【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~   作:行方不明

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第九十四話~三度目の戦い~

 アミと別れた来人はひたすらに走る。自分を追いかけてきている気配を感じながら、それでも走る。

 

『どこへ行く?』

「俺があいつと初めて戦った場所だ! あそこなら立ち入り禁止になってるはずだから、思いっきり暴れても多少は問題ない!」

 

 追いつかれないか、背中を狙われないかと冷や汗をかきながらの逃走劇だったが――向こうにその気がなかったのだろうか。

 必要以上の疲労感を覚えながらも、来人はそこにたどり着く。あの、酷く廃墟のようになってしまった住宅街の一角に。

 

「追いかけっこは終わりかァ?」

 

 立ち止まった瞬間、来人の目の前に現れる復讐鬼(タイタモン)

 その顔には、今までにない静けさがあって――それはまるで嵐の前の静けさのようだった。

 

「……ああ、終わりだ。ここで決着をつける」

「ハァッ、言うじャねェか! 元気になりやがッたようで何よりだァ」

 

 タイタモンはその手に持った骨刀を来人に突きつける。だが、それだけだった。そこから先は何もしない。まるで何かを待っているかのように。

 彼が何を待っているのか、来人にもわかった。

 

「さァ、出てこいよ。殺してやるからよォ」

 

 まるでクリスマスの夜を待ち望む子供のように、歓喜と期待とが混ざり合った感情を込めてタイタモンは言う。その言葉を前にして、カミサマは重々しく口を開いた。

 

『来人、代われ。今更だが、これは我らの世界の問題だ。我が決着をつける』

「……わかった。けど、一つだけ言わせろ」

『何だ?』

「もう、とっくに俺の問題でもあるよ」

 

 それだけだ、と。彼がそう言った直後に、カミサマが身体の主導権を得る。アイギオモンの身体が、本来の姿であるユピテルモンへと(進化す)る。

 その姿を見た瞬間に、タイタモンは壮絶なまでの笑みを浮かべた。今までにないほどの歓喜と喜悦の笑みだった。かつて来人の前に現れた二度の時でも、ここまでのものはなかっただろう。それほどのものだ。

 

「ハッハァッ! さァ! さァさァさァさァ!」

「……」

「殺してやるよォ。俺様たちが受けた苦痛を百倍にして返す。絶望に呑まれて消えろォ!」

「消えぬ。我は不死なる神にして、オリンポス十二神の主神。勝つのは我だ」

 

 タイタモンの巨大な骨刀とユピテルモンのハンマーがぶつかり合った。両者ともに小手調べのつもりだったその交わりですら、凄まじい衝撃波が発生し、辺りを吹き飛ばす。

 EDENやデジタルシフトの中ではない、現実の世界で戦っているからこその光景がそこにはあった。

 

「クハッ! ああ、テメェだ……やっぱりテメェだ! 代替わりしても変わらねェ!」

「……」

「覚えてるかよォ? いやァ、覚えてるよなァ? 先々代のテメェは俺が殺してやったってことはァ!」

『は……?』

 

 歓喜に舞い上がるタイタモンの言葉に、思わず来人が呟いた。

 タイタモンの言葉が正しければ、彼は一度はカミサマとは別のユピテルモンを倒したことがあるということで――その言葉に、ユピテルモンは苦い顔をした。

 事実だった。先々代のユピテルモンは、タイタモンに負けている。それは絶望的な“あること”を意味していた。

 

『おい、カミサマ……?』

 

 オリンポス十二神は、世界法則であるホメロスによって代替わりというシステムが組み込まれている。それは彼らを不死の神足らしめているシステムであるが――不死なる神とは、言い換えれば、いかなる時代にも存在する不変の存在でもあった。

 つまり、代々の心象に多少の変化はあっても、代替わりのシステム上では、その能力値は不変であるのだ。初めから強い代わりに、最後まで変われないということである。

 今代のユピテルモンのような特殊な例であっても、ユピテルモンである以上はそこに変わりはない。

 

