【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~   作:行方不明

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第八十四話~竜の棲む島へ~

 来人は、ひなが満足するまで遊んであげ、そのまま彼女を家まで送っていった。そして、暮海探偵事務所へと戻って来た彼だったが――。

 

「あ、来人! 行くよ!」

「……行くって、どこに?」

 

 ――そんな彼を迎えたのは、慌ただしい雰囲気だった。それだけではなく、まるで戦場に出る前のような、そんな緊張感すらある。

 一体どういうことなのか。来人はアミに説明を乞う。

 

「残るロイヤルナイツは五体。その中でもとりわけて戦闘能力が高くて、居場所もわかっているエグザモンをどうにかしよう、ってことになったの」

 

 先ほどアラタとの衝撃的な邂逅から戻ったアミは、杏子や悠子、ノキアたちと相談し合い――結果、ロイヤルナイツの半数を味方につけた今こそ、こちらから動くべきだという結論に至ったのである。

 

「エグザモン?」

 

 エグザモンとは、ロイヤルナイツの中でもトップクラスの戦闘能力を持つデジモンだ。さらに、その巨体も相まって、破壊力、殲滅力は計り知れない。

 竜という力の象徴、真紅の巨体、そして雄々しいその姿から、“竜帝”とすら呼ばれるデジモンである。

 

『あやつか……』

 

 カミサマは苦々しく呟いた。以前、あの次元の扉が開いた時、してやられたことを思い出したのだ。

 

『気を付けよ。奴は今……イーターに身を犯され、その身に異常が起こっている。おそらく、この世界で最も本来の力に近い者だ』

 

 カミサマは忠告する。

 以前のカミサマやアミたちの活躍によって、現在この世界ではデジタルの理が中途半端にしか作用していない。

 だからこそ、元来莫大な力を持つカミサマやロイヤルナイツたちは本来の力を発揮できないのだが、その中にあって、さまざまな理由から、唯一本来の力に近い力を発揮しているのがエグザモンだ。

 

「……う」

 

 アミは思わず息を呑んだ。ただでさえ、最高峰のスペックを持つエグザモンに相対するというのに、こちらのスペックは強制的に下げられているという事実を思い出したからだ。

 

「大丈夫だろ。その分、こっちは数がいる。だろ?」

『お前は……だが、それは向こうも同じことだ。あまり楽観視できんぞ』

「俺たちだっている。何とかなるって」

 

 努めて、来人は明るく言う。

 アミは余計に心配になった。彼女には、来人が()()()明るく言っていることがわかったのだ。

 異常なまでに勘の鋭い彼が、努めなければ明るく言うことができない。その意味がわからないアミではなかった。

 

「……行こう」

「ああ」

 

 だが、言っていても始まらない。

 すでに作戦は動いているし、不確定な要素で足踏みしてしまえば、未来は掴めない。未来は不確定なのだから、足踏みしてしまえば、タイムリミットだけが近づいてきてしまう。

 胸の中にある嫌な予感を押さえ込んで、アミは来人と共に歩き出した。

 向かう先は、エグザモンの居座る――お台場。

 

「……そういえば、カミサマに聞きたいことがあったんだ。いろいろあってオメガモンたちに聞けなかったから」

『む? 何だ?』

 

 お台場への道すがら、アミはカミサマに声をかける。聞きたいことがあった。

 

「さっきね……イーターの力を取り込んだアラタに会った時――」

「ちょっと待て、イーターの力を取り込んだアラタって……」

「ああ、うん。えっと……」

 

 聞き捨てならない言葉に、来人は思わず声を上げた。

 アラタが、イーターを、取り込んだ。一体どういうことなのか。そんな彼の疑問に、アミは先ほどのことを簡単に説明し――そのおぞましき事態に来人とカミサマは絶句しているようだった。

 

「アラタが……」

『イーターを利用するとは。俄かには信じられん。そのようなことができるとはな』

 

