島風の唄   作:月日星夜(木端妖精)

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肝試しイベント。前編。


本編
   小話 肝試しではなにが起こったのか


 二日間の完全休暇中に鎮守府のみんなで何かをやろうという話が出てから僅か数分。

 その日の夜に肝試しをやると決まって、駆逐艦以外の先輩方は準備に奔走した。

 半日でいろいろ準備できるの? とか、下町でやると聞いたんだけど、許可ってすぐとれるの? なんて心配は無用だった。

 俺達駆逐艦がのんびりゆっくりしている間に準備が進められ、空も暗くなってくると、館内放送や口頭で招集がかけられ、リラクゼーションルームに集まった。

 ずらっと並んだ駆逐艦の前に司会役の青葉が立って、今から向かう場所がどこなのか、やる事は何かを改めて説明している。

 

「下町の八ヶ沙神社周辺、鎮守の森にて肝試しが行われる運びとなりました。先日の花火大会に行った人は覚えがあるかもしれないですね。縁日が開かれていた場所のすぐお隣です」

 

 もう屋台は畳まれて普通の通りになってしまっているかもしれないが、しかし多くの艦娘にとって外は未知なる世界だろう。なので、通る道は決まっていながらも、少し時間を置いてから鎮守の森前、街に面した祠の前に集合となった。せっかくの機会なので、興味を持ったものにできるだけ長く触れていられるようにという提督の計らいだ。

 就寝時間は決まっているのであまり長くぶらつけるわけではないが、それでも喜ぶ艦娘は多かった。

 さすがは藤見奈提督、話がわかる! なんて黄色い声を上げて、青葉が部屋を出て行くとわちゃわちゃとかしましく話し合い始める艦娘達。祠までの通り道にはどういった施設があるのか、街とはどんな場所なのかを知っている子に聞いたり、縁日に行った子へ話を聞いたりとかなり盛り上がっている。

 

「島風ちゃん、具合悪いっぽい?」

「……ううん、元気だよ」

「そう?」

 

 お楽しみ一色な雰囲気の中で、居心地悪く立つ俺に気付いた夕立が人の合間からとことこと寄って来た。具合が悪いというより機嫌が悪いのだが、今この場で怒りを露わにしてもなんの益にもならない事はわかっているので、なんとか飲み込もうとしつつ、再度『元気だよ』と繰り返した。

 

「……ふぅん?」

「……どうしたの、夕立ちゃん。何かご用事?」

 

 斜め前に立った夕立が腰の後ろで手を組んで、体を折って下から覗き込んでくるのを見返せば、気になっただけっぽいと体を戻した。

 

「夕立ちゃぁ~ん、子日(ねのひ)達もそろそろ行こうよ!」

 

 突っ立っているだけの俺と違って、部屋の中の駆逐艦達は話しながら部屋の外へ流れている。時間に限りがあるのだから、班を作ったらすぐ出発してるみたいだ。

 夕立の班のメンバーなのだろう、子日が小さく飛び跳ねながらやってきた。その後ろをついて歩くのは菊月と綾波だ。四人一組。くじ引きで色分けされた班編成は、普段あまり言葉を交わさないような子とも組めるようにできているので、きっと暗い道中、一緒になって怖がっていれば親しくなる事もあるだろう。

 一転、俺の班は見知った人が半数を占めているので、あんまりそういうのに期待はできない。

 

「これが夕立のチームっぽい!」

 

 隣に着地した子日が腕を掲げて決めポーズをするのにノッてか、夕立は他の二人を腕で示して得意気な顔をした。

 

「あら、夕立が旗艦ですか?」

「そういえば、そういった……細かい事は決めてなかったな」

「子日も旗艦になりたいなぁ」

「ここは譲れないっぽい!」

 

 綾波と菊月も二人に並ぶと、なんだか俺を取り囲むようになって話し始めてしまった。きりりっと眉を寄せて勇ましい顔をする夕立に、常にテンション高めの子日と、おっとりマイペースの綾波に、おとなしめの菊月。……この組み合わせ、大丈夫なんだろうか。テンションの高低差が激しいんだけど……ああ、でも、菊月もそわそわしてる感じで肝試しを楽しみにしているみたいだから、問題なさそうか。

