誰か通信を文にした時の書き方教えてください……ワレアオバしかわかんないです。
次回の更新は8月17日月曜日を予定しています。
※
無理でした。
次回の更新は8月18日火曜日を予定しています。
予定です。
吹き付ける潮風が伸ばした左足の表面をぬらりと撫でていく。太ももの付け根が擦れて熱くなるくらいに勢いよく足を振り伸ばせば、爪先に巻き上げられた海水が弧を描いて海面から伸びていく。
『――!』
「っ……!」
防護フィールドを纏った全力のハイキックが、ショートヘアの女の頬に突き刺さる。ビシリと骨を伝わる痛みと衝撃。細い体つきの癖に、押し付けた足の甲から伝わってくるのは、鉄の塊を叩きつけられでもしたような重みだった。
伸ばした足の先で海水が飛沫となって散らばっていく。彼女の耳から頬までを覆う無骨な黒い鉄板が軋み、その音が足を通して伝わってくる。
黒髪を揺らし、青い光の灯る目を向けてくる重巡リ級に押し返されないように、歯を食い縛って足を振り抜く。右へ回転する体に任せて敵に背を向け、そのまま止まらず右足の回し蹴り。細い線を描くように半透明の水が伸びていく。遠心力を乗せた踵は、最初の一撃で僅かに怯んでいたリ級の頬を再び叩いた。流動する
『グ――ォ』
ザシャザシャと海面を擦るように後退する彼女の前で着水する。大きく屈伸し、広がる波紋の中に衝撃を逃していく。痛む足に目を向けた一瞬に、頭上を一筋の風が通り抜けた。
『!!』
ボォン、と腹の底に響く炸裂音。見上げた先で、リ級が黒煙に包まれた自身の顔を押さえて悶えていた。朝潮の精密な援護射撃。音からするに、会心の一撃か。
――いや、奴の動作はただの反射だ。おそらく、さほどダメージは入っていないだろう。
瞬時に分析し、立ち上がりざまに背後へ足を出して後退していく。擦り付けた海面が白く波立ち、水飛沫を撒き散らしていく。倒れ込んでしまいそうな危うい動作で距離をとる。奴が頭を振り、煙を払い、立ち直ろうとしているのを睨みつけながら、腰を落とし、左右に手を広げて構える。背負った魚雷が腰に食い込む。揺れる砲で重心がぶれる。それを整えるための、一呼吸の間。その間でリ級が立ち直った。無防備で至近に立つ俺へと、両手に備えたイ級のような異形の砲を向けようとして――ぶんと振るって、俺の背後から飛んできた砲弾を払った。弾かれて弧を描き、斜め向こうに水柱を立てる砲弾を気にせず、朝潮が作ってくれた時間を活かすために、全力で水を蹴って走り出す。急な動作に体中の筋肉が悲鳴を上げた。
一歩一歩が重く海面を叩き、波を作っていく。だが、いくら足下が荒くなろうと、動き出してる俺を止める事はできない。
離した距離をどんどん詰めていく俺へと、今度こそリ級が砲を向けてくるのが見えた。それが合図だった訳でもない。前へ小さく跳ね、両足を揃えてしっかりと海面を踏みしめ、全ての勢いを前方へと向かわせながら跳躍する。体を丸め、膝を抱えて一回転。体勢を整え、右足を伸ばし、矢のように突っ込んでいく全力のキックを叩き込む。
『――――!』
「うっ!」
火花を散らしてガリガリと進む中で、リ級が苦し紛れに振るった異形の砲にぶつけられて、勢いを削がれて背中から落ちた。ひやりと全身を包む悪寒。地面と変わらない硬さの海へ叩き付けられた魚雷発射管越しに、ほとんどの衝撃が胸まで突き抜けて、一瞬息ができなくなった。閉じかけた左目をなんとか押し留め、視界いっぱいに広がる――迫りくるリ級の足から逃れるために、ごろごろと転がってその場から離脱した。
途端、拳銃でも撃ったみたいな大きな音がして、飲み込まれてしまいそうな高さの波が襲い掛かってくる。慌てて腕で水面を押して体を持ち上げ、跳び上がって回避する。
あ、あぶなー……。
波が迫るなんて言っても、艦娘ゆえに水をかぶる事はないが、代わりに壁が迫ってくるのと同じ状況になってしまう。それはなかなかの脅威だ。だから当たる訳にはいかずに飛んだ。潜り抜けてやり過ごせるのは潜水艦くらいのものだろう。
着水し、立ち上がって、全速力で後退する。足は海についたまま。背中から吹き付けてくるような風が、熱くなった体を冷ましていく。
「大丈夫ですか!」
「ん、問題ないよ!」
朝潮の隣まで下がって、ようやく足を止める。お互い無事を確認しつつ、それで状況を整理した。敵艦隊、駆逐二隻撃沈。残りはこのリ級だけ!