「テメェは俺様には勝てねェよ!」

 

 そして、かつてのユピテルモンがタイタモンに負けたということは――タイタモンは、今のユピテルモンでさえも倒すことができる可能性が高いということだった。

 

「ふん……勝つのだ!」

「ハァッ! だったら、その戯言ごと殺してやる! その身体の中に抱いてやがる小虫と一緒に消えやがれェ!」

「なおさら負けるわけにはいかぬ!」

 

 再度、ハンマーと骨刀がぶつかり合う。

 敵の獲物を切り裂かんとする骨刀が、敵の獲物を砕かんとするハンマーが、互いの振るわれた意味を持って、相手の振るわれた意味を捩じ伏せんとぶつかる。

 

「ハァ!」

「っく……!」

 

 負けたのは、ハンマーの方だった。

 軽い罅が入って、持ち手の下から吹っ飛んでいく。片手が空いたユピテルモンに、タイタモンは追撃した。

 

「ぬぅ!」

 

 ユピテルモンはもう片方の手に持つハンマーでタイタモンの骨刀を迎撃する。骨刀の側面にハンマーを打ち付け、その勢いを利用して場を離脱。先ほど吹っ飛んでいったハンマーを拾った。

 両方のハンマーを打ち付け、打ち鳴らす。大気を震わせる轟音が鳴り響き、雷雲が召喚される。

 

「“マボルト”!」

 

 雷雲から放たれる雷が、タイタモンを狙う。が、凄まじい速さでその身に迫る雷を、タイタモンは難なく躱した。

 

「無駄なんだよォ!」

「っち!」

 

 絶えず放たれる雷を躱しながら、タイタモンは骨刀を振るう。その衝撃で、雷雲は散らされた。

 

「俺様が無策でテメェに挑むと思ってんのか! テメェらオリンポス十二神に対する戦い方なんざ、とっくに心得てるんだよォ!」

 

 タイタモンは、誰よりもオリンポス十二神の強さを知っている。だから、彼は学んだのだ。オリンポス十二神の強さの源を、戦い方を、付け入る隙を。彼らを殺し続けることができるように。だから、タイタモンにとって普通に戦うユピテルモンを倒すことなど、それこそ造作もないことなのだ。

 相手は不変の神。気の抜けない強大な強さを持つ代わりに、成長もできない、運命から逃れられない存在なのだから。

 

「っく……!」

『おい、カミサマ……大丈夫か?』

「無論だッ!」

 

 来人の心配の声に、ユピテルモンは努めて返す。

 状況は悪かった。そもそも、かつてのユピテルモンをタイタモンが倒すことができたのは、研究し尽くすことによって作り上げた対策、そして過剰なまでに用意周到だった罠、その二つによってだ。

 来人がこの場所を選んだのだから、ここには用意周到な罠はないだろう。だが、それでもかつてのタイタモンが学んだユピテルモンに対する対策は生きている。

 強大な力を持ったタイタモンが、ユピテルモンを倒すためだけに練った対策を持ってこの場にいる。これほど恐ろしいことはなかった。

 

「はっ!」

 

 気合の入ったハンマーによる一撃が、タイタモンめがけて振り下ろされる。

 

「ハッ! そんなもん読めてんだよォ!」

 

 タイタモンは最小限の動きでそれをいなし、骨刀をユピテルモンめがけて振るう。

 対するユピテルモンも、これみよがしなそのカウンターを食らうほど愚かではない。身体を捩り、その骨刀を躱し、その勢いで再度ハンマーを振り下ろす。

 鈍い音が、辺りに響いた。それは、振り下ろされたハンマーがタイタモンに届いた音――ではなく、地下から現れた骸骨の戦士を、ハンマーが打ち砕いた音だった。

 

「っ!」

「かかったなァ! “呼応冥神”!」

 

 次いで、地下から湧いて出てくる不死身の軍勢。だが、たかが不死身なだけの軍隊など、相手ではない。ユピテルモンは軽くハンマーを振るい、軍勢をあしらう。

 

