【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~   作:行方不明

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第八十七話~大きな耳の相談事~

「ぐごぉおおー! ぐごごごぉおお!」

 

 咆吼と間違わんがばかりの、連続する奇妙な音。そのあまりのうるささで来人は目を覚ました。

 

「ここは」

『起きたか』

「カミサマ? って、そうか。俺は……」

 

 先ほどまでのことを思い出しながら、来人はこの場がどこかを確認する。この不思議な空間には見覚えがあった。デジヴァイスの中の空間だ。

 

「なんで俺はここに?」

『あの後、戻って来たアミがお前を見つけてな。我々をそのままデジヴァイスの中に匿ってくれた、というわけだ。また倒れていたお前を見て、顔を真っ青にしていたぞ? あまり心配をかけさせるな』

「……悪かったよ」

『それを言う相手は我ではないだろう?』

「ああ、そうだな……それで、メギドラモンはどうなった? 作戦は……?」

 

 なぜ、自分がデジヴァイスの中にいるのかはわかった。来人はそのまま気になったことを聞いていく。先ほど抱いていた悪い予感が外れていてくれるように願いながら。

 

『その感じでは予感できているのではないか? 作戦は失敗だそうだ。エグザモンは逃亡、デュークモンはあのイーターと化した青年に食われたらしい』

「デュークモンが……アラタに!?」

『そしてメギドラモンは……ほれ、後ろだ』

 

 それまでの神妙な声色から一転して、呆れたような声色。

 一体どうしてそんな声色で話すのかがわからず、来人は振り向いて――。

 

「……ああ」

 

 ――ドッと肩の力が抜けた。

 

「ぐごー……ぐごごぉおおー!」

 

 そこには、気持ち良さそうに鼾をかいて眠るメギドラモンの姿があった。その様からは、先ほどまでの邪悪な獰猛さは感じられない。いや、この鼾そのものはいっそ邪悪なまでに獰猛的であるのだが。

 とはいえ、この調子からして彼を警戒する必要はないだろう。もしかしたら、すでに“元”に戻っているかもしれない。

 来人は嬉しくなった。が、やはりこれは。

 

「俺はコイツの鼾で起こされたのか。クソッ、人の気も知らずに気持ち良さそうに……!」

『未だ起きてはおらぬが、それでも大丈夫だろう。それが周りに認められたから、こやつはここに居るのだからな。……つくづく、お前の凄さには感心する』

「……?」

 

 ぶん殴って正気を取り戻させるなど、それは正気の沙汰ではない。

 いかに正気を取り戻す前兆があったからといって、我が身を顧みずに突っ込むとは。来人の行動にカミサマは呆れていた。

 

「ウフフ。誠に遺憾ですが、ユピテルモン様そっくりではありませんか」

『……』

 

 いつの間にか、ユノモンが近くに来ていて微笑んでいる。

 どうやらメギドラモンに対する怒りは収めてくれたらしいことに、来人は安堵した。

 まあ、来人が気絶している間にカミサマが必死に説得したのだが――それはほんの余談である。

 

「それにしても……よく無事でしたわね」

「……ん? ああ、何とかな」

「本当に残念だわ」

「……」

 

 冷たい雰囲気で告げられたユノモンの最後の一言に、来人は冷や汗が垂れた。

 

「あのまま起きなければ良かったのに……」

「もうヤダ! お前の奥さん怖いんだけど!」

 

 本人を目の前にして、直球で、しかも本気で死ねと言ってくるユノモンに、来人は思わず叫ぶ。

 

『……』

 

 そんなユノモンと来人の様子に、カミサマは沈黙を貫いた。

 来人が起きたことによってか、にわかに騒がしくなる辺り一帯。そんな無事を騒ぎ合う来人たちをこっそりと覗く者がいた。

 

「……」

 

 まあ、本人からしたらこっそりとであるが、残念ながら来人たちにはバレバレだった。

 

「何か用か?」

 

 ジッと見つめられることが気になって、来人は声をかける。やがて来人たちの前に現れたのは、大きな耳が特徴の――そう、テリアモンである。

 

「……」

 