 まあ賑やかなのは良いんだけど……俺、今、機嫌悪いんだよね。

 だから今はあんまり、目の前に笑顔とかそーいうのは嫌なんだけどなあ……。

 

「ちょっと、いつまでお喋りしてるのよ!」

 

 きゃっきゃにゃっほいと話す夕立達に刺々しい声がかけられた。

 みんなが顔を向けた方向に、満潮が立っていた。……その隣に、朝潮……。

 

「いつまでそこで突っ立ってるわけ? はやく来なさいよ」

 

 ……彼女が声をかけているのは、夕立達にではない。俺個人だ。

 

「呼んでるよ!」

 

 言われなくてもわかってるよ。

 子日が元気よく声をかけてくるのに曖昧に頷きながら、重い足を前に出して歩き始める。

 

「それじゃあ、島風ちゃん。また後で」

「うん、夕立ちゃん。また、後でね。……君達も、それじゃあね」

 

 いちおう礼儀として、去り際に他の子にも挨拶をしておく。

 それから、全身鉛にでも固められているかのような気分で満潮と朝潮の下へやって来た。

 

「遅い」

「……」

「何よ、だんまり? ……ふん。さっさと行くわよ」

 

 眉を吊り上げてやけに怒った風に言う満潮に頷けば、彼女は「で、もう一人はどこよ」と辺りを見回した。

 もう一人……。そう、満潮と朝潮は、くじ引きの結果俺と同じ班になったのだ。

 こないだ振られて以来言葉を交わしてない朝潮に、つんつんした妹さん。気まずいったらありゃしない。不機嫌だった心の中は、居た堪れなさというか居心地の悪さに塗り潰された。

 それでももう一人がいたなら、まだマシだったんだけど……。

 

「吹雪ちゃん、いないみたい」

「いないって……どういう事よ」

 

 吹雪。彼女も俺達の班のはずなんだけど、なぜかずーっといないのだ。夕飯の時も見かけなかった。

 

「意味わかんない……」

「吹雪さんが来るのを待った方が良いかしら」

 

 満潮の隣に立つ朝潮が思案顔で提案する。……気まずい。たぶんだけど、向こうもそう思ってるんだろう。あんまりこっちを見ようとしてない。それに少し傷ついてしまう自分がいた。

 ……柔だなあ、俺。

 

「……まあ、いいわ。来ないものは仕方ないし……私達だけで行きましょ」

 

 満潮はそう結論付けると、朝潮の腕をとって出口の方へ足を向けた。顔だけ俺に向けた朝潮が、しかし何も言わず連れて行かれるまま前を向いてしまった。俺も黙ってそれに続く。

 別の感情に隠れたとはいえ、不機嫌は残ってて、だから、今口を開いたら何か悪い事を言ってしまいそうな気がして吹雪の件について何も言えなかった。

 

「何もたもたしてんのよ。時間なくなっちゃうでしょ!?」

「……ああ、うん」

 

 ゆっくり歩いてたら、出入り口から顔を覗かせた満潮に怒られてしまった。だというのにちっとも体がびくつかない。普段ならキツイ彼女の物言いにびくびくしそうなものなんだけど……やっぱりお昼に言われた事、自分で思ってた以上に嫌な事だったみたい。

 ……戦うな、って。……憧れてたのに。……一緒に、戦えると思ってたのに。

 ううん、あの人の事は、今はどうでもいい。守るために戦うとか、そのために生きてるとか、そういう事を考える時でもない。……今はこの薄い重苦しさがかかった班行動を乗り切らなきゃ。

 気持ちを切り替えて部屋を出る。廊下を行く二人に小走りで追いつき、満潮の右隣に並んだ。そうすると彼女はじろっと俺を睨みつけてきた。身長の関係で少し顎を上げて俺を見上げる彼女の薄黄色の大きな瞳を見返してみる。だんだんと細まって、より威圧的な感じに……。

