島風の唄   作:月日星夜(木端妖精)

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遅刻しました!
とりあえず投稿します。



タイプテクニックはクールな心がないとなれない、のにパッションと表記していたのを修正。
パッションはタイプワイルドだった。



・艦これ
傷つき漂う軽巡棲鬼は、傷心していた。
自分の気持ちや、生まれた理由さえ漠然としていて、
自分がしたい事をするには、自分がしたくない事をしなければならない。
あの青空のように自由な心を持つにはどうすればよいのだろうか。
軽巡棲鬼は、傷心していた。

・ドライブ
進ノ介と少女は遊園地でデートをしていた。
おてんばなお姫様に振り回され、くたくたになってしまう。
しかし彼女の笑顔を見ていると、元気がわいて出てくる。
子供というのも、良いものだな。進ノ介は、そんな風に思い始めていた。


4.デート・ア・ライブ・妖精の調べ

 波に揺られ、まどろみの中で目を覚ます。

 しばらくの間夢見心地でいた軽巡棲鬼は、波間を漂う自分に気付いて、体を起こそうとした。

 

『ッ!』

 

 雷に打たれたと錯覚するような感覚に体中が固まる。

 割れた下半身が、強烈に痛む。

 顔を歪め、そっと、傷を刺激しないように海面に顔をつけた彼女は、その冷たさと、ゆらゆらと揺らされる心地良さに、痛みを忘れるためにしばらくそうしていた。

 

 痛い。痛い。

 痛くてたまらない。

 熱を持った体はひっきりなしに痛みを訴え、身動ぎするだけで内側が焼けるような痛みがよぎっていく。

 立ち上がろうにも立ち上がれず、ただ、力無く漂流するのみ。

 惨めだ。

 なんとなくそう思って、軽巡棲鬼は、不意に『惨め』とはなんだ? と疑問に思った。

 自分の今のこの状態は、惨めなのだろうか。

 他のどんな姿が、惨めだと言えるのだろうか。

 わからない。

 生まれつき持っているはずの知識……情報、価値観、記憶。

 彼女からは、たくさんのものが抜けていた。

 微かに脳の奥底にこびりついた綺麗な想い出は無意識にまぶたの裏を掠めるのに、ドロドロとした汚泥のような負の感情は薄れて幕を張り、糸を張り巡らせて、だけど、弱い。

 怨敵を視界の内に捉えれば、それはあっという間に体の中に巣食い、燃え上がるのだけど、こうしてただ波に揺れているだけの時は、そういう気持ちはてんでわいてこない。

 

 嫌だな。

 

 軽巡棲鬼は、目をつぶって、胸の中で呟いた。

 あの人影を見れば、自分はまた、大声を上げて激情のままに走り出すのだろう。

 そうして、怨敵と交差して……きっとまた、こんな風にされる。

 

 痛いのはイヤ。でも、痛くないのも嫌。

 立てないのはイヤ。でも、立ててしまうのも嫌。

 気持ち悪いのはイヤ。心地良いのが好き。

 風を感じていたい。青空を見上げていたい。

 すぅっと息を吸い込んで、気の向くままにリズムを刻んで、ずっとずっと、水平線を目指して動いていたい。

 そんな願いが叶うはずがないという事は、ちょっと前に嫌というほど知った。

 だから、高望みはしない。

 ただ少し、ほんのちょっとの間でいいから、何にも邪魔されず、胸の中の音楽を奏でたかった。

 

『……~♪』

 

 孤独な海に、高い音色の音楽が響く。

 観客のいない演奏会。

 拍手してくれるものは、なかった。

 

 

 馬に跨った少女が頬を紅潮させて、上下する体に笑みを浮かべている。くるくると回る舞台の上から、進ノ介が座るベンチへ向けてぶんぶんと手を振る。周囲の客を気にしつつ、控え目に手を振り返せば、満面の笑み。陶磁器製の馬の首に抱き付いて、はしゃぐ様子を見せた。

 

