話進んでなくてごめんね。
あと二、三話で孤島編終了だからね。
覚悟してね。
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タイトルが八話になってたので九話に直しました。
※
海岸での描写を増やしました。
ある物が流れ着いているのと、それに対する反応です。
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誤字修正をしました。多いね。
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水色の瓶→水入りの瓶
「焼き魚がやっと完成したよ。遅いよね?」
「いえ、そんな事ないです」
ネタにマジレス……じゃなかった。
てきとうに口にした言葉に真面目に返してくれる朝潮に微笑みかけて、それから、ちょいちょいと魚を弄って鉄板に張り付いてないかを確認する。……うん、魚の油が上手く働いたみたいで、全然くっついたりしてない。ふわっと香る塩気。焼き魚の良い匂いに、体の中でお腹の虫の鳴く音が小さく反響した。う、と声なく固まり、横目でちらっと朝潮を見る。彼女は、俺の腹の音には気付いていない様子で、木の枝片手に釜戸の火を調節している。
干しておいた魚を、綺麗に洗った木の枝でぐさりと串刺しにしたのを鉄板で焼いた物が、今晩の夕食だ。
温泉で彼女と話し込んでしまったから、すっかり日が暮れてしまった。
夜。
鉄板の下で揺らめいては小さく爆ぜる炎だけが強い光を放ち始める、怖い時間。
夜は苦手だ。電気が無いと先が見えないくらい暗くなるし、知ってるはずの道を見知らぬ道に変えてしまうし、一人だと心細いし、夜闇の中から手が伸びてきそうだし、後ろには誰かついてきていそうだし。
でも、今日は大丈夫だ。
なにせ、朝潮がいるのだから。
「ん……」
バチ、と炎が爆ぜるのに、朝潮がぴくりと反応する。
夕暮れとは違う橙色に顔や体を照らされた彼女は、夜闇の中でいっそう輝いて見える。
人工の明かりが無いこの島で、彼女は俺の希望だった。
名は体を表す、ではないが、朝と名のつく彼女が傍にいてくれる限り、俺に夜の恐怖はないだろう。
なんてポエム染みた事を考えてしまえるくらいには、この数時間で彼女との距離が縮まったと言えるだろう。
狭い温泉で顔つっつきあわせて長々とお喋りしていたんだ、それも当然の事。それに、彼女は聞き上手だ。俺がこの島でやって来た事などを話している間、真剣に耳を傾けてくれたし、適度に相槌を打ってくれたし。拙い話術ではあまり面白くなかっただろうに、それでも、「大変だったのですね」、と共感してくれて、「これからは朝潮が力になります」と言ってくれた彼女に、俺はすっかり魅了されてしまった。
朝潮は今や、俺の中の艦娘お気に入りランキング堂々の一位に輝いている。初遭遇ボーナスを抜きにしてもポイントは高い。
「どうしました?」
「……なーんでも」
じっと見ていたせいか、朝潮が手を止めて俺を見てきた。他にご命令が? と顔に書いてある。なんでもないよと肩を竦めてみせれば、他に何かあればお任せ下さい、と言って、炎の調節に戻った。
積極的に俺に力を貸そうとしてくれるのは嬉しいけど、これじゃ対等な……友人というより、上司と部下だ。たぶん、俺が
それじゃ嫌なんだってば。
でも、結局敬語はやめさせられなかったし……どうすれば同じ立場に立てるのだろう。
あ、いっその事こっちも敬語を使ってしまおうか。彼女がやめろと言えば、やめてくれればこっちもやめる、と言えるし……おお、案外良い案じゃないの。
「そっちはもういいですよ。ご飯にしま――」
「……?」
「……ご飯にしよ」
「はい。配膳はお任せを!」
駄目だった。
何が駄目だったって、まず、敬語で話しかけた瞬間の朝潮の凄く怪訝そうな顔が駄目だった。