 さっと目を逸らし、その向こうの朝潮を窺う。彼女も俺を横目で見ていた。一瞬視線が絡み、慌てて顔ごと逸らす。ただ目が合っただけなのに、ドキドキしてなんともいえないむず痒さが全身を襲った。

 

「……急ぎましょ」

「あ、え、ええ……」

 

 わかりやすく舌打ちした満潮が朝潮の腕を引いたまま歩く速度を速めた。呼びかけるような言い方だったけど、実質朝潮にしか向けていない言葉。朝潮は戸惑いながらも、満潮にされるがままで足を速めた。……満潮に嫌われてる気がするのは……気のせいだろうか。

 隣に並んでまた先を行かれたらヤだな、と漠然と思って、彼女達の二歩後ろをついて歩く。本棟を出てゲートを通り抜け、専用の通路を使って徒歩で敷地外に出る。少し進めば、もう街だ。

 決められたルートというのはわかりやすい。鎮守府からほとんどまっすぐ一本道。花火大会の時に一度通っているから案内を買って出ようかと思ったけど、二人も何度か外出している事を思い出して、やめた。二人共、足取りたしかに先を進んでるし。

 

「…………」

「…………」

 

 点々とある街灯に照らされたその通りは、縁日の時と比べて、なるほどたしかに寂しげだ。あんなにたくさんいた人も並んでいた屋台もない。喧噪もない。あの時開いていたお店もまだ閉店してはいないものの、外に台を出して商品を並べているなんて事もなかったから、とても静かだった。

 同じ道を数人の艦娘が行くのを見かけた。暗いショーウィンドウに張り付いて、飾られた流行りの服を眺めていたり、古本屋の薄汚れた看板を立ち止まって見上げていたり……様々だけど、みんな楽しそうにしていた。

 それに比べてうちはどうだろう。空気は重くて、朝潮とは顔も合わせられなければ、満潮からはなぜか敵意がビンビンに飛んでくるし、そんな関係なので会話もない。ここに吹雪がいればその明るさと実直さで場をとりなしてくれただろうし、なんとか会話を作ってくれたかもしれない。彼女がいない事が本当に悔やまれる。ああ、吹雪ちゃん……君が欲しいよ。まじで。

 

 斜め前を歩く彼女達の横顔をちらちら見ていれば、ふんわり甘い香りが鼻先を掠めた。バニラ……ん、香ばしい生地の匂い。それから、瑞々しい感じ……。

 たぶん、ケーキだ。でもこの通りにケーキ屋さんなんてあっただろうか?

 視線を巡らせると、少し先の街灯の下、何かのお店とお店の間に屋台が一つ開かれているのを見つける事ができた。匂いの元はそこだ。赤いのれんに『まちのケーキ屋さん』の文字。

 四人組の女の子――もちろん、艦娘なのだけど――がきゃいきゃいとのれんをくぐって出てきて、楽しげにお喋りしながら手を口に運んで何かを食べている。ケーキにしてはそんな大きさはないみたいけど……何を売ってるんだろう。タルトかな。カップケーキとか?

 少し興味があったから入って見たかったんだけど、満潮はスルーするつもりみたいだ。俺一人だけで動く訳にはいかないから、我慢するしかない。

 

「ね、少し寄ってみない?」

「……朝潮、興味あるの? ……なんでそんなにそわそわしてんのよ」

 

 前を見て屋台の横を通り過ぎようとした際、朝潮が満潮の耳に口を寄せて小声で言った。満潮は意外そうな顔をして足を止めると、屋台を眺めた。あっと声を漏らす。

 なんだろうと視線を追えば、屋台の中には小さなケーキ屋さんが展開されていた。

 横幅が大人二人分くらいのショーケースは上下三段にわかれていて、豊富な種類のホールケーキが並べられていた。定番のショートケーキだとか、チョコケーキだとか、モンブランとかチーズとか。

 そのどれもが、小さいのだ。手の平サイズ……それも、駆逐艦の子くらいの。

 

「いらっしゃい」

「三原先生……ここは、三原先生が?」

「ええ。意外かな?」

 