(あんな風にしてても、バイオリンのケースは手放さないんだな)

 

 少女が手にするケースは大きく、それなりの重さもあるはずだ。それに、いちいち取り回し辛いだろう。

 進ノ介に預けていかないのは、やはりそれが彼女に取って大切な物だからなのか、まだそこまで信頼されていないからなのか。

 どっちもだろう、と結論を出した進ノ介は、馬の上で笑顔を振りまき、ぶんぶんと手を振る少女に自然な笑みを浮かべながら、今度はちゃんと手を振り返した。

 

 

 ティーカップ。遊覧船。ウォーターボート。ゴーカートに、ホラーハウス。それから、大きな観覧車。

 遊園地は、敷地は小さいながらもアトラクションは充実している。人は多く、それゆえに人気の乗り物なんかに乗るのには、少し順番待ちをする必要もあったが、少女は始終楽しげにしていた。彼女には、こういう風に遊んだ経験がないのかもしれない。保護者役の進ノ介としてみれば、こんなに全力で楽しんでいて、いつ電池が切れるかわかったものではなく、ひやひやしている。

 先程も、配られていた風船をはしゃぎながら受け取って、僅か三秒でお別れを果たすというお約束をやっていた。こうやって持つんだよ、と係りの人間に教えられた直後の出来事だった。

 くしゃりと顔を歪め、空へ空へ昇っていく風船を見上げて泣きそうになった少女は、進ノ介がどうあやそうかと考えを巡らせる内に勝手に立ち直って、気を引こうと、袖を引っ張ってきた。

 目を向ければ、しきりに自身の左腕の手の甲付近に当てた右手を、くいっくいっと傾けるポーズを繰り返す。なんだろう。どこか見覚えがある。

 そのジェスチャーがはたして何を意味するのかは、頬を膨らませた少女が進ノ介の左腕に嵌まるシフトブレスを叩く事で、ようやくわかった。

 変身しろ、と。

 そして、今は青空の中の点になっている風船を取りに行け、と。

 子供らしい柔軟(にゅうなん)な発想力というか、周りの目を考えない行動力というか。

 あいにく、進ノ介は仮面ライダーの力をロイミュード関連以外の事で使うつもりはない。たとえそれが、幼気(いたいけ)な少女の頼みであっても、だ。

 代わりに、別の解決策を考える。

 この場合は簡単だ。風船を無くしてしまったのだから、新たな風船を与えればいい。

 

「ほら」

「…………」

 

 係員から受け取った黄色い風船を差し出すと、少女は顔を逸らして、未練がましく空を見上げた。

 それでも、進ノ介がしゃがんで彼女と同じ目線になると、顔を戻して目を合わせてきたし、紐を手渡せば、ちゃんと受け取ってくれた。

 

「今度は失くさないようにな」

 

 小さな手に紐を巻き付け、しっかりと握らせながら言う進ノ介に、神妙に頷く少女。風船を見上げると、顔を綻ばせて、上機嫌に戻った。

 

 全てのアトラクションを制覇する勢いで……というか、実際に順々に回って攻略していく。テンションが強まっていく少女に比例するように、進ノ介のテンションは下がっていった。

 少女とのデートがつまらない訳ではない。ただ、あまりに彼女が元気すぎるので、エスコートに苦心しているだけだ。重いものを振り回してくるくる回ったり、人にぶつかりそうになったり、転びそうになったり。一時も目を離す隙が無い。キャリアと共に積み上げてきた忍耐力や経験も、キッズパワーの前には形無しだ。

 

 手を引かれて移動して、今度はぬいぐるみと記念撮影。進ノ介は、『この暑い中、中の人もお疲れさまだな』なんて考えつつ、少女と寄り添って、にっこり笑顔ではい、ピース。渡された写真には、満開笑顔の少女と疲れた笑顔の進ノ介が写っていた。

 

(俺もまだまだ若いと思ってたんだけどな……)

 