『――――!!』
胸の内側を不安で掻き毟るような怨嗟の声を上げるリ級に、しかし俺も朝潮も怯みなどしなかった。戦いの中で異様に盛り上がる高揚が恐怖を覆い隠す。どれ程恐ろしい敵だろうと、戦いの中では怖くない。
しかし、さすがは重巡と言うべきか、これほど打撃を浴びせ、砲弾を命中させても、動きに陰りが無い。損傷具合は……小破と言ったところか。
「
「了解。朝潮、突撃する!」
いくらリ級が硬かろうと、ダメージが通ってない訳じゃない。だったら、沈むまで何度でも攻撃するだけだ。
リ級へ迫りゆく朝潮を視界の端に追いやり、背を向けて前進する。背中を撃たれるなんて不安はない。朝潮はきっとやってくれる。
引っ張られるうさみみリボンと風に流れる髪の毛の重みを後ろに、どんどん距離を開けていく。大きな砲撃音。水面を叩く音。不気味な叫び声の中に、朝潮の勇ましい声が小さく響く。
「んっ」
急ブレーキをかけてその場でターンする。本当なら、勢いを殺さず反転したかったが、そんな時間的余裕はない。信じいてはいても、朝潮が心配だった。また海の底まで迎えに行くのはごめんだ。だからとっとと片づける。
かなり減速してしまったが、二つの装備のために最高速を出すための時間も縮まっている。それは、本来のスピードを出せないという事でもあるが、奴にはこれで十分。
駆逐艦に足蹴にされて呻く奴には、不完全なジャンプキックで十分だ。
最初はスケートのように滑り出し、勢いが乗ってくれば走り出す。滑るか走るかは気分の問題だ。腰を低く、頭の位置もずっと低くして、体に受ける風の抵抗を減らし、最高速度で駆け抜ける。
ばたばたとはためく服の音は、車の窓から聞こえる風の音に似ている……なんて場違いな事を考えてしまって、瞬き一つして、気を引き締める。リ級の砲撃をギリギリで躱した朝潮が、背後で盛り上がった海面に足を取られて体勢を崩したところに、狙いをつけるリ級。駆逐イ級のような砲が口を開け、砲身の代わりに青白い光を貯め込み始め――そこまでだった。
視界が回転する。海面が迫る。伸ばした両手で海面を叩き、側転。バク転。もいっちょバク転、それからロンダート! 足りない速度を補うために、連続で回転し、宙に身を躍らせる。
敵に背を向けて飛びかかる奇妙な体勢から、身を捻り、海に向いていた体を空へと向け、顎を下げて下方を見る。ずっと伸ばした足の先に、リ級の頭が迫っていた。
「やーーっ!!」
『! ォ――!!』
寸前で気付いて俺を見上げようとしたリ級の右目を、ヒールが切り裂いた。突き抜ける足に続いて、俺の体もリ級の顔を擦っていく。広げていた腕の半ばがリ級の額を打ち、仰け反らせると同時、俺の足が海面に辿り着いて擦り始めた。転ばないようにしゃがみながら水煙の中に突っ込んでいく。前に出した右足を横向きに。それでかなり減速できる。
上半身が前後に揺れて、完全に止まり切ると、背後で声。
掠れた呻き声が最期の言葉を発しようとして、炸裂音に飲まれた。立ち上がり、振り返れば、黒煙に包まれて倒れ行くリ級の斜め前方に、砲を構える朝潮の姿。
ボッ、ボッと体の各所から火を噴きだしたリ級は、足から沈んでいく最中に爆発を巻き起こし、熱い風を吹かせた。細めた目を腕で庇い、揺れる足下に注意していれば、すぐに収まる。
風に持ち上げられていた髪がふわりと背中に戻るのを、首の後ろに手を入れてばさりとやって整え、それから、朝潮を見た。
「……ぶい」
高揚のまま勝利のVサインを突きだせば、彼女も控え目なピースサインを胸元に作った。
◆
「艦隊が帰投したよ。めっちゃ速いね」
本日二度目の練習航海から戻り、工廠へとやってきた俺は、第一に例の機械の前で立つリーダー妖精さんにそう言い放った。俺の隣で朝潮も敬礼している。
『ご苦労。艤装の点検をする
「はっ」
……もうこの子が提督でいいんじゃないかな。
なんとなくそんな感想を抱きつつ、言われた通りに装備を外し、寄ってきた工廠妖精さんに渡していく。
その中で、艤装から飛び出した魚雷の妖精さん×2と砲の妖精さん×2が床に下り立ち、俺達を見上げてきた。お疲れ様、と意思が飛んでくるのに、同じくお疲れ様と返す。
……見た目的に凄くややこしいな。俺の艤装の妖精さんには呼称をつけておこう。ええと、ええと、ええと……。
『わたし1号』
『わたし2号』
……悩んでも思いつかなかったので、なんて呼んで欲しいか、と直球で聞けば、そんな簡潔な答えが返ってきた。そ、そんなんでいいの。
奥の部屋へと運ばれていく艤装を見送り、最後に、自分の装備の妖精さんともいったんお別れの挨拶をする。
この後は入渠して、それから夕ご飯作って、練習航海行って洗濯してお掃除して就寝の予定。
ここ数日でできたサイクルだ。練習航海も、実施は既に十回を超えている。
一日三回。朝昼夕。島の外周を回るだけのコースを、徐々に広げていけば、だんだんと深海棲艦との遭遇率が上がってきた。
