【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~   作:行方不明

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今日は二話同時投稿していますので、前話をご覧になっていない方はそちらからよろしくお願いします。


第九十五話~その姿、荒ぶり怒る天の如く~

「ッち。つまんねェことになッちまったなァ」

 

 残念そうに、振り上げられた骨刀。

 今、振り下ろされた――。

 

「“スタンビートブロウ”!」

 

 ――直後、来人が動く。硬く鈍い音が響き渡った。

 

「へェ?」

「……」

 

 面白そうな声を上げるタイタモンを、来人は鋭く睨みつける。骨刀は、来人のすぐそばに振り下ろされていた。

 

『何をしている来人! さっさと逃げろ……!』

 

 酷く慌てた様子で、カミサマは叫んだ。出来るかどうかは別として、死んで欲しくないという一心で、彼は叫んだ。

 成熟期の身で、タイタモンに向かい合うなど。しかも、タイタモンの幻刃無痕によって受けた痛みは来人も共有している。今の来人はやせ我慢しているだけだ。

 

「ったくさ……さっきも言っただろ」

 

 呆れたように、来人は呟く。その表情には、苦笑すらあった。

 

「もう、とっくに俺の問題だよって。コイツは俺の敵でもある。だから……俺も戦うんだ」

 

 来人の言葉に、カミサマは一瞬だけ息を止める。

 

「はァ! よく言ったなァ。その威勢に免じてまたボロボロにしてやるよォ」

「は。お断りだ」

 

 痛みに顔を顰めながら、来人はタイタモンに向かい合う。

 骨刀を振り上げているのが見えた。死を間近に感じているからか、振り下ろされてくるその骨刀は酷くゆっくりと見えた。

 来人は痛みに悶えながらも、躱そうと足を動かして――。

 

『やれやれ』

 

 ――努めて吐き出されたような呆れた声を、聞いた。

 

「っ!」

 

 瞬間、来人の出来うる動きを超えて、彼の足が動く。真横を骨刀が通り過ぎる。

 ドッと冷や汗が出た。もう少し遅ければ、来人はこの世に要られなかっただろう。

 

『何をしている』

「カミサマ……?」

『前を見ろ。あやつを倒すぞ。我はこのようなところで消える気はないのでな。それに――』

 

 ここで消えることは、その命を賭して我を救ってくれたお前に申し訳ない。口が滑りそうになったその言葉は、全身全霊をかけて呑み込まれた。

 そんなカミサマの様子に、来人は一瞬だけ痛みも忘れて呆気にとられて――笑った。

 

「はは……そうだな。俺だってここで消える気はないよ」

『もう一度言うぞ。前を見ろ。あやつを倒すぞ……()たちでな』

「ああ! ()たちでな」

 

 直後、いい加減にしろとばかりに降ってくる骨刀。それを来人は難なく躱した。

 

「あァ!?」

 

 先ほどまでとは明らかに違う来人の動きに、タイタモンは声を荒げる。が、戦闘を放棄することはしない。向かってくる来人を、その骨刀を振り抜くことで迎撃する――甲高い音が辺りに響き渡った。まるで、剣と剣がぶつかりあった様な、そんな音が。

 見れば、タイタモンは来人と鍔迫り合いをしていた。来人が持つ、見えない剣と。

 

「テメェ……」

「復讐する気満々なところ悪いけど……()には負けられぬ理由がある! 勝たせてもらう」

「ふざけたこと……言ッてんじャねェ! そんなもんで勝てたら苦労しねェんだよォ!」

 

 剣を打ち合わせながら、タイタモンは決着を急ぐ。

 場の流れを読むのも、強者と戦う上で重要なことだ。戦いに生きるタイタモンは、相手が神々という強者だったこともあって、その能力に長けざるを得なかった。

 一種の勘だ。来人のような天然物ではない、経験からくるもの。

 そんな勘を持つ彼は、焦っていた。決定的な勝ち筋を見逃した気がしていたのだ。まるで重なり合った線が、それまでの筋をずらしてしまったかのようだった。

 

「ふざけたことかもしれぬ。でも……負けられない俺の想いも、負けられぬ我の想いも、ちゃんと“ここ”にある」

「っ」

 

