【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~ 作:行方不明
アミたちのひとしきりの言い合いが終わったその直後。
「おやおや。美しい友情話はもうおしまいですか?」
「っ!」
「っ!」
聞こえてきた声に、アミたちは驚きのままに肩を震わせた。
ばっと振り向けば、そこにいたのは。
「やぁやぁ、お久しぶりです」
そこにいたのは、末堂アケミだった。
自然、アミと悠子の視線が厳しくなる。彼が油断ならない人物であることは共通認識であったし、そうでなくともアラタの件がある。
「これはこれは嫌われてしまったものですねぇ……察するに、アラタくんの件ですか?」
「それ以外にもあるけど……アラタに何をしたの!」
「はて……何をした、ですか。私は彼のお手伝いをしただけ……いやいや、そう睨まないでください。端的にお答えしますよ」
アミたちが鋭い目で睨めば、アケミは降参とばかりに肩を上げて話しを続ける。
「私は彼の求める力が手に入るように……イーターとの同化を勧めて差し上げただけですよ」
「イーターとの……」
「……同化!?」
「はい! イーターがデータを捕食して情報を蓄えるように、アラタくんも同様の能力を獲得したのです! 今は取り込んだ力の大きさに気分が高揚状態にあるようですが……何、そのうちに収まりますよ」
アミたちも予想はしていたが、ショックだった。
アラタがイーターと同様の能力を獲得した。それはつまり――本当に人間をやめることになるのではないか。
「あ、しっかりと調整し、イーターにはアラタくんの優位をバッチリ条件付けてありますので。
「っ」
アケミは言外に言う。悠子がイーターに取り込まれていたところも見ていた、と。
「……!」
アミの中に、ふつふつとした怒りが湧いてくる。
悠子の危機を利用したこと、アラタにしたこと、それらに対する怒りが。
「はて……? 何を怒っているのかわかりませんね」
「……末堂さん。あなたはリエさんの正体に気づいていたのですか? 知った上で協力を?」
「彼女の正体が人間でないことには気づいていました。それがロードナイトモンというデジモンだとは気づきませんでしたが……」
いろいろと怪しいところしかないアケミの言葉だ。素直には信じがたい。だが、嘘は言っていないように感じる。
悠子はそのまま質問する。これだけは聞いておきたかった。
「あなたは父の死に関わっているのですか?」
「お父上の死は残念でなりません。彼が抱いていたEDENの理想は素晴らしかった。私が尊敬する数少ないお方でしたよ」
「……」
「今でも悔やんでいます。ロードナイトモンの暴走を止められなかったことを、ね」
いろいろとはぐらかすことが多いアケミだが、静かに告げるその姿だけは、アミにも悠子にも絶対に本当だと信じられた。
それだけに、アケミがどれだけ悠子の父を尊敬していたのがわかる。
「……もういいでしょう。私からも一ついいですか?」
「何ですか?」
「現段階の利害が一致しているのですから、ここは一つお互いに協力しませんか、ということです」
今更どの口がそれを言うのか。アミたちは協力などと口にするアケミを激しく睨んだ。もっとも、アケミは気にしていないようだったが。
「エグザモンに力を供給しているプログラム……元を正せば私が作ったもの。停止させることなど訳ありません」
「つまり?」
「私の目的のためにも、ロードナイトモンに世界を滅ぼされては困ります。私は私なりに、彼らの邪魔をするのですよ。ですが、プログラムを止めるときに襲われては元も子もありません」
要するにアケミは、プログラムを止めるからその間の護衛を頼む、と言いたいのだ。
アミは悩む。アラタの件もある複雑な相手と協力するのか、と。
そんなアミの一方で――。
「アミさん、ここは協力しましょう。少なくとも、世界を滅ぼそうとしているリエさんよりは話が通じるはずです」
――迷いない答えを出したのは、悠子だった。
そんな悠子の言葉に、アミも悩む。悩むが――結局、頷く。
「それはよかった! では、行きましょうか」
「……」
そう言って、アケミは歩き出す。
内心の複雑さを隠せないままに、アミは悠子と共にアケミを追った。
クーロンLV5には、ロードナイトモンが仕掛けたものだろうさまざまな罠があった。だが、それらすべてをアケミは自前のプログラムで看破していく。おかげで、一つの罠にも引っかかることなく、アミたちは進めた。
「……」
「……」
「おや? どうかしたのですか?」
「何でも」
「ないです」
人柄はともかくとして、能力の高さだけは認めざるを得なかった。アミたちだけでは、この罠だらけのエリアを目的地まで歩くのに、どれほど時間がかかったことか。
「あれですね……」
アケミが差した先。
そこには、天井を遥かに超えて立ち上るエネルギーの流れがあった。そして、そこの根元に立つ人影。その人影は予想していたロードナイトモン――ではなく、アミたちが見たことのないデジモンだった。
青紫色の鎧に、巨大な槍と盾を両手に持つ騎士。その姿からも、この場所の守護を任されていることからも、まずロイヤルナイツだろう。
「やはり来たか」
静かに、その聖騎士は言葉を発する。アミたちは隠れているというのに。
バレてしまっては仕方がない。アミたちは覚悟を決め、聖騎士の前に出た。
「吾輩はクレニアムモン。イグドラシルに絶対の忠義を誓う者だ」
「クレニアムモン……!」
