【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~   作:行方不明

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第九十二話~合わさる絆で力を超える~

「ほう」

 

 進化したレディーデビモンの姿に、ユピテルモンは感嘆したように呟いた。彼はその姿に見覚えがあったのだ。

 レディーデビモンが進化したデジモンこそ、ベルスターモンと呼ばれるデジモン。三銃士と呼ばれるようなほどの、銃の名手として知られる究極体デジモンだった。

 

『アミのデジモンってよくよく進化するよな』

「それだけ好かれている証なのだろうな」

『“何に”好かれているかは言わないんだな』

「ふっ、言っても意味ないだろう?」

 

 軽口を叩きながら、ユピテルモンは空を翔る。

 その視線の先では、ベルスターモンの鋭い銃弾がエグザモンを貫き続けていた。彼女の弾丸にガンドラモンほどの量はない。だが、それを超えるほどの正確性があって、威力は全くの互角だった。

 機械系デジモンであるガンドラモンを超える正確性とは、つくづく凄まじいの一言だ。かつて来人に瞬殺されたのが嘘のようである。

 

「負ケマセン!」

 

 そして、同じく銃使いであるガンドラモンには、彼女の技量がわかるのだろう。そこにあるのは銃使いとしてのプライドからか――なんにせよ、明らかに彼の攻撃は鋭く研ぎ澄まされていった。

 

「本当に美人になっちゃって……でも! アタシの方が綺麗なんだから!」

 

 そんなガンドラモンと同じく、ロゼモンの攻撃は別の意味で盛り上がっていく。ベルスターモンに張り合うことが、自らの美しさを磨くことになるとでも言いたいかのようだった。

 

「結局、皆同じ場所……でも! 僕だって今までとは違うんだ!」

 

 散々進化できないというコンプレックスから解放されたラピッドモンは、今更ベルスターモンに劣等感を抱くことはない。ただ、それでも先輩の意地みたいな幼稚な感情だけは残っていて、その攻撃は苛烈なものへと変わっていく。

 

「あーあ……盛り上がっちまってまー……仲良しこよしは変わんねぇのかよ」

 

 彼らの光景を見ていたアラタは、どこか忌々しさを露わにした顔で呟いた。

 ベルスターモンへの進化をキッカケに、アミのデジモンたちはその強さを増した。全員が最高位の段階へと足を踏み入れたことで、彼らの仲間に対する意識が変わったのだ。今までの“ただの”仲間から、切磋琢磨する仲間へと。そうすることで、それぞれが持つそれぞれのポテンシャル以上の力を発揮する。

 そんな漫画みたいな話の中心にいるのが、アミなのだ。アミが、この絆を紡いだのだ。

 

「……くそっ」

 

 だから、アラタは忌々しげにアミを見る。

 甘さを持ちながらも強さを得られるアミたちだ。人間を止めて一人にならなければ強さを得られなかった自分とは違う。そう考えるから、アラタはアミのことが羨ましく、そして忌々しかった。

 

「グルァアアアアアアアアアアア!」

 

 やられ放題だったエグザモンが叫ぶ。それはまるで悲痛な咆吼だった。

 今の今まで、エグザモンはここにいる全員のことを何とも認識していなかった。だが、ここに来て明確に認識した。目の前にいる存在は自らを倒しうる敵である、と。

 イーターに侵食され自意識も消滅した身で、唯一残った本能が、この場の面々を敵だと判断したのだ。

 だからこそ、奇しくもこの場にいる全員が意識する。ここからが正念場だ、と。

 

『カミサマ、気張れよ!』

「わかっている!」

 

 この場の仲間たちの中で最も強いのは、ユピテルモンだ。冗談でも何でもなく、自他共にそう認識していた。だから、そんな彼が先陣を切る。

 目指すは、エグザモンの翼。自立思考能力を持ち、攻防一体の力を誇るソレを狙う。

 

「“マボルト”!」

 

 両手に持つハンマーを打ち鳴らし、小さな雷雲をいくつも召喚する。召喚し続ける。

 召喚された雷雲は、召喚された傍から間髪入れずにエグザモンの翼を狙い撃つ。雷雲から発生した雷が、雨あられと降り注いだ。

 

「グルァアアアアアアアア!」

「さすがに硬いか……だが!」

 

 絶えず雷に晒され続けるエグザモンの翼は、それに耐えるのに全力を注いでいる。他の部分に余力を回すことなどできるはずもなかった。

 

「オッケー……癪だけど、行くよ~!」

「ターゲットロックオン」

「それじゃ、行きましょうか!」

「全力で、な!」

 

 アミのデジモンたちが、無防備となった本体を狙う。

 

「グルァアアアアアアアアアアアアア!」

 

 エグザモンもソレをわかっているのだろう。彼は多くの雷に晒されながらも、腕を振り上げた。巨大な槍がビルを狙う。彼はわかっているのだろう。あのビルに、自分の敵たちにとって大切な者(アミ)がいることに。

