【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~   作:行方不明

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今日は二話同時投稿していますので、前話をご覧になっていない方はそちらからよろしくお願いします。


第八十三話~闇に堕ちた彼と闇に生きる神~

 事態は着々と進みつつあった。

 中立を保っていたロイヤルナイツたちに対する説得活動は進んでいて、いよいよ次の段階が迫りつつあった。

 

「久しぶりにゆっくりしている気がする……」

「あはは……大変だったもんね。お互いに」

 

 そんな中で、来人とアミは僅かに残る日常を過ごしていた。決して油断できるわけもない現在だが、休息する間もないというわけではない。休むことができる時に休んでいなければ、いざという時に動けない。

 こんな時だからこそ、二人は共に中野ブロードウェイの四階に存在するカフェでひと時の休息を楽しんでいた。

 ちなみに、二人がここにいる理由は、某コーヒーから逃げて来たからではない。

 

「ここは落ち着ける……味覚破壊兵器(コーヒー)に悩まされることもなければ、俺みたいなボロ布付きでも入れてくれるしな」

 

 デジモンであることを隠すためにボロ布を纏っている来人――彼が堂々と居座っても、この店の店員たちは奇異の目で見てこない。そんな彼らに、来人は好印象を抱いていた。

 こういう対応こそプロフェッショナルというものだ、と。

 

「来人の格好はともかく……杏子さんのアレは慣れればそれなりにいいものだよ? 最近、そんな気がしてきたんだ」

「……洗脳されてないか?」

 

 疲れたような虚ろな目をして告げるアミに、来人は不安になる。

 とはいえ、そんな来人の表情にも隠しきれない疲れがあった。そう、彼も()()()に疲れていたのだ。

 

「来人、大丈夫?」

「正直に言えば……あんまり。それもこれもカミサマのせいでな……!」

『何を言う。我のせいにするな』

 

 恨みを込めて来人が呟けば、カミサマは心外だとばかりに声を発する。

 だが、心外なのは来人の方だった。

 

「一から十までお前のせいだろ! ユノモンとのことだよ!」

『何? 何かお前に迷惑をかけることがあったか?』

「大アリだ! アミのデジヴァイスの中でイチャイチャイチャイチャ! 俺が気を使って黙っていれば……この身体は共用なんだからな! 少しは加減しろ!」

 

 つまりはそういうことだった。

 来人は何もない時、アミと行動しているか、彼女のデジヴァイスの中にいるかのどちらかだ。そして、デジヴァイスの中にいる時――カミサマは、同じくデジヴァイスの中にいるユノモンと夫婦の時間を過ごすのである。

 つまり、物理的にカミサマと別れられない来人は、その二人きりの時間の中に否応なしにお邪魔している状態。気まずいなどというものではなかった。

 

『と、言われてもな。向こうから求めてくるのだから、仕方ないだろう? またヒステリックモードになられても困る』

「それは確かにそうだけど……!」

 

 病んでる感があるユノモンの機嫌のためにも、その二人きりの世界を壊さないように全力を尽くさなくてはならない。だからこそ、来人はこうも疲れているのだ。

 まあ、デジモンに男女の情事はない。それは、来人にとって唯一の救いだったか。

 

「ふふっ」

 

 ふと、笑い声がした。来人はそちらを見れば、そこではアミが楽しそうな雰囲気のままに微笑んでいて――。

 

「……なんだよ?」

 

 ――来人は不機嫌そうにアミを見つめた。

 

「別に? ただ、何か……前よりも仲良くなったなと思って」

「……」

『……』

 

 アミの言葉に、来人とカミサマは黙り込む。ただ、その言葉を否定だけはしなかった。

 穏やかで心地良い沈黙だけが辺りに満ちる。その沈黙を破ったのは、アミのデジヴァイスから鳴るメールの着信を示す音だった。

 

「杏子さんからだ。えっと……依頼?」

「つまり、戻って来い、と」

「そうだね」

 

 仕事ならば仕方ない。この心地良い時間を終わらせることには後ろ髪を引かれるが、それでも仕方ないものは仕方ない。

 来人たちは支払いを済ませ、店を出る。

 まあ、来人は金を持っていないから、アミが代わりに支払ったのだが。

 

「……紐みたいで良い気はしないな」

 

 アミに聞こえないように自分の情けなさと虚しさを呟きながら、来人は彼女と共に歩き出した。

 どのような依頼だろうか。ロイヤルナイツに関することか、イーターに関することか、それとも全く別のことか。

 話しながら、二人は暮海探偵事務所へと戻る。扉を開ける。

 

