【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~ 作:行方不明
ですので、前話をまだご覧になっていない方はそちらからよろしくお願いします。
魔槍を引き抜いたクレニアムモンは、そのままガイオウモンを一瞥する。もはや動けないことが分かったのだろう。彼の目と足はそのままアミたちの方へと向けられた。
「みんなっ!」
「大丈夫デス!」
「任せて! レディーデビモンはアミたちをよろしくね!」
「ああ、任せろ」
ガイオウモンが倒れたのは、精神的なショックを抜きにしても痛かった。
そもそも、ロゼモンもガンドラモンも近接戦もできるとはいえ、近接戦の専門家というわけではない。ロゼモンは中距離が主であるし、ガンドラモンは中から遠距離が主だ。
戦力バランス的にも、ここで近接戦の専門家――前衛が倒れたのは痛いと言うしかなかった。
「あたしが先陣を切るわ。ガンドラモンはサポートして」
「所々デ切リ替エナガライキマショウ」
「もちろん!」
頷き合って、ロゼモンとガンドラモンは駆ける。圧倒的な歴戦の戦士を倒すために。
そんな、ロゼモンたちの一方で――。
「ガイオウモン!」
「……」
――悠子とアミは、レディーデビモンの護衛の下に、ガイオウモンのところへと駆け寄っていた。
ちなみに、アケミは安全圏に隠れたままだ。
「……え?」
ガイオウモンが、僅かに口を動かす。
アミにはわからなかったが、悠子にはガイオウモンが言おうとしたことがわかったようだった。
「悠子、急いで離れよう!」
「……」
アミの言葉に、悠子は答えない。ショックが大き過ぎた。
だが、アミとしてもこのままという訳にはいかなかった。なにせ、この場は戦闘の行われているところからそう離れていない。流れ弾はすべてレディーデビモンが対処してくれているが、万が一もある。
急いで離れなければ、ロゼモンたちもアミたちを気にして満足に戦えなくなるかもしれない。アミの言う通り、すぐにでも離れるのが得策だった。
だというのに。
「……」
「悠子!」
悠子は依然としてその場を動けなかった。
「ああ、もう!」
仕方ないとばかりに、アミはレディーデビモンに目配せする。
いいのか。レディーデビモンからは、そんな視線が向けられた。アミは目を伏せる。レディーデビモンは呆れたように納得した。
「仕方ない……!」
「え? きゃ……!」
いきなりの事態に、悠子は声を上げた。それはそうだろう。なにせ、今の彼女はレディーデビモンに抱きかかえられていたのだから。
「急いでっ!」
ついで、倒れたガイオウモンの足をレディーデビモンは掴む。
死人に鞭打つような状態となってしまったが、レディーデビモンでは悠子を抱きかかえている状態で、ガイオウモンまで上手に持つことはできない。やわな人間を優先した結果だった。
許せ。一瞬だけ目を伏せて、レディーデビモンは駆ける。瞬間、ガイオウモンは雑巾となった。
「何するんですか!」
安全圏まで退避した瞬間、当然のように悠子から来た抗議の声。レディーデビモンはそれを黙殺した。そんなもの、お前が悪いとばかりに。
「後はアミだけだ。アミ!」
レディーデビモンは急がなければならなかった。
なにせ、彼女がガイオウモンと悠子を運んだ間、アミは流れ弾が飛び交う中を安全圏目指して、一人で走っていたのだから。
いや、一人ではないか。
「“ブレイジングファイア”! “ブレイジングファイア”! “ブレイジングファイア”! “ブレイジングファイア”ァァアア!」
一応、新たにこの場に出されたテリアモンが流れ弾相手に頑張っている。だが、いかんせん成長期の身だ。一つの流れ弾に対処するのに、必殺技を連発しなければならず、かなりキツそうで、危なっかしかった。
「ふっ!」
一足で駆ける。たったそれだけで、レディーデビモンはアミの下にたどり着き、さらには流れ弾を排除さえした。
「……」
「……なんだ?」
「別に」
その際、テリアモンが不機嫌になっていたのは、まあ、コンプレックスから来る余談である。
「ありがとう、レディーデビモン……」
「無事でよかった。肝を冷やしたぞ」
「あはは……まぁね」
何はともあれ、アミも無事に危険地帯を抜けられたのだから、良しとするべきだろう。
まあ、これでどうにか体勢の立て直し――と行かないのが、辛いところではあるか。
「っく……!」
「大ダメージ!」
見れば、ロゼモンとガンドラモンは苦しい戦いを強いられていた。
堅実なまでのクレニアムモンは、反撃の隙を与えず、小さいながらも着実にダメージを稼いできている。反対にロゼモンたちは、槍と楯を駆使して攻防一体の戦いを実現するクレニアムモンを前に、反撃しきれていない。