 来人たちの前に出てきても、テリアモンは黙ったまま。

 一体何なんだ。来人は首を傾げる。

 

「なぁ、お前たち……」

 

 どれくらい待っただろうか。

 数分にも渡る沈黙の後、ようやく彼は口を開いて――。

 

「お前? アナタ、下種な成長期の身でユピテルモン様をお前呼ばわり……!?」

 

 ――そんな彼に応えたのは、ユノモンだった。

 彼の言う“お前”が誰を指すのかわかったのだろう。ことカミサマに対しては、凄まじいばかりの察知能力である。

 

「ひっ」

 

 ユノモンの冷徹な視線に晒され、思わず悲鳴を上げたテリアモン。

 そんな彼を哀れに思ったのか、はたまた話が先に進まないと思ったのか。『そこは触れなくていい』とカミサマはユノモンをたしなめる。

 カミサマに言われ、ユノモンは渋々と引き下がった。どうやら、聞き役に徹するらしい。

 

「それで、何なんだ? カミサマに用みたいだけど……?」

 

 そもそも、テリアモンたちアミのデジモンは来人のことをカミサマも含めて嫌っている。その上で、来人たちのところに来たのだから、きっと相当な用事なのだ。

 

「ああ、そうだ! 僕がどうして進化できないのか教えてくれ!」

「……は?」

『また難しいことを』

 

 テリアモン、彼が進化できない理由ときたものだ。来人たちをして頭を悩ませるものだった。

 一体どうしてそんなことを言うのか。一瞬考えて、来人はすぐに答えにたどり着く。考えてみれば、至極わかりやすいことだった。仲間のデジモンたちが次々に進化して、中には究極体に至る者までいる中で、未だ進化できずに成長期のままでいる。

 それは、コンプレックスになりうることだろう。強敵が増え、自分だけの力が遠く及ばないというのは、それは苦しいことだろう。

 だから、彼は来人たちの下に相談しに来たのだ。身内以外で、最も進化に触れているだろう来人たちの下に。

 

「進化、って言ってもなぁ。俺は特殊だからなー……カミサマ、何かあるか?」

『ふむ。ポテンシャルや経験値はそれなりにありそうだな。強敵に出会うなどの環境面も申し分ない。それでどうして進化できないのだ?』

「僕が知るか~!」

 

 カミサマも来人も首を捻る。他のデジモンたちは進化しているのだ。進化できているのだ。なぜ彼だけが進化できないというのか。

 

『考えられるのは……いや、だが……うむ?』

「何だよ。何かあるのか?」

『時折いるのだ。元々、通常の進化しにくい者が。特殊な要因や特異な道具、他者に頼らねば進化できぬ者が。一応、来人もその分類に入るのだぞ?』

「……そう言われればそうか」

 

 自分のことを持ち出されて、来人も納得する。

 確かに、アイギオモンは通常の進化をするとは言い難いデジモンだ。しかも、進化するとはいえ、進化先は環境に左右される。

 あくまで可能性ではあるが、このテリアモンもそういう特殊な個体であるのかもしれない。

 

「は……? な、何だよ~それ! 僕は、アミの役には立てないってこと~!?」

 

 半ば涙目で、テリアモンは来人に突っかかる。

 希望を求めて相談をしに来て、進化できないという絶望を言い渡されたのだから、当然だった。

 

『誰もそこまでは言っておらん。だが、そういうタイプは得てして困難な境遇に置かれる』

「な……」

『どうするかは貴様の勝手だ。だが、一つ……大切なことがある。それを見失ってはならん』

「その大切なことって!?」

『それは我からは言えない。貴様自身が見つけ、悟らなければならない。他人から言われた答えで、納得してはならないからな』

 

 カミサマの声色は、自分を超えて欲しいと願うような、親が子を見守るような、そんな暖かさに満ちたものだった。

 だが――親の心子知らず、子の心親知らず、という言葉もあるもので。

 

「っケチ~!」

 

 残念ながら、テリアモンには伝わらなかったようである。半ベソをかきながら、ダッシュでこの場を離れていった。

 

