【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~ 作:行方不明
勇吾との会合も終わり、来人たちの目の前にあるのは空間の亀裂だけとなった。
「あ、悠子っち……さっき、今度は悠子っちが勇吾くんのところに行くって言ってたけどぉ」
「はい?」
「そのときは、あたしも一緒だからね? もちろん、アミも……おバカなアラタも! あたしたち友達みんなで勇吾くんを助けに行こう!」
「っ……はい!」
ノキアの言葉に、悠子は嬉しそうに頷いた。
そして、二人は覚悟を決めたのだろう。頷き合って、同時に空間の亀裂に飛び込んだ――。
「アイツら、絶対に俺のこと忘れてたよな……!」
――来人のことをすっかりと忘れて。
忘れられた来人は走る。いきなり亀裂に飛び込んだものだから、出遅れてしまった。
置いていかれないために、勇吾との約束を守るためにも、来人は必死に走った。
だが、その瞬間のこと。必死に走る彼の目の前でのことだった。
「なっ!」
『これは……!』
彼の目の前に現れたのは、何体ものイーターたちだった。その様子は、まるで来人を行かせないようにしているかのよう。
いや、先ほどの勇吾の言葉からして、こうなることは必然だったかもしれない。
「っち。さっさと片付けるしかないな……!」
『急ぐぞ!』
「おう!」
彼女たちとアミの下へと向かわなければならないのだ。
少しでも急ぐために、来人は進化する――アイギオテュースモン:ホーリーへと。すぐさま、来人はイーターたちめがけて飛びかかった。
そして、そんな来人の一方で――。
「ここは……?」
「もしかして、ここが……!」
――ノキアと悠子の二人は、森林の中にいた。
森林の中だといっても、その大きさは人間世界のものとは桁違いだ。特に周りに生えている木々は、悠子とノキアの両腕を合わせても足りないほどに太い。
そんな、ともすれば異常な森の中。ここがデジタルワールドであると理解するのは、当然の帰結だった。
「とっても綺麗なところ……」
「だね」
その人間世界とは根本的に違う世界の光景に、ノキアたちは圧倒される。
それは先に来た幼い頃のノキアたちも同じようで、見れば、先にあの亀裂に入ったはずの幼い子供たちがそこにいた。
だが、そんな彼らはすぐにこの世界の壮大さに惹かれたようだった。彼らは小さな、本当に小さな冒険をする。
「おーい! 見てみろよ! 変な生き物いるぞー!」
「変じゃないよ! 可愛いよー」
「本当だ。でも、この生き物たちは一体……?」
その辺にいた、小さなデジモンたちと遊んだり。
「君だれー?」
「あたしはしらみねのきあって言うの、えっへん! 君たちこそだれ?」
「僕はアグモン!」
「お、オレはガブモン……」
小さなデジモンに混じって現れたアグモンとガブモンと幼いノキアが友達になっていたりしていた。
「あたしとアグモンとガブモン……出会ってたんだね」その光景を見ていたノキアは再会できたことを感動するように、思い出せなかったことを悔いるように、呟いていた。
「あはははは!」
「あははっ!」
「ははは!」
誰もが楽しそうにしていた。デジモンたちも、子供たちも。
この時間が永遠に続けば良いとさえ思える時間だった。
「……楽しい時間ですね」
「そうだね」
そんな穏やかな光景に、ノキアと悠子は静かに微笑む。この時間は永遠には続けばよかったのに。彼女たちは心のどこかでわかっていた。この先に起こることを。
「そろそろ帰らねーと、大人が心配するよなぁ」
穏やかで楽しい時間は終わりを告げた。幼いアラタが言い出したのだ。時間だから、帰らなければならない、と。
当然、アミたちも渋る。が、最終的には全員が納得していた。遊びの時間はいつか終わる。そのことは子供ながらに、いや、子供だからこそ全員が知っていた。
「うん、またね……?」
「――――!」
バイバイと手を振る子供たちと離れたくないとばかりに、デジモンたちは飛びついた。まるで彼らと離れたくないかのようで、子供たちも別れるのが辛くなる。
「大丈夫、また会えるよ! だって、私たち友達でしょ!」
幼いアミが微笑んでデジモンたちに語りかける。彼女にとりわけて懐いていた四体の小さなデジモンたちは、その言葉に納得したようで、本当に渋々と離れた。
そんな四体のデジモンたちの行動に、他のデジモンたちも渋々と付き従う。その中にはアグモンとガブモンの姿もあって、彼らの目は一様に涙ぐんでいた。
「それじゃ、帰――」
離れていくデジモンたちを見送って、子供たちは空間の亀裂から元の場所へと戻ろうとする。戻ろうとして、気づく。何かが、亀裂から出てこようとしていることに。
「離れろっ!」
幼い勇吾が叫ぶ。
瞬間、亀裂から現れたのは白と黒――イーターだった。
「危ないっ!」
それは咄嗟の行動だった。出口に最も近かったアラタを勇吾が突き飛ばす。
突き飛ばされたアラタが次に見た光景、それは幼い勇吾がイーターに襲われそうになっている光景――。
「アラタ……皆のことは任せた……」
――そんな中で、勇吾は恐怖に歪んだままに呟いた。
「っ、うわぁああああああああ!」
「お、お兄ちゃんんんんんんん!」