このままではどうなるか。それは火を見るよりも明らかだった。
「っ、みんな……! レディーデビモンも向かって!」
「わかった!」
全員で行かなければならない。そう感じて、レディーデビモンを向かわせたアミ。そして、そんな彼女の手は静かにデジヴァイスに手をかけていた。無意識のことだった。
「むー……えい!」
「痛っ!」
そんなアミに、痛みが走る。
見れば、自分の手を叩いたテリアモンが、不機嫌そうに自分を睨んできていて――そこまで見て、ようやくアミは自分がしようとしていたことに気づいた。
「あ、私……」
愕然とするしかなかった。
ゆっくりと休んでいて欲しい、傷つかないで欲しい、そんな自分のわがままで“彼”にはこの場のことを知らせていないというのに――無意識のうちに、その“彼”に頼ろうとしていた。
テリアモンが叩いてくれなければ、アミは“彼”を呼んでいただろう。
「またアイツに頼ろうとしてる!」
そして、当のテリアモンはその可愛らしい目で、可愛らしいなりにアミを睨んでいた。
「全然僕を頼ってくれない……。進化できないから、弱いから、僕は邪魔!?」
「え、いや……そんなことは……!」
「なら、どうして~!?」
テリアモンの叫びを、アミは否定する。いや、否定したかった。だが、否定しきれないことに気づいてしまった。
テリアモンを邪険に扱ったつもりなど、アミにはなかった。だが、他のメンツと比べて“弱い”テリアモンだ。傷ついて欲しくないという思いから、彼女は彼を過酷な場に呼ばなかった。
それは、一種の優しさだ。だが、彼女は忘れていたのだ。優しさは、気遣いは、時として他人を傷つけてしまうことがあるということを。
「僕だって、アミの役に立ちたいんだよ~!」
「っ!」
いつかの自分と似た、だが、違うテリアモンのその叫び。
彼の悲痛な感情に揺さぶられて、アミはそれを思い出す。いつか、自分もテリアモンと同じ気持ちをあの来人に抱いていたはずだったのに、と。
「僕だって、僕だって!」
「ごめん……」
だが、テリアモンの叫びを聞いても、彼を死地に追いやることなど、アミにできるはずもなく――アミは謝ることしかできなかった。
そんな彼女の姿を、テリアモンは力強く睨む。そして、反発する思いのままに、彼は彼女の前に立った。まるで、自分も戦うと言いたいかのように。
「テリアモン……!? やめ――」
「僕はアミに着いて来たい、役に立ちたいって思ったからここにいる。例え、決められたように進化できなくたって――」
テリアモンは何もかもが嫌だった。
進化できない自分も、まるで定められたように弱い自分も。自分の、自分たちの大好きなアミが、どこの馬の骨ともわからない
だからこそ、彼はこのままではいけないと思ったのだ。チャンスを、その時を待つだけでは。
「――……僕は僕の意思で道を決める! それはアミも運命も関係ない。僕だけの選択だ!」
そう言ったテリアモンは激戦続くその場へと向けて駆け出した。
もちろん、彼にはこの状況をどうにかできる知識などないが、それに取って代わるものはあった。恐怖で足が震える中、無謀と蛮勇を勇気に変え、ただ走る。
希望を持ち、光を願い、ただどこまでも誠実に仲間たちとの友情を思う。
そして、進化できない現実など――。
「だから僕は戦うんだ。だって、僕は! ……アミのこと、大好きだからっ!」
――純粋な愛情の叫びで
彼は暗雲立ち込める未来を突き進む。どれほどの暗雲が立ち込めていようと、雲の上は快晴だ。まるで、雲の上の太陽が彼を照らしたかのように、辺りに二つの光が満ちた。
テリアモンと、アミのデジヴァイス――正確にはその中のある道具が、まるで共鳴したかのような光だった。
アミは呆然としながらも、すぐに感づいた。その道具は、マグナモンからお礼として受け取ったあの道具だと。
「うぉおおおおおおおお!」
そして、奇跡を超えて、運命は決まる。進化できない小さき者は、太古の力をその身に宿す。
無謀と蛮勇を功績として成すことができる者こそ、
「はぁっ!」
光の中から放たれたその一撃。それは正しく、運命を決める一撃だった。
黄金の鎧を纏った腕が、クレニアムモンの楯を殴っていた。
「ぬ……!」
クレニアムモンは僅かに瞠目する。
奇跡と対になる運命という名の黄金の鎧。それを纏うそのデジモンのことを知っていたからだった。
そして、だからこそ、驚きを隠せない。それは伝説の中だけの、幻のデジモンだったからだ。自らの同胞だった者と違い、とある闇に落ちた獣天使の伝説にのみ登場する存在だからだ。
「僕だって~やれるんだ!」
驚愕の雰囲気が収まらぬまま、そのデジモンは光を纏って現れる。
プードル犬を思わせるシルエット。アーマー体という成長段階に含まれない存在であり、とある完全体デジモンの亜種ながら究極体相当の力を持つデジモン。