 来人たちの言葉を聞きながら、アミは思う。無理もない、と。

 アミですら、未だ信じられない気持ちなのだ。いや、信じたくないと言った方がいいかもしれない。イーターをアラタが利用していることも。アラタが、そのような道に踏み込んだことも。

 

「話を元に戻すけど……その時に、会ったんだ」

『会った?』

「うん、ロイヤルナイツじゃないけど、それに匹敵するような……黒い雷を使うデジモンにね。心当たりない?」

「……」

『……』

「来人? カミサマ?」

 

 いきなり黙り込んだ来人たちに、アミは首を傾げる。何かまずいことでも言ってしまっただろうか、と。

 一方で、来人たちは――特に、カミサマはその黒い雷を扱うデジモンに心当たりがあった。いや、心当たりがあるというレベルなどではない。よく知った仲だ。不倶戴天の仲でもある。

 

『奴はどうした?』

「それが、デュークモンからアラタを逃がして……それっきり」

『そうか。……そうか』

 

 カミサマは黙り込んだ。

 そんなカミサマと――苦い顔をしている来人の様子に、アミは心配になる。あの黒いデジモンは一体どういう存在なのか、と。

 

『奴は――』

 

 やがて、黙っていたカミサマが語りだす。あの黒いデジモン――黒い神についてのことを。

 

『我らオリンポス十二神がイリアスの表の守護者ならば、あやつはイリアスの裏の守護者とでも言うべき存在だ。その力は我らオリンポス十二神に匹敵する』

 

 イリアス、オリンポス十二神。今まで知らなかった単語さえも登場するその話に、アミは何とかして着いていく。

 

『昔から奴とは合わん。無論、歴代のユピテルモンもそうだ。貴様も気を付けよ。我らと行動しているだけで、襲われる可能性すらあるのだからな』

「……わかった」

 

 アミに忠告するカミサマの声色は、あまりにも真剣なものだった。

 それを前にして、アミは重々しく頷く。嫌な沈黙だけが辺りに残った。

 

「そうだ。俺も聞きたいことがあるんだけど……」

 

 そんな沈黙を破ったのは来人だった。

 だが、沈黙が破られても、辺りに蔓延するのは嫌な雰囲気だけ。

 

「ブラックメガログラウモンは、どこに行ったんだ?」

「っ」

 

 来人の言葉に、薄々予想はついていたものの、それでもアミは息を呑んだ。

 

「あいつは結構自由なところあるから……初めはさ、適当にぶらついているんだろうって思ってたし、人間の世界に興味が移って一人で動いているとか……そう思って、()()()()()た」

「……それは」

「でも、やっぱりさ。俺の勘が言うんだよ。それは違うって。ならどこが違うのか……何が違うのか……考えて、わからなかった」

 

 だから、聞いている。来人は真っ直ぐな目でアミに向き合っていた。

 そんな来人の真面目な雰囲気に応えるように、アミはゆっくりと口を開いて――。

 

『あのトカゲのことなら、私、知っていますわ』

 

 ――声は、アミのデジヴァイスの中から聞こえてきた。

 一瞬後、アミのデジヴァイスの中から現れたのは、ユノモンだ。彼女はそのまま来人の前に降り立つ。

 

「あの下種なトカゲなら――」

「ユノモン!」

 

 ユノモンが告げようとした言葉を、アミは遮った。

 その目には、自分で言うという意思が込められていて――ユノモンは、嘆息して言葉を収めた。

 

「アイツに何かあったのか?」

 

 来人が問う。

 いや、問いながらも、来人の中で彼に何かあったことは決定事項だった。

 

「ブラックメガログラウモンは……来人がユノモンに、倒された時に進化して……」

 

 どこかユノモンに刺のある視線を向けてしまいながら、アミはその時のことを言っていく。

 

「進化した?」

「うん、オメガモンたちが言うには、メギドラモンっていうデジモンだって。まるで暴走しているみたいで、それっきり行方不明で……私も探したんだけど……」

「見つけられなかった、と」

「うん……」

 