 何時間もしない内に、くたくたになってベンチに座り、もたれかかった進ノ介は、ネクタイを緩めながら、隣で足をぶらつかせつつソフトクリームを舐める少女を見やった。

 24歳、働き盛り。それでも子供の行動力に振り回されれば、エンジンに火をつけるための燃料もすぐに底を尽きる。

 あっという間にうずまきバニラをやっつけた少女は、指についたアイスをぺろぺろと舐めている。そこに疲れの色はこれっぽっちも浮かんでいない。まだまだ元気いっぱいだ。

 買い与えたアイスに向かっていた意識も、もう何秒もしない内に、どこかの恐怖の館か、はたまた巨大な円へと向かう事だろう。休憩にもならない。

 

 少女が口元にも白いのをべたっとくっつけているのを見かねた進ノ介は、腕を動かすのも億劫だと思いつつ手を伸ばし、一本たてた指先で拭ってやった。

 そうすると、少女は両手で進ノ介の腕を捕まえ、何を思ったのか、指を口元に近付けさせた。ちょこんと舌を突き出した。乳白色と血色の良い赤が混じった小さな舌。

 バニラの匂いがふわりと香る。指に残るバニラアイスをこそぎ取るように前後した舌が、指先に絡まりついて、そのままぱくりと口に含んだ。ほんのり冷たくも高い体温を感じさせる口内でも、緩やかに舌は活動を続けている。今度はちうちうと吸いつき始めた。

 こそばゆく、むず痒い。進ノ介の顔にはなんとも言えない微妙な表情が浮かんでいた。

 

(赤ん坊か、こいつ)

 

 進ノ介はされるがままで、自分の指に吸い付く少女の顔をぼーっと眺めている。止める気力はないし、止めればおそらく不機嫌になる事はわかりきっているから、止める気もない。わがままなお姫様の気まぐれに付き合う他ないのだ。

 少女が顔を上げ、進ノ介と目を合わせると、ぺろりと舌を動かして見せた。一種妖艶な仕草だ。少女には幼い色香とも言える不思議な魅力があったが、残念な事に進ノ介にはまったく効いていなかった。朴念仁というより、普通の人間といったところか。進ノ介にそういった趣味はないのだ。

 ただ、にま~っと笑ってみせる少女につられて笑うと、こういう風に子供と過ごすのも良いもんだな、と思えてきて、頭の中も胸の中も、すっきりした。

 笑顔が燃料に代わる。少女の笑顔で、疲れも吹き飛ぶ。

 もし自分が子供を持つ事になったら、こうやって遊園地や、大きな施設に遊びに連れていきたいものだ。

 その時、隣にいる女の子は、こんな幼い少女ではなく……。

 

 白い光の中、自分に微笑みかける霧子の姿を幻視して、慌てて進ノ介は頭を振った。

 なぜここであいつが出てくるのか。わからない。わからないなー、なんて言いつつわざとらしく首を傾げる。

 そんな彼をどう思ったのか、少女はベンチから飛び降りると、代わりにそこへ置いたケースを開いて、バイオリンと弓を取り出した。

 持ち上げたバイオリンの後部を鎖骨に当て、顎で押さえて弦に弓を乗せ、目をつぶる。ゆったりと、弾きだした。

 

 穏やかな旋律がざわめきの中に流れる。

 思わず目を細め、恍惚として聞き入ってしまいたくなるような魔力を持った調べ。

 激しく、高く。緩やかに、低く。

 揺れる体と、前後する弓。

 すっ、と手を持ち上げて、人差し指で一本の弦を弾いて「ポン♪」と音を鳴らした少女が、続けて弓を当て、動かし、演奏する。

 小さな小さな音楽会。

 弾くべき時と聴かせるべき相手。今この時、進ノ介がそれに選ばれたのだろう。気まぐれな少女が弾きたいと思ってくれた幸運。自分のために音楽を捧げてくれる優越感。

 そういったものが安息となって、進ノ介は眠るように、ただ、バイオリンの音色に耳を傾けた。

 何にも邪魔されず自然と届いて耳朶を振るわせる音の一つ一つが、胸の中に染み込んで、そこにある何かを震わせる。じんと目頭が熱くなった。

 

