数日の悩みの果てに、シマカゼはある一大決心をした。
そして迎えた花火大会の日。上手く二人きりになれたシマカゼは、
積極的に朝潮を遊びに誘うのだが――。
※
長くなりすぎたので分割しました。後半は現在執筆中です。
前半 朝潮とデート
後半 トンデモ展開
となっております。
次回の更新は2015年11月21日 18:05~を予定しています。
『知ってる? 島風の後ろにはね、島風がいたんだよ』
夢を見る。
後ろの方に立つ、見知らぬ艦娘。
だれ? だれ? だれなの?
……私、なの?
鏡の向こうの海で、振り返った影が、微笑んだ。
◆
土曜日といえども艦娘にとっては休みではない。
だが今日は、俺も朝潮もお休みの日だ。
先日の働きの報奨で休暇を頂いたので、勇気を振り絞って朝潮を誘ってみたら、一緒に行ってくれると色よい返事を頂けた。朝からうきうき気分だった。
鎮守府を出るのは、昼過ぎか、夕方頃でいいだろう。花火大会に乗じて縁日も開かれるらしいから、浴衣とか着物を纏って、朝潮と一緒に夜の街に繰り出すのだ。
朝潮は何を着てきてもきっとかわいいだろうから、目いっぱい褒めよう、なんて帯に絡まりながら思った。
◆
外出許可は簡単に下りた。前に提督が言った、俺に外泊の許可は出せない、という言葉は、俺がまだ正式な鎮守府の一員ではなかったからだ。
ここに着任してしばらくした今ならば、却下される理由はない。
夕刻、街に下りれば、鎮守府内とはまた違った活気や喧噪に出会った。行き交う人が囁き合うのは、今夜空を彩る花火と、建ち並ぶ屋台の話。
待ち合わせた朝潮は、藍染の浴衣を落ち着いた色の帯で包んで、巾着袋を手にしていた。遊び心に花火柄。とっても華やか。
どんな言葉で褒めようかとシミュレーションしていた俺は、しばらく言葉が出なくて、不思議がられてしまった。それくらい、浴衣姿の朝潮がかわいかったのだ。失態を誤魔化そうとしきりに髪を弄る俺に、小さな笑みを零す姿も、可憐だ。
ちなみに俺は、夕張さんの所に駆け込んで相談した結果、深緑の着物をレンタルできたので、これと小さな手提げ袋を持ってやって来た。朝潮の姿はかわいらしいと形容できるけど、俺の方はどうだろうか。昔の俺ならいざ知らず、今の俺だと、この渋めの色合いは、あんまり似合ってないような気がする。着物も、着ているというより着られている感じ。
一番ミスマッチなのは、頭の上のうさみみカチューシャだろうけど。
これはシマカゼのトレードマークなのだ、外す訳にはいかない。
……道行く人の視線が結構な割合で向けられるから、少し後悔してるけど。連装砲ちゃんを連れてきてたら、もっと注目を集めていただろうな。
いちおう艦娘は極秘の存在だから、おもちゃと言い張るのは苦しい連装砲ちゃんはお留守番だ。悲しげに鳴かれたけど、涙を呑んでお別れした。ごめんね連装砲ちゃん。わたあめとか買って帰るからね。
見慣れぬ街並みは、縁日のためか、同じように浴衣や着物を纏った人が、同じ方向へ歩いている。道路は歩行者用に封鎖され、歩行者天国の看板が置かれていたりした。
それでも律儀に白線の内側を歩く朝潮を道路とは反対側にいさせて、道路に面した方を俺が歩く。ちょっとした男らしさをアピールしてみたり。……それになんの意味があるかは自分でもわからないが、朝潮はこれっぽっちも気にしていないようなので、ええと、まあ、いいんです。
人の合間を熱を帯びた風が吹き抜ける。ふわりと持ち上げられた髪に僅かに顔を下げると、不意に、隣を歩く朝潮が髪を押さえる仕草が目に留まった。
凛とした横顔に、幼さが混じる桜色のくちびる。目を伏せ、髪を撫でつけて整える仕草には大人と子供の間の、曖昧な魅力があった。
かわいいと、格好良いと、美しいと、綺麗。
いろんな言葉が頭の中を廻って行って、無意識にそんな事を考えてしまっていた自分に恥かしくなってしまった。横目で盗み見たりなんかしちゃって、これじゃあ俺、まるきり変質者みたいだ。