 のれんをくぐれば、ケースと向こうの壁との二メートルもないだろうスペースに、エプロンをつけた三原先生が立っていた。朝潮が姿勢を正して見上げると、先生は柔和な笑みを浮かべて落ち着いた声で聞き返した。いえ、と慌てて首を振る朝潮。

 

「そういうお話は、耳にした事があります。先生の作るケーキは絶品だと……その」

「正直信じてなかったわよ、先生って、そういうの得意じゃなさそうだったんだもの」

「ふふ、そう見える?」

 

 言い辛そうに言葉を濁した朝潮の後に、満潮が続けると、先生は口元に手の甲を当てるとくすくすと笑った。なんてことない仕草なのに、上品な感じ。

 

「ここでは私はパティシエールだ。味は保証するよ」

 

 おすすめはレアチーズケーキだよ、とケース越しに小さなホールケーキを指して見せる先生につられて目を向ければ、それぞれの値札に目がいった。全部百円……。安いって感じてしまうのは、ここが前にお祭りをやっていた場所で、このお店が屋台だからだろうか。いろんな匂いが入り混じっているのに気分が悪くならないのはどういった手法だろう。

 

「朝潮、食べたいの?」

「……ええと」

 

 先生のオススメを聞いた満潮はふんふんと頷くと、それから朝潮に問いかけた。彼女は言葉に詰まりながら、どうしてか俺の方をちらりと見てきた。

 ……ひょっとして朝潮が満潮をこの屋台に誘ったのって、俺がここを気にしてたから?

 なんて。……それはちょっと都合の良い解釈かな。

 真面目な朝潮だから、目の前にいるのが先生だって事もあって買い食いに抵抗があるのだろう。

 

「じゃあ、私はレアチーズケーキ貰おうかな」

 

 なので、率先して買い食いしてみせる事にした。

 欲しいケーキを頼むと先生はプラスティック製のトングを手にしてケースの背面扉を開け、ホールケーキを挟み、もう片方の手に持ったこれまた小さな紙皿に乗せた。

 代金を払いつつお皿を受け取る。……明らかにトングの方が大きかったのに、ケーキに跡がついてない。凄い繊細さだ。

 ……これ、本当に食べられるんだよね? なんか消しゴムみたいな感じがする。子供の時によく見かけたなぁ。そういうの。

 ショートケーキの超ミニサイズも、ワンホールの中にしっかり苺が並べられていた。半分に切った苺。それもまた極小サイズだ。だから、そういった類のものと疑ってしまうのもおかしくないだろう。だがこの質感は、この匂いは消しゴムや何かに出せるものではない。

 朝潮と満潮もそれぞれ好きなものを頼んでいる横で、一口サイズのワンホールケーキを指でつまみ、むぐっと口に押し込める。途端に、チーズのクリームの滑らかさと酸味が口の中に広がって、唾液が溢れるのを感じた。

 ……………。

 …………。

 ……。

 うまし。

 感想は、それぐらいしか出てこなかった。おいしいの一言。手で口を覆ってもぐもぐすると、そのたびに幸せが増して……先生、パティシエールだって言ったけど、ひょっとしてパティシエの資格持ってるのかな。プロの仕事だ、これ。

 俺だってケーキならお店のものに負けないくらいのは作れるけど、それより上となると難しくなる。小さいのに作りもしっかりしてるし……これで百円か。元とれてるのかな。

 

「んむ、おいし……!?」

 

 思わずといった様子で目を丸くしておいしいと言いかける満潮に、朝潮もこくこく頷いて同意した。朝潮のはフルーツケーキだ。……このケーキの凄いところは、小ささや味ではなく、あれだな。ミニサイズの不思議なフルーツ。見る限り飴細工や砂糖菓子ではない。瑞々しく、まるで本物の果物のようで……でもだとすると大きさがおかしい。

 ……いや、そういうのもあるのだろうか、この世界には。

 よく考えてみれば、俺ってあまり鎮守府の外を知らないんだよな。もしかしたら宇宙へ続く軌道エレベータがあるかもしれないし、猫型ロボットがいたりするのかもしれない。未知なる世界だ。とっても小さなフルーツがあってもおかしくないだろう。