 時間にして五分もなかっただろう演奏が終われば、進ノ介は意図せず、立ち上がって拍手をしていた。音楽にこんなに心を動かされたのは初めてだった。惜しみない拍手が、目の前の少女一人に贈られる。

 目をつぶり、胸を張って手を上げた少女は、『やーやー』とでも言うかのような動作で、進ノ介に手の平を掲げてみせて、制した。

 止められるまま手を下ろし、されど笑顔を浮かべたまま、言う。

 

「凄いな、星夜ちゃんは」

「…………?」

 

 当然でしょー。

 バイオリンを下ろし、何気なく見上げてくる少女の顔には、そう書いてあるように思えた。

 

 

 大型ワゴン車を運転する男は、強い焦りを浮かべてアクセルを踏んでいた。

 ミラーに映るのは、後部座席の二人の男と、背後に迫るパトカー。

 苛々とした様子でハンドルを操っていた男は、ああもう、と両の拳をハンドルに叩き付け、瞬間、モザイクに包まれた。男は鈍色(にびいろ)の怪物に変貌していた。それは後部座席の二人も同じだった。

 窓を開けて身を乗り出した後部座席の二人が、背後のパトカーへ両手を向けると、指先からエネルギー弾を連射する。道路のあちこちが弾け、小さな爆発が連続して巻き起こり、先頭を走っていたパトカーが大きく左右に揺れ動いた。

 怪人の妨害にパトカーはやむなく停車、中の警官は無線機で応援を呼んだ。

 

『警視庁から各局、逃走中の機械生命体――』

「やっぱりロイミュードだったか。いくぜベルトさん」

「OK。スタート・ユア・エンジン!」

 

 遊園地からの帰り道、入った無線に従って移動を開始した進ノ介は、逃走者の正体が怪人だと知ると、すかさず腰に巻いたベルトさんの右部、イグニッションキーをつまんで捻った。ベルト内部の機構が稼働し、待機状態に入る。同時にトライドロンがトンネルのような空間に入り込んだ。天井を彩る赤青黄色。色とりどりの蛍光灯がトライドロンを照らし出す。

 待機音声が鳴る間にシフトスピードを手に取り、ハンドルを握る左腕のシフトブレスへ滑り込ませて装填した進ノ介は、素早く構えてレバーアップ操作を行った。ベルトさんのディスプレイの表記が『Go!』『R』『S』と変わっていく。

 

『ドラァーイブ! ターイプ・スピード!』

 

 ベルトさんのコールに合わせ、半透明のパーツが一気に進ノ介の全身に装着される。真っ赤に塗装された情熱ボディに、ぴっちりスーツの黒。最後にトライドロンの前輪から放たれたスピードタイヤが飛来し、半透明の車体を突き抜けてドライブとなった進ノ介の体にぶつかった。左肩から右脇腹にかけて嵌まる。衝撃に身を揺らしたのも一瞬、次には、明るい道路を走行する車の中だ。

 

「よっしゃあ、ギアを入れるぜ!」

「……」

 

 変身を間近で眺めていた少女がパチパチと手を打つのに気を良くして、スピードを上げたドライブの視界に、走行する数台のパトカーと一般車両が見えた。どれもがのろのろと動いている。どんよりだ。

 ハンドルを左右に切り。車の間を塗って前へ出れば、大型ワゴン車が重加速の中をひた走っていた。追跡していたパトカーと大分距離が空いているが、それは仕方のない話。どんよりの中では、普通の車では動くのも困難なのだ。

 が、普通の車とトライドロンでは、勝負にならない。アクセルに置いた足を少し強く踏み込めば、すぐに追いついた。

 窓から身を乗り出す怪人、コブラ型とスパイダー型のロイミュードが放つ光弾を避けながら、ワゴン車の横に出るトライドロン。窓越しに運転席を見れば、そこに乗っているのはバット型の下級ロイミュードだ。胸のナンバーは『---』。ジャンプロイミュード。