あと、個人的に上司でもない対等だと思ってる相手にご丁寧にも敬語を使うのは、シマカゼ的にアウトだった。気持ち悪いというか、絶対馬鹿にしてるでしょ、みたいな気持ちが出てきてしまって、耐えられない。
いや、島風だって丁寧な言葉遣いは普通にするんだろうけど、ううん、どうやら俺は彼女とは違うみたいだ。中身が違うんだから当然なんだけど……それだったら連日俺を蝕む島風データの侵攻を止めて欲しい。いつ俺の意識が塗り潰されるか気が気でない。俺がシマカゼになってからは、そのスピードは亀の歩みも同然になっているけど、完全に止まってないのが不安だ。これじゃ俺が消えるのも時間の問題のように思える。なんとか食い止められないものか。
一つの重要な事に頭を悩ませていれば、彼女がお皿代わりの葉っぱと水入りの瓶を運んできたので受け取った。鉄板を挟んで向かい合い、夕食とする。釜戸に灯る火は明かり代わりになるけど、鉄板は熱されているから触れないように注意が必要だ。
自分だけで気を付けるのではなく、彼女にも注意を促してから、いただきますの挨拶をして焼き魚にありつく。薄い塩味と野性味溢れる川魚の味。うん、これはこれで良い物だ。
お腹が減っていたのもあって、串代わりの枝の片方を手に、もう片方で魚の側面を支えつつかぶりついていると、その向こう側で彼女がお上品に食べているのが見えた。
串の両枝を繊細な楽器でも扱うみたいに支えて、はむ、と静かに口をつける。もちろん背中はびしっと伸びていて、食事の時までくそまじめな感じだった。
そんな彼女の前で野蛮にがつがつと食べる訳にはいかないので、彼女の手つきを真似しつつ、はむ、と小声で言って魚の腹にかぶりつく。……口内に入る身の量が少ない。ちょっと物足りないな。
……別に俺がどうしていようと彼女が注意する訳でもないんだし、いつも通りでいいや。
そう結論付けて、食欲のままに焼き魚に噛みつく俺は、この時はまだ知らなかった。
まさか俺が、食べ零しをしていただなんて……。
…………。
……ちょっと身が口の端から零れて膝に落ちたのが恥ずかしかったので現実逃避してしまった。
彼女を見やれば、何か言いたげにしているし……ああうん、さすがに何が言いたいのかはわかる。落ち着いて食え、だろう。よく言われる。繊細な料理は作れるのに、ご飯を食べる時はどうしていつもそうなんだって、姉さんに。
食べる際のマナーなんて小学校で教わって以来だったし、今までこれで失敗した事もないから、改善する気はなかったんだけど……。
「…………」
ほ、ほら~、朝潮の目が、なんか、こう、咎めるような……ああもう。
なんだかんだ言って、仲良くなった(はずの)彼女にそういう目で見られたり、失望されたりするのはやだし、これからは気をつけよう。
と、言う訳で、再び彼女の真似をしてみる。
背を伸ばして、零さないように、少しずつ
がっつり食べるのが好きなんだけど……これが人付き合いというやつなのだろうか。
ちょっとストレス。
ご飯を食べ終われば、水で口をゆすいで、それから、火を消して冷ました鉄板を洗う。
星明かりだけだともうあんまり動き回れないから、後は寝るだけ。
小屋の中に入れば、体も睡眠に向けて準備しだしたのか、一気に眠気と怠さが襲ってきた。
「きみそっち、私ここ」
「はい。おやすみなさい」
「おや
寝る直前までお堅い彼女に手を振りつつ、新しく用意した寝床に倒れ込む。と、部屋の奥に置いてある艤装の下に、体を預けて休んでいる妖精さん達の姿が見えたので、緩く手を振っておやすみの挨拶とした。
仰向けになり、毛布を引っ張り上げようとして、それは彼女に押し渡したのだと思い出す。遠慮する彼女に、でも、これ使わないと体はやく治んないかも、と脅したら、素直に使う事を選んでくれた。そうしてくれると助かる。何もなしに横になる女の子を尻目に、自分だけ毛布を使って安眠するだなんてできないから。