 満足しつつ汚れた指を服で拭おうとして、すっと伸びてきた先生の手に止められた。

 

「これを使いなさい」

「あ、ありがとうございます」

 

 屋台内、脇に備えられた箱からお手拭きを取り出した先生が手渡してくれたので、ありがたく頂戴する。ゴミは本来この先の広場で捨てる感じになるみたいだったけど、俺達はここで食べ終えたので、先生が回収してくれた。

 

「ありがとうございました!」

「ふふ。お礼を言うのは私の方だよ。ありがとうございました……ね?」

「あ、いえ、そんな……」

 

 朝潮が律儀に感謝を示して直立すると、先生は逆に朝潮に頭を下げた。膝元に両手を添え、綺麗な角度でのお辞儀。……やっぱりどこかで働いてたのだろう。先生からは手慣れた感じがした。……何やっても先生なら違和感ない気もするけど。

 

「結構良かったわね」

「他のものも気になるけど、時間がないのが残念ね」

「帰りにもやってるといいんだけど」

 

 小腹も膨れたところで、祠を目指して歩き出す。

 甘いものを食べたためか、不機嫌も重い空気も吹き飛んで、俺達は自然と言葉を交わしていた。

 

「みんな食べたものが違うし……あの大きさなら、たくさん買って帰っても食べきれそうだね」

「催しが終わる時間には、こういったものの飲食はあまり好ましくないと思うのですが……」

「給湯室の冷蔵庫に入れといたらいいんじゃないかな。しっかり名前を書いて」

「盗み食いする奴は絶対に現れるわ。絶対よ」

 

 帰りに先生の屋台が残っているかはわからないけど、ある事を前提に話す。朝潮は俺に対する時と満潮に対する時できっちり口調を切り替えるのだけど、それが気にならないくらいご機嫌になっていた。満潮も言い方は刺々しいままだが、幾分余裕のある声音で断言した。過去に同じような事があったのだろうか? 盗み食い……。

 

「もし屋台が畳まれちゃってたら、今度私が代わりに作るよ」

「はぁ? 作るって……――」

「……満潮?」

 

 あんまり盛り上がってて、帰りの際にがっかりするのも嫌なので提案してみると、満潮が何かを言いかけた。たぶん、ケーキを、と続くんだろうけど……なぜか彼女は口を閉じると、半眼で俺を睨んで朝潮の方へ寄った。え、何その反応。俺の体になんかついてる? 虫とか。

 身を捻って体を確認したり、ひょっとしてチーズケーキの拭き残しが、と頬を触っていると、満潮は何も言わず戸惑う朝潮の腕を引いて歩き出した。

 それで、わかった。この子、やっぱり俺を嫌ってるみたいだ、って。

 それはたぶん朝潮関連で、だ。朝潮の方へ目を向けようとすれば盾になるように動くし、話しかけようとしてみれば彼女が先に朝潮へ話しかけてしまう。俺の言葉を遮っているのだから、当然朝潮も満潮が意図的にそうしていると気づいているのだが、こちらを気にしつつも会話してしまって……なんか、疎外感。

 振られたうんぬんも重い空気もうやむやになってたのに、満潮が邪魔するせいでまたそういう雰囲気に戻ってしまった。

 ……いいよ、そういうふうにするんなら、こっちにだって考えがある。

 

「あさし――」

「ついたわよ、祠」

 

 ちっ、なんてタイミングの悪い。満潮を気にせず強引に会話しようと思ったのに、それは取りやめだ。

 

 古ぼけた祠の後ろには雑木林が続いている。前に朝潮と一緒に入った場所だ。ここで集合して順次突入していく訳だけど、その順番は決まっている。俺達は二番目だ。

 

「はいはーい、青葉です。第一班はすでに出発し、道も半分を超えている事でしょう。聞こえますか、この悲鳴が」

「なんにも聞こえないわよ」

「あり? そうですか? おかしいなあ」

 

