【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~   作:行方不明

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第八十二話~次元の狭間に消えたはずの者~

 来人たちがユノモンを追いかけていったその後、アミはその場でしばらく呆然と待っていた――のだが、いつまで経っても帰って来ない彼らを前に、彼女は暮海探偵事務所へと戻って来ていた。

 無論、アミとしてはそのままその場で待ちたかったのだが、ガンドラモンたちに疲労が貯まっていること、来人の言葉を信じようと思ったこと、杏子から連絡があったこと、いくつもの要因があって事務所に戻ることになったのだ。

 

「さて……大人しくしているわけではないと思ったから連絡をしてみれば……」

 

 杏子はアミを呆れた目で見る。休ませるために休日を与えたというのに、まさか事態の渦中に飛び込んで死にかけるとは。

 杏子の言いたいことがわかって、アミは笑って誤魔化すことしかできなかった。

 

「悠子くんの“お願い”に付き合った。まだ月夜ではないというのに嫉妬に狂った女に狙われた」

「あはは……」

「さらに絶賛行方不明だった幼馴染に助けられた。幼馴染くんはそのまま逃げた女神を追いかけていった、と」

 

 アミからの報告を聞いて、杏子は複雑な思いを抱いていた。感嘆のようで、呆れのようで、悲しみのようで、安堵のようなそんな思いを。

 

「そして極めつけは、その幼馴染くんが連れて来たデジモンを連れ帰って来たのだな」

 

 杏子の視線は、アミ脳での中にいる青い子竜に注がれる。

 来人がアミを助ける際に放り投げた青い子竜――ブイモンのことを、アミはこの事務所に戻ることになった際に目敏く見つけたのだ。放っておけるはずもなく、連れて来たのである。

 

「まさか、このような偶然があるとは……」

「杏子さん、この子のこと知っているんですか?」

「ああ。知らない訳が無いというか、少々遅かったと言うべきか」

「……?」

 

 一体何のことだろうか。アミは杏子の言葉の意味がわからなかった。遅いとは何のことだろうか、と。

 

「ふふふ……これがわからないようでは、君もまだまだだな」

 

 必死に頭を働かせているアミに気づいたのだろう。杏子は微笑ましいものを見るように笑った。

 

「どういうことですか?」

「ふむ。ある意味で君の幼馴染くんの珍プレーというやつだ。君を救ったことといい、幼馴染くんはなかなかやるな」

「……?」

「その顔ではやはりわかっていないようだな。まぁ、仕方ないか……簡潔に言えば、失われる定めだった命が助けられた、という話だ」

 

 首を傾げるアミの前で、杏子はどこかへと通信し始める。

 話の流れからして、このブイモンのことだろう。アミはその通信が繋がるのをただ待って――。

 

『何か会ったのか?』

 

 ――しばらく後に通信に出たのは、オメガモンだった。ノキアではなく、オメガモンだ。

 いつの間に連絡先を交換したのだろうか。アミは杏子を見るが、杏子はただ意味深な笑みを浮かべるだけだった。

 

「先ほど帰って来たらしいアミの幼馴染くんがサプライズを持ってきてくれてね」

『さぷらいず? ……ノキアから聞いたことがある。パーティーを開くということか?』

「サプライズといえばパーティーというノキアくんの思考はさて置き、サプライズというのは……まあ、驚かせるという意味だ。つまり、驚くような者を持って来てくれたのだよ」

 

 素で言っているのだろう。惚けるオメガモンに向かって杏子は意味深に笑い、アミを呼ぶ。アミはブイモンを抱いたまま杏子の下へと行った。

 一方で、杏子の笑みの訳がわからず、首を傾げていたオメガモンは――次の瞬間、アミの腕の中にいるブイモンを見て目を見開いた。

 

『アルフォースブイドラモン!?』

 

 オメガモンの驚愕の叫び。

 だが、驚いたのは彼だけではなかった。

 

「アルフォース……って!」

 