 

「止まれ!」

『うお、仮面ライダー! 止まれと言われて誰が止まるか!』

 

 トライドロンによる体当たりを仕掛けようかと思ったが、車体に傷がつくのを嫌って声をかけるに留めたドライブに、怪人、ジャンプロイミュードは大袈裟に肩を跳ねさせて、叫んだ。ぐんとワゴン車のスピードが上がる。が、意味はない。トライドロンがその横をぴったりついていく。

 

『ええい、消えろ!』

 

 業を煮やしたジャンプが、先にワゴン車での体当たりを敢行する。直前にブレーキを踏んだドライブによってそれは不発に終わり、ぶれた車体はなかなか正常な動きを取り戻せない。

 

「あの車の中には、盗んだ物があるんだよな」

『トライドロンでの攻撃や体当たりは控えるべきだ』

 

 ドライブの呟きにベルトさんが答える。そうだ。それに、激しい動きは、助手席に座る少女の身にも危険を及ぼす。

 街に向かうワゴン車とトライドロン。どんよりの範囲内に入ってしまった車が不規則な動きで道を塞ぎ、衝突しあって火花を散らす。その中を、なんとか車を動かし、切り抜けていく。ワゴン車は他の車両との衝突を恐れてかなり減速しているが、取れる手段が少ないせいで、トライドロンからは何もアクションを行えない。

 向こうはそんな事お構いなしに光弾を撃ちまくってくる。万が一にも当たる訳にはいかない。こっちには子供がいるんだ。手に汗を握り、いつもより緊張してハンドルを握るドライブに呼応して、ベルトさんも険しい顔で黙り込んだ。少女だけが、目まぐるしく変わる風景に、無邪気な笑みを浮かべて喜んでいた。

 

 いつまでも続くかと思われたカーチェイスに、先に音を上げたのはジャンプの方だった。

 完全に街に入ると、人も車も多くあり、重加速現象の中でそれらが動かなくなると、大型の車では通り抜けるのが困難になってきたのだ。

 

『くそ、ああ、もういい! どうせこのダイヤも俺の心を跳ねさせてはくれなかったのだ!』

 

 捨て台詞を吐いたジャンプが、窓を割って外へ跳び出す。背中にある羽など使わず、ぴょんぴょんと跳ねて道路を行くのに、配下らしき二体の下級ロイミュードも扉をスライドさせて飛び降り、ジャンプの後を追って走る。

 残されたのは、暴走する無人車だけだ。このままでは前の乗用車に激突する!

 

「間に合え!」

 

 イグニッションキーを捻り、シフトスピードを引き抜く。代わりにセットするのは、緑の車体の、シフトテクニック。変身用シフトカーだ。シフトアップ操作でレバーを倒せば、コールと共に装甲が剥がれ、再構築されていく。

 

『タァイプテクニーック!』

 

 情熱の赤から冷静(クール)の緑へ。意味も姿も大きく違う。斜め掛けだったタイヤが首の下、胸部の上にガコンと嵌まる。と同時に、トライドロンにも変化が訪れた。

 

『ドロン・トライドロン!』

 

 人の乗れる部分が宙に浮かぶと、残りの車体がひっくり返る。赤かったトライドロンは、緑色に変化していた。車体全部の左右から伸びる細い手は、パワーと繊細さを兼ね合わせたスーパーロボットアームだ。

 二本の腕が目の前のワゴン車を掴み上げ、持ち上げる。ドライブの方も、テクニックの計算によって導き出された最適な手順を、仮面の内側に映し出される光によって認識しながら、ブレーキを踏みつつハンドルを切った。持ち上げた車両を振り回さないようにしながら、自身も他の車両とぶつからないように速度を落とす。

 二つの車両の間をぐんと抜けていく。ほんの数ミリ、右か左にずれてしまえば、大事故は免れない。だが切り抜けた。この運転はタイプテクニックだからこそ成せた神業だ。まさにドライビングテクニックと言ったところだろう。