最初は最下級が単体で、と楽な仕事だったのだけど、それが二匹になって三匹になって、昨日は軽巡ト級とかいう気持ち悪いのが率いてた敵水雷戦隊をやっつけて、それで今日、とうとう人型と出会ってしまった。
重巡リ級。駆逐や軽巡より明らかに固く、その砲撃は驚異的。なまじ人に近い容姿をしているせいで不気味さが凄かったし、正直攻撃するのにちょっとばかし躊躇してしまったけど、奴がこっちに気付いて攻撃してきたのを皮切りに、なし崩し的に撃破してしまった。幸い、足裏に残る感触は、たぶん人の肉を削るほど生々しいものではないと思う。だからまだ、平気だった。現れたのが戦艦とかでなくて良かったなあ、なんて暢気に思える余裕さえあった。
それに、それより気になる事があるのだ。
「お昼にお風呂ってのにももう慣れたね」
「そうですね。出撃に入渠はつきものですから」
部屋に代えの服を取りに戻り、それを抱えて、朝潮と共にお風呂へ直行する。
三日前、リーダー妖精さんに紹介された家具職人の妖精さん。彼女は服飾関係にも強かったらしく、余っていた布でボロボロの服を元通りにしてくれたどころか、予備を二着ずつ用意してくれたのだ。それぞれ素材はどうなってるんだろ、とか余計な事は考えず、素直に喜んで受け取った。これでようやっと常時下乳見せ子でなくなる。いくら精神が男だといっても、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。見られる相手が肉体的に見て同性の朝潮しかいないのだとしても――妖精さんは、何か違う――、好き
なので、服が直ったのは本当に嬉しかったのだが、よく考えれば直っててもこの服は露出度が高い。朝潮の服と見比べればなおさらだ。だから結局恥ずかしい事に変わりはないのだが……恐ろしい事に、もう慣れてしまった。
木で編んだかごに着替えを入れ、脱衣所の棚に置いて、それから服を脱ぐ。カチューシャを着けている事にさえ違和感が無くなってきているのは、果たして単に慣れただけなのか。大袈裟に動くと頭の上でちょっとした重みが揺れ動くのは、癖になる心地良さがあって、着用を気にしなくなったのはそのせいかもしれない。
タオル代わりの布もかごにぽいして、体を隠すなんて事はせず、浴場への扉をスライドさせる。
温泉を直接引き込んでいるこのお風呂は、わかす労力要らずで、常時湯が溢れている。枯れたりしないのかな、と不安に思うこともしばしばあるけど、今のところその気配はない。
浴室内に溢れる湯気がいい感じに体をくすぐる。なんとなく腕を組みつつ、まずは頭と体を洗う……と。
ちゃちゃっと手早く済ます中で、湿った髪を手で梳きつつ、ふと思った。防護フィールドを纏っている時は大丈夫だけど、それ以外の時には、潮風で髪が傷んでしまいそうだ。コンディショナーとか開発されないかな。……無理か。
「あの……」
「んー?」
湯船に浸かり、縁に腕と顎を乗せてだらーんとしていると、傍に寄って来た朝潮が話しかけてきた。
といっても、ずっと話しっぱなしで、その最中に、ふと朝潮が声を暗くした感じだ。
そんな顔をして何を言いたいのかなんて、すぐにわかった。
そろそろ鎮守府に戻りたい。そういう意味の言葉を、朝潮は口にした。
「……駆逐艦二人で重巡を撃破できるくらいの練度なら、もう遠くまで行くのに不安はないかもだけど」
それも、雷撃戦に至らない昼戦でやっつけているのだから、申し分ないだろう。
不安だった俺の練度は、戦いを繰り返すうちに研ぎ澄まされ、今や普通に艦娘を名乗っても問題ないくらいになっている。
相変わらず近接戦というか、キック主体の戦闘スタイルなのは、俺に致命的なまでに砲撃のセンスがなかったからなのだけど……。
十発撃って十発外す、放った魚雷はUターンして戻ってくる、至近で外す……。
慣れれば、練習すれば、と思っていたけど、向上の気配がないのでみんなに相談すれば、朝潮は苦笑いするし、リーダー妖精さんは匙を投げるしで酷いものだった。
だから、戦闘で艤装は使っていないのだけど……俺の艤装の妖精さんは、それを納得している。無理に使って、それで傷つくのは駄目だから、と。ならなぜまだ艤装を身に着けているかと言えば、それは俺が艦娘だから、の一言に尽きる。
いつかは朝潮と共に彼女の所属していた鎮守府へ帰る時が来るだろう。上手くいけば、俺も着任できるはず。そうしたら、俺だって無手ではいられない。基本集団行動の中で、一人だけ艤装を持たず、という訳にはいかないだろう。
だから、今の内に慣らすために、今も身に着けている。そういう形でも役に立てるのは嬉しいと、妖精さん達が言っていた。
「あなたがまだ駄目だというなら、従います。でも、どうか……」
「そんなに畏まらなくたって大丈夫だって。うん、大丈夫だよ……」
この島を
ここで目覚めてから色々あったけど……ここを後にする事には、抵抗はない。
ただ、やっぱり海へ出る心の準備ができていなくて、戸惑ってしまう。
