【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~   作:行方不明

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第九十三話~罪深き者たち~

 エグザモンとの決戦の翌朝――アミと来人は緊張した面持ちで走っていた。

 彼らが目指す先は、秋葉原。なぜ朝早くからそこを目指しているのかといえば、悠子からの連絡があったからだ。デジタルウェイブの調査を続けていた結果、岸部リエのアカウントの居場所――ロードナイトモンの居場所がわかったのだ、と。

 だから、オメガモンたちからの通信による、単独でエグザモンに挑んでいったことについての説教の疲労もそこそこに、こうして来人たちは走っているのである。

 

「それにしても、このタイミングか……」

「やっぱり罠だと思う?」

『おそらくはそうだろう。気は抜けない』

 

 走りながら、来人たちは嫌な予感に顔を顰めた。

 勘に頼るまでもなく、来人は確信していた。これは何らかの罠である、と。

 昨夜、動かなくなったエグザモンは、現在マグナモンたちが見張っている。だが、彼らから見ても再起の可能性は低いとのことで――とどのつまり、ロードナイトモンたちはアミたちの活躍によって順調に戦力を減らされつつあった。

 クレニアムモンに、戦力上の切り札たるエグザモン。その両者が沈んだこのタイミングで、それまで行方もわからなかったロードナイトモンが突然見つかる。どう考えてもおかしい。

 それでも、アミたちは後手に回りすぎる訳にも行かない――だから、罠とわかっていても行くしかないのだ。

 

「アミさん!」

「悠子!」

 

 秋葉原に着くと、目立つ位置に悠子はいた。

 待っていたとばかりに、アミの到着に喜色を浮かべた彼女は、そのままアミを案内する。自衛隊によって囲まれているその場所へと。

 秋葉原の一角、あの神隠しの一件の時と同じ場所がデジタルシフトしていた。まるであの時のように。

 

「この先に?」

「……はい、反応はこの先にありました。罠かもしれません。けど、引き返すことはできませんし、したくありません」

「悠子……」

「アミさん……改めて、私に力を貸してくれませんか? 私は父の仇を討ちたいんです!」

 

 まっすぐと自分を見つめて答えてくる悠子の姿。そこに、以前の焦燥はなくて――だからこそ、アミは力強く頷いた。

 

「……! はい、行きましょう!」

「うん!」

 

 そして、アミと悠子の()()は歩き出した。そう、二人だけは。

 

「って、来人……?」

 

 着いて来ない来人に、アミが声を上げる。だが、その声に返事も返さず、彼はある方向を睨みつけているだけだった。

 

『……このタイミング、おそらくは狙ったのだろうな。邪魔が入らないように、と』

「よりにもよってかよ」

『仕方あるまい。乱戦となれば、どのような事態になるかもわからぬ』

「くそっ」

『案ずるな。あの娘は強い。大丈夫だ』

「わかってるよ!」

 

 カミサマと何かを話していたような来人はアミに向き合う。その目には心配の感情があって、アミは自分が心配されていると気づいた。そして、気づいたからこそ、彼に向かって微笑む。自分は大丈夫だ、と。

 来人はしばらく逡巡して――やがて、覚悟を決めたようだった。

 

「アミ」

「……何?」

「悪い、俺は一緒に行けない。先に片付けなきゃいけない相手がいる」

 

 真剣に言う来人とその言葉の内容に、アミは少しの寂しさと不安を抱く。が、それらを押し隠して、彼女は来人に頷いた。彼女もわかったのだ。来人たちはこれから戦いに行くのだということが。

 

「なるべく早く戻ってくる。だから……だから――」

「大丈夫だよ! 来人は心配性だね」

「……お前も似たようなもんだろ」

 

 言って、互いに苦笑する。二人共、互いの一大決戦に居合わせられないというのが、力を貸せないというのが歯痒かった。戦わなくとも、近くにいてくれるだけで違うというのに。

 

「負けるなよ」

「来人もね」

 

 激励を交わし、来人はアミに背を向けて走り出す。先ほどから近づいてきている強大な気配の方向へと。

 そんな彼の姿を見送って、アミはどこか生暖かい目で待っていてくれた悠子と合流する。

 

「良い雰囲気でしたね」

「え?」

「クスッ、何でもないです。いつも通りのあなたたちに私も安心できました。行きましょう!」

「……? うん」

 

 そして、アミと悠子はデジタルシフトしている空間へと突入する。瞬間、アミの眼前にノイズが走った。

 

「……?」

 

 アミは首を傾げる。だが、すぐに気を持ち直した。

 道は入り組んでいながらも、構成自体は前の秋葉原事件の時と同じだ。アミは一度ここへ来た経験を活かして、前と同じように進んでいく。

 結果、すぐに目的地へと着いた。空間の歪曲によって不自然なほどに酷く広がった場所。そこにいたのは、やはりあの桃色鎧の聖騎士で――。

 

「ロードナイトモン!」

 

 ――ほんの少しの憎しみを込めて、悠子が叫ぶ。

 ロードナイトモンは焦るでもなく、アミたちを迎える。その姿は、まるで待ち構えていたかのようだった。

 やはり罠か。アミたちの心の中に、その可能性が広がっていく。

 

「クックック……待ちわびたぞ」

「ロードナイトモン……もう逃さない!」

「逃げる? 私が……? クハハ! 面白いことを言う! むしろ私は貴様らを歓迎しているというのに。なにせ、貴様ら鬱陶しい塵芥を片付けられるのだからな……!」

「っ」

 

 やはり、待ち構えられていた。であれば、この場所そのものが罠である可能性すらある。ロードナイトモンに意識が集中している悠子を横目に見ながら、アミは注意深く辺りを見渡した。慎重を期して戦えるように。

 