 横からぬっと出てきた青葉が現在の状況を伝えてくれた。探照灯装備の彼女が雰囲気づくりのためか、悪い笑顔で脅かしにかかってくるのだけど、艦娘イヤーを以てしても聞こえてくるのは木々のざわめきくらいだ。機械の調子が……なんて言ってるのはばっちり聞こえましたけどね。

 青葉がささっと茂みを飛び越えて夜闇の中へ消えていくと、向こうの方からか細くも恐ろしい悲鳴が聞こえてきた。

 俺達は顔を合わせて、とりあえず聞かなかったふりをする事にした。どう考えてもヤラセである。

 戻ってきた青葉も俺達を見てヤラセに気付かれたとわかったのだろう、『とりあえず笑って乗りきろ』みたいな笑みを浮かべて、ささ、そろそろスタートです、お覚悟を! と煽った。

 

「基本は道なりに進むだけです。この奥に八ヶ沙神社の(やしろ)があるので、今から渡すこの十円玉をお賽銭として収め、あるものを回収して戻ってくるだけの簡単なお仕事です」

 

 はいほいはいと十円玉を渡して回った青葉が、最後に「はいこれ、探索には必須の懐中電灯です~」と満潮の手に安っぽいそれを握らせた。良い笑顔で手を振りつつ、それでは健闘を祈るーっ、と茂みの向こうに飛び込んで行ってしまった。

 

「……もう行っていいのかしら」

「みたいだね」

 

 結構唐突な感じで、これから肝試しをやるぞ! なんて心構えはできていないんだけど、どうやらもう始まってしまったらしい。しかし戻ってくる艦娘というのがまだ戻ってきていないのはどういう事なのだろう。少しルートが違うのかな。

 

「とりあえず先に進みましょう」

「う、うん」

「わかってるわよ」

 

 促す朝潮に、俺はちょっとびびり気味だった。だって、木々の向こうは暗闇が満ちていてこの目でも見通せない。ここ数十日の間意識した事はなかったけど、俺は夜が苦手なのだ。つまりはまあ、こういった暗い森の中、今からめいっぱい脅かしにかかりますよー! みたいなロケーションは、俺の天敵なのだ。

 思い出す。子供の頃、まだ存命だった両親と姉さんと一緒に有名なテーマパークへ行った際、興味本位でお化け屋敷に足を踏み入れてしまった事を。初めは興味津々期待に満ちていた俺は、ぎゃん泣きに次ぐぎゃん泣きで姉さんを困らせ、まだ小学生だった姉さんに抱っこされて途中退場という…………うん、そこまで思い出す必要はなかったな。

 とにかく俺は夜が嫌いだ。じゃあなぜこんな肝試しイベントなんてものに参加しているのかといえば、そりゃ全員参加なのだし――といっても、吹雪や叢雲、電は参加していないのだが――嫌な気分をどうにかしたかったのもあって、参加を決めたのだ。別にまた朝潮と話せるようになったらいいなーなんて下心はない。あんまりない!




TIPS

・まちのケーキ屋さん
前作ネタ。

・夕立班の人選
╰('ω')╯にゃっほいっ☆

・夕立班のにゃっほい
╰('ω')╯にゃっほいっ☆

・子日班の子日
子日

・今日は何の日?


・シマカゼの不機嫌の理由
番外編

・吹雪と叢雲の不参加
番外編

・ハイスピードロップ
トライドロンや連装砲ちゃんに敵の周囲を旋回させて、
自身は高速回転するトライドロンまたは連装砲ちゃんを足場に
何度も執拗に敵を蹴りつける高威力の必殺技。
発動に前動作は必要なく、やろうと思えばいつでもできる。

・番外編でカットしたシーン
・艦これアーケードへ突っ込む際の、次元跳躍装置稼働シーン
発進! みたいにしたかった

・レ級が夕張製シフトカーを捕まえて中の妖精を捕食する事により
 重加速中にも動けるようになるシーン
ちょっちグロイ気がしたので削った

・三原先生が星夜の面倒を見るという事になる流れ
時間的なアレでバッサリ。
のちに加筆修正でなかった事に