 以前よりも弱体化しているとはいえ、あの大きさだ。もしエグザモンの一撃を受ければ、このビルはひとたまりもない。

 まずい。大量のマボルトの制御で手が離せないユピテルモンは、内心で焦る。だが、手を抜けばエグザモンの翼を止める雷の檻が破られてしまう可能性がある以上、何もできない。

 

『おい、逃げ――』

 

 すべてを見ていた来人が、思わずユピテルモンの中から叫ぶ。

 だが、その声は届かなかった。アミのデジモンたちも阻止するべく攻撃するが、エグザモンは自らが傷つくのも構わずに攻撃を続けようとしている。

 

「グルァッ!」

 

 そして、敵の柱がいる場所を粉砕せんと、エグザモンの槍がビルを穿つ。

 爆発、轟音と振動がビルを襲う。大ダメージを受けたビルがどうなるかなど、わかりきったことだった。

 土煙がビルを包んで、崩壊していく。

 

「っち!」

「ちょっと! 何乗ってんの、離れて!」

 

 アラタは近くを飛んでいたロゼモンの背に無理矢理飛び移ったことで事なきを得たが、飛ぶことのできないガンドラモンとアミはそうはいかない。

 

『アミ!』

 

 絶望の込められた来人の声が、虚しく土煙の中に溶けて消えた。

 

「グルァアアアアアアア!」

 

 来人たちに蔓延し始めた絶望の気配に気づいたのだろう、エグザモンは咆吼する。それはまるで、勝利の雄叫びのようだった。

 

「……?」

 

 その瞬間、土煙で覆われた灰色の景色が不自然に揺らめく。誰もが、一瞬だけ疑問を抱いた。

 

「“メギドフレイム”!」

 

 その瞬間、土煙を押しのけて現れたのは地獄の業火。

 物質を灰も残さず焼き尽くす炎が、エグザモンを襲う――。

 

「ギャァアアアアアアアアアアア!」

 

 ――先ほどまでとは一転して、悲痛な叫びを上げるエグザモン。

 ユピテルモンはニヤリと笑った。その視線の先にいるのは、アミとガンドラモンをその手に掴み、そのあまりの重さにフラフラと蛇行しながら飛んでいる、メギドラモンの姿。

 

「全く……遅かったではないか。あと少し遅ければ、()――我がどうにかするところだったぞ」

「お、寝起きでいいところに来た感じか? っていうか、重い……!」

 

 ガンドラモンとアミの重さに辟易したメギドラモンだったが――そんな彼は、無事だったユピテルモンと来人の姿に、嬉しそうに笑っていた。

 

『ったく、ずいぶんと寝坊だな?』

「仕方ないだろー? こっちは何が何やらって感じなんだよ。何か知らないけどさー? 目が覚めた瞬間にさー? 外を手伝いに行け、って女に蹴飛ばされたんだよ。ってか、オレ、いつ進化したんだ……?」

「っふ、それではただの間抜けではないか」

「っぐ……!」

 

 再会の喜びを感じながらも、ユピテルモンたちは火傷に悶え苦しむエグザモンから目を離さない。軽く視線を交差させる。話は後で、と。

 

「それじゃ、さっさと終わらせるかー!」

「うむ」

 

 言った瞬間、メギドラモンはガンドラモンを真上に放り投げる。追加とばかりに、その尾でさらに打ち上げる。いきなりの攻撃に、ガンドラモンは驚くしかなく――。

 

「あ、そうか! ガンドラモン! 頑張って撃って!」

 

 ――メギドラモンの思惑に気づいたアミは声を上げた。

 

「ナルホド。了解。ファイア!」

 

 高速で落下しながらも、ガンドラモンの全身の銃口が火を噴く。

 放たれたいくつもの弾丸が、メギドラモンの炎で傷ついたエグザモンに直撃していった。

 

「グァアアアアアアアアアアアア!」

「私たちも――」

「忘れる――」

「な!」

 

 悲痛に苦しむエグザモンを前に、他のデジモンたちも攻勢に出る。

 二つの弾丸が、植物の鞭が、黄金に輝くミサイルが、エグザモンを傷つけていく。

 

「さて……寝起きだが、鈍ってはおらぬな?」

「もちろんだ!」

 

 ここまで来れば、雷の檻は必要ない。いくつもの雷雲が束ねられ、巨大な雷雲が構築される。

 メギドラモンのその口に炎が燃える。

 いろいろな意味で解き放たれたユピテルモンとメギドラモンの二人が、最後とばかりに攻撃を仕掛ける。

 

「“メギドフレイム”!」

「“マボルト”!」

 

 再び放たれた地獄の炎と極太の雷が、エグザモンを撃ち抜いた――。

 

「グルァアアアアアアアアアア……」

 

 ――空の上から地の上へと落下、力なく横たわっていくエグザモン。だが、いかに暴走しているとはいえ、彼もロイヤルナイツ(世界の守護者)の一員。

 訪れた終わりをただ受け入れることなどできるはずもない。彼は最後の最後に動く。最後の悪あがきとばかりに、彼はその手の槍を()()させる。

 