俺の視線に気づいた朝潮が、小首を傾げて俺の顔を覗き込んだ。空色の瞳に、りんごほっぺの俺が映っていた。
「島風ちゃん、熱っぽいっぽい?」
後ろから俺の右隣りへ歩み出てきた夕立が、さらりと金髪を垂らして、俺の顔を覗き込んできた。
ぱりーん。がらがら。二人だけの世界が音を立てて崩れていく。
「う、ううん。熱はないよ?」
「そーう?」
首を振ると、夕立は疑いながら体を戻した。
「私には、島風ちゃんが朝から具合悪そうに見えたけど……」
「気のせいだよ、吹雪ちゃん」
後ろから気遣わしげな声をかけてきた吹雪を振り返れば、ずらずらっと並ぶ少女達の姿が嫌でも目に入った。吹雪の左右に深雪と五月雨、さらに後ろに、川内先輩と那珂ちゃん先輩の二人、神通先輩と由良さんの二人が歩いている。みんな浴衣姿だ。かっちりした着物なのは俺だけ。ミスマッチ。
「こうしてみんなと出かけるのも、賑やかで良いですね」
「……うん」
人混みの熱に当てられているのか、ほんのりと頬を染めた朝潮が微笑みかけてくるのに見惚れて、遅れて、頷いた。足下へ視線を落とせば、胸の内でリズムを刻む鼓動の音が聞こえて、それが恥ずかしくて、下駄を履いた足を強めに振った。地面と擦れた靴裏がカツンと小気味良い音を出す。
ほんとは、彼女と二人きりで来たかった。
海上護衛任務から戻り、報奨を頂いてからというもの、怪我を癒す時間の中で、ずっと考えていた。俺のやりたい事。残された時間の中で、何を遺すか。言い換えれば、心残りのないように過ごすか。
――この数日の間、俺の中で眠る本物の島風からはなんのアクションもなかった。眠ってしまったきり、声も上げなければ、何か働きかけてくる訳でもない。
でも、彼女がいるって事はわかっていた。確信できた。
前から続いていた不調が、彼女が目覚めてからはすっかり収まっていて、そして前より調子が良くなった。まだ計測や何かはしていないから正確な値はわからないけど、明らかにパワーが増しているのを感じた。まるで……そう、単純に、二人分の能力値が重なって体の中にあるみたいに。
動いていないマッサージチェアに寝そべっている時も、ベッドに深く腰を沈ませている時も、ずっと考えていた。彼女の事。
考えれば考えるほど、俺はもう、きっとこのままではいられないんだって実感して、だから決めたんだ。
もし次に彼女が目覚めても、笑って体を返せるように、悔いが無いように過ごす、って。
それで、思い出した。花火大会が近くでやるって事を。だから朝潮を誘った。いつしか大きくなっていたある感情を渡すために。
……ただ、そこまで決心したのは良かったんだけど、結局一人で、その、デート……いや、遊びに誘う勇気が出なくて、最初に吹雪と夕立に声をかけて、流れを誘導して、同じ休暇を持て余す由良さん達も誘おうという展開に持って行ったのだ。
吹雪が、由良さん達を誘うなら、川内先輩達も誘わなきゃ、なんて言ってくれちゃったおかげで、予定より人数が多くなってしまったが、まあ、結果オーライだ。軽巡の先輩方は俺達の保護者代わりになるし。
見た目が子供の俺達だけでお祭りに繰り出したりなんかしたら、下手を打てば補導されてしまうかもしれない。所属を聞かれるのは良くない。実際由良さんは俺達にそう注意したし……最初から、朝潮と二人だけ、という選択肢はなかったのだ。がっくし。
「花火って、どっちの空にあがるのかな」
「あっち? いや、あっちかな」
五月雨と深雪の話す声に、そういえば、俺も花火の上がる位置を知らない事に気が付いた。
……この近辺で上がるんだから、どこにいたって見えるとは思うけど、できれば一番良い場所を取りたいな。それで……それで、朝潮に。
……あれ? 俺のプランだと、こう、花火をバックに朝潮と二人きりでお話しするってのがあったんだけど……どうやって二人きりになるんだ?