「あっ! らいとお兄ちゃん!」

 

 瞬間、聞こえてきた声。

 ずいぶんと久しぶりな気がするな。聞こえてきた声とその単語に、中にいるのが誰かわかった来人は懐かしさを感じた。

 

「久しぶりだな、ひな」

「うん! 久しぶり!」

 

 そう、中にいたのはひなだった。来人の姿を見るなり、彼女は彼の下へと笑顔で寄ってくる。そんな彼女に、来人は微笑みを返した。

 

「……」

「なんだよ?」

「別に……ロリコン」

「人をロリコン呼ばわりしといて、別に、はないだろ……!」

 

 アミはなぜかひなの姿を見るなり、若干警戒するような雰囲気を発し始めたのだから、来人としては戸惑うしかなかった。

 

『ふむ。何だ。来人、お前もそういう部分があったのではないか』

「一応聞くけどさ。どういう意味だ……?」

『何。あと十年も経てば、という話だ。だろう? お前もなかなかにわかっているではないか』

「頼むからこれ以上俺の中のカミサマのイメージを壊さないでくれ! あと、一回ユノモンに殺されろ!」

 

 さらに、カミサマと来人とのやり取りを聞いて、アミの視線と雰囲気がさらに冷たいものとなる。わかりきったことだが、アミの中でのカミサマの株は大暴落していた。

 この中で唯一、ひなだけが何もわかっていないように首を傾げていて――。

 

「そろそろいいかな?」

 

 ――そんな来人たちの雰囲気を元に戻したのは、事の成り行きを面白そうに見ていた杏子だった。

 

「あ、すみません……!」

「フフ。いや、何。こちらとしても君の新たな一面が見れて面白かった。しかし……どういったものにしろ、幼子に対抗意識を燃やすのはどうなのだろうな?」

「……?」

「……無意識か。まあいい。依頼の話だ」

 

 首を傾げるアミに呆れたように呟いて、杏子は視線をひなへと向けた。

 

「ウチは託児所ではないのだが……まぁ、依頼は依頼だ」

「杏子さん、まさか依頼として受けるつもりじゃないですよね?」

 

 杏子の意味深な言葉に、アミが堪らずといった風に声を発した。依頼ということは、即ち依頼金が発生する。今回の依頼人――ひなに、私立の探偵を雇えるほどの支払い能力があるわけない。

 いくら杏子さんでもそれはないはず。アミは杏子がそこまでの守銭奴だとは思いたくなかった。

 

「ふっ、もちろんじゃないか」

 

 冗談だ、とそう言いたいかのように杏子は肩を竦めた。

 そんな杏子を見て、アミはホッと安堵の息を吐く。

 

「ですよね! すみません、疑っちゃって……」

「全くだ。探偵ならば、冗談を見抜くくらいの洞察力は得なければならない」

「はい!」

 

 だが、このやり取りを傍から見ていた来人とカミサマは気づいていた。絶対に冗談ではなかった、と。

 

「まあ、その子は君を氏名だ。幼馴染くん」

「……俺? ま、別にいいけどさ。でも、俺はこの探偵事務所のメンバーじゃないんだけど?」

「当然だろう」

 

 その言葉は一体どちらの意味なのか。メンバーでないのが当然なのか、それともメンバーとして数えているのが当然なのか。

 普通ならば前者だが、来人は後者の意味のように思えていた。

 

「実は別件で依頼が入っていてね。我らが助手くんはそちらに回さなければならない。だが、だからといってその小さな子を放り出したのでは、探偵稼業の名折れでもある」

「だから俺に面倒を見ろ、と?」

「そういうことだ」

 

 一二もなく頷かれて、来人は溜息を吐いた。

 何やら、都合が良いように使われていそうな気がする、と。

 だが、来人に断る権利などなかった。「……迷惑だった?」などと、ひなが悲しそうな目で呟いていれば、断ることなどできるはずもなかった。

 

「ま、いいや。それじゃ、行くか」

「うん!」

 

 ひなを連れて、来人は探偵事務所から出ていく。

 後に残ったのは――。

 

「……」

「依頼の話をしていいかな?」

「どうぞ」

 

 ――不機嫌そうなアミと、そんな彼女の姿に面白そうな笑みを浮かべた杏子だけだった。

 

「さて、依頼だが……先ほど、珍しくも伊達くんからの依頼だ。まあ、ぞんざいが過ぎる依頼だったが……ともかく、だ。浅草にイーターが出現したらしい。そちらを解決しに行って欲しいとのことだ」