今日はいつもより体を動かしたので、すぐに眠気が体中を包み込んで、俺を夢の世界へと誘った。
◆
翌日。
本日も晴天なり。雲は疎らに、空は青く広がっていて、雨の降る気配はなし。
干物的にも洗濯物的にも嬉しいが、代わりに暑いのはどうにもならない。
今日は彼女と島を探索する事にした。案内兼冒険だ。温泉はもう行ったから、次は砂浜。ついでになんかあったら拾ってこよう。
「マルゴーマルマル。シマカゼ探検隊、出撃しまーす」
「ら、らじゃー」
『らっしぇい』
俺の教えた『シマカゼ探検隊員の正しい挨拶』を戸惑いながらもしてくれる朝潮と、なんか違うような意思を飛ばしてくる妖精さん×2を率いて小屋を後にする。
ちなみに朝潮は壊れた艤装をフルに装備している。妖精さんはそこに乗っかっている形だ。驚いたのは、妖精さんがするりと装備の中に溶け込んでしまった事。
いったいどうなっているのか非常に気になるところだが、聞いてみても曖昧な意思しか飛んでこなかったし、朝潮もよくわかっていないようなので、気にするだけ無駄だと切り捨てた。申し訳なさそうにする朝潮に気にしないでと声をかけつつ、海岸目指して森を行く。
途中で朝ごはん(大きめの白蛇。名前はたぶんリキッド)を
いちおう、朝潮からは見えないようにやったけど、彼女は少しも動じていないようだった。深海棲艦との戦いの方がよっぽど過酷なのかな。イ級とやり合った時の感覚は、焦っててよく覚えてない。そんな怖くはなかったような。
ま、敵はイ級だけではないのだし、もっと上の奴らと戦っていれば、これくらいの事を見たって心を乱す事はない、か。
えっちらおっちら森を行き、ハプニングなど無く砂浜につく。
またバケツが流れ着いていた。当然中身はない。
こんな物が流れ着くって事は、ここは遠征で来るような海域なのか、それとも鎮守府から近い位置にあるのか。できれば後者がいいな。すぐに辿り着けるってのもあるし、もし前者なら、遠征中の艦娘がこれを手放すような事態に出
「付近に通信の気配なし。応答もありません」
『妨害電波の発生は確認できない。安全海域』
朝潮と妖精さん達が水平線へと体を向けて立ち止まったので、何かと問えばそんな返答。……ああ、近くに艦娘が来てないか、深海棲艦がいないかを確認したんだ。
「……そのためにここに来たのではないのですか?」
「え? ……もちろん、そのためでもあるけど、物資の調達もね」
何がもちろんなのだろう。咄嗟に嘘をついてしまったが、ちょっとしどろもどろだったせいで、たぶんばれた。しかし朝潮は僅かに目を細めるだけで何も言わず、俺の指示に従う、と言った。
調達と言っても、やる事は物拾いだ。バケツ
そんな中、俺達は波打ち際にあるものを見つけた。
「うわ」
「これは……!」
砂浜に横たわり、波に当てられているのは、そこかしこを損傷して息絶えている駆逐イ級だった。
でかい。とにかくでかい。
昨日見た時は海面に僅かに出てた部分だけだったけど、全体を見るとやっぱりでかい。
横に立って見れば、俺の顔の高さまである。体に触れてみれば、鉄のような感触だった。冷たく無機質で、生き物のような感じがしない。
「お腹に風穴開いてるね」
「では、やっぱり……」
やっぱり?
なんの事だろ、と考えて、彼女に聞かせてもらった話を思い出す。
この島へ流れつく前、そして、霧に飲まれる前、彼女は仲間と共に駆逐イ級を撃破している。その致命弾が、五月雨による腹への砲撃だったはずだ。
よく見れば、このイ級の遺骸は、話に聞いていた、撃破されたイ級と損傷具合が酷似している。
では、このイ級は彼女達が倒したもので、それが流れ着いているって事は、ここはその海域からそう離れていないという事?