それこそ、“ラピッドモン”と呼ばれるの黄金のデジモンだった。
「進化した……? 進化、できたの……?」
アミの呆然とした喜び呟きが、辺りに満ちて――。
「たかが一体増えたから、どうだというのだ……!」
――次の瞬間には、妙に焦るクレニアムモンによって戦闘は再開された。
「はぁっ!」
「っく……!」
高速でラピッドモンの繰り出した右の拳、それをクレニアムモンは
ラピッドモンの勢いに押されるように、クレニアムモンは劣勢だった。
「マダ……我々モヤレマス!」
「私たちだって忘れないでよね……!」
「っく……!」
そして、疲労困憊ながらも、ガンドラモンたちも参戦する。勝機が、見えた。
「あんまりアミを……僕たちを……舐めるな~!」
ラピッドモンがその黄金の鎧を光らせる。それは、奇しくも守りの要と呼ばれるロイヤルナイツのある技と似ていて――感じた悪寒のままに、クレニアムモンは反応する。
「“ゴールデントライアングル”!」
黄金の鎧、その全身から放たれた光線が世界に広がる。
敵を滅ぼさんと突き進むそれは、クレニアムモンをして脅威と断定できるものだった。
「“ゴッドブレス”!」
魔楯から放たれた結界が、クレニアムモンを包む。三秒しか持たないが、すべてを防ぐ無敵の防御陣。全方位対応の絶対防御。正真正銘の、クレニアムモンの切り札だ。
本当ならば、使う必要はなかった。躱せばよかった。だが、それはできなかった。なぜならば――“ゴールデントライアングル”は攻撃範囲が広すぎる。
自分が躱した時、後ろにある守るべきものがどうなるかわからないクレニアムモンではなかった。
「ぬぅうううううう!」
「ぉおおおおおおお!」
守り、防ぐ。イグドラシルへの忠義のため、自分の誇りのため、クレニアムモンはただひたすらに楯を構え続ける。
根比べだった。ラピッドモンの攻撃が絶対防御の発動時間を超えられるか、クレニアムモンの絶対防御が防ぎきるか。
その根比べの時間は続いていく。
「ぬぅぅう……!」
三秒という時間すらも超えて――。
「そちらこそ……ロイヤルナイツを舐めるなぁ!」
――十秒。それが二人が根比べしていた時間であり、クレニアムモンが絶対防御を展開していた時間だった。実に限界の約三倍。凄まじいという話ではない。
根比べに勝ったのはクレニアムモンだが、限界を超えて酷使したせいだろう。
パキパキ、という凄惨な音がする。
「我が楯……!」
堅固なまでの魔楯は、たった今砕けた。
信頼する魔楯の崩壊。それはすなわち、クレニアムモンの誇りの崩壊であった。彼は呆然と、呟く。
「これでっ!」
「終わりっ!」
「デス!」
その隙を捨てるデジモンたちではなかった。
一斉攻撃が、クレニアムモンを貫く――。
「……同胞を疑い、迷う吾輩の心が楯に……いや、それを抜きにしても。これこそが人間とデジモンの可能せ……――」
――まるで死期を悟った老兵のようだった。
そして――この数分後、のこのこと出てきたアケミによって、エグザモンにエネルギー供給していたプログラムは停止する。アケミはそれだけでさっさと帰っていったのだった。
となれば。
「……」
「……」
後に残ったのは、どこか気まずい悠子とアミだけである。
まあ、気まずい思いをしているのは、一方的なまでに悠子だけであるのだが。
「あの、その……」
意を決して、悠子が口を開く。
「ガイオウモンから……その、怒られちゃいました。私、少し父の仇を討つことばかりで冷静じゃありませんでした……その……えっと……だから……」
妙に要領を得ない話し方に、アミは首を傾げる。
悠子は、なかなか察しないアミに半ば苛立った様子を見せて――八つ当たり気味に叫ぶ。
「さっきは酷いこと言ってごめんなさいって言いたいんです!」
顔を赤くして叫ぶ悠子だ。そこには彼女なりの葛藤や恥ずかしさがあったのだろう。
だが――。
「……? 酷いこと?」
――だが、残念ながら、アミはそのことについてはさっぱり忘れていた。元々あまり気にしていなかった上に、テリアモンの進化の一件があったせいである。
「……あ、……あ……!」
「悠子?」
悠子は顔を赤くしたまま、パクパクと口を動かす。そして、空回りの末の謝罪が受け取ってもらえなかったその羞恥に耐えられなくなったのだろう。
「ーーーーー!」
全力で彼女は逃亡した。
後に残ったのは、首を傾げるアミだけだった。
最近二話同時投稿が多いなぁと思いつつの、第八十九話でした。
ようやく
長かったですね。ようやく一匹だけ成長期から脱せられました。
ともあれ、これでエグザモン弱体化作戦は完了。
エグザモンとの決戦に向かいます。
それでは次回もよろしくお願いします。