【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~   作:行方不明

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第九話~背後から覗く影~

 電脳空間EDEN下層クーロン。幾つもの層に別れているその空間の二つ目、通称クーロンLV2。

 LV1よりも遥かに難解なダンジョンとなっているその場所に、来人は来ていた。

 目的は実戦トレーニング。とはいえ、来人たちの狙いは野良デジモンだった。

 別にハッカーたちでもいいのだが、やはり身の危険は少ない方がいい。さすがのカミサマも、そこまでスパルタではなかった。

 

『油断するな。いつ何時敵が現れるのかわからないのだからな』

「わかってるよ」

 

 ハッカーたちに見つからないように、コソコソと動く来人。野良デジモンを探して、彼は彼方此方へと動き回る。が、なぜかはわからないが、野良デジモンは一匹たりとして見つからなかった。

 

「なんでだ……? まさか……ハッカーたちに……!?」

『その可能性もあるやも知れぬな。しかし、地道に相手を探す他ない』

「……なんでだ? もっと下層に行けば……」

『やめておいた方がいいだろう。傾向として、下層に行くほど強力な者たちがいそうだ。今の貴様では死にに行くようなもの。自殺ならすべて終わった後でしろ』

 

 この場所のことを詳しく知らない来人では、カミサマの案に変わる案を出せるわけでもなかった。

 そんな彼にとっては、いつまでも続ける地道な捜索活動は窮屈でしかない。が、下層に行くのはカミサマから止められている。結局、カミサマの言う通り、今の行動を地道に続けていくしかなかったのだ。

 

「……んあ? あれは……」

 

 そんな時のことだった。窮屈なまでの地道な活動でも、その甲斐があったと言うのか。来人は、その視線の先にそれを見つけた。

 そう。それは野良デジモン――ではない。

 

『あれは……貴様の思い人ではないか』

 

 そう。来人の視線の先にいたのは、三匹ほどのデジモンを連れて、この空間の奥へと向かっていくアミだった。

 なぜこんなところにいるのか。後ろのデジモンは一体何なのか。湧き上がってくる疑問。だが、そんな疑問を胸の内に押しとどめてでも、来人はカミサマに一言言いたかった。

 

「なっ、にを言ってんだよ!」

『……? 別におかしなことでもなかろう。誰かや何かを好きになるというのは、命あるものの当然の帰結だ』

「いやいやいやいや! 誰があんな奴のことを好きだって……!」

『何を言う。自分で言っていたではないか。好きな者を助けられたのだから別にいいか、と』

「聞かれてたー!」

 

 思わず来人は絶叫する。あまりの恥ずかしさに。

 あの正体不明のバケモノに襲われたアミを助けた時、確かに来人はそう言った。が、それは自身が助かるとは露ほどにも思っていなかったからであって――ようするに、辞世の句のようなものである。

 それは、これでもう終わりと思ったからこそ言えたのであって、素で言えるようなものではない。そのあまりの恥ずかしさに、来人は顔を真っ赤に染めていた。

 

『……? 何を恥ずかしがっているのかは知らんが……まぁ良い。それで、貴様は何をしているのだ?』

「穴を掘ろうとしてる」

『馬鹿め。今の貴様にこの空間に穴など開けられるものか』

 

 その場に座り込んで、地面を弄る来人。

 そんな彼は、今こそ“穴があったら入りたい”という言葉を体現しようとしていたのだが、残念ながらカミサマには通じなかったようである。

 

『しかし、あの娘は……どこに向かっているのだ? 何やら急ぎの用であったようだが』

「……」

 

 ピクリ、と。穴を掘ろうと無駄な労力を使っていた来人だが、カミサマのその言葉に反応した。彼は、そのままゆらりと立ち上がった。

 

『ふむ。もう一度聞く。何をしている?』

「……別にいいだろ」

『その意気は買う。だが、馬鹿なことは止めろ。今の貴様では無謀だ』

 