「ユピテルモン様のお気遣いを無駄にするなんて……!」

「まあ、正論だろうけども……もう少し柔らかく言って上げた方が良かったかもな。あの調子だと、ずいぶんと長い間悩んでたみたいだし」

『……むぅ』

 

 後に残されたのは、微妙な表情をした来人たちと、テリアモンの後ろ姿に厳しい表情を向けるユノモンだけだった。

 やれやれ、とばかりに来人は首を振る。その頃、自分が預かり知らぬ場で起きていることも知らずに。

 そう、その頃――。

 

「何をしているんですか、アミさん。急いでください」

「ちょ、ちょっと待ってよ」

 

 ――アミは悠子と共にクーロンLV5にいた。

 ここに彼女たちがいる理由はただ一つ。エグザモンを()()()()ためだ。今のこの世界において、エグザモンほどの強大な存在と戦闘力を維持し続けるのは、凄まじく燃費が悪い。そして、その問題を解決するために、エグザモンは逐一デジタルウェイブをエネルギーとして供給されている。

 その供給場所がここにあるのだ。アミたちはその供給場所を破壊することで、エグザモンへのエネルギー供給を止め、ひいては弱体化をさせるために来たのである。

 

「遅いです。早くしないと逃げられてしまいます。早く……早く行かないと!」

「悠子、落ち着いて……」

「落ち着く? これが落ち着いていられますか」

 

 焦りと怒り、憎しみが混じり合った静かな口調のままで、悠子はアミに向き合う。そんな彼女の表情は、アミが今まで見たことのないような表情で――。

 

「父の仇をもうすぐ討てるかもしれないのに……落ち着くことなんてできません」

 

 ――厳しい表情だった。

 ロードナイトモンが父親の仇と発覚した今だ。

 ここがエグザモンを戦略兵器として運用するロイヤルナイツの計画の重要拠点であることを考えれば、この場にロードナイトモンがいるかもしれないということさえも考えられる。

 つまり、仇が討てるかもしれないということ。だから、悠子はこうも焦っていた。

 

「私はただ……心配なだけだよ。今の悠子は、何て言うか……危ない」

「心配してくれなんて頼んだ覚えはありません。勝手に心配しないでください」

「……」

「あなたは……本当に幸せな人ですね」

 

 何もかもを失っている自分と、いろいろな絆に囲まれているアミを比べたのだろう。吐き捨てるように、悠子は言った。

 

「以前助けてもらったことには感謝してます。けど、調子に乗って勝手に妙な気を回さないでもらえます?」

「そんなこと言われても。私はきっと、これからもこうするよ。だって、友達だから」

「っ! あなたって人は……!」

 

 力強く相対してくるアミを前にして、悠子は苛立ったように声を上げる。焦りが自身の心を占める中で、そんなアミの調子は苛立つ要因だけにしかならなかった。彼女の中の反骨心だけが、強く多く溜まっていく。

 

「私は、あなたと友達になったつもりはありません!」

「何と言われようと、私は悠子と友達だよ!」

 

 本心とは別のところで苛立ちと反骨精神のままに飛び出た悠子の言葉に、アミも真っ向から向かい合った。

 

「友達じゃありません!」

「友達!」

「違います!」

「違わない!」

「絶対に違います!」

「絶対に違いません!」

 

 お互いにムキになって、ともすれば子供のように自身の主張をぶつけ合う。

 息絶え絶えになるまで、お互いに感情のままに叫び合って――。

 

「はっ……はぁっ……はぁっ、意地っ張り……!」

「ふぅ……ふぅ……ばか……!」

 

 ――疲れたからか、どちらもどちらの結論を認めることなく終わったのだった。

 そんな中で、自分たちをこっそりと見ていた人影が近づいて来たことに、彼女たちは気づかなかった。

 




というわけで、第八十七話。

呑気に寝腐るメギドラモン、相変わらずヤンデレ様に厳しく当たられている来人、人生相談をするテリアモン、復讐に焦る悠子――そんな中で敢行されている、エグザモン弱体化作戦。
……こう書くと、アレですね。不安しかないですね。

そんなわけで、エグザモン弱体化作戦は次回に続きます。

それでは次回もよろしくお願いします。
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