 

 路傍に車両を下ろし、自身はアクセルを踏んで街の方へ。ロイミュードを野放しにする訳にはいかない。このまま後を追おう。

 その際ちらりと少女を見た。危険だから降ろそうか……と考えたのがばれたのか、腕に抱き付いて離れようとしない少女をそのままに、一路、街へ。

 重加速現象は続いている。街の外れに向かって跳躍するジャンプロイミュードと、地面を走ってそれを追う二体の下級ロイミュード。

 

(どこへ向かうつもりなんだ?)

 

 疑問に思いながらも、人気がなくなったのを良い事にスピードを上げた。

 

 

「……見失った?」

「?」

 

 細い通りを緩やかに走らせながら、周囲を窺うドライブ。あれほどぴょんぴょん飛んでいた怪人の姿は見当たらない。

 本当に見失い、取り逃してしまったのか、それともどこかに潜伏しているのか。

 やがてトライドロンは、一本道の前までやってきて、止まった。

 

「……っ! ……っ!」

「星夜ちゃんは、ここにいるんだ。そのケースから手を離しちゃいけないよ」

 

 車を降りようとするドライブに、慌てて『自分も』とシートベルトを外しにかかる少女を制し、よく言い聞かせる。

 

「いいか、絶対に車から出ちゃ駄目だ。お兄さんとの約束だ」

「…………。…………」

 

 じーっとドライブの顔を見上げた少女は、やがて、緩慢な動作で頷いてみせた。ドライブも頷き、車を降りて、バタンとドアを閉める。

 いつの間にかドライブの手には、車のドアを模した銃が握られていた。見た目通り、ドア銃という名の武器だ。赤い車体に薄水色のガラス窓。上部にシフトカー装填用の通路が設けられている。

 これで素早い遠距離攻撃が可能になった。どこから敵が飛び出してきても対処は可能だろう。

 

 道の先は、左右に背の高い建物が並ぶ通りになっていた。有名なチキンのチェーン店や、海産物専門の店などがある。その中を、注意深く見渡してから、歩き出す。

 

「……おい」

「…………」

 

 二歩も歩かない内に足を止める羽目になった。

 理由は、後ろをちょこちょことついてくる少女にある。

 

「駄目だって。本当に危ないんだ。星夜ちゃんも、あいつらの怖さは知ってるだろ?」

「……!」

 

 車の外に出てると、あいつらがやってきて食べられちゃうぞ。

 軽く脅しをかけると、効果があったのか、ケースを抱き締めて身を縮込めた少女は、そそくさと助手席の方へ逃げていった。

 

 気を取り直して、道の先へ体を向ける。

 敵はどこだ。逃げていないなら、まだ近くにいるはず。潜伏しているのだとしても、タイプテクニックはそれを暴き出す。

 頭頂部の左右に備わった複合アンテナ、シャンクリッパーアンテナは、広範囲の動体反応と熱源反応を察知する。その能力は、たとえ目の前の敵との戦いに集中していても、背後から迫る敵へカウンターを叩き込めるほどだ。

 だから、どんなに抜き足差し足忍び足で近付いて来ようが、ドライブにはお見通しなのである。

 

「星夜ちゃん」

「!」

 

 うんざりして振り向いたドライブに、少女は大袈裟に肩を跳ねさせてびくっとした。しかし、ばれたなら仕方ないとでも思ったのか、さささっと傍まで走り寄ってくるのに、どうしたものかと心底困ってしまった。

 一緒に連れて行って怪我でもさせたら大変だ。いや、怪我では済まないかもしれない。守りながら戦うにしても限度がある。

 自律走行もでき、数多の攻撃機能を備えるトライドロンの中にいてくれるのが一番安心できるのだが、むくーっと膨れて離れる気配のない彼女の様子を見れば、たとえ無理矢理押し込んでも抜け出そうと暴れるだろう事が予測できた。