 カミサマの言葉に、来人は返さなかった。

 だが、カミサマとて、神様なのだ。来人が何をしようとしているかくらい、わかっている。わかったからこそ、言っているのだ。来人を心配しているからこそ、言っているのだ。

 

「……カミサマ悪い!」

 

 だが、自分を心配してくれるそんな言葉を跳ね除けてでも、来人は止まらなかった。この空間の奥へと向かって突き進んでいった幼馴染を追って、来人は走っていく。

 アミは何か危険なことに関わっているのではないか。そんな思いが、来人を動かしていた。

 昔からそうなのだ。勘で危険を回避することが多かった来人とは対照的に、アミは何事にも首を突っ込んだ。友人の喧嘩。クラス中の告白騒動。教師のセクハラ疑惑。盗人騒ぎ。近所のおじさんのヅラ発覚。

 何事にも首を突っ込んで、いつの間にか事の中心にいる。それがアミなのだ。

 そんなアミのことだ。結果的にはいつも通り大丈夫だと、来人の勘も言っている。が、だからといって、来人は止まる気はなかった。

 結果的に大丈夫だからといって、過程も大丈夫であるとまでは限らない。大丈夫だからといって、来人は放っておくことなどしたくなかった。その相手が、他ならぬアミだったからこそ。

 

「アミ……!」

『やれやれ。我は知らんぞ』

 

 呆れたようなカミサマの声。だが、それだけだ。カミサマはもう二度と引き返せとも、止めろとも、無謀だとも言わなかった。

 危険を承知で行動する今の来人の行動は、カミサマにとっても良いものではないはずなのに。

 

「……サンキュー。カミサマ!」

『礼を言うくらいなら初めからするな。こういうことはこれきりにしろ』

「……善処する!」

『そうか。これか。……今なら皆の気持ちがわかるな』

 

 どこかへと思いを馳せているカミサマ。だが、そんなカミサマのことが気にならないほど、来人は夢中だった。夢中に走って――そして、彼はアミに追い着く。

 

『で、()()か。呆れるな』

「ぐっ……うるさいな」

 

 再度、呆れたようなカミサマの声が、来人の耳に届く。

 まあ、カミサマが呆れるのも仕方のないことだろう。なにせ、今の来人は――。

 

『意気揚々と追いかけ、追いつき……そして陰ながら見守るとは。他に何かないのか?』

「っぐ……!」

 

 ――柱の影に隠れてアミの様子を伺っていたのだから。

 散々、無鉄砲に突き進んだくせに、ここに来てのコレ。カミサマでなくとも、誰だって呆れる。来人だって、自分自身に呆れていた。

 

「仕方ないだろ! この姿だと出て行けないし……な」

 

 アミに追いついたのに、来人が彼女に会おうとしない理由はいろいろとある。

 どこぞな乙女チックな理由もあれば、男のプライド的な理由もあって、本当にさまざまだ。他人から見れば、取るに足らない理由かもしれない。

 それでも、彼にとっては至極真面目だった。

 

「……それに、ほら。ハッカーもいるし……」

『やれやれ』

 

 取って付けたような来人の言葉に、カミサマは呆れたように呟く。その呆れは、彼の言葉が本心からくるものではないと気づいたからのものだった。

 

『まぁいい。だがしかし……あの娘はなぜあの人間たちといる?』

 

 そう。カミサマの言葉通り、今のアミの周りには、なぜか数人のハッカーたちがいる。

 来人が見る限り、アミが今いる場所は彼らのたまり場となっているようだった。

 

『見たところ、あの娘もデジモンを連れているようだ。貴様には傷心するかもしれぬが、もしや奴らの仲間ではあるまいな?』

「……それはないだろ」

『ほう? 根拠はあるのか?」

「勘」

『……』

 

 二の句を告げられない。まさにそんな感じで、カミサマは黙り込んだ。

 まあ、いくら勘が来人にとって信用できるものであったとしても、所詮は勘でしかない。それを他人に提示する根拠とするのは不可能だし、そもそもそれを他人に提示する時点で愚の骨頂だ。

