【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~ 作:行方不明
時は少しだけ遡る。
メギドラモンのことを来人たちに任せたアミは、お台場へと到着していた。
「はっ、はっ……」
ここまで休みなしに全速力で走ってきたからだろう。
彼女の息は荒れていて、見るからに苦しそうだった。
「アミさん!? だ、大丈夫ですか!?」
「ちょ、アミ!?」
そんなアミの姿に驚き、ただならぬ様子を心配したのだろう。すでに集まっていた悠子たちが、アミの下へとやって来る。
「だ、ふぅ……大丈夫、はぁ……うん……」
「そうは見えませんが……」
息を整えながら、アミは周りを見渡す。
お台場というその地にはエグザモンが居座っているからだろう、まるで廃墟のようになっていた。
「彼らはどうした? 先ほどから激しく唸るこの波動が関係しているのか?」
来人不在に気づいたのだろう、オメガモンがアミに問う。その視線は、アミが走って来た方角を向いていて――彼も遠くに感知できる戦いの気配に気づいているようだった。
「うん、メギドラモンが来て……それで」
「メギドラモン……彼か。なるほど」
メギドラモンが来人たちと知り合いであることは、オメガモンも目撃している。だから、来人たちの行動の訳も理解できた。
だが、理解できるだけだった。「しかし……」とオメガモンは渋い顔をする。エグザモンとの決戦を前にして、戦力の一つに数えることができる来人たちがいないのは厳しいと感じざるを得なかった。
「そんな暗い顔しなくてもダイジョーブ! 何とかなるって!」
「ノキア……そうだな。作戦は臨機応変に対応する、だったな」
戦力が減ったと知って、なおも明るく言うノキアに、オメガモンは渋い表情を緩ませる。ノキアが言えば、何でもできる気がしたからだった。
「ごめん、もう大丈夫……行こう!」
息を整え終えたアミが、エグザモンがいるだろう先を見つめながら言った。
その言葉に、全員が頷いて走り出す。向かう先は、エグザモンの居座るビルの屋上。申し訳ないが、入口を強引に破壊して突入し、階段を駆け上る。
「着いたっ!」
そして、屋上に飛び出たアミたちはその先に見る。
予想以上に強大で巨大な真紅の巨竜の姿を。その様は、まさに怪物。イーターにところどころを侵されながらも、それでもなおも力強く唸るその姿は、いっそ圧倒的だった。
「でっか……」
驚愕のあまり、ノキアが思わずといった風に呟いた。いや、口に出さなくとも、アミたち人間組は全員が同じ思いを抱いていた。
今まで見てきたデジモンたちとは、根本的にスケールが違った。
「っ、あれはっ!」
誰もがエグザモンに目を奪われている中で、悠子は気づく。エグザモンの下、そこにあの聖騎士――ロードナイトモンの姿があることに。
悠子の声で、アミたち全員がその存在に気づく。
「ロードナイトモン……!」
「ああ、イーターどもに食われたと思っていたが……しぶとく生き残っていたようだな。罪深い者たちよ。全く、ゴキモン並の
ロードナイトモンもまた、アミたちに気づいたようだった。
「その姿が……リエさん、あなたの本当の姿なんですね」ポツリと悠子は呟いた。以前の時、彼女は気絶していて、唯一ロードナイトモンの姿を見ていない。話だけに聞いていた姿を初めて自分で見て、いろいろと思うところがあった。
「そうか。そういえば、貴様だけはこの姿を見るのは初めてだったな。では改めて自己紹介させて頂こうか……我が名はロードナイトモン! 輝ける智謀の薔薇を戴くナイトモンの王!」
「……今まで、イーターを操っていたのはあなたですね? カミシロに潜り込み、末堂さんの研究に協力し、必要なものを手に入れ、準備を進めていた……」
「フハハハハ! 感謝して欲しいものだ。私の助力によって、研究は進んだのだからな」
悠子はロードナイトモンに質問していく。いや、確認していくと言うの方が正しいか。