「どうしました?」
むむむ、と悩んでいると、俺の様子を見かねたのか、朝潮が問いかけてきた。
「具合が悪いのでしたら……」
「んーん、大丈夫だって。とっても元気」
「そう、ですか?」
うんうん、そうそう。
ただちょっと別の熱に浮かされてるだけで。
なんちって、なんちって。
あほな事を考えていれば、朝潮はまだ俺を心配しているみたいだったから、少し前に出て一回転して、両手ごと手提げ袋を掲げてみせた。
「ほら元気」
「ふふ。そうみたいですね」
よし、笑ってくれた。
しめしめ、はちょっと違うけど、心の中でガッツポーズしながら、彼女の隣に並んで歩く。肩が触れ合うような距離感。彼女は気にした風もなく、前を向いて歩いている。
こっちは触れるか触れないかにドキドキしっぱなしなのに、朝潮はなんにも感じていないみたいで、ちょっと不満だ。こういう気持ちを押し付けちゃいけないのはわかってるけど、同じ気持ちを感じたいなあ、なんて思ってしまったり。
ドキドキを共有したいのだ。そのためには、なんだってするよ。肝試しとか。
時期的には肝試しはあってると思うけど、ううん、外でそれはできないか。立場が立場だし、それに、朝潮がお化けが苦手とは思えない。夜闇にだって怯えないだろう。俺は夜は怖いけど。
道路の両側にぽつぽつと屋台が見えてくると、縁日特有の香ばしい匂いが漂い始めた。喧噪も楽しげなものが多く混じり、どこからか聞こえてくる笛の音は郷愁を誘った。
「大人の人に声をかけられたら、由良達と一緒に来たって話してね」
縁日へ踏み込む前に、由良さんがみんなに伝えた。子供に言い聞かせるお姉さんみたいな言い方だ。深雪や五月雨は慣れたものか、はあい、と元気に返事をして、それぞれ吹雪と夕立を連れて屋台の方へ突撃して行った。大判焼きとフランクフルト、どっちがお望みなのだろうか。
「せっかくのオフだしぃ、心行くまで楽しんじゃうよー♡」
「勝負しよ勝負! とにかく勝負だ!」
いつでも笑顔で明るい那珂ちゃん先輩が、川内先輩の挑戦状を受け取って、一緒に左の屋台の方へ駆けて行った。亀すくい……金魚すくいの親類かな。
「それじゃあ、私達も行きましょうか」
「ええ。島風ちゃん、朝潮。花火が終わったら、またこの場所に集合、覚えててね」
「はい」
神通先輩と由良さんも、二人で先に行ってしまうみたい。鎮守府を出る前に伝えられた注意事項をこの場で再度言い聞かせる由良さんに返事をして、道路の向こうへ歩いて行く二人を見送った。
あれ? なんか知らないけど、はからずも二人きりになれてしまったぞ?