もう何度も海に出ているけど、それは日常の延長線上みたいで、どこか違う。
本格的に長い航海に乗り出すというのに、拒否感が出てしまうのは……やはり、俺が臆病だからだろうか。
でも、そうやって先延ばしにするのもそろそろ限界だ。
工廠妖精さん達も言っていた。この島を出るなら速い方が良い、と。
時間が経てば経つほど彼女達はここに生活の基盤を作り上げていく。生活のサイクルを作り上げていく。
それこそ、これからずっとここで過ごす事になったって大丈夫なくらいに。
だから、完全にここで生きていく環境を作り上げてしまう前に、出た方が良い、とリーダー妖精さんは言った。
そろそろ年貢の納め時かな。
ほふー、と息を吐くと、横で背を伸ばして座っていた朝潮が僅かに身動ぎするのが、湯を通して伝わってきた。
◆
「じゃあ、作戦会議始めるよ」
夕飯後、今日のお勤めを終えた俺は、工廠に赴いて全員集合の号令をかけ、ついに朝潮を鎮守府へと帰す事を宣言した。
それには俺もついていくし、妖精さん達も行く事になる。艤装の妖精さんは艤装に乗り込めるからいいとして、残りの工廠妖精さん四名と家具職人さん三名はどうするのか、という話と、どこへ向かえばいいのか、という事。
あてどない旅をするには、この海は広すぎるし、危険すぎる。何かとっかかりが無いと、俺の気持ちうんぬんは関係なく、この作戦を決行する事はできない。
しかしそこは、羅針盤妖精さんの出番だった。
今まで役目の無かった彼女達羅針盤妖精さんの役目は、深海棲艦側の妨害電波と襲撃に遭い、進路を見失った艦娘の代わりに目的地への道を導き出す、というものだ。
その方法は独自の観念に基づくもののようで、時には艦娘も提督も怒ってしまうような海へと導く事もあるという。
……非常に不安だが、指針が何もないよりは遥かにましだ。これで作戦決行が決まってしまった。
それから、妖精さん達だけど、ミニチュアのような船で海を行く、と言い出した。そんな船で大丈夫か、と本気で心配してしまったが、彼女達を侮ってはいけない。たった数時間でこれ程の家を作り上げてしまう子達なのだ。その不思議パワーは人知を超えている。
俺と契約しているから、俺の傍でならこのちんけな船でも高性能を発揮できる、とはリーダー妖精さんの談。ちんけって。……ああもう、俺の脳内翻訳はどうなってるんだ。
さて、二つの問題は解決の目処が立ち、作戦会議は終わりを告げる。
この後は……身辺整理でもしようか。……ん、身辺整理はちょっと違うか。
◆
いよいよ出発を明日に控えた夜。
部屋に一つある窓を開けて月夜を眺める朝潮に、俺はベッドに横になりながら視線を向けていた。
だいたい早寝早起きの彼女がこんな時間に起きているのも珍しければ、憂いを浮かべて月を眺めているなんてのも珍しい。
月光に照らされた彼女は、表情も相まっていつもの気丈さは影もなく、か弱い少女のように見えた。
ふと目が覚めればそんな状況だったから思わず眺めてしまっていたが、何か思うところがあるのだろう彼女をこそこそと眺めるのは良くない。
自然を装って寝返りを打ち、目をつむる。まぶたの裏の暗闇には、朝潮の横顔があって、より強く目をつぶった。
そういえば、俺もどきどきして寝れなかったはずなのに、いつの間にか寝てたな。
自分で思っていたよりも能天気だったのかもしれない……なんて考えているうちに眠気が襲ってきてふわ、とあくびをした。
彼女に聞こえたかも、なんて心配をする余裕もなく、重ねた手を枕にして眠りに落ちていく。
微かな視線を感じるのは、気のせいか、そうでなかったのだろうか……。
◆
今日も快晴。出発するには良い日だけど、海面が照り返す煌めきは目に痛いくらいで、少しくらい曇っててもいいのに、と思ってしまった。
海を背に、点呼を取る。
「工廠妖精さん」
『全員揃ってます』
「家具職人さん」
『右に同じです』
「朝潮さん」
「問題ないです」
「私」
「……」
『……』
おや、シマカゼがいないぞ。こりゃ出発は見送り確定だな。
……あ、うそ。嘘です。そんな睨まなくても……。
「じゃ、シマカゼ、出撃しまーす」
「朝潮、出ます!」
『いざ出陣!』
気合い十分の朝潮に、おー、と腕を上げる妖精さん達が続く。旗艦は俺なので、彼女達に遅れないよう砂浜を行く。
布で作った袋の紐を肩にかけ直し、波打ち際へ。ちなみに袋の中身は干した魚を包んだ物と代えの服と、高速修復剤を瓶詰した物を幾つか、だ。同じ物を朝潮も肩にかけている。
海に出て、滑り出す。水平線に影はなし。ちら、と左腕の携帯型羅針盤を見てから、全員の先頭を走る。
昨日までに広げた航行範囲に至るまでに、まだ数分ある。それまでには、さすがに覚悟を決めよう。
これから新しい世界に飛び込む。そうしたらもう、戻れない。元の自分には。
後戻りできないなんて、泣きたくなるくらい怖くて嫌だが、仕方ない。