 

『……』

「そっ、それにほら! アミは筋の通らない曲がったことが嫌いだしな……!」

 

 カミサマの雰囲気に、自分の失言を悟ったのだろう。慌てて来人は付け加えた。

 まあ、新たに付け加えたそれも来人個人の主観によるものであって、他人を信用させる根拠としては不十分なものだったのだが。

 

『だが、やつらと同じ仮面を持っているぞ』

 

 そう。カミサマの言う通り、今の来人の視線の先では、アミがハッカーたちが被っている奇妙な仮面を取り出していた。

 あれが何なのか、正確なところはわからない。だが、ハッカーたちだけしか持っていないような品である以上、仲間ということを示す物品であるようにしか見えないだろう。

 そんな品を持っているということは、つまり、そういうことである。

 

『状況証拠だけでは、あの娘は彼らの仲間と見て間違いない』

「っぐ……!」

 

 自分の勘は違うと言っている。が、あまりにも状況証拠が揃いすぎていて、来人にはカミサマを納得させるだけの言葉を思いつけなかった。

 いい加減にしつこいカミサマだが、彼も来人に意地悪をしているわけではない。

 考えなしに突っ込んだ結果、最悪の事態になることもある。それをどうにかするような“力”があればまた別だが、今の来人にソレはない。

 だからこそ、彼は来人に想像できる限りのことを言って、起こりうるさまざまな可能性を考えさせようとしているわけなのだ、が。

 

「……! ならっ!」

『しまった。薮蛇だったか……!』

 

 少しだけ、カミサマは加減を間違えた。彼は、もっと早く切り上げるべきだった。

 それまで様子を伺っていただけだった来人が、いきなりコソコソと隠れてアミの後を追い始めたのだ。ハッカーたちのたまり場となっているそこに行こうとしているのである。

 何と言うか、微妙にムキになっている。見つからないように隠密行動しているだけマシだが、それでも冷静さが微妙に欠けていることには変わりない。

 

『仕方ない。無理だけはするな』

「わかってる!」

『返事だけは一人前だな。実力もそうあって欲しいものだが』

 

 幸いにして、この付近のハッカーたちはアミに着いて行っていて、見張りがいない分、来人としても尾行しやすかった。

 来人が見守る前で、アミは行き止まりまで行く。そこにいたのは、スーツを着た偉そうな仮面の男だった。

 人数がいるだけあって、さすがに話が聞ける距離まで近づくことはできなかったが、アミは彼に何やら詰め寄っていた。

 

「あのスーツの男……なんか変じゃないか?」

『おそらくリーダー格だろう。しかし……あれは……』

 

 なぜかやたらと狂った感じのスーツの男に、来人は妙な違和感を覚える。そんな彼の一方で、カミサマの方は何かに気づいているようだった。

 

「あの男に違和感を感じるんだけど……? 何かわかるか?」

『あれは……人間に見える、が違うな。デジモンだ』

「え? それって……」

 

 カミサマの言葉は、来人にとっても信じられないものばかりだった。情報を整理することで精一杯で、混乱してしまう。

 

『まあ、正確にはデジモンに影響を受けて正常な思考ができなくなっていると言うべきだがな。そら、出てくるぞ』

「え……?」

 

 そして、そんな風に混乱する来人の前で――。

 

「よこせぇえええええ!」

 

 ――咆哮と共に、真紅の魔竜が現れた。

 




というわけで、第九話。

今回と次回の話は、原作でいうアカウント狩りのシーンにあたりますね。
ちなみに言えば、原作主人公のパートナーデジモンはあの三匹です。この先、プラスで何匹か増えます……が、そんなに多くは増えません。

さて、次回は原作主人公のターン……からの、主人公の戦闘シーンです。

それでは次回もよろしくお願いします。
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