地獄だった。目の前で、友達が正体不明の怪物に食われるその様は。
あらゆる感情が子供たちの中に湧き上がる。助けなければ、よくも勇吾を、怖い、逃げたい。さまざまに湧き上がった感情の中がせめぎ合う。
「くそっ、あきらめろ! 勇吾はもうダメだ。おれたちまでやられちまう! 逃げるんだよぉ!」
アラタのその言葉は、勇吾の最後の言葉を彼なりに実現しようとした結果だろう。自分の口にしたことの恐ろしさに震えながら、彼は最も大きな決断をした。
そして、その言葉に押されて、子供たちの中に湧き上がってせめぎ合っていた感情の中で、恐怖がひときわ大きなものとなる。
「うわぁあああああああああああん!」
「わぁあああああああああああああ!」
そうして、子供たちは亀裂から元の世界へと逃げ出した。
友人を見捨てたという、大きな傷を負って。
「これが……あたしたちが忘れていた過去?」
「お兄ちゃん……!」
端からその様子を見ていた悠子とノキアは、苦しそうに呟いた。自分たちのしたことが恐ろしかった。勇吾を見捨てたこと、自分たちがイーターをデジタルワールドへと導いたこと――そのすべてが。
同じことを、きっとアラタも思い出しているのだろう。今なら、彼女たちにもアラタの気持ちが少しだけ理解できた。
「己が大罪を思い出したか」
その時だ。罪悪感に震えるノキアたちの耳に届いたのは、あの声だった。ロードナイトモンの、あの声だ。
「記憶の封印をわざわざ解いてやったのだ。思い出し、罪悪感に苛まれてもらわなければ甲斐がない」
「っ!」
「……ぅ」
「貴様らは不用意に我々の世界を訪れ、イーターを呼び込み、あまつさえ
ロードナイトモンの一声一声が断罪の鎌のように、ノキアたちの心を深く傷つける。ノキアたちは何も言えなかった。彼の言うことの何もかもが事実だとわかっているからだ。
「怯えろ……絶望しろ! 己が大罪の大きさを知り、その罪悪感に苛まれながら、この世から消えろ……! フッフッフ……アッハッハッハ!」
次の瞬間、ノキアたちのいる場所が変わる。
デジタルワールドの森林地帯から、禍々しいほどの空気が蔓延する巨大な空間に。
目の前には狂気に顔を歪めるロードナイトモンが立っていて、場所の変化についていけていないノキアたちを嘲笑っている。
それだけではない。
「えっ、なになに!? ここどこって、アミ!?」
「っ、アミさん……!」
アミも近くに倒れていた。だが、意識は失っていないようだ。ぐったりと地面に倒れ込んでいるものの、立ち上がろうと手足に力を込めて四苦八苦している。
まあ、盛大に失敗してまた倒れ込んでいるが。
「ふん。これで終わり……っ、誰だ!」
そんな時のことだ。それまで余裕だったロードナイトモンが突如として声を荒げる。そこには驚愕だけがあった。
まあ、それはそうだろう。ここの空間は過去を再現し、訪れたものを閉じ込め、そしてアミたちを片付けるためだけに拵えた特別性の空間だ。
実に閉鎖的なこの世界に、“何者か”が平然と
次の瞬間、驚愕に震えるままのロードナイトモンの前で、アミは何者かによって助け起こされた。
「ったく、あんまり心配かけさせないでくれよ」
突然の出来事だったが、自分を助け起こしてくれた者が誰なのか、アミにはもうわかっていた。
「ごめん……来人」
そこにいたのは未だアイギオテュースモン:ホーリーのままの、来人だった。
アミは安心したように来人に身を寄せる。
来人はそんな彼女の様子に苦笑して返した。いつものことだ、気にするな、と。
「貴様……オリンポスの主神ッ! どうやってここに来た!」
声を荒げるのはロードナイトモンだ。侵入されるとは思っていなかったのだろう。それだけに、彼にあった余裕が僅かに失せているのだ。
「って、あー! そういえば、そうじゃん! あんた今までどこに行ってたの!」
「私たちは大変だったんですよ? どこで油を売っていたのですか?」
悠子とノキアの二人は来人に抗議の声を上げた。今の今まで彼の存在を忘れていたからこそ、二人は彼がいつの間にかいなくなっていたように見えていた。
「……忘れて行きやがってそれはないだろ」
そう言って呆れた様子を見せる来人だが、呆れている間もないのはロードナイトモンの方だった。
「答えろ、貴様はどうやってここに来た」
「ん? ああ、俺たちだけじゃキツかったけどさ。そこは、ほれ。手伝ってもらった」
「手伝ってもらった、だと?」
「そうそう。この人にな。それでここまでの道を開いた。ってか、道理で違和感があると思ったんだよ……」
疲れたように呟く来人に、アミたちは首を傾げるしかなく、ロードナイトモンも彼の濁したような言い方に苛立つ。
だが、それはその瞬間のことだった。
「せっかくの出番だ。私としては出オチ怪談というものをやってみたかったのだが……何とも面白みのない。あっさりバラしてくれたな」
今までどうやって隠れていたというのか。
突如として、漆黒の聖騎士がこの場に現れた。漆黒と金を基調として丸みを帯びた鎧に、白のマント。正しく聖騎士と呼べる姿がそこに現れたのだ。
というわけで、第九十八話でした。
次回は黒い聖騎士(謎)とロードナイトモンが戦います。
それでは次回もよろしくお願いします。