せいぜい人のため世のために深海棲艦と戦ってやろう。
◆
「はっ!」
朝潮のかけ声と共に飛来した砲弾が、俺が最高速で向かう先の駆逐ロ級にヒットする。鉄を裂くような
「私が一番? やっぱり? そうよ――」
決め顔でMVP台詞を言おうとして、途中で横を朝潮が抜けていくのに、慌てて打ち切って追いかけた。
駆逐艦程度を倒したくらいではいちいち台詞を言わせてくれないようだ。まあ、もう何体も倒してるからね。
知らない海に出れば、やはり深海棲艦の出現率が上がって、交戦回数も増えてきた。
ただ、敵の数は毎度一隻か二隻だし、駆逐以外は滅多に出ない。出て軽巡だ。キモイ奴。
『ひゅーひゅー』
『やるねー』
お船に乗った妖精さん達がやんややんやと歓声を飛ばしてくるのに、肩越しのピースで応える。凄いでしょう凄いでしょう。だって速いもん。
前を向いて、それから額を拭う。暑い、という訳ではない。ずっとどきどきが続いている感じで、どうにも落ち着かないのだ。
変わらない水平線が感覚をおかしくしているのか、それとも未知なる旅路に興奮しているのか、鎮守府という場所に不安を感じているのか、自分でもよくわからなくて困ってしまう。
朝潮の前に出れば、彼女は俺のそんな様子を察した様子で、ゆっくりでも大丈夫です、と気遣ってくれた。
ううん、でも、大丈夫。行くなら、一刻も早く彼女を帰してあげないとね。
という訳で、羅針盤の妖精さんカモン。
『えー、羅針盤……回すの?』
あ、一番やる気ない子が出てきた。
羅針盤の縁からにょろっと出てきた緑髪ショートの妖精さんは、眠たげに閉じた……というか、完全に閉じている目を擦りつつ俺の腕の上で羅針盤を見下ろし、それから、おもむろに回し始めた。
緩やかに止まった針の指し示す方角は、北西。オッケー、そっちね。
「進路を北西に、取舵!」
「取舵!」
『そこ! インド人を右に!』
進路を変えて進み始めると、眠そうな妖精さんは羅針盤の中へ帰っていく。
と思ったら、今度はツインテールの魔女っ娘な妖精さんが出てきた。おや、どうしたのだろう。
魔女っ娘妖精さんは、マジカルなとんがり帽子を押し上げ、マジカルな矢印付きステッキを振り上げて、かつん、と羅針盤を叩いた。すると、キリキリと音をたてて羅針盤が回り出す。妖精さんは、間を置いて再び矢印ステッキを羅針盤に叩きつけ、針を止めた。
向かう先は……北東?
速度を緩めつつ首を傾げていれば、一仕事終えたような表情を浮かべた妖精さんが羅針盤の中に戻っていった。
なんかよくわかんないけど、今度はそっちに進めばいいんだよね?
「えーと、進路を北東に、面舵!」
「……? 面舵!」
『ふぁいとー、いっぱーつ』
進路を切り替え、右へ。妖精さんの言う通りっと。
ざあっと水を散らし、涼しげな風の中でスカートをはためかせる。涼しいのに、日差しが強くて暑い。でも大丈夫。艦娘は日焼けしないから。……ん? 一部の艦娘はすっごい日に焼けてた気がする。
『らしんばんまわすよー!』
「んー?」
一分経たない内に元気な意思が飛び込んできて、左腕に羅針盤の妖精さんが現れた。ポニーテールの妖精さんだ。頭にヒヨコが乗ってる。小さい。
えいえいえーい、と勢いよく回された羅針盤が、妖精さんの手によって押し止められる。ぷるぷると震えていた妖精さんがふぅっと息を吐いてから羅針盤に溶けて消えると、残ったのは、進むべき道を指す針のみ。
「…………」
「……どうしました?」
『なんで止まるの?』
思わず速度を緩めてしまっていたみたいで、やがて体が止まってしまうのに、朝潮が怪訝そうに問いかけてきた。他の妖精さん達も、意思とは違って相当不思議がっている。
でも、一番不思議なのは俺だった。
なぜなら、この羅針盤の針は南を指しているからだ。
「……南へ」
「え?」
『?』
朝潮と向かい合うように立って、そう伝える。羅針盤が指し示しているのは、今来た道の方角だ。
「な、なぜですか? なぜ戻ろうと……」
『よーし、らしんばんまわすよ!』
疑問と焦りがないまぜになったような表情を浮かべた朝潮が詰め寄ってくるのと、左腕から声がしたのは同時だった。
俺と朝潮の視線が羅針盤へ注がれる。いつの間にか腕の上にいた赤い髪の妖精さんは、俺達の事などお構いなしに、笑顔で羅針盤を回しにかかっている。
そして、今度は針が止まる事はなかった。
ぐるぐるぐるぐると回り続けたまま止まらない。妖精さんはそんな羅針盤をじっと見つめて、それから、不意に消えてしまった。
「これは、いったい……」
「故障……って訳でもなさそうだけど」
『……どうした』
キリキリと針の回る音が途絶えない羅針盤を指で小突いて止めようと試みても、止まらない。いや、指で押さえれば一時は止まるのだが、離せばすぐにまた動き出す。
訳がわからなくてリーダー妖精さんの問いかけに羅針盤を見せれば、彼女はぎょっとして顔を強張らせた。な、何その反応。なんかすっごく不安になってくるんだけど……?