「なぜ、どうして罪のない人々を滅ぼすなんてことができるんですか!」
ついに、それを悠子は聞く。
アミたちから聞いてわかっていても、やはり自分で確かめたかったのかもしれない。もしかしたら、未だに信じられていないのかもしれない。
どちらにせよ、悠子はこれだけは聞きたいことだった。
「フッ、罪がないとは笑止千万。因果応報、自業自得……。貴様ら人間がもたらしたことだ」
「なっ……」
「お前の父親が作ったEDENネットワークが“道”となり、その子供らが“楔”を穿った、その結果……悪夢が始まった!」
絶句した。アミたち全員が。その子供らが楔を穿った、というその言葉の意味がわからず、しかしそれが重要なことだということだけはわかったから。
「罪は罰せられなければならない。すでにEDENの創始者“神代悟瑠”の罪は私が裁いた……!」
「っ」
その言葉の意味するところは、つまり。
一瞬、悠子は息を詰まらせた。
「許さない……!」
憎しみと悲しみを込めて、悠子はロードナイトモンを睨む。
「許さない、か……フン。許されないのは貴様らだけだ」
「グォオオオオオオ!」
突如の、咆吼。
それはまるで、ロードナイトモンの感情にエグザモンが呼応したかのようだった。
「エグザモン……我が同志! 貴様も許せないのだろう? ならば、その思いをぶつけろ! この罪深き小虫どもに!」
ロードナイトモンはこの場を飛んで離れていく。
「待ちなさい……!」と悠子は叫ぶが――。
「グルァオアアアアアアアアアアアアアア!」
――そんな彼女の前に立ち塞がるのは、動き出したエグザモンだった。
「悠子……大丈夫?」
「……大丈夫、です。今は作戦通り、こちらに集中しましょう」
アミの気遣いの言葉に、悠子は苦しそうに返す。
ロードナイトモンのことは気になるが、元々の予定通りエグザモンのことを優先することにした。
「オメガモン!」
「みんなっ!」
「ガイオウモン!」
すぐさま、アミたちはそれぞれのデジモンを出す。
オメガモンが、ガイオウモンが、アミのデジモンたち――レディーデビモンとガンドラモン、ロゼモンにテリアモン、全員がエグザモンの前へと飛び出した。
「我々はエグザモンの動きを何とかする! 君たちはダメージを稼いでくれ!」
オメガモンはそう言って、飛び立つ。
見れば、その先にはデュークモンやマグナモン、ジエスモンにアルフォースブイドラモンといった――アミたちが仲間にしたロイヤルナイツたちがいた。
そう、エグザモンとの決戦に先立てて、オメガモンは彼らを呼んでおいたのだ。
「なら、こっちのすることは……」
「いっせーこーげきって奴でしょ!」
「うん! みんなっ」
アミたちの声に従うように、デジモンたち全員がその技を準備し始める。
時間にして、数秒も経たないその準備時間。だが、数秒“も”存在するその時間、エグザモンが黙って動かない理由など存在しない。
「グルァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
振り上げられたのは、右腕。
一本で木々を幾重にも束ねたような太い腕が持ち上げられ、その手に持つビルほどの大きさがある銃槍が振るわれ――。
「“ガルルキャノン”!」
「“ロイヤルセイバー”!」
――直後、オメガモンとデュークモンによって放たれた砲撃と槍撃によって、その銃槍は腕ごとあらぬ方向へと逸らされた。
「グルァ」
エグザモンは攻撃阻止されたことに、苛立った様子も見せない。機械的なまでの様子で、今度は左腕を持ち上げる。
「“轍剣成敗”!」
「“シャイニングVフォース”!」
だが、その左腕による攻撃も、アルフォースブイドラモンとジエスモンによって阻まれる。高速斬撃が左腕の力を弱め、聖なる光線が左腕を弾いた。
「グルァアアアアアアアア」