 その時、タイタモンにもようやく見えた。いや、見えるようになった。見えない剣の真の姿――まるで曇天に奔る雷の現われのような、雷纏う漆黒の大剣の姿を。

 

()はお前に勝つ。帰る場所があるのでな。理不尽に奪われてたまるものか……! ()の未来を!」

「……ッ! テメェが……テメェらが、俺様の居場所を理不尽な力で奪ッて行きやがッたテメェが言ッてんじャねェぞォ!」

「それでも、だ!」

 

 剣を構えて、雷が落ちる。

 再度、来人は進化する。いや、来人とカミサマは進化する。ユピテルモンの――究極のその先に至る。

 その神は雷を纏って現れた。

 天空の神の、憤怒のような荒天を司る真なる姿。雷の鎧を身に纏い、剣で武装した武勇神としての姿。罪人に罰を与える裁判官としての姿ではなく、敵を打ち倒す戦神としての姿――激怒した神のように荒々しいその姿こそ、ユピテルモン:ラースモードと呼ばれる姿だった。

 

「はァ!? そんなの知らねェぞ! そんなの……!」

「それはそうだろうな。ホメロスによって()のこの姿は想定されていたとはいえ、今の今まで一度もこの姿になったことはない」

 

 このラースモードは、ユピテルモンの戦神としての姿。主神が本当の意味で戦わなければならない場面など、早々あるものではないし、あってはならないものだった。それこそ、いつか来るであろう世界の終末くらいだ。

 つまり、ユピテルモン:ラースモードとは、いつか来るかもしれない世界を賭けた最終決戦の時のみに現れるだろう姿なのだ。

 普通ならば、こんなところで現れる形態ではない。

 

「ついでに言えば、()のこの姿は()だけではたどり着けなかった。()がいたからこそ、()はこの姿に至れたのだ」

 

 そんなラースモードにユピテルモンが進化できた。その理由、そこには来人の存在があったからだ。

 カミサマとしてのユピテルモンでは、きっとダメだった。来人としてのユピテルモンでも、ダメだった。他の代のユピテルモンでもダメだろう。

 来人という異物がカミサマと同一化することで、ユピテルモンという存在そのものに異常を起こし、ラースモードを引き起こした。

 ようは有り得ない事態によるバグである。

 

「しかし、所詮はひと時の誤り……時間もなさそうだ。さっさと片すに悪いことはないか」

「ッち! 調子に乗ッてんじャねェ!」

 

 ラースモードとなったユピテルモンめがけて、タイタモンは骨刀を振るう。全く同時に、ユピテルモンもその剣を振るった。

 

「ッグゥうううう!」

「はぁあああああ!」

 

 両者ともに、その手に持つ獲物をただただ振るう。相手の命を刈り取るために、相手の想いを打ち砕くために。

 そこに戦略も戦術も策略もなかった。ことこの場に及んで、敵を真正面から打ち破ることだけが、互いの道となってしまっていた。

 剣と刀がぶつかり合うたび、世界が悲鳴を上げる。軋みを上げる世界だが、両者ともに気にする余裕はない。彼らはわかっているのだ。些事を気にした時点で負けるのは自分である、と。

 

「死にやがれェ!」

 

 タイタモンは骨刀を振るう。憎しみと怒りを込めて。

 

「死なぬ!」

 

 ユピテルモンは剣を振るう。自らの居場所に帰るために。

 永劫にも続くかと錯覚してしまう、刹那のぶつかり合い。だが、終焉は着実に近づいてきている。

 

「これでェ……! “幻刃――」

 

 タイタモンは構え、狙う。いつまでも天上に座す忌々しい神話を打ち崩すために、己の存在を証明するかのような想いを込めて。

 

()は……! 勝つんだよッ!」

 

 ユピテルモンは剣を振りかぶる。来人として、カミサマとしての想いを込めて、ただ明日を迎えるために。

 

「ハァッ!」

「――無痕”!」

 

 放たれた一撃。振り抜かれた一撃。

 何度目になるかもわからない、だが、今まで以上に鋭く鋭い一撃の下、剣と刀はぶつかり合う。

 