「ん?」
「っ!」
『……?』
不安というものはだいたい的中するもので、再度羅針盤を止めようとした時、冷たい風が足下を吹き抜けた。
急速に広がる影が体を覆い隠すのに、雨かな、と空を見上げて……それで気付いた。横から壁が迫っている。壁のような白煙。濃霧。
「あ!」
「っと」
耳元で風が唸る音がして、霧に呑み込まれる。寸前で朝潮が腕に抱き付いてきたのをもう片方の腕で支えてやりながら、なんだこれ、と周囲を見回す。垂れて揺れる布袋は、何も答えてくれなかった。
「霧? ねえ、朝潮、これ……」
俺の腕に掴まる彼女に問いかけようとして、顔を真っ青にしている彼女に、それが何か思い至った。
彼女があの孤島に流れ着く原因となった霧だ。
なぜこれが? 疑問を抱きつつも、流れていく霧の中を見回す。日の光が遮られて暗い。それに、体が冷えていく感覚が気持ち悪さを誘う。
「彼女達は……」
不安げに顔をあげた朝潮が呟くように言うのに、妖精さん達が船ごと姿を消している事に気付く。
意思を飛ばしても応答がない。代わりに、頭の中に雑音が流れた。耳障りな、脳を引っ掻くような音。
動悸が激しくなる。明らかな異常事態と、弱々しい朝潮の姿に、否が応でも緊張が高まって……それ以上に、悪い予感が止まらなかった。背に冷たい汗が浮き出ると、それが全身に広がって、思わず自分の体を掻き抱きたくなってしまう。
でも、それはできない。右手は布袋で、左手は朝潮で埋まっている。だから、見た目の上でだけは、背を伸ばしてしっかりと立っていた。
ごうごうとうなる風の音が耳の横を通り過ぎるたびに、悪寒が増大していく。
「っ!」
気配を感じてそちらに顔を向けても、流動する霧しかない。その中に人影など無く、なのに、不安は晴れない。唇を噛み、睨みつけるように周囲を見回す。朝潮は、変わらず俺の腕に抱き付いてた。弱気でいるというよりは、迂闊に動けば何か良くない事が起こりそうだと思っているかのようだった。少なくとも、横顔からはそう読み取れた。
『――――』
「! だ、誰!?」
微かな声が聞こえて、その方向に目を向けて声を荒げる。咄嗟に魚雷発射管にかかっていた砲を右手に取り、小さく投げてグリップを掴みとる。流れるままに霧の向こうへ砲身を向ければ、黒い染みが広がるように人影が膨らんだ。
途端、強い風が吹いて、霧が押し広げられていく。何者かの姿も、それで露わになった。
『招カレザル者ガイルナ』
レ級、elite。
いつか、画面越しに見た強敵。朝潮の話を聞いても、自分には縁遠いと思っていた存在が、目の前に現れた。
彼女に纏わる赤い光が炎のように揺らめくと、尻尾みたいな異形が体を持ち上げ、次には海面を叩いていた。水滴が飛び散り、小さくない波が広がって、俺達の身体を上下させる。俺の腕に縋ったままの朝潮が、浅い呼吸を繰り返しながら、ゆっくりと左腕の魚雷を構えた。
『ン……?』
姿を見せた時からずっと笑顔だったレ級が、不意に眉をひそめた。弧を描いていた口が一文字になると、怪訝そうな声。
『オ前ハ、確カニ沈メタハズ……』
ぞくっとした。
沈めた、という言葉に強い忌避感を覚えて、足を下げてしまう。つられたのか、朝潮も一歩下がっていた。
バシャンと、海面が叩かれる。風圧で彼女の前髪が揺れ、フードが膨らんだ。赤い光の中で輝くアメジスト色の瞳が、俺とその横を順繰りに見る。すっと目が細められた。
『マア、イイ。モウ一度沈メルダケ……』
「――!」
限界だった。
張りつめた緊張と恐怖が弾ける。砕けそうなくらいに握り込んでいたグリップのトリガーを押し込んで、砲弾を放つ。振動と破裂音。一直線にレ級の体へと向かっていった弾丸は、持ち上がった細腕に軽く払われて海面に沈んだ。
「なっ、あ」
彼女の戦闘能力を考えればおかしな事でないはずなのに、酷く驚いて――同時に、レ級の足下で海面が盛り上がり、次には爆発した。朝潮が放った魚雷が直撃したのだ。
至近で爆発した魚雷の衝撃がこちらにまで伝わってきて、体勢を崩しかける。降り注ぐ水滴が小雨となって体を叩く。朝潮に引っ張られた腕を強引に持ち上げると、彼女の体もついてきた。思わず彼女の方を見てしまう。
『……』
「……!」
そんな事をしている場合ではなかった。
レ級を包む霧が晴れる。そうなる前に、朝潮を連れて逃げ出してしまえば良かったのだ。
でなければ……魚雷が命中したのに、微動だにしていないレ級と再び相対する事などなかったかもしれない。
砲を握る手が弱まる。指先の感覚が曖昧になる。
何度攻撃したって無駄だと理解してしまった。一度そう思ってしまったから、もう、攻撃する気なんて起きなくて……だから、腕を振るって朝潮を振り解いた。
よろめく彼女の肩を抱いて支えながら、一歩前へ。腕を離し、そのまま朝潮の前に掲げるようにして伸ばす。彼女が俺を見る気配がしたが、顔を向ける余裕は俺にはなかった。
朝潮を庇う形になった俺に、レ級は笑みを浮かべる事もせず首を傾げた。
