【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~   作:行方不明

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第九十六話~急ぎ走って遅れを知る~

 戦いが終わって、来人は地面に座り込んだ。そのまま少しだけ、本当に少しだけ目を閉じて休む。

 まだ終わっていない。アミたちの方へと行かなければならない。少しだけの休憩で身体を休めた来人は走り出した。秋葉原にいるだろう、アミの下へと。

 

『行くのだろう?』

「ああ」

『無理はするな。今日はかなりの無理をしている。あやつを倒したことで幻刃無痕の効果は切れたとはいえ、その痛みが完全に消えるまではまだ時間がかかる。これ以上はユピテルモンになれぬと考えた方がよい』

「それでも、だ!」

 

 多少の不利は承知の上だ。それでも、行かなければならない。嫌な予感が来人を突き動かしていた。

 

「もしかしたらすぐ戦闘になるかもしれない! 気を抜くなよ!」

『……それは我のセリフなのだがな』

 

 ビルの上を飛び越え、道のりを大幅にショートカットし、来人は秋葉原にたどり着く。見れば、先ほどの場所のデジタルシフトが収まっている。

 これは、もしかしたら。そんな、一抹の期待を抱く。自分の覚えた嫌な予感が間違いであったという淡い期待を抱きながら、来人はそこへ行く。

 そこには悠子がいた。悠子だけがいた。

 来人はビルの上から飛び降り、彼女の前へと着地する。

 

「悠子!」

「あっ、アミさんの……えっと、来人さん?」

「ああ、その来人だ。アミは!?」

 

 アミの姿が見えない。一体どうしたのか。ますます強くなる嫌な予感を振り払うように、来人は悠子に尋ねる。対して、悠子は俯くだけだった。

 不吉なその仕草に、来人の中の不安が大きくなる。やめろ、そんな――心中で叫ぶが、現実は残酷だった。

 

「私にもわかりません……これだけがここに」

 

 悠子が見せたのは、アミのデジヴァイスだった。アミ本人は行方不明ということで――来人は呆然とするしかなかった。

 自分がもっと早くタイタモンを倒し、駆けつけられていたら。そう後悔するも、遅かった。

 

「一旦、暮海探偵事務所に戻りましょう。杏子さんなら、何かわかるかもしれません」

 

 今の異常事態を杏子に連絡し、悠子は暮海探偵事務所に帰ることを提案した。

 

「……ああ、そうだな」

 

 動揺そのままに、来人は悠子の提案に頷く。

 焦りのままに、来人と悠子の二人は暮海探偵事務所へ向けて走り出した――のだが、悠子は人間だ。その速度などたかが知れている。

 全速力で必死に走っている彼女の気持ちには共感できるが、これ以上の速度を出せる来人にとって、この人間並の速度で走るというのは焦れったいことこの上なかった。だが、来人だけ先に行っても意味がない。共に行動していた悠子の証言も必要だからだ。

 

「遅い」

 

 だから。

 

「え……?」

 

 だから。

 

「さっさと行くぞ!」

 

 だから、来人は悠子を抱えて走り出す。通行人や警官たちに足止めさせられる可能性のある地上はやはり時間のロスになる。だから、先ほどと同じようにビルの上を行く。

 

「ちょ……きゃぁああああ!」

 

 普通の人間である悠子は悲鳴を上げることしかできなかった。

 来人に抱えられているという特性上、それは安全バーのない絶叫系アトラクションに乗っているようなもの。悠子は必死で彼にしがみつく。

 ちなみに、これに関係あるかどうかは定かではないが、今日この日にビルの上で悲鳴を上げる女という都市伝説が生まれることとなったが、それはほんの余談である。

 

「きゃぁああああああああ!」

「うるさい! もう少しで着くから我慢しろ」

「そそそ、そんなことを言われましても……ひっ!」

『……やれやれ』

 

 ともあれ、デジモンである来人基準の速度で進んでいるだけあって、大幅に時間を短縮して暮海探偵事務所に到着することができた。

 それもこれも、悠子という尊い犠牲のおかげである。

 

「……」

「なんだよ? 早く着いたんだからいいだろうが」

「いえ、アミさんから聞きましたけど……元は人間なんですよね?」

「そうだけど?」

「これはれっきとしたセクハラです。元に戻ったら覚悟しておいてください。絶対に忘れません……!」

 

 怨嗟の篭った声で言う辺り、よほど怖かったのだろう。そんな悠子の姿に、来人は少しだけ怖気を感じたのだった。

 

「と、ともあれさっさと行くぞ!」

「……」

 

 不機嫌な悠子と共に、来人は暮海探偵事務所の中へと入る。そこには険しい顔をした杏子と――なぜかノキアがいた。

 

「君たちに異常を探知して、彼女の力もいるかもしれないと呼んでおいた」

 

 どうやら、前もって杏子がいろいろと手を回していてくれたらしい。その次に対する準備の周到さはさすがと言うべきか、来人と悠子は感心した。

 

「このスーパーガールノキア様が助けに来たよっ! ……っていっても、そのうち帰ってくるっしょ? 前も似たようなことあったしぃ? そーいう属性キャラなんですよぉ!」

「だが、今回の件は前回とは少し違う」

 

 そう言った杏子の険しい表情に、ようやくノキアも大変なことが起こっていると察したようだった。彼女のその表情が僅かに不安で曇る。

 

「それで、私としても詳しい情報を知りたい。何があった?」

「はい! えっと――」

 

