【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~   作:行方不明

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第九十九話~黒い聖騎士の力~

 突如として現れた漆黒の聖騎士だ。誰もが驚いている。驚いていないのは、来人とカミサマだけだった。

 

「出オチ怪談ってなんだよ」

「フ。お前の後ろだァァァ、という奴だ」

「そんなのはユノモンだけで十分だ」

『おい、来人。我の妻を怪談扱いするのか?』

「似たようなもんだろ」

『……ノーコメントだ』

 

 その様には、アミたちも唖然とする。彼はこの騎士と知り合いなのか、この騎士は誰なのか、聞きたいことがたくさんあった。

 だが、彼女たちがそのどれかを聞く前に、先回りして漆黒の騎士は口を開く。

 

「私のことがわからないか? やれやれ、そんなことでは今日のコーヒーはお預けだぞ」

「……え?」

「はい……?」

「ぇええええええええええええ!」

 

 その言葉は、アミたちにとって驚愕の一言だった。コーヒーとは、まさか。

 

「ままま、さか!? ほほほ、本当に杏子さん!?」

「ふむ、私オリジナルブレンドコーヒー……牡蠣と胡麻の記憶力増強ブレンドを飲ませないといけないようだ」

「うぇっ!?」

 

 ああ、このノリは間違いなく杏子だ。アミたちは諦めと共に納得した。

 まさか、コーヒーがここまで身分証明になるとは。というか、これのせいで杏子がデジモンであったというインパクトが薄れている。なぜか、アミたちは奇妙な疲労感を覚えた。

 だが、そんなアミたちの一方で――。

 

「っち。どいつもこいつも我らの邪魔をするッ……!」

 

 ――苛立ったままのロードナイトモンが叫んだ。その視線の先には来人と黒い聖騎士がいた。

 特に黒い聖騎士だ。会話の最中にも警戒を怠らず、さらには自分に攻撃させなかった。それだけの強さを持った黒い聖騎士の姿に、ロードナイトモンは苦い顔をするしかなかったのだ。

 

「その人間どもはデジタルワールドを崩壊させる害虫だぞ!」

「そんなことは知っている。私もまた人間の肉体の中で人間に沿って生きてきた。お前と同じように。故に、私は問う。人間は真に粛清されるべき存在なのか、と」

「何――ック、ハハハハ! 何を言い出すかと思えば! 問うた結果が、“それ”か!? そちらの側に立つことを選んだのか?」

 

 アミたちを守るように立つ黒い聖騎士、そして来人――いや、カミサマの姿にロードナイトモンは嘲りを持って言う。お前たちの考えは間違っている、と。

 

「人間など世界を汚す害虫でしかない! 見ろ! 奴らは我々の世界だけではない、自ら住まう世界ですら汚す! 私の肉となっていた女も、操られていた大衆たちも! すべからく醜く愚かな害物だ!」

「確かに、人間は時には選択を間違え、愚かしい行動をとり、過ちを犯す。しかし、それは我らとて同じ――物事は多面的だ。お前には人間の一面しか見えなかったとでも?」

「貴様……デジモンと人間が同じ? どうやら貴様の思考は狂っているな!」

 

 自分たちデジモンと、世界の害悪である人間と。両者を同じとされて、ロードナイトモンは怒りを発する。

 その怒気はアミたちを固まらせるほど凄まじいものだったが――そんな彼の怒気を、黒い聖騎士は柳のように受け流した。

 

「フン。人間に共感できることなど、弱者をいたぶる優越感のみ! それだけが私の肉となっていた女の中で、特別に美しい感情だった!」

「やれやれ……誇り高きロイヤルナイツの言葉とは思えないな」

「ほざけ。貴様がロイヤルナイツの何を知っている!」

「……わからない。だからこそ、問い続けている。私がこの姿に至った時、あの死のバケモノを超えた時、それからずっと」

 

 遥か昔の激動を思い出していたのだろうか。一瞬だけ、黒い聖騎士はここではないどこか遠くを見つめて――すぐにその視線は今に戻された。

 

「結局のところ、我々が人間と同じなのではない――貴様が人間と同じなのだ。無知蒙昧の存在だ! 来い、私が粛清してやる……!」

「やはり戦うしかない、か。いいだろう……幼馴染くん、皆を頼むぞ」

 

 黒い聖騎士は来人に向けて呟く。

 本当ならば、聖騎士はアミと共に戦うつもりだった。ずっと近くで見守ってきた身として、アミと共に戦うのが不謹慎ながらも楽しみであったのだ。だが、そんな考えは実現できなかった。

 予想以上にアミの消耗が大きく、彼女を戦いの場に出すのは危険と判断したのである。

 

「……ああ、任せとけ」

 

 黒い聖騎士の言葉に、来人はしっかりと頷いた。

 頷き返し、黒い聖騎士は駆けた。同時に、ロードナイトモンも駆け出す。

 

「ハァッ!」

「ふ!」

 