なんだか俺の気持ちをわかっているみたいな一連の動き……考え過ぎかな。
「お祭りというのは初めてなのですが……あなたも、初めて、ですよね」
「いや、違うけど……どうして?」
「あ、いえ……?」
少しずつ曲がっていく長い道路の向こうを眺めていると、朝潮が問いかけてきたので、特に何を考えるでもなく答えてしまった。不思議がる彼女の顔を見て、あっ、と声を上げる。自分の失態に気付いてしまった。シマカゼになってからは、当然お祭りなんかに来た事はない。何言ってんだこいつって思われてそう……。
「そ、そんな事より、最初は何しようか? 何か食べる? それとも遊ぶ?」
「あ、わっ」
ぱしっと手を掴んで小走りに駆ける。カツンカツンと下駄の音。戸惑う朝潮を故意に無視して、てきとうな屋台へと連れ込む。
焼きそば、焼きトウモロコシ、ケバブ、お好み焼き、牛串、わなげに射的、金魚すくいにボールすくい、数当てゲームに糸くじ引きと、結構出店の種類は多い。見回しただけでこれだから(といっても、艦娘の視力でだけど)、奥の方へ行けば、もっとありそうだ。向こうの方はなんだろう。この通りの一個横。幅の広い石畳の道にも屋台が並んでいるけど、人が少ないな。数人程度。ロープみたいなのが張られて行けないようになってるけど、どういった意図の物なのだろう。
それにしても、こういうのって、見てるだけでもわくわくするな。
出店だけでなく、一般的なお店も台を出して商品を並べている。アクセサリーとか、高そうな腕時計とか。
「ちょっとつまんでから、あそぼっか」
「はい。そうしましょう」
繋いでいた手を離して朝潮に向き直り、最後の屋台を手で示しながら伺いをたてる。手を胸に当てた朝潮は、はにかむように微笑んで、頷いた。
庶民の味である焼きそばに舌鼓を打って、イカ焼きを分け合って、じゃがバターも半分こして、りんご飴を舐めながら散策し、的当てやボールすくいに興じた。
お金は全部俺が出そうと思っていたんだけど、朝潮はそういうのを許してはくれなかった。しっかりした子だ。そういうところも魅力的?
連装砲ちゃんへのお土産用のわたあめも買ったし、お世話になってる明石には駄菓子屋さんのとこでシュガータール限定品のシュガーシュガータールなんてのも買ってみたし、夕張さんには特に何も思いつかなかったので数当てゲームで当てた十特ナイフでも持ち帰ってやる事にした。
ものを食べる彼女の顔も、ペットショップの前に展示された水槽を興味深そうに覗き込む顔も、ずっと眺めていたくなる魅力がある。そうしていると、自分の気持ちを再確認する。どうしてそういう風に思うようになったのか、今もそうなのか。はっきりとした気持ち。
テンテンとヨーヨー釣りで手に入れた水風船で遊ぶ朝潮に、次はどこに行こうか、と声をかける。
そろそろ空も暗くなってきて、花火の上がる時間も近い。でも遊ぶ時間は十分にある。
わたあめの縦に長い袋を弄びながら、目当ての屋台が近くにないかを探る。甘い綿菓子がぎっしりつまった袋には、最近のキャラクターなのか、キラキラとした女の子の絵が描かれていた。草の冠に大きな花があしらわれた、これぞ女児向け! って感じのもの。
もう一つ、ヒーローものっぽいのもあったのだけど、こっちはいまいちピンとこなかった。仮面ライダーっぽくないというか。そもそもこの世界、仮面ライダーは放送されてたんだろうか? もっと外に出れてたら、そこら辺も知れたのだろうけど、あいにくそんな時間は俺に残されていない。
いつ彼女が目覚めるかわからないんだ。でも今は、それを気にせず朝潮と……歩いていたい。
「あった」
「?」
お目当ての出店を見つけて、思わず声に出す。りんご飴、というかもはやりんご串になっているのを赤い舌でぺろぺろ舐めていた朝潮が、目だけを俺に向ける。それ、齧っていいんだよ、と告げつつ、彼女の手を引いて、屋台の前に移動した。
数人の男女が横長のテーブルの前に立って仲睦まじくやっているのを横目に、屋台内の端っこにいるおっちゃんを呼び寄せて、五百円玉と引き換えに、六個のコルク弾を頂く。
お目当ての屋台とは、ずばり射的屋だ。古めかしい木塗りの銃と、奥の棚に並べられた景品の数々。絶対取れないだろうなって思えるものから、当たらなくても落ちそうな物まで、いっぱいある。
「朝潮、何か欲しい物ない? 私が取ったげる!」
「え、ええっと……」
荷物を足下に置き、銃を抱えて朝潮に向き直れば、彼女は気圧されたように僅かに背を反らして、上目づかいで俺を見た。
ここらで良いとこ見せなくっちゃ。格好良さを見せつけて、景品ついでに朝潮のハートも撃ち抜いちゃおう。
「じゃ、じゃあ、その……」
「あの熊さんかな? 大物だねぇ。でも大丈夫、私に任せて!」
「あ、いえ」
言いよどむ朝潮の視線は上段左端の大きな熊のぬいぐるみさんに釘付けだった。目敏くそれを見抜いた俺は、銃口を天に向けて、左手で作った指鉄砲にキスをする仕草をしてみせた。とれそうにない物だって、俺にかかれば簡単に取れちゃうもんね。姉さんが欲しがった物は、そうやって全部撃ち落してやったもんだ。
何か言いたげなおっちゃんに流し目を送る。ふふん、もう遅い。あの熊さんはいただきだ。
「まー見てなって。こう見えても私、射的すっごく得意だったんだから!」
片手で持った銃をめいっぱい伸ばして、熊さんに向ける。
そーれ、シューティングストライク!