 アミもその名に驚くしかなかった。

 アルフォースブイドラモンといえば、次元の狭間に消えてしまったロイヤルナイツで、生きていることさえ絶望視されていた者だ。

 もちろん、これはオメガモンと杏子の推測でしかなかったが、この世界にその気配が感じられないことから、全員がそのつもりだった。

 だからこそ、アミは御神楽ミレイの力を借りることで単身で平行世界に赴き、その世界の“とあるテイマー”のパートナーであるアルフォースブイドラモンを借り受けたのだ。

 だというのに、アミの腕の中にいるブイモンこそ、この世界のアルフォースブイドラモンだと言う。

 

「どうして……?」

「さて……なぜ幼馴染くんがアルフォースブイドラモンと共にいたのか。それは実際に聞くしかないな」

 

 そう言うと、杏子は扉の方へと目を向けた。

 アミは彼女のその視線の意味が瞬時にわかった。すぐさま、扉へと駆け出す。勢いよく扉を開ける。開いた扉の向こうに――。

 

「えっと……ただいま?」

『やれやれ』

 

 ――アイギオモンへと戻った来人がいた。

 入るかどうかを逡巡していたのだろう。その顔にはバツの悪そうな笑みだけがあった。

 入るかどうか逡巡していた彼だが、ちなみに言えばアミに会うのが嫌だったという訳ではなく、この探偵事務所であった惨劇(コーヒー)を思い出して躊躇っていただけである。

 

「来人っ!」

 

 無事な来人の姿を視界に収めた瞬間、アミは溢れるものを感じた。

 

「え? ちょ!」

 

 彼の慌てる声も無視して、アミは彼に抱きつく。彼という存在が今ここにあること、それを確かめたかったからだ。

 

「よかった……!」

 

 心の底からの安堵の想いが溢れてくる。アミはしばらくそうしていた。後ろでニヤニヤと笑っている杏子のことなどお構いなしだった。

 だが。

 

「へぇ? 妻である私の前でいい度胸ね」

「……」

 

 だが、まあ、杏子のことはお構いなしでも、聞こえてきた声には構ってしまうのが、世知辛いところである。次の瞬間、アミのその心の底からの安堵は心の底からの恐怖へと変わってしまった。

 聞こえた声の方を見れば、この中野ブロードウェイの廊下に狭そうに身を屈めたユノモンが確かにいて――。

 

「あはは……夢?」

 

 ――アミはその非現実な光景に目を疑った。

 

「残念ながら夢じゃないんだよな。……あのさ、ユノモンをアミのデジヴァイスに入れて欲しいんだ」

『我からも頼む』

「え……」

 

 アミは唸る。彼女のユノモンに対するイメージは、敵だ。いろいろな意味で。だから、来人たちの頼みでも自分のデジモンたちの家でもあるデジヴァイスに入れたくなかった。 

 

「言いたいことはわかるけど頼む! カミサマと一緒にいれば、多分大丈夫だから! むしろ、カミサマと一緒じゃないと大丈夫じゃないから!」

 

 そう言われてしまえば、アミに断ることなどできなかった。下手に断ってまた襲われては堪ったものではない。渋々、本当に渋々といった様子でアミはデジヴァイスへとユノモンを取り込む。

 

「うふふ……これで一緒ですね」

 

 最後のユノモンの呟きに、早まった気がしたアミだった。

 

「そういえば、人に見られなかったの?」

「ああ、そこは……ほら。アイツって美人だろ? だから……ほら」

 

 察しろ、と。来人は言外に言う。

 そして、そんな彼の要望通り、アミは何となく察した。簡単に言えば、デジモンであろうと美人は得だということだ。

 

「ま、性格はアレだけどな。カミサマよく愛せるよな……」

『何を言う。ああいうところがいいのではないか』

「……即答で言い切れるところがすごいな」

 

 ともあれ、ユノモンをどうにかした来人たちは探偵事務所の中へと入る。

 そこには事の成り行きを見守っていた杏子とオメガモンがいた。

 