「私は絶対にお前を許さない! 父を殺したお前を……!」

「フン……私とて初めから貴様の父を殺そうとしていたわけではない」

「え……?」

 

 ロードナイトモンは語る。自らが人間のフリをするために被っていた岸部リエの身体、そこに残っていた岸部リエの僅かな意識が自分の精神に影響を与えたのだ、と。

 岸部リエの野心、野望、欲望、嫉妬――そういったさまざまな負の感情が、最高位のデジモンの精神にすら影響を与える。ロードナイトモンは言う。身を以て人間の危険性を理解した、と。

 

「それでは……リエさんの意識があなたに悪影響を及ぼし、あなたを変えてしまったと?」

 

 言い訳にも聞こえるロードナイトモンの言葉に、悠子は顔を顰める。

 対するロードナイトモンは、嗤っていた。

 

「ああ、そうとも! しかし……あの女の感情は悪くはない! 弱者を蹂躙する優越感! それは私を昂ぶらせ、狂喜させてくれる!」

「っ!」

 

 狂っていた。元々か、それとも岸部リエの皮をかぶる中で狂ってしまったのかはわからないが、今のロードナイトモンは狂っていた。

 

「罪深いのは私か? 貴様ら人間か!?」

「……EDEN症候群を広めたのもお前の仕業なの?」

「くっくっく。半分正解だが……私はただイーターをコントロールしていただけだ。結果として広まったが、目的ではない」

「っ、どの口がそれを言うの……!?」

 

 罠の有無を確かめるために周りを見渡しながら、話半分に聞いていたアミだったが、思わずといった風に声を上げた。

 自分が、来人が、アラタが、悠子が、ひなが、多くの人がどれだけ苦しんだと思っているのだ。アミは怒りを持って、戯言を言う相手を睨む。

 

「ック。かの“罪の烙印”の蔓延について私を責めようとは……実に人間らしい。世界を破滅へと導いた元凶は貴様ら自身であるというのに!」

「……!? どういう――」

「八年前だ! 神代勇吾! 神代悠子! 白峰ノキア! 真田アラタ! 相羽アミ! 我らのデジタルワールドに貴様らが来たことがすべての始まりだった! 災厄を連れて来たことが!」

 

 ロードナイトモンの言葉に、アミと悠子は絶句する。彼が何を言っているのか、彼女たちにはわからなかった。彼女たちにはその記憶がなかったから――ハッとして気づく。記憶がない。それを、アミたち二人は知っている。

 以前依頼の中で出会った山科という中年男性だ。その後のゴタゴタの中ですっかり忘れていたが、彼は元カミシロの研究者で、末堂アケミによって記憶を奪われていたことが、あの地下施設で明らかになっていた。

 それと同じように、自分たちも。アミたちは血の気が引いていくのを感じた。

 そういえば、アラタが言っていた。思い出した、と。それはもしかして。

 

「八年前……兄さんがEDEN症候群になったのも八年前……! EDENのβテストも八年前……参加した子供は五人……五、にん?」

 

 悠子はカミシロの人間として八年前にあった出来事を思い出して行く中で、自分の言葉にハッとして気づく。EDENβテストに参加した子供は五人。自分たちも、五人。まさか。

 悠子とアミの二人は、言いようのない落とし穴に嵌ってしまったような感覚を味わっていた。

 

「さて、もう一度問う。罪深いのは私か? 貴様ら人間か?」

「っ……!」

 

 答えられなかった。アミも、悠子も。

 

「フン。どうしようとも貴様らの結末は変わらん! 貴様らに過去も真実も意味はないッ……貴様らに未来(明日)もないッ! 絶望と共に現在()に沈め! それが貴様らに訪れうる唯一の未来()だッ!」

 

 瞬間、ロードナイトモンは動く。その鎧に巻かれた帯刃が、彼の動きに合わせて勢いづく。あらゆる敵を刺し貫くその帯刃が、思わぬ真実に呆然としているアミたちめがけて放たれる――。

 

『負けるなよ』

 

 ――直前、アミはここにいないはずの声を聞いた気がして、彼女の意識は覚醒する。

 

「危ないっ!」

「きゃっ!」

 

 悠子と突き飛ばし、アミは転ぶ。そんな彼女のすぐ上を、帯刃が通り過ぎていった。

 言いようのない底なし沼に囚われていたアミたちが、それに対応できたのは奇跡だった。いや、あるいは、ここにいない彼が助けてくれたのかもしれない。

 アミは小さく呟いた。「負けないよ」と。そうだ。負けられないのだ。彼と、そう約束したから。

 

「確かに、私たちに原因があったのかもしれない……けど! 自分の罪を押し付けてるお前にだけは言われたくない!」

「……何?」

「罪深いのは私たちか、お前か……何て、比べようもない。だって、お前も同じくらい罪深いから!」

 

 アミは叫ぶ。

 例えばの話だ。爆弾を作った人がいて、その爆弾で人を殺した人がいる。どちらが罪深いか。答えはどちらも、だ。人殺しの道具を作った人も、それで人を殺した人も、同様に罪深い。そこに“より”などという比較が入る隙はない。

 自らが罪深いと認識するアミたちと同じくらい自分は罪深いと言ってくるアミを前にして、ロードナイトモンの雰囲気が変わった。言うなれば、怒りの雰囲気だ。

 

「行くよ! みんなっ!」

 

 折れそうになる心を打ち鍛え、真実に負けそうになる自らを叱咤する。待ち受ける罠の気配を超えるべく、アミたちは立ち向かった――。

 




というわけで、第九十三話。

ついに原作で言う過去回想編が始まります。
が、明かされていく過去よりも前に、主人公は決戦ですね。

さて、次回はいよいよあの緑と主人公たちとの決戦です。

それでは次回もよろしくお願いします。
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