 そして、交差する。

 両者ともに、軽い調子見程度の攻撃だった。だが、その交差だけでロードナイトモンは気づく。目の前の黒い聖騎士の実力を。目の前の敵は、自分たち(ロイヤルナイツ)と同じレベルにいる、と。

 

「っく、貴様は一体!?」

「ふっ、ただのしがない探偵さ。コーヒー好きのね」

「戯言を――!」

 

 振るわれたロードナイトモンの帯刃が、黒い聖騎士めがけて突き進む。

 

「ハァッ!」

 

 だが、その帯刃が黒い聖騎士に突き刺さることはなかった。

 黒い聖騎士が突き出した拳、その前に展開する半透明の円形の陣――魔法陣とも呼べるソレに、その進行を止められたのだ。

 まさか本気で打ち込んだ自らの技があっさりと防がれるとは、ロードナイトモンもさすがに思っていなかった。その一瞬に、隙ができる。

 

「“聖剣グレイダルファー”!」

 

 魔法陣から放たれたのは、光。いや、光としか見えないような輝かしい剣。それが隙を見せたロードナイトモンめがけて突き進む。

 

「ッ! 舐めるな!」

 

 だが、隙の一つでやられるようならばロイヤルナイツは名乗れない。ロードナイトモンは無理矢理に身体を動かし、その場の離脱を試みた。直後、鋭い痛みが彼の左腕を襲う。

 

「っち。左腕を持って行かれたか……!」

「さすがはロイヤルナイツ。今のを躱すか……だが、そろそろ終わらせてもらおう。私は生存ならともかくとして戦闘が不得意でね。助手に任せていたもので荒事はなかなか」

「っ。ふざけるなっ!」

 

 ふざけているととれる黒い聖騎士の言葉に、ロードナイトモンが苛立ったように叫ぶ。その手の構え、力の溜め具合――黒い聖騎士にはわかった。彼が何をしようとしているのか。

 だが、彼が何かをする前に。

 

「済まないが終わりだ。“アルファ・イン・フォース”」

 

 黒い聖騎士が戦いを終わらせる。

 

「な、に……?」

 

 直後、ロードナイトモンは地に伏す。何が起こったのかさえ理解できずに。

 この場で理解できていたのは黒い聖騎士だけだった。来人も、アミたちも、カミサマですら――今の瞬間に何が起こったのかを理解できなかった。

 

「っく……ま、だ……ぐっ!」

 

 一瞬のうちに地に伏すほどのダメージを受けたというのに、未だにロードナイトモンは立ち上がろうとしている。その様子に、黒い聖騎士は感嘆したように呟いた。さすがはロイヤルナイツか、と。

 

「なぜだ……」

 

 やがて、立ち上がることもできないということを悟ったのだろう。ロードナイトモンは静かに黒い聖騎士を睨んだ。

 

「なぜだ……なぜ貴様ほどのデジモンが我らに敵対する。なぜ貴様たちが勝ち残る……! それがイグドラシルの意志だとでも言うのか?」

「そう信じたから、私はここにいる」

「クハハハハッ……ならば、我々のしてきたことは……一体何だったというのだ。道化を演じてしまった我々ロイヤルナイツは一体何だというのだ」

「……答えてもらおう。ドゥフトモンは何を企んでいる」

「フン……いいだろう。何やら気分が良い。教えてやる。奴は――」

 

 そして、ロードナイトモンは語り出す。ドゥフトモンの計画を。

 この世界に渦巻くすべてのデジタル的エネルギーを一挙に集中させ、本来の力を遥かに超える強大な力を得ることで、人間世界をイーター共々滅ぼすつもりだと。

 

「……人間との融合は……私には悪影響のみがあったようだ。貴様と私は何が違ったのだろうな? もしかしたら、私もそちら側にいたのかもしれぬ。それはそれで、立腹だが……」

「そうか。“聖剣――」

 

 嘘は言っていない。そのことを理解した黒い聖騎士は再び魔法陣を作り出す。トドメを刺す気だった。魔法陣から強烈に放たれる光が、ロードナイトモンを狙って――。

 

「待ってください!」

 

 ――それを止めたのは、悠子だった。その目には強い意志が込められていて、だからだろう。黒い聖騎士が魔法陣を消したのは。

 

「そうだな。これは君の戦いでもあったか。ならば、君の手で終わらせたまえ」

「はい、杏子さん……ありがとうございます」

 

 礼を言って、悠子はデジヴァイスからガイオウモンを出し、共だってロードナイトモンの下へと向かった。

 悠子の心の中を占めていたのはドロドロとした復讐心、ではなかった。それまでの憎しみが嘘のように凪いでいた。

 そんな自分の心の中に疑問を抱きつつ、悠子はロードナイトモンを見る。今までにないほど傷だらけのその姿を。

 

「ロードナイトモン……いえ、リエさん。私、あなたのこと大ッキライでした。けど、好きじゃなかったわけじゃないです」

 

