろう。カミサマの様子に、来人は努めて明るく返した。

 

「なっ……! ユピテルモン様は……私よりもその下種をお信じになられるのですか!」

 

 一方で、そんなカミサマに黙っていられないのがユノモンだ。

 彼女はどうしても納得できなかった。自分の夫は長年連れ添ってきた自分よりも、ぽっと出の下等種族の言うことを信じるのだということが。自分と同じくらい、その下等種族に信を置いているということが。

 納得できなくて、つい口を出してしまった。

 

『ああ、聞こえた……やはり、そうか。お前だったか』

 

 そして、その抗議の声はしっかりと夫に届く。

 ユノモンにとっては最悪なことに。

 

「っ」

 

 その瞬間、ユノモンは逃げ出した。彼にだけは知られたくなかったから。

 カミサマ――ユピテルモンが悪と定めるかのような、そんな立ち居振る舞いも、そんな狂気も、美しさの欠片もないような醜い姿も。

 知られてしまったからどうするのか。どうすればいいのか。何もかもがわからずに、感情と理性が暴走して、ユノモンは天を駆ける。

 

「……カミサマ?」

『……何だ?』

 

 そんなユノモンの後ろ姿を見ながら、来人はカミサマに語りかける。

 

「夫婦なんだろ。だったら、カミサマ自身がどうにかするべきだ」

『それは……』

「悪として裁くにせよ、許しを出すにせよ……どちらにせよ、きっと夫であるカミサマがしなければならないことだ。誰かに間に入ってもらうことじゃないだろ」

 

 夫婦とはそういうものであって欲しい。そんな来人の願いが込められた言葉だった。

 まさか来人に諭されるとは。未だショックの抜けきらない状態だったが、カミサマは内心で力なく笑った。

 

『……すまない!』

 

 直後、来人とカミサマの身体の主導権が入れ替わる。カミサマが神様としての力を取り戻す。来人の身体が、ユピテルモンへと進化した。

 

「来人っ!」

 

 懇願するようなアミの声が来人に聞こえた。

 その声は何処にも行かないでと行っているかのような、また勝手にいなくなられる恐怖を感じているかのような、そんな声色だった。

 

『大丈夫。今度はさっさと帰ってくるから』

 

 ユノモンを早く追いかけたいだろうに、少しだけ待ってくれたカミサマに感謝して、来人はアミに告げる。

 その直後、カミサマはユノモンを追いかけて天を駆けた。

 その急ぎようたるや、凄まじいと言わんばかり。まあ、今のこの世界にはロイヤルナイツを筆頭にさまざまな猛者がいるのだから、仕方ない。何かの拍子にそういった存在に討伐されてしまう可能性すらあるからだ。

 

『そういや、ブラックメガログラウモンがいなかったな……』

「デジヴァイスの中にいただけだろう……見えた!」

 

 来人の疑問にも軽く返し、カミサマはユノモンを捉える。

 だが、ユノモンはカミサマが追って来たと知るとさらにスピードを上げる。捕まる気はなさそうだった。

 

「……仕方ない! “マボルト”!」

 

 であれば、実力行使だ。カミサマは両手のハンマーを打ち鳴らし、小さな雷雲を発生させる。そのままその雷雲で組んだ陣から、雷をユノモンめがけて発射した。

 

「っ!」

 

 逃げることに必死になっていたからだろう。あるいは、先ほどのアミたちに負わされたダメージが抜けきっていなかったからか。

 ユノモンはその雷を受け、あるビルの屋上へと落下した。

 

「やれやれ……ようやく捕まえたぞ」

 

 ユノモンの前に、カミサマは降り立つ。

 ここから先は夫婦の時間だ。来人は空気を読んで黙る。

 

「さて、少しくらい向き合って欲しいものだが……」

「私は! 私がしたこと、間違っているとは思っていません!」

「……ふむ」

 

 ユノモンの叫びに、カミサマは考え込んだ。

 ユノモンに“そういう”ところがあることくらい、彼も知っている。知った上で、夫婦であるのだ。だが、今回のこと、そして自分の知らないうちに彼女が行ってきただろうことを考えれば、少々度が過ぎたでは済まないレベルである。

 考える。どうすればいいのか。普通ならば、裁かねばならないだろう。

 

「……そうだな」

 

 カミサマは呟き、そして決めた。

 自分の内側に感じる者は決められた運命に抗った。彼をダシにするわけではないが、彼がいる今は“ユピテルモン”としてではなく、カミサマとしてある。であれば、自分の思いを優先させても問題はない、と。

 

「我を愛するが故の行為だ。大目に見たいとは思う。だが、今のお前の行いはそのレベルを超えている」

「私、は……」

「だから、もうこのようなことをしないでくれ」

「っ」

 

 つーか、カミサマの性格と行動が半分くらい悪いんだよなぁ、などと冷静に呆れるのは、黙って事の成り行きを見守っていた来人である。

 彼はユノモンの行為を肯定する気はないが、カミサマの最低さ加減を肯定する気もなかった。

 

「今、なんと……?」

「何度でも言おう。もうこのようなことはしないでくれ」

「……! なぜ?」

「何故と問うか。簡単だ。我がお前を愛しているからだ。お前がどのような存在であろうと、な。我はお前を悪として討ちたくはない」

 

 自分は赦された。それがわかってユノモンは震えた。

 

「一つ。元の姿に戻ってくれ。そんな姿よりも、我はお前の本当の姿を見たい」

「あぁ……あぁ! はい、只今!」

 

 カミサマの言葉に、ユノモンは仮面を剥ぐ。ヒステリックモードと呼ばれる形態から、その本来の姿へと戻った。

 その際、アミたちに負わされた怪我を見かけだけでも治したのは、女の意地だったのだろう。

 

「ああ……我が妻よ。やはりお前はその姿が似合う」

「ありがとうございます。ユピテルモン様」

 

 ユピテルモンの言葉に、ユノモンは微笑む。その姿は、まさしく女神の姿だった。

 そんなユノモンの一方で――カミサマは来人に感謝していた。

 ユピテルモンが妻と向かい合えたのは、来人のおかげであるから。本当に返せないほどの借りがいくつもできた。もし来人がいなければ、自分はあの形態となったユノモンを認識することも適わなかっただろう、と。

 

『……』

 

 まあ、そんな風に感謝されている彼は、ユピテルモンの内側で呆れと侮蔑の気配を漂わせていたのだが――それはほんの余談である。

 




というわけで、第八十一話。

ヤンデレ様、もといユノモンの件が解決しました。
ヤンデレを回避するために必要なのは、やはり愛の囁きですよね。
結果、ヤンデレ様によって起こされた問題は過去のものと放り投げられているわけですが。

それでは次回もよろしくお願いします。
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