『ヤハリ……イヤ、オカシクハナイ、カ』
言葉の意味がわからない。
一人理解したように頷いたレ級は、次には歩き出していた。
重い空気を引き連れて、なんの気負いもないように、俺達の……俺の、前に。
『今度ハ確実ニ沈メヨウ』
言葉と共に笑みを向けられて、それでも動けなかった。小刻みに震える体は言う事を聞かず、レ級を目の前にして、頭の中は恐怖一色に染まっていた。
断片的に視界に流れる何かが現実を塗り潰していく。ノイズの走る声が聞こえて、だから、どうしても、
『サラバダ』
がくんと体が揺さぶられる。そう錯覚する。下ろしかけていた右腕が勝手に持ち上がって、レ級の顔に照準を合わせる。レ級もまた、持ち上げた手の先を俺に向けていて――。
空を切って迫る手刀に、身を竦めて目をつぶる。それしかできなかった。砲撃する事すらできずに、自分を庇う事しかできなかった。
風が後ろ髪を持ち上げる。後ろに庇った朝潮が、息を呑む気配がした。
『――――』
「ぅ……?」
いつまで経っても思っていたような衝撃がこなくて、薄く眼を開いてみれば、目の前に四本揃った指先があって、ぎょっとしてしまった。思わず背を反らす。
そうすると、レ級の様子がわかった。彼女は、その体勢で静止していた。まるで彫像みたいに。腰から生えている尻尾さえ、どこか遠くを向いたまま止まっていて、動く気配がない。
「ぁ、さしお」
「……!」
今のうちだ。逃げるなら、今しかない。喉の奥から声を絞り出して呼びかければ、はい、と声なき返事がした。でも、彼女の動く気配がない。声と同じで、動く意識もないのかもしれない。だから腕で彼女を押して、一緒に下がろうとして――。
「え……」
信じられないものを見てしまって、足を止めた。
攻撃の態勢で止まっているレ級の目から、一筋の涙が流れ出した。頬を伝い、顎先に流れて、海へと落ちる。ピチャ、と弱々しい音がするのが場違いすぎて、それがなんなのか、すぐには理解できなかった。。
『愛おしき……未来ある若者よ』
「っ!」
かと思えば、小さな口が開閉して、言葉が紡がれる。
思わず身を固くしてしまったが、レ級は変わらず攻撃しかけた姿勢のままで、目だって、瞬きもなく開かれたまま。
ただ口だけが動いて、流暢な日本語を発していた。
『ヒトの行き着く先は滅びのみ』
彼女の声で、まるで彼女とは違う言葉。理解するにはこの状況はおかしすぎて、言葉は耳を素通りするばかりで。
背の服を、朝潮が掴む。その感覚があって、それで体中の制御権を取り戻した。強張った足を少しずつ滑らせ、後ろへ。
『切り開きたいと願うなら、進化を』
もはや言葉など聞かず、ただ後退する事に専念しようとした。でもそれは、先程と同じく遅すぎる判断だったようだ。
レ級が瞬きをすると、最期の一滴のように大粒の涙が流れて、それを煩わしげに腕で拭ったレ級は、ぎろりと俺達を睨みつけた。それだけで体が固まってしまう。怖くて頭が真っ白になってしまう。目の前にある『死』そのものを回避する方法が思いつかなかった。彼女を……朝潮を沈めさせる訳にはいかないのに。だって、そうしたら、認めるしかなくなってしまう。死は現実に起こり得るものなのだと認めるしかなくなってしまう。そんなの嫌だ。
『……オ前達艦娘ニ未来ハナイ』
もはやこれまでか。そう思っていたのに、どういう訳かレ級は不可解な言葉を忌々しげに吐き捨てると、
乱れる風に、髪も体もカチューシャも煽られて、服だってばたばたと大きな音をたてる。その音がやけに大きく聞こえた。
無意識に顔を庇い、背を丸めていれば、やがて風が治まる。
「ここ、は……」
顔を上げれば、目の前に広がるのは海の青と空の青。霧などどこにもなく、朝潮の呆然とした声を後ろに、俺は下ろしかけた手を胸に押し当てた。脈動する鼓動が熱い肉の向こうにあって、それで自分を落ち着けようとした。
『霧を抜けた。無事か』
ざああ、と波を割って進む小さな船が目の前に出てきた。妖精さんの意思も飛んでくる。だけどそこには不安や焦りなどは欠片もなく、さほど心配していないような感じだった。
「なんとか……なんとか、無事、なのかな」
心の整理がつかないままに言って、朝潮を見る。彼女は、乱れた髪を柔く押さえて、呆けた顔をしていた。そんな間抜けな顔を見ていれば、さすがに心が落ち着いてきたので、砲を魚雷発射管にかけて、自由にした右手で彼女の肩を揺らし、声をかけた。はっとした彼女が、俺を見て不安そうにする。
「あ、あれは、夢では……」
「大丈夫。大丈夫、だったみたいだよ」
震える声で言う朝潮を安心させるために、同じ言葉を繰り返して言い聞かせる。夢……そういえば、彼女の語った事を、彼女と過ごした数日の間に肯定した事は一度もなかった。そのためか、彼女はあの島に流れ着く前に体験した事を夢だと結論付けていたらしい。
いや、先程までの、まるで現実味のない何かを夢だと思いたくなるのも……夢……あれは、現実だったのだろうか?