クレニアムモン。ロイヤルナイツの一体として、アミたちも聞き及んでいたデジモンだった。
「リエさんは……ロードナイトモンはどこにいるんです!」と悠子は叫ぶ。ここに親の仇がいると信じていたからこその、叫びだった。
「哀れだな」
そんな彼女の姿に、クレニアムモンはただ静かに言う。
「……!? どういう意味ですか……? 私の質問に答えてください!」
「答える義理はない。お前たちはここで果てるのだ」
自らの質問に答えようとしないクレニアムモンを前に、悠子は苛立つ。彼女にとって、父親の仇――ロードナイトモンの居場所は、何よりも知りたいもの。だからこそ。
「っ……なら、力ずくで聞き出します。……ガイオウモン!」
だからこそ、彼女は強引な方法をとる。
掛け声と共に現れたのは、竜の鎧武者。その歪な形の二刀が、クレニアムモンに向かう――。
「この程度で吾輩がどうにかなると……ふんっ!」
――瞬間、魔槍が霞む。
アミたちが認識できたのはそれだけだった。気が付けば、ガイオウモンは吹き飛ばされていた。
「全く、舐められたものだ」
「ガイオウモン! 頑張ってください!」
「大丈夫ダ!」
呆れた様子を見せるクレニアムモンを前にして、悠子に募るのは苛立ちと焦燥だけだった。そんな悠子に応えようと、ガイオウモンも無理をして立つ。
そんな中で――。
「やれやれ。お父上のことを考えれば仕方ないのかもしれませんが……私は彼にお尋ねしたいことがあったんですがねぇ……」
――始まってしまった戦闘を見つめながら、何でもないようにアケミは呟いていた。
「や、まぁ、こうなってしまってはどちらでもいいことですが……あなたは加勢しなくてよろしいのですか?」
首を振りながら、アケミはアミに視線を向ける。
言われずとも、そうするつもりだった。アミはデジモンたちを出す。
「オッケー!」
「任セテクダサイ」
「ロイヤルナイツが相手か」
出てきたのは、ロゼモン、ガンドラモン、レディーデビモンの三体。
現状、おそらく最も戦闘能力の高い来人たちはメギドラモン戦の疲労と怪我のことを考えて、アミは出さない。勝手に出てこられても困るため、この戦闘のことを告げてすらいない。その辺りの隠蔽はバッチリである。
「ファイア!」
ガンドラモンの銃口が火を噴く。
放たれた弾丸は、まっすぐにクレニアムモンへと向かった。
「えいっ!」
同時、ロゼモンが鞭を振るった。
空気を裂きながら進むその鞭は、予想外の方向からクレニアムモンを襲う。
「……無駄なことを」
甲高い音が響き渡った。
鞭が炸裂した音でも、弾丸が鎧を貫いた音でもない、ただの軽い音が。
何が起こったのか、アミたち人間組とレディーデビモンにはわからない。わかっていたのは、それ相応の実力を持つガイオウモンたち究極体組だけだった。
「……防ガレマシタ」
「防がれた? って、まさか……!」
「ほうほう! 究極体二体がかりの攻撃を防ぐとは……あの
そう、防がれたのだ。他ならぬ、クレニアムモンの持つ楯によって。
「我が魔楯アヴァロンに防げぬものはない! こと瞬間的な守りならば、我が堅固なる楯はマグナモンの守りをも凌駕する!」
「っ!」
さすが、ロードナイトモンにこの重要な場の守護を任されただけはあるということだろう。マグナモンが離反した今、守りという一点において彼を凌ぐロイヤルナイツは存在しえないのだから。
「関係ありません」
「悠子?」
「ガイオウモン!」
「ちょ」
思わず、アミが制止の声を上げた。
悠子の命令で、ガイオウモンは無策でクレニアムモンへと突っ込んでいく。歴戦の戦士たるロイヤルナイツの一角に、それはあまりにも無謀だった。
「ウォオオオ!」
「理解できん。なぜそうも……暗愚な主君に仕えた宿命か。哀れなり!」
クレニアムモンが魔槍を振るう。その全体像が霞むほどに超高速で回され、振るわれるその様は、いっそ小型の竜巻のようだった。クレニアムモンの魔槍は、その長大さと利用される遠心力の二つが相まって、一撃一撃が重い。
一方のガイオウモンもその手の二刀で必死に応戦するも――回転の関係で二刀以上の手数を持ち、さらに威力も高い槍撃を前に、どんどん追い詰められていく。
「っ、みんな!」
アミは即座に指示を出した。
その声を聞き、ガンドラモンが銃を放ち、ロゼモンが鞭を振るう。だが、アミたちがガイオウモンを助けようとして放ったそれらは、クレニアムモンには最悪な形で防がれる。
そう――。
「ふんっ!」
「グ……!」
――楯にされたガイオウモンで、同士討ちになるように防がれたのだ。
すべては一瞬だった。クレニアムモンはアミたちの攻撃を予知すると、その瞬間に動き、攻撃が来る場所にガイオウモンを押しやったのだ。
同士討ちを誘われたことに、アミは歯噛みするしかなく――。
「邪魔しないでください!」
――悠子は苛立ちのままに、そんなアミたちに怒鳴る。
悠子の鬼気迫る表情、そしてあんまりな物言いに、アミたちは一瞬だけ、本当にほんの一瞬だけ動きを止めてしまった。
「仲間割れか。やはり人間は愚かだな」
そして、そのほんの一瞬こそが、致命的な瞬間だった。
誰もが隙を見せてしまったその瞬間に、魔槍が煌めく。一筋の閃光。それが見えた瞬間、気づけば事は終わっていた。
「ガイオウ、モン……!」
見えたのは、魔槍によって地面に縫い付けられたガイオウモンだった。
というわけで、第八十八話。
本当は一話でしたが、文字数を見てみると一万字近かったので、分割しました。
ので、次回に続きます。
それでは次回もよろしくお願いします。