「イーターが……って、大変じゃないですか!」

 

 イーターが出たとなれば、不機嫌になっている場合ではない。

 一瞬で真面目な雰囲気となったアミは、すぐさま詳しい場所を聞いて準備をする。

 

「行ってきます!」

「うむ。任せるぞ」

 

 杏子に送り出されて、すぐさまアミは駆け出した。

 正直に言えば、来人も一緒に来て欲しかった。だが、ひなの面倒を見ているのだから仕方がない。そう、仕方がないのだ。再び湧き上がってきた不快な感情を、アミは頭を振って打ち消す。

 足を動かし、不快な雑念と戦う。いつの間にか、気づかない間にアミは浅草へと着いていた。

 

「マヨヒガ……!」

 

 そして、浅草へと到着したアミは見つけた。探すまでもない。目立ち過ぎる場所にそこはあった。いつかと同じように、大部分がデジタルシフトしている浅草の一箇所は。

 警官や自衛隊の人々が、そこを取り囲んでいる。厳重だった。

 

「どうしよっか……」

 

 こっそりと、アミは建物の影に隠れて様子を伺う。ついでに隙も伺う。

 だが、さすがは訓練された人々だろう。いくら待てど探せど、アミがバレずに通ることのできるほどの隙を晒すような人々ではなかった。

 仕方ない。内心で呟いて、アミはデジヴァイスを掲げる。

 そして、出てきたのは――。

 

「はぁーい!」

 

 ――ロゼモンだった。

 隙がないのならば、作ればいい。

 

「ロゼモン、あの人たちを引きつけて。私がデジタルシフトの中に入れるように」

「わかったわ! けど、無理しちゃダメだからね!」

 

 そう言ったロゼモンの顔には、心配だけがあった。彼女もわかっているのだ。アミがいざという時には無理をする質であることが。

 もっとも、未だデジヴァイスの中にはガンドラモンたちがいる。彼らを信じているからこそ、ロゼモンもそこまでキツく言うことはなかった。

 

「それじゃ……行くわ!」

 

 ロゼモンは建物の影から飛び出して、警官や自衛隊の人々の前に躍り出る。

 

「はぁーい? 元気?」

「なっ、コイツは……!?」

「か、怪獣……!? いや、でも……」

 

 ロゼモンはデジモンの中でも人間に近い見た目をしている。初めて見る人型のデジモン、そして理知的なその姿に、自衛隊や警官たちは混乱しているようだった。

 今だ。アミはこっそりと駆け出して、デジタルシフトの中に突入した。

 

「よし、このまま……!」

 

 あまり時間をかける訳にも行かない。アミは駆け出して、イーターを探す。

 幸いにして、この浅草の空間は主に一本道。真っ直ぐに大通りを走り続けただけで、“そこ”へとたどり着いた。ただ広い、その空間に。

 そして――。

 

「え……?」

 

 ――その先にあった光景に、アミは呆然と呟いた。

 道を抜けた先の空間、そこにいたのはイーターなどではなかった。いや、イーターかもしれない。いやいや、どうだろうか。

 アミは混乱するしかない。そこにいたのは。

 

「よぉ、久しぶりだな」

「アラタ……?」

 

 そこにいたのは、アラタだった。アラタのはずだった。言い切ることができないのは――その右腕がイーターと同じものと化しているからだ。

 

「ああ、()()か?」

 

 そう言って、アラタは自分の異形となった右腕を差した。

 彼はまるで調子を確かめるように、右腕を動かしている。

 

「どうだ? ここにいるイーターを取り込んだんだ。こんなこともできちまうんだぜ? 今の俺は……。これが、末堂のおっさんがくれた力だ」

「力? アラタ、何言って……」

「これを使ってもっと食ってやる。もっと、もっと、もっと! そうすりゃぁ……きっと……!」

 

 アラタのその言葉には切実な祈りにも、そして悲痛な慟哭にも似た懇願の色があった。

 アラタが何を言っているのかはわからないが、その苦痛な感情だけは伝わってきて、アミは顔を伏せる。

 

「哀れな……」

 

 そんな時だった。アミでもアラタでもない、その声が聞こえてきたのは。

 驚愕のままに、二人は声の方を向く。そこにいたのは――。

 

「奇妙な気配を感じて来てみれば……少年、おぞましい姿になったものだ」

「てめぇ……デュークモンか」

 