 まさか、そんなことになっていたとは。進化して、そしてトドメに暴走状態とは。

 来人とカミサマの中には、複雑な感情が湧き上がっていた。驚きもあって、悲しみもあって、寂しさもあって――さまざまな感情が、来人たちの中に渦巻いていた。

 

「そっか。どこにいるんだろうな……」

 

 呟きながら、来人は空を見上げる。

 日の沈んだ青暗い空に、星が薄々と寂しげに光り始めていて――。

 

「あら、私、わかりますわよ?」

 

 ――そんな寂しげな雰囲気を吹き飛ばしたのは、ユノモンの一言だった。

 

「は?」

「え?」

『何?』

 

 思わず、来人たちは呆然とする。

 そんな来人たちの様子にも構わず、ユノモンは続ける。

 

「だって、私が前にユピテルモン様と再会したあの時、あのトカゲは遠くで物凄い気配を漂わせていましたもの」

「……あの時か! え? そうなのか?」

『む。そういえば、確かに……気配だけはあったな。あまりにも禍々しくて、あやつの気配だとは気づけなかったが……』

 

 ユノモンの言葉に、カミサマも思い出したように言う。

 あの時、来人たちがこの世界に帰って来た時のことだ。カミサマとユノモンの気配を感じ取ったのだろう。禍々しい気配が、一瞬だけ強まった。

 進化して気配が変わっていたから、カミサマはそれが彼の者だと気づけなかったが、一度相対しているユノモンは気づいていた。

 

『ならなんで、今まで言わなかったのだ?』

「だって、下種のトカゲのことなんていちいち覚えていませんわ」

『……はぁ』

 

 疲れたような、カミサマの溜息である。

 

「こうやって力を過剰に放てば、あのトカゲは反応するでしょうね」

 

 瞬間、ユノモンから出る圧力が増した。それこそ、人間であるアミにもわかるほどに。

 

「なるほど。確かに、これを利用すれば――!」

 

 これは彼を探す上で十分な手がかりである。

 暴走した時の経緯から、彼はカミサマやユノモンに並々ならぬ反応を示すと言っていい。だから、今のユノモンのようにすれば、彼を誘き出せるのではないか――。

 

「……」

 

 ――そこまで考えて、来人は頬を引き攣らせた。

 この後の展開が、自身の勘がなくともわかった。

 

『……』

「ああ、これは……」

 

 カミサマとユノモンもわかったらしい。

 

「……? どうかしたの?」

 

 わかっていないのは、首を傾げるアミだけで――正直、その様は可愛らしいものではあって、そんなことを思ってしまうほど来人は現実逃避していた。

 

『気持ちは分かるが……現実逃避しても仕方あるまい』

「ああ」

 

 アミ以外の誰もが気づいていた。

 先ほどから立ち上った禍々しい気配が、この場に――恐ろしく速いスピードでこの場に向かってきていることに。

 

「アミ。悪いけど、お台場には一緒に行けなくなった」

「え……? どうし……っ!」

 

 ここまで来て、アミもようやく見えた。遥か遠く、夜空を彩る青白い星々に紛れて、赤が混じっていることに。

 同時に、彼女は理解する。それは星なのではないことに。それは彼だということに。

 

「作戦のこともあるだろうし、先に行っとけ」

「でも……!」

「大丈夫だ。後から必ずそっちに行く。アイツと一緒に、な」

 

 彼は、アミにとっても仲間である。本当はアミも来人と一緒に彼を助けたかった。

 それでも、アミにはやるべきことがあって、そのために他の皆も動いている。

 だから――。

 

「うん、わかった!」

 

 ――だから、アミは苦渋の思いでこの場を来人に任せ、走り出した。

 

「グギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 

 後ろで聞こえた苦しそうな咆哮に耳を塞ぎ、目を閉じながら。

 




というわけで、第八十四話。

エグザモンとの決戦のはずが、うまくいかないものですね。決戦を前に戦力分断です。
主人公たちはメギドラモンと、原作主人公たちはエグザモンと戦います。
次回は二話同時投稿で、メギドラモン戦とエグザモン戦を二話に分けて投稿します。

それでは次回もよろしくお願いします。
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