 杏子の言葉に促されて、悠子は話し始めた。

 ロードナイトモンを発見し、話を聞いたこと、戦闘したことを。不自然なほど弱かったロードナイトモンを倒した瞬間、気づけばあの場所にいて、アミの姿が消えていたこと。

 アミのデジヴァイスを受け取った杏子は、何やらパソコンを弄りながら、その話を聞いていた。

 

「ロードナイトモンの狡猾な罠に嵌められてしまったと見るべきだろうな。ロードナイトモンはあらゆる権謀術数を使って君たちを排除しようとしている。それは君たちのことを脅威だと断定したからに他ならない」

『いよいよ本腰を入れ始めたということだな。とはいえ、遅すぎるくらいだ。ここまで見逃されてきたのは、僥倖と言うレベルでしかない』

「オリンポスの主神の言う――」

『……我のことはカミサマと呼べ』

「――ふふっ。まあ、カミサマの言う通りだ。ここからはさらに厳しくなる。我が助手を一刻も早く助けなければならない」

 

 焦る気持ちを抑えようとして盛大に失敗した来人は、そんな彼女たちのやりとりに僅かな苛立ちを抱く。早くアミを助けに行きたい手前、焦りは余計に募っていたのだ。

 

『ふむ。落ち着け。助けられるものも助けられなくなるぞ』

「……わかってるよ」

 

 そんな来人の様子に気づいているのだろう。カミサマは努めて穏やかに来人に語りかける。

 言われなくとも、わかっている。そう言いたいかのように、来人は努めて平静を保った。まあ、そんな平静も後少ししか保ちそうになかった。

 

「……よし、割り出せた。デジヴァイスのログデータから、助手の今の位置を割り出した」

「……!」

「み、見つかったんですか! どどどここ!? どこですか!」

 

 ノキアが杏子に詰め寄る。いや、ノキアだけではなく、来人も悠子も自然と杏子に近づいていた。

 

「我々もよく知った場所……かつてEDENのバージョンアップ体験会で使用されたエリア。そこでログは途絶えている」

「あのエリアはイーターの襲撃以降封鎖されて……! 今は放置状態になっています」

 

 来人は首を傾げる。

 バージョンアップ体験会というと、未だ来人がアミと合流していなかった頃にあったイベントだ。ノキアのアグモンとガブモンがそれぞれウォーグレイモンとメタルガルルモンに進化したその少し前にあったイベントで――あの頃は情報に乏しかったために、彼は知ることもできなかった。

 

「調べてみたところ、あそこのエリアのデジタルウェイブは桁違いに多い。ロイヤルナイツたちがアジトとし、力を蓄えるにはうってつけの場所だろう」

「私たちは秋葉原にいたのに……別エリアに移された? 私は気づけなかった……!」

「それだけ相手の罠が巧妙だったんだ。悔やむな、と言っても無駄か。ならば行動あるのみ。だろう?」

 

 杏子はそう言って後悔に苛まれる悠子を慰める。その視線の先には、準備万端といった様子の来人があって――悠子も、顔を叩いて気を取り直す。後悔している場合ではない、と。

 

「では、このデジヴァイスを……白峰ノキア、君に託そう。助手を見つけたら即座に手渡して欲しい。いや、その道中でさえ助手のデジモンたちの力が必要になるかもしれない」

「えっ!? あ、あたし!?」

 

 いきなり名指しでデジヴァイスを渡されたノキアは戸惑うしかなかった。なぜ自分なのか、混乱のままに彼女は杏子を見る。 

 

「君はデジモンたちからの信頼が厚い。君ならば、助手のデジモンたちも力を貸してくれるだろう。ログインの関係で慣れ親しんだオメガモンを共に連れて行けないのは辛いだろうが……」

 

 それが理由だった。

 杏子は知っていたのだ。デジモンたちに懐かれるノキアのことを、デジモンたちのために奔走するノキアのことを。だから、彼女はノキアにデジヴァイスを託したのだ。

 そして、そう言われてしまえば、ノキアに断ることなどできるはずもなかった。

 

「わ、わっかりましたぁ! そう言われちゃ、断るわけにいっきません! この白峰ノキア、ヒトハダもフタハダも脱ぎますとも! ヌギヌギしちゃいますとも!」

「ノキアさん! 私も行きます!」

 

 アミの救出にやる気を出すノキアを前に、悠子も声を上げる。彼女もアミを助けたいという気持ちは同じだった。

 

「おっ? 悠子っちもヌギヌギしちゃう感じ? JK二人でポロっとヌギヌギしちゃう?」

「えっ、はい……! ヌギヌギしちゃう感じです!」

 

 妙な方向にテンションを上げていくノキアと悠子の二人。彼女たちのその目にはやる気が満ち満ちていて、今にも飛び出しそうなほどだった。

 

『来人……あの娘たちの言うポロっとヌギヌギというのは何なのだ? 何を言っている?』

「戯言だ。気にするな。間違ってもオリンポスの女神たちに漏らすなよ。殺されるぞ。……女神たちの方が」

『む……』

 

 そして、そんな彼女たちと来人は共に行く。

 

「私もポロっとヌギヌギするの意味はわからないが……助手のことを頼んだぞ」

「了解!」

 

 ロードナイトモンの罠に囚われたアミを救い出すために。

 




サイスルアップデートのことを、今更ながらに知った作者です。
ともあれ、第九十六話。

結局、主人公たちは間に合いませんでした。
次回からは追憶編が始まりますね。

それでは次回もよろしくお願いします。
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