 ロック機能とかないのか、と呟くドライブに、『中に何者かを閉じ込める事は想定していなかったからね』、とベルトさん。自動で鍵は閉まっても、内側からなら簡単に開けられてしまう。まさかそんな事はしないと思うが、万が一走行中に鍵を開けて外に出られたら大参事だ。

 ああ、子供ってなんて手のかかる。思わず額に手を当てようとしたドライブの内側、メット内部に表示された情報は、敵の接近を示していた。

 重加速の中でこの素早い動き、ロイミュード以外にいない。

 

「はっ!」

『――グウッ!?』

 

 建物の陰から飛び出してきたロイミュード、スパイダー型に、ドア銃による先制の一撃を見舞ったドライブは、続けて右斜め上空、建物の屋上から飛び出してきたコブラ型にも光弾をお見舞いした。

 先に立ち上がったスパイダー方が両手を突き出す。光弾発射の前兆。紫色の光エネルギーがバババッと放たれた。

 焦らず、慌てず。タイプテクニックの目、マルチハイビームアイは前方広範囲の状況を速やかに装着者へ伝える。飛んできた光弾の数、位置、到達予測時刻。そして迎撃の順番。右腕が持ち上がり、同時に流れるように連射。全ての光弾を相殺する。荒野のガンマンのような早撃ちだった。

 指にひっかけたドア銃をくるりと回転させつつ胸元に引き寄せたドライブは、左手で銃のドアを開閉させてチャージを行うと、スパイダー型へ向けてトリガーを引いた。

 

『ぐわわっ!』

 

 三発の光弾が肩、胸、足に当たり、ロイミュードが吹き跳ぶ。お次はこちらへ走り寄ろうとしているコブラ型だ。同じく三発当てれば、似たような動きで吹っ飛んだ。

 

「こいつらがいるって事は、ジャンプは」

『ここにいるぞ、仮面ライダー』

 

 背後、空から落ちてきたジャンプロイミュードが着地するのと同時、振り向いたドライブがドア銃を撃つ。地面を穿った。ジャンプは、転がって避けたのだ。

 

『約束だ。お前に奪われたものを、返してもらいに来たぞ』

「……!」

「そうはさせるか」

 

 少女の肩を引いて腕の中に寄せたドライブが啖呵を切る。

 

「お前の望むものなんて、星夜ちゃんは持ってない」

『なぜそう言い切れる』

「さあな」

 

 進ノ介は、おそらく、いや、ほとんど確信していた。あのサファイアこそ、ジャンプロイミュードが求めるものだと。

 なぜならば少女はそれ以外に何も持っていないからだ。彼女にあるのはバイオリンと、ケースの中の紙幣と硬貨だけ。服の中にだって何かを隠してはいなかった。――彼女が転んだ際に見えたのだ。白いドロワーズとピンクの肌着が。

 だから、奴の求めるものが純粋な『物』ならば、彼女はそれを持っていないと言い切れるのだ。

 

 なぜジャンプが宝石を見ても反応しなかったのかのピースはまだ見つかっていないが、この考えは当たらずも遠からずだろう。宝石の解析結果に左右される考えではあるが、ここでジャンプを倒してしまえば、それを待つ必要はない。

 

『俺を倒すだと?』

「そうだ。お前を倒し、星夜ちゃんを守る」

『面白い。ならば守り通してみせろ!』

 

 バッと手を上げたジャンプに呼応し、スパイダー型とコブラ型が並んで、ドライブの背後をとる。囲まれた形になった。

 状況は若干不利だ。タイプテクニックは周囲の状況を手に取るようにわかりはするが、そのすべてに同時に当たれる訳ではない。何より、少女という守るべき者がいる状況では、動き辛過ぎる。

 一斉に飛びかかられでもした時、はたして、少女を守り切れるだろうか。

 張り詰めた緊張の糸を感じ取った少女が不安げに見上げてくるのを情報として受け取りながら、ドライブは三体の動向を見逃さないよう、集中力を高めた。

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