 悠子の口から出たのは、複雑な感情の込められた別れの言葉だった。

 ロードナイトモンはそんな悠子に何を思ったのか――。

 

「……ほんっとうに、メンドウクサイ子。私も、あなたのそういう不幸で可愛らしい生意気なところ……大ッキライでぇ……嫌いじゃなかったわ~」

 

 ――岸部リエとしての言葉を話した。二人の間に、言いようのない沈黙が降りる。

 なぜ自分が最後にこんなことを言ったのか、それは悠子にもロードナイトモンにもわからなかった。

 ただ、きっと。

 

「さようなら。……ガイオウモン、お願いします」

「お別れね~……」

 

 憎しみがあっても、彼女たちの間に多少の“絆”もあったことに変わりなかったのだ。

 

「“燐火斬”!」

 

 放たれた十字の妖しい斬撃。

 ロードナイトモンは抵抗もせずに切り裂かれ、消滅したのだった。

 

「悠子っち……」

「悠子……」

 

 消滅するロードナイトモンを見届けた悠子は俯いたまま黙り込んでいて、アミとノキアは心配の声を上げる。

 

「アミさんも無事だったんですし、とりあえず帰りましょうか」

 

 やがて顔を上げた彼女は微笑みを浮かべていた。だが、明らかに作り笑いだ。というか、泣きそうなまでのその痛々しい笑いでは、誰だって気づく。

 それでも、気づいた上でアミたちは触れなかった。そっとしておくことを選択した。

 そして、そっとしておくことを選んだのならば、痛々しいまでの沈黙の空気をどうにか変え、彼女の苦しみを少しでも和らげなければならない。

 頷き合ったノキアとアミの心は、その瞬間に繋がった。少なくともそのつもりだった。

 

「ってかてかー? いやぁー焼かせますねぇーよっ、ご両人!」

 

 そんな中で、ノキアが選択したのは、他の人をからかうことだった。

 おあつらえ向きとばかりに、いる。ターゲットにしやすい人物たちが。そう、未だアミに肩を貸している来人である。

 だが、悲しいかな。ノキア――彼女は空気が読めない子である。

 

「うんうん、前々から思ってたけどー? やっぱりそういうことなんだネ!」

「おい、そのムカツク喋り方やめろ! あと口を閉じろ! 何か知らないけど余計なこと言いそうな気がするぞ……!」

 

 持ち前の勘で何かを察知した来人が止める。が、遅い。ニンマリと小悪魔のような笑みを浮かべたノキアは止まりそうになかった。

 

「わかってる。わかってますって。全然進展がなさそうな二人のことを、この愛と勇気のノキエモンが何とかしてあげましょう! ね、アミ!」

「え? う、うん……? どういうこと?」

「アミはにっぶいなーもう! つまりだね?」

「ちょ、待――」

 

 来人の制止の声など何のその。ノキアはアミに向かって話しを続ける。

 普段の来人ならばどうとでもできるが、アミに肩を貸している今ではそれもできない。声を上げてノキアを阻む――だが、来人の健闘も虚しく、ノキアは言ってしまう。その一言を。

 

「つまり! そこにいるライトくんには好きな子がいるってこと! よかったネ!」

 

 瞬間、空気が凍った。

 

「……あり?」

 

 なにこれ、思ってたのと違う。ノキアは焦る。

 ノキアの予想では、来人が騒ぐか、もしくは言葉の意味に気づいたアミが顔を赤らめるか、そのどちらかだった。そんな二人を自分がからかって和やかな雰囲気となる、というのがノキアの思惑だった。

 だが、実際には空気が凍っている。

 

『阿呆が……』

「ふむ? さすがはオリンポスの主神……今の状況がわかるのか。やれやれ私の観察眼もまだまだと言わざるを得ないな。地味にショックだよ」

 

 カミサマと黒い聖騎士の阿呆な掛け合いが、不自然なほど空間に響いて溶けて消えた。

 

「へ、へえ……そ、そうなんだー……? あ、来人……もう肩はいいよ? 歩けるから……!」

「お、おい!」

 

 一番動揺収まらないのは、アミだった。半ば無理矢理に来人から離れて、自らの足で歩く。が、先ほどまでのダメージが抜けきっていないのか、フラフラと千鳥足だ。

 その危うさに来人が思わず近づくが、そのたびに彼女は無理して離れようとする。

 

「こ、これ……あたし、余計なことしちゃった感じ?」

 

 引き攣った頬のままにノキアがそう問えば――。

 

「……まず間違いなく」

 

 ――頭を痛そうに抑えて、悠子が頷く。

 ノキアは笑うことしかできなかったのだった。

 まあ、一応、場の空気は変えられたとは言えるだろう。

 




祝! デジモンストーリーサイバースルゥース1周年!
というわけで、普段は投稿しない土曜日に投稿することにしました。第九十九話です。

黒い聖騎士(杏子)がロードナイトモンを圧倒する話でした。
さて、次回は杏子さんの事情説明です。

それでは次回もよろしくお願いします。
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