彼女がこんな事を言って、妖精さんも霧が、と言っていたのだから、夢なはずがない。でも、あんなの、あんなのは……。
「ん……」
頭を振って、弱気を飛ばす。
そんな事考えたって仕方ない。夢でも夢じゃなくても、今、みんな無事でいられているのだから、なんでもいいじゃないか。
細く息を吐いて、すぅっと息を吸い込む。
落ち着け。落ち着いて。もう、もう大丈夫なんだから。
「…………」
……あ、布袋、霧の中に落としてきちゃった……。
余裕を取り戻したふりをして、わざとらしく右手を見る。握っていたはずの布袋はどこにもない。いつ落としたかなど覚えてないけど……命を落とすよりはましだったと考えておこう。
「少し休憩しよう」
「……」
朝潮が落ち着くのを待つために、妖精さん達にそう伝えれば、了解した、と返答。小さなお船が俺達の前を回るように動いて、背後の方で止まった。
◆
それからしばらくして、朝潮が普段通りの調子になると、何やら謝罪してきた。そうなっていたのは仕方ないと思うのだけど、彼女は自分を許せないらしく、悔しそうに手を握り込んでいた。
そんなのは俺も同じだった。そう伝えても、彼女はやりきれないようで――あんなのに二度も出遭って、攻撃した上で生きているのだから、凄いと思うのだけど――、今度はそれを宥めるのに苦労した。
「私なんて、ほら、砲撃したのにぺしっと弾かれちゃったでしょ?」
「……私の魚雷も、通用しませんでした」
……あ、駄目だ。なんて言えばいいのかわからない。
なので、素直に彼女がまた落ち着くのを待つ事にして、羅針盤をつついたり周囲を警戒したりして時間を潰していた。
「すみません、もう大丈夫です」
さほど時間がかからず立ち直った彼女の方を振り向き、うんと頷いてみせて、それから、特に理由もなく食事にする。
用意していた干物、俺の分はなくなってしまったけど、朝潮が自分の分をわけてくれたので、食べそびれると言う事はなかった。
妖精さんが空を見ろと言ったのは、食事を終え、座り込んで休憩している時だった。
「なに? ……艦載機?」
「あれは……」
すわ敵か、と慌てて立ち上がって空を仰げば、視界の端に動いていく小さな何かを見つけて、目で追った。それは、向こうの方へ飛んでいく艦載機だった。敵の、ではない。恐らく空母か何かの……って事は、近くに艦娘がいる?
『艦娘より通信あり。聞く?』
「え、うん、聞く聞く!」
『対潜警戒任務、所属と名前を、こちら日向』
ん? 何?
……あ、
なんだか言葉足らずな感じの妖精さん達の意思を受け取って、それをいちおう朝潮にも伝えれば、彼女は驚いたように顔を上げて、もしかして、と呟いた。
「……どうしたの、朝潮。何やってんの」
『通信中。黙れ』
「え。あ、うん」
手を耳に当てて黙りこくってしまった朝潮にどうしたのかと問いかけたら、妖精さんに怒られてしまった。……妖精さんに、というか、彼女達は姿を見せていないせいで、まるでお船に怒られたみたいで、ちょっと惨めな気持ちになった。
「……確認が取れました。やはりここは鎮守府近海、私、帰って来られたみたいです!」
通信が終わるや否や、喜色満面で俺に報告する朝潮に、こちらも笑顔で「やったね」と返す。言ってから遅れてその意味を理解して、えっと間の抜けた声を漏らしてしまった。
霧を抜けたら鎮守府の近くにワープしてました、だって? な、なにそれ。あ、でも、朝潮の話でもそんな感じではあったな。じゃあ、もうすぐ陸に上がれるって事?
その答えが、水平線の向こうからやってくる。戦艦……いや、たぶん航空戦艦の日向と、ええと、駆逐艦の菊月の二人だけが、俺達へと近付いてきていた。
マリンブレイクブロー
(キック下位技)
パワフルキック
(キック技)
ストライクシマカゼ
(キック技)