◆
「なぁんでぇ!? も、もう一回!」
「あー、お嬢ちゃん……ああ、うん」
なにこれ! 撃っても撃っても当たんない! どーなってんの!?
叩き付けるように置いた五百円玉硬貨がおっちゃんの手に渡り、代わりに六発のコルク弾が手に入る。
銃の半ばを掴んで、横腹の出っ張りを掴んで引き、銃口にコルクを押し込めてから、銃の後床を肩に押し当て、銃床を支えてしっかりと狙いを定めた。トリガーに指を掛け、息を止めて、この際落とせなくても良いからとお腹を狙って撃つ。ピュンと飛んでいったコルク弾は、熊さんの真横を通り抜けて、後ろの布に当たって落ちた。
「はーずーしーたー!」
なんでー!?
「あの、もうその辺で……気持ちだけで良いですから。私、嬉しいですから」
「うぐー……!」
得意なのに、得意なのにとコルクを詰め込み撃っては詰め込みを繰り返していると、朝潮がおずおずと話しかけてきた。そんな事言ったって、今さら後には引けない。格好良いところを見せるって決めたんだ。絶対あのクマ撃ち殺す!
「……わかりました」
俺が諦めないのを察したのだろう、朝潮は溜め息を吐くと、ではこうしましょう、と、俺の腰に抱き付いてきた。背中に当たる布と、布越しの柔らかな熱に、体が硬くなる。
朝潮は、俺の肩越しに景品を眺めると、おもむろに俺の手に自分の手を添えた。銃を持つ手に、小さな手が重ねられると、手の内がじっとりと汗ばんで、内心大焦りになってしまった。
「な、なあに? どうするの?」
「私がサポートします。大丈夫です、こうすれば……きっと落とせます」
緊張してるのを知られたくなくて、強がって振り返ると、至近に朝潮の顔。真剣な眼差しが俺に注がれていて、声が上擦ってしまった。
(あ……)
顔に昇る熱に、背に感じる温かさに、体に回された腕に。触れ合う全部に気が向いていると、ふわりと香るりんご飴の匂い。それと、シャンプーか何かの香りも混じっていて、そういうのが結集してできあがる女の子の匂いに、くらくらしてしまう。
心臓は破裂寸前。どうかこの鼓動が聞こえていませんように、と祈りたいけど、背中に感じる朝潮の鼓動ははっきりと感じられていて、だからたぶん、俺の胸のときめきも、包み隠さず伝わってしまっているんだろうと思えた。
「狙ってください」
「う、うん……」
熱い吐息が首筋にかかる。
素肌も見た事もある。一緒にお風呂に入った事もある。なのに、こんな、ただ一緒に銃を構えているという状況が、ああもう、半端なくって。
「行くよ、朝潮」
「ええ、いつでも」
彼女がここまでしてくれるなら、俺も気合いを入れなきゃいけない。ドキドキはいったん胸の中に押し込めて、前を向き、熊さんを睨みつける。
『ふっふっふ、落とせるものなら落としてみるクマ~!』
にたにたと小馬鹿にするような笑みを浮かべおってからに、もう許さない。
朝潮! これが俺とお前の力だ!
緊張の一瞬。
張りつめた糸に指を這わせるように、細い人差し指が重なって、トリガーにかかった。
「えいっ」
「っ!」
ポコン、とコルク弾が当たった熊さんは、小さく身動ぎして、俺達を見下ろした。
……敗北D。