「っ!」

 

 これはまずい。全員が焦る。

 暴走状態にあったが故に使われなかったが、実はエグザモンの槍の中にはさまざまな種類の特殊弾が収納されている。

 それが、暴発し広範囲に広がろうものならば、デジモン組はともかくとして、人間のアミには耐えられない。

 槍が熱で赤く染まるその瞬間、焦りがデジモンたちを突き動かし――。

 

「え……?」

 

 ――そう、呆然と呟いたのは誰だろうか。

 まるでビデオが逆再生されるかのように、爆発が巻き戻っていく。その先にいるのは異形の右腕を構えた、アラタ。

 ロゼモンから振り落とされた彼は、いつの間にかエグザモンの落下地点に先回りしていたらしい。

 

「っ、あれを食らっているのか……? よもやあそこまでの力を……!」

 

 アラタがしていることを理解したユピテルモンが、呆然と呟く。元は人間に過ぎないアラタがあれだけの力を持っていることに驚きを隠せなかった。

 

「ははっ、さすがにこのデカブツは喰いきれねーか。残念だぜ」

 

 アラタの視線は、倒壊したビルの上に倒れ込んだエグザモンに残念そうに向いていた。やはり、弱らせたエグザモンをその身に取り込む算段だったのだろう。まあ、あまりの強大なデータ量に諦めたようだが。

 というか、そのエグザモンだ。消滅してないということは、まだ生きているのだろう。つくづく規格外のデジモンである。

 

「あ? 何だ、言いてぇことがあんのか?」

 

 アラタは微妙な視線で見つめてくるアミを見た。アミはメギドラモンの腕から地面に降ろしてもらい、アラタに向き合う。

 

「……」

「ま、だいたいわかるけどな。末堂の奴に利用されてるんだ、とか言いたいんだろ?」

 

 図星だった。アミはそう言って、アラタを説得するつもりだった。

 

「俺もわかってるさ。そうかもしれないってのはな。けど、ぶっちゃけどうでもよくなっちまった。面倒なことは、頭の良い奴らが考えてればいい」

「そんなの……!」

「良くないってか? まぁな。結局、俺はまだガキなんだよ。八年前から何も変わってねぇ……」

「……そんな」

「だから、生きるのさ。ガキはガキなりに、頭の良い奴らの言いなりになって、利口にな。そうすりゃ、欲しいもんが手に入る」

 

 反骨精神の塊だったようなアラタが、そんな発言をしたことにアミはショックを隠せなかった。彼が何を目的としているのかは未だわからないが、以前の彼が消えてしまったようで、アミは寂しさすら感じていた。

 アミの寂しげな表情を見て、アラタは寂しそうに笑う。

 

「そうさ。俺はガキのまま……がっかりしたろ? こんなガキの俺と友達で」

「そんなことはない!」

 

 まるで自分を否定するかのようなアラタの言葉に、アミは声を荒げる。

 アラタはアミの言葉に一瞬だけ嬉しそうにして――その表情は、すぐに元の酷いものに戻った。

 

「見ててくれ。俺は変わる。変わってみせる。ガキから……大人になる。そのためには、俺は俺でなくなっても構わねぇ」

 

 そう言い切って、アラタはアミに背を向ける。まるでアミがこれ以上発言することを拒んでいるかのようで、そんな彼の背を前に、アミは固まってしまう。

 そんなアミの代わりに声を上げたのは――。

 

「止めておけ」

 

 ――先ほどから事の成り行きを見守っていたユピテルモンだった。

 

「あん?」

「変わろうと望むから変われる、などというのは幻想だ。デジモンも人間もそれを望みこそすれ、だからといえどそれはキッカケに過ぎぬ。いくつもの積み重ねが“進化”の下地を作っているのだ。そこを勘違いし、不相応なものに手を伸ばせば、単なる思い上がりの結果しかもたらされぬ」

「っち。説教かよ……強い奴が知った口を聞くんじゃねぇ!」

 

 苛立った声を上げて、アラタは去っていく。その脚力は、もはや人間のものでは考えられないレベルのものだった。

 

『アミ』

「……何?」

『俺はさ、アラタとは付き合い長くないし、時々しか会ってないからさ、あんまりアイツに気の利いたことは言えないと思う。それこそ、教科書通りの正論くらいか』

「……」

『でも、きっとそういうのじゃダメだ。アイツを救えるのは、お前やノキア、悠子くらいだと思う。俺の勘がそう言ってる』

「くすっ……そっか。来人の勘は言ってるんだ。救うことができるって」

 

 辛そうに笑いながら、アミは来人に小さく呟く。ありがとう、と。

 来人もユピテルモンも、その呟きは聞こえないフリをしたのだった。

 




というわけで、第九十二話。

エグザモン戦決着回です。
ついに、メギドラモンが起きました。彼が突然出てきた理由は、某ヤンデレ様に「はよ、働け!」と怒鳴られたからですね。
そのくせ、自分は出てこない女神様です。

さて、それでは次回もよろしくお願いします。
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