「いえ、そうなると、この島は領海からごく近い位置にある物になってしまいます。でも、周りにこんな島はなかった……」
「じゃあ、なんでこいつが流れてきてるんだろう」
安易な疑問に、朝潮は答えなかった。
そりゃそうか。彼女にわかるはずもない。俺にだってわからない。
この海に出て、周りをぐるーっと回ってくればわかるかもしれないが、そんな危険な事はまだできない。
だから今は、この疑問が解決する事はない。
口元に手を当てて考え込む朝潮に声をかければ、彼女もそう判断したのか、俺の顔を見て頷いた。
◆
彼女を引き連れて小屋に戻り、蛇の腹を開いて焼いて朝ごはんにして、それから、布を洗いに行く。
ついでに朝風呂だ。ちょっと贅沢だね、と朝潮に話を振れば、黙々と服を脱いでいた彼女は、「たしかに……そうですね」と不思議そうに言った。
何を不思議がっているのだろう。目で意味を問うと、お風呂といえばもっぱら入渠で、純粋に身を清めたり体を休めたりするためのお風呂というのが不思議な感じなのだそうだ。
その感覚は俺にはよくわからないが……そうか、不思議な感じなのか。
ふむふむと腕を組んで納得の素振りを見せていれば、彼女は今度は俺に対して不思議そうな顔をした。たぶん、どうして俺がこんなに大袈裟に納得しているかがわからないのだろう。当然だ。これに意味などない。やる意味もない。
お湯に浸かっている間、また彼女とお話をする。昨日は俺のこれまでの話だったから、今度は彼女の話を聞きたい。そうお願いすれば、「つまらない話になるでしょうが……」と前置きをしてから、静かに語り始めた。
◆
「……ふぅ。そろそろあがろっか」
「はい。……指がふやけちゃった」
彼女がどこで生まれ、どういった経緯で鎮守府に着任し、何をして来たのか、そのほんの少しだけを話して聞かせてもらって、色々と想像を巡らせていた俺は、一つ息を吐くと、結構な時間お風呂に入っているなと思い至り、彼女を促して出る事にした。
乾いた布で体を拭いて、干されている布に触れて、こっちも乾いているのを確認し、すべて回収して小屋に帰る。ほかほかと体から昇る湯気。火照った体は、影に入って少し冷やさないと、日の下で動けないくらいだった。
お昼ご飯を挟んで、俺は今、彼女と並んで座り、前にいる二人の妖精さんを見下ろしていた。
衣服はとりあえず体に布を巻いてカバーする事にして、彼女の体が完治するだろう、およそ三日後までのプランを練っていたのだ。
まず最初にやるべきなのは、装備の修復だ、と妖精さんが提案した。
しかし俺達にはその技術も設備もない。妖精さんも含めて、だ。彼女達はそれぞれ砲と魚雷の妖精。武装の修復は管轄外なのだ。
ではどうするのかと聞けば、彼女達はこう言った。
『我が同胞を呼び出すのだ』
『契約するのです』
大事な結びつき、関わり、呼び出す……断片的な意思を統合すれば、そんな感じだった。
契約と言ったって、どうやって? というか、妖精って契約制なの? ……派遣社員?
「彼女達妖精と契約するのは、本来司令官の役目なのですが、臨時的に艦娘と結びつきを持ち、働く事もあると聞いた事があります」
「ふぅん……それって私じゃなきゃ駄目なの? あ、嫌なわけじゃないよ。聞いてみただけ」
すらすらっと説明してくれた朝潮にありがと、とお礼を言って、妖精さん達に疑問を投げかけてみる。我ながら少し誤解を招きそうな物言いだったので、慌てて訂正した。
『どちらかというとよし』
『燃料ちょうだいするけどいいよね。答えは聞いてない』
……なんかイラッとする意思を受け取ったんだけど、まさか妖精さんに苛つく事などある訳がないし、気のせいだったんだろう。
燃料を貰うと言われて不安になったが、その量は妖精サイズ、つまり俺にとって極々わずかものらしいので、快諾した。それで彼女の装備が直るなら、受け入れない理由がない。
彼女はまた、俺にやらせる事に申し訳なさそうにしていたが、別にこれくらいはどうって事ないし、妖精との契約には興味がある、と自身の気持ちを伝えれば、やっと微笑んでくれた。そうそう、気に病む事なんてないんだ。好きでやってるんだから。
『では儀式をするのです』
神妙に言った妖精さんが、二人で顔を合わせて頷き合うと、歌うように何かの意思を発し始めた。
『超こいこい~』
『体は粒子でできている~』
『仲間の燃料、力ずくで奪われん~』
『契約したもんね~』
『いざ出陣~』
……全部俺の勝手なアテレコだけど、なんか本当にそういう意味の意思が飛んできていた気がする。
彼女達がびしっと俺を指差すと、ふいに肩に重みがあった。びくっと体が跳ねてしまう。と、ころころと膝の上に何かが転がり落ちてきた。ずれたカチューシャの位置を直しつつ、何かと確認してみれば、それはまさしく妖精さんだった。