「ぁああああああああああああああああああ!」

「ォォおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 凄まじい衝撃と圧力が世界に負担を強いる。両者は力の限り、その手に持つものに力を込め続けた。

 そして。

 

「いっけぇえええええええええええええええ!」

「っ!」

 

 折れたのは、刀の方だった。

 

「ちッくしョうめ……」

 

 タイタモンはその結果を、ただ受け入れた。苦しみにも似た諦めと、その身を焦がすような反抗心が溢れ出る。だが、そのどれもを口にする間もなく――。

 

「ハァっ!」

 

 ――二撃目、雷の如く振り抜かれた剣に切り裂かれた。

 その身に走る痛みを感じ、自らの意思に反して身体が倒れていく感覚を覚えながら、タイタモンは忌々しげに目の前に立つ存在を睨んでいた。

 そんな今際の際にあって、彼の心境に去来する思いは複雑で、走馬灯と呼ばれる現象さえも同時に思い起こしていた。

 

「くそゥが……」

 

 かつても今も、やはり自分は奴らに負けるのだ、と。

 仲間と共に立ち向かったかつての日、オリンポス十二神に殲滅されたあの日。かつて生き残ってしまった自分も、ようやく死ねるのだ。仲間と共に死に倒れた後、戦いが終わった中で、一人だけ目を覚ましてしまったあの絶望の記憶もようやく消えるのだ。

 一度は勝てたというのに。かつて、復讐に燃え、ユピテルモンを殺した。代替わりというシステムがあると知り、殺した相手が復活したのを知った時、復讐の火が消えそうになった。

 さまざまな思いと記憶が、混じり合った絵の具のようにぐちゃぐちゃとなって、彼の薄れていく意識を染め上げる。

 

「……終わったな」

『うむ』

 

 目の前でアイギオモンに退化し、安堵の息を吐いている来人たちの姿を見て、彼らはまだ未来を生きるのだと理解して――その瞬間、消えかかっていた意識が甦る。タイタモンは再び燃え上がった意識でもって、自らを叱咤する。

 やっと死ねるなんて、安心してるんじャねェよ。そんな風に、迫り来る死を前に勝手に諦めそうになっていた自らを叩き起こし、限界を振り絞る。

 

『なっ!』

「コイツ、まだ……!」

 

 例えここで死ぬ定めだとしても。己が抱いた復讐心は最後まで手放さない。憎しみと怒りのままに、タイタモンは折れた骨刀を振り上げる。折れたとはいえ、アイギオモンにまで退化した来人たちならば、倒すことは造作もない。

 

「っ」

『く……!』

 

 もはや、今の来人たちに進化する隙はない。彼らは次の瞬間に来るであろう攻撃に耐えられるように、身構えることしかできない――。

 

「……?」

『む?』

 

 ――だが、いつまで経っても衝撃は来なかった。攻撃が振るわれてくる様子はなかった。

 来人たちはそっとタイタモンの様子を伺う。先ほどと変わらず、折れた骨刀を振り上げたままの姿がそこにはあって、いや。

 

「コイツ、死んでる……?」

 

 もう、タイタモンは死んでいた。よく見れば、その身体は端から光となって消えていっている。

 死して倒れることを良しとせず、最後まで復讐を遂げることを選び、結果、立ったまま死んだのだ。

 

『敵ながら凄まじい執念だ』

 

 消え行くその姿を前に、感嘆したようなカミサマの声が辺りに響いたのだった。

 




というわけで、第九十五話。

タイタモン戦(後半)にして、ラースモードの登場回。
ラースモードについては、情報としてはあるけど、本来は出ないはずもの。
けど、異物のせいで出ちゃったという――まるっきり、ゲームのチートと同じですね。
口調については、いつかの頭おかしい主人公と似たような感じで、主人公とカミサマを合わせている感じです。ついでに、一人称が()()の二つあります。
これは仕様ですので、作者の書き間違いとかではありません。

あ、ラースモードは既出のくせに詳しい設定が未だ出ていないので、オリジナル設定です。
ご了承ください。よろしくお願いします。

さて、次回。
休む間もなく、主人公が走ります。
それでは次回もよろしくお願いします。
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