二度も攻撃を阻止されたというのに、やはりエグザモンは苛立った様子を見せない。その様はまるで機械になってしまったかのようで、袂を分かったとはいえ、元同志として、オメガモンたちは複雑な気持ちだった。
「グルァアアアアアアアアアアアアア!」
咆吼。物理的な圧力さえ伴うそれが、アミたちを襲う。
「やらせません!」
だが、それも防ぐ。
アミたちを庇うように前に立ち、彼女たちを守るのは、守りの要ことマグナモンだった。
「皆……!」
ロイヤルナイツたちの活躍に、アミは感極まったような声を上げる。
時間稼ぎは十分だった。
「ロックオン。ファイア。“ゲヴァルトシュベルマー”」
「行くわよっ! “ローゼスレイピア”!」
「出し惜しみなしで行く! “ダークネスウェーブ”!」
「ぼ、僕だって! “ブレイジングファイア”!」
「ハッ! “燐火斬”!」
放たれた銃弾が、鞭の鋒が、暗黒の飛翔物体が、熱気弾が、十字の妖しい斬撃が、エグザモンを襲う――。
「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
――はずだった。その巨大な翼が振るわれる。“カレドヴールフ”と呼ばれるその翼が。
時には盾になり、時には矛にもなるその翼。それによる羽ばたきが、アミたちも、デジモンたちの放った必殺技も、ロイヤルナイツたちですら吹き飛ばす。
全員が、ビルの屋上から空へと投げ出された。
「っく! まずい……!」
吹き飛ばされながらもオメガモンが声を上げる。が、遅い。
その瞬間に、エグザモンは消えた。否、消えたのではない。高速で飛び立ったのだ。つまり、逃げられたということ。いや、状況からして、逃げて“もらった”というのが、正しいかもしれない。
「アミ!」
「悠子!」
「ノキア!」
即座に、ガンドラモンとガイオウモン、オメガモンが飛べないアミたちを空中で受け取る。
ちなみに、このデジモンたちの中で唯一飛べないテリアモンは、いつの間にかアミの頭にしがみついていたりした。
「僕たちが追う!」
「任せてくれ!」
全員の無事を確認した直後に逃げたエグザモンをアルフォースブイドラモンとジエスモンが追い始める。速さに定評のある彼らだ。彼らに任せておけば大丈夫だろう。
ひとまず全員が無事であることに、全員が――。
「くはっ、鮮度が落ちてないようで何よりだぜ」
――油断していた。
聞こえた声に、全員が弾かれるように上を見上げる。見れば、ビルの屋上からジャンプしたアラタが、そのイーターと化した腕をマグナモンめがけて振り抜こうとしていた。
「っ、マグナモン!」
仲間の危機に、弾かれたようにデュークモンが動く。アラタめがけてその槍を構え、突撃する。
「そうかい。ま、俺としてはどっちでもいいんだけどな」
そんなデュークモンの姿に、アラタは嗤った。
その嗤いに、デュークモンは悟る。自分が罠に嵌められたことを。そこで、デュークモンの意識は途切れた。
「く、ゥオオオオオオオオオオオオオ!」
すべては一瞬で、その光景を全員が見ていることしかできなかった。デュークモンが、アラタの持つイーターの腕に食われていくその光景を。
「クハハハハハハハ! これだ……この力だ……! 俺が求めていたのは! これなんだぁああああ! アハハッハ!」
まるで狂ったように笑い続けながら宙から落ちていくアラタに、誰もが何も言えなかった。
ロードナイトモンを取り逃がし、エグザモンを抑えきれず、さらには仲間を一人失った。この作戦は完全に失敗だった。
というわけで、第八十六話。
エグザモンに敗北した原作主人公たちのお話。
ちなみに言えば、作中で登場したアルフォースブイドラモンはとあるテイマーのアルフォースブイドラモンですね。
来人とカミサマが助けたアルフォースブイドラモンは未だ療養中です。
彼ら三人がいれば結果はまた違ったのでしょうが……。
さて、次回はエグザモンをどうにかするべく、エグザモン弱体化作戦を敢行する話ですね。
それでは次回もよろしくお願いします。