「まさかオリンポスの主神の愛の告白が聞けるとは。ふふ……面白いこともあるものだ」

『そんなことよりも! アルフォースブイドラモンのことは礼を言おう。ありがとう。それにしても、どうしてお前たちはアルフォースブイドラモンを見つけられたんだ?』

 

 通信越しながら、興奮気味にオメガモンが来人に詰め寄った。

 まあ、生存を絶望視していた仲間が助かったのだ。その嬉しさは計り知れないものがあった。

 

「ああ……俺たち、ちょっと前までイリアスにいたんだよな」

「え?」

「何?」

『何と……』

 

 イリアスにいたという意外すぎる来人の言葉に、アミたちは揃って驚きの声を上げる。

 

「向こうに行った理由も向こうでもいろいろあったんだけどな。まあ、それは解決したから問題なし」

「いろいろ? ……いやいやいや!」

「で、そいつは帰り道に拾った」

 

 まるでお金を拾ったとばかりに、気楽に言った来人。そんな彼の様子に、アミたちは言葉を失うしかない。

 

『なるほど……次元の狭間で、か。アルフォースブイドラモンは我々に味方をしてくれるだろう心強いデジモンだ。助かったのはありがたい。だが……』

 

 オメガモンはそこで言葉を切った。

 事情を知らない来人は別として、その先はアミたちにも理解できた。すなわち、アルフォースブイドラモンの戦線復帰はしばらく後、下手をすればすべてが終わった後にすらなるだろう、ということだ。

 

「ま、でも仲間なんだ。助かっただけいいだろ? まさかどこぞの神様たちみたいに代わりがいるからポイッなんてしないだろうし……しないよな?」

『それはもちろんだ。行方知らずだった盟友の無事、それだけで十分な僥倖だ。ありがとう、何度礼を言っても言い足りない』

 

 オメガモンの声に、来人はうんうんと頷いた。やはりこれが普通の仲間というものだ、と。どこぞの捻くれた神々に教えたいくらいだった。

 一方で、そんな彼の姿に不機嫌な様子を見せているのがカミサマであるのだが、それはほんの余談である。

 

「結局、来人はイリアスで何があったの?」

 

 話題が切れたのを見計らって、アミが来人に聞く。

 

「……俺たちがイリアスに行くことになった件のことは解決したからいいとして、そっちは何か進展あったか?」

 

 一方で、来人は彼女の質問を流し、質問を返す。まるで、その辺には触れないで欲しいとばかりだ。

 彼は言う気がないのだろう。そのことに、この場の全員が気づいた。

 

「絶対聞かせてもらうからね」

 

 まあ、アミだけが絶対にいつか聞き出そうとやる気を燃やしているのだが、対する来人は沈黙を貫いた。

 

「はぁ。まぁ、いいや。とりあえず、私たちにあったことは――」

 

 黙ったままの来人に呆れながら、アミはこの数日で進展した事態について述べていく。

 来人は聞いていくうちに、どんどん頬を引き攣らせていった。まさか、自分のいない間にロイヤルナイツたちに会っているなんて。説得できた辺り、アミらしいと思う彼だが、心臓に悪いことこの上なかった。

 まあ、それはアミも同じなのだが。

 何はともあれ、すべてを聞いた来人は一つだけどうしても気になったことがあった。

 

「平行世界って、可能性の世界ってことだろ? ……無茶だろ」

 

 そう、御神楽ミレイの協力の下、アミが行った平行世界についてである。

 

「でも、実際に行けちゃったんだよ……」

「あの人すごいなっ!」

 

 オリンポス十二神やロイヤルナイツでも早々できないことをやってのける御神楽ミレイとは、一体何者なのか。来人だけではない、この場の全員の謎だった。

 




というわけで、第八十二話。

本格的な帰還回と主人公たちが見つけてきたデジモンの正体発覚の回でした。
これでようやく元の雰囲気が戻ってきますね。

今日は二話同時投稿しますので、次話もよろしくお願いします。
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