『カミサマ!』

「っ」

 

 聞こえた来人の叫び声に、ユピテルモンは苦い顔をした。

 その視線の先には、骨刀を構えているタイタモンの姿があって――迎撃するにしても、防御するにしても、この軍勢が邪魔だった。

 ユピテルモンがこの軍勢を片づけきるのに必要な時間は、一秒にも満たないだろう。だが、その一秒に、タイタモンは攻撃を捩じ込んでくる。

 

「喰らいやがれェ――」

「なんの……!」

 

 咄嗟、ユピテルモンは周りの軍勢をハンマーで打ち上げる。即席の盾だった。

 

「――“幻刃無痕”!」

 

 放たれた突撃は、その間にある壁をものともしない。ユピテルモンは咄嗟にハンマーを自らの身体の前に持ってきた。

 ハンマーと骨刀がぶつかる。一瞬、ハンマーが砕ける。骨刀の勢いは止まらない。骨刀はハンマーを持っていた腕ごと、ユピテルモンを貫く――。

 

「がぁッ!」

『っぐ……』

 

 ――苦しみあまり、息を吐いた。力任せにその身に刺さった骨刀を引き抜かれて、力なく倒れ込んだ。その身に刺さっていた骨刀は引き抜かれたというのに、ユピテルモンは身体を抉り抜かれるような痛みに襲われ続けていた。

 力ない目で、ユピテルモンはタイタモンを睨む。タイタモンは骨刀を振るって、その調子を確かめているようだった。

 

「ヘェ。死なねェんだなァ。さすがッてかァ?」

「ぐ……が……」

「すげェだろォ? これが俺様の力よォ」

 

 先ほどのタイタモンの技――幻刃無痕を受けた者は、永劫に苦しみ続ける。威力は特筆すべきほど高威力ではない。だが、それを補って余りある恐ろしさを持つ。

 それがユピテルモンが受けてしまった技だった。食らってはいけない技だったのだ。

 

「しッかし……まァ……」

 

 タイタモンは複雑な感情を込めた視線で、なおも戦闘を続けようとするユピテルモンを見た。

 並のデジモンならばショック死するほどの痛みを受け続けて、それでもなお気力が減らないのはさすがと言うべきか。

 

「昔は散々に準備してやっとだったのによォ。こんなもんか。あァ、テメェが本来の力を発揮できねェのも理由の一つッちャァ一つか。今は俺様の方に分があるんだよォな」

 

 ユピテルモンを始めとして、ロイヤルナイツクラスのデジモンたちは本来の力を発揮しきれていない。それは、この世界に混じり合ったデジタルの理が半端だからだ。

 そんな中で、タイタモンは余所から力を奪い、そして溜め続けた。その結果、本来に限りなく近い力を発揮できている。言うなれば、あのエグザモンと同じだ。

 この状況で、どちらに分があるか。わかりきったことであった。

 

「我は……それを理由とするつもり、はない……!」

「ヘェ。まだやる気かァ! ハァッ! そうこなくちャなァ!」

 

 ユピテルモンはダメージを堪えながら、息絶え絶えに立ち上がり、一つだけになったハンマーを構える。構えて――直後、彼の視界は意図せずに変化した。

 

『なっ!』

 

 ダメージを受けすぎてしまったが故だろうか。アイギオモンへと退化してしまったのだ。しかも、退化したことで来人に主導権が移ってしまっている。

 

「ちィッ。つまんねェことになッたなァ」

 

 それを見たタイタモンは、残念そうに骨刀を振り上げた。

 




というわけで、第九十四話。

三度目のタイタモン戦(前半)でした。
結構アッサリとやられているカミサマですが、それはこの世界だからです。
デジタルワールドなら五分五分くらいにはなります。それでも五分五分な辺り、タイタモンというデジモンが如何に頑張っているかがわかりますね。

今日は後半も同時投稿ですので、そちらもよろしくお願いします。
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