 ――そこにいたのは、ロイヤルナイツのデュークモンだった。

 彼は厳しい目でアラタを睨んでいる。アラタの身に起こっていること、それがどのようなことかがわかっているかのようだった。

 

「お前はもはや人とは言えん。お前は己が後悔と怨嗟を前に人であることを捨てた!」

「それがどうした。人間のままじゃダメだったんだ。だから、人間を捨てた。それだけの話だろ?」

 

 デュークモンの言葉にも、アラタは何でもないように告げる。いや、その様はいっそ狂っているかのようだった。

 

「ならば、倒さねばなるまい。人であることを捨てたお前は、もはや人間とデジモン双方にとっての脅威でしかない!」

「っ、ちょっと待って!」

 

 死刑宣告にも似たデュークモンの言葉に、アミは抗議の声を上げる。

 さすがに、それだけは認められなかった。友人であるアラタが殺されるなど。

 

「友情と私情を間違えるな! 友人であるなら、友が闇に沈む前に滅ぼしてやらねばらなない!」

「それでも……!」

 

 自身の言葉を撤回しようとしないデュークモンを前に、アミは尚も言葉を募ろうとする。

 だが、そんな中でアラタは、自分のことを思ってくれるアミのことなど関係ないとばかりに、行動を始めていた。

 

「はっ! 悪いが“まだ”ロイヤルナイツクラスを食うのはキツそうなんでな! ここは引かせてもらう!」

「待て!」

 

 デュークモンとの()()力量差がわかっているからだろう。アラタは即座に撤退を開始する。

 逃がさない。そう言いたいかのように、デュークモンはその手の聖槍を繰り出す。突き出された聖槍は、アラタめがけて吸い込まれるように突き進んで――。

 

「ほう、面白いことになっているな。まさか、他者の力を奪い糧とすることで己の力を上げるとは。強大な力を持つ我には思いつかなかったことだ」

 

 ――その身に迫る聖槍からアラタを救ったのは、謎の声と漆黒の雷だった。

 

「何っ!?」

 

 まさか第三者に防がれるとは思っていなかったし、直後に現れたその声と雷の主の姿には、さすがのデュークモンも驚愕するしかなかった。

 アラタを救った声と雷の主――それは、黒い神だった。彼はまるでアラタを庇うかのように、デュークモンとアミの前に立ちはだかっている。

 

「ククク……良いことを教えてもらった礼だ。だが、さっさと逃げねば我が殺すぞ?」

「ッチ……!」

 

 アラタは黒い神の言葉が冗談でも何でもないことがわかった。もし、自分が撤退以外のことをするようならば、即座に殺される。そのことが理解できた。

 だからこそ、アラタはこの場を去る。内心、未だ強者に届かない我が身の劣等感を募らせながら。

 

「何を考えている……!」

 

 一方で、みすみすアラタを逃す羽目となってしまったデュークモンは、苦々しい顔で黒い神を睨んだ。

 

「何、もう少し泳がせてもいいだろう。まだまだ良いものを見せてくれそうなのでな。奴を殺すのはそれからでも遅くはない。ククク……」

 

 まるで新しい玩具を見つけた子供のように、黒い神は面白そうに嗤う。黒い神にとって、アラタはただ弄ばれるだけの玩具も同じだった。

 

「さて、奴が逃げたところで、我はこの辺で失礼しよう」

「逃がすと思っているのか? 貴様をこの場に残しておけば、どのような混乱があるか……!」

「騎士風情が……やってみろ」

「っ!」

 

 そこから先は一瞬の出来事だった。

 アミの前で、黒い神とデュークモンはぶつかり合う――ように見えて、黒い神は姿を消した。後に残ったのは、してやられたとばかりに苦い顔をしたデュークモンと状況がわからず呆然とするしかないアミだけだった。

 

「……っく。仕方ない。あの少年を追う。……お前もあの少年のことを友人と思うならば、友人のために何をすべきかを考えろ」

 

 それだけ言って、デュークモンはアラタを追って去っていく。

 その後しばらくの間、アミはデュークモンの言葉の意味を考えて、その場に立ち尽くしていたのだった。

 




というわけで、第八十三話。

戻った日常――からの、アラタくんの闇落ち回、そして出てくる黒い神様。
相変わらず、問題山積みですね。

さて、次回からは原作で言う竜の島のお話ですね。
まぁ、この小説では竜“たち”のお話ですが……ええ、ついにあの赤いのとの対決です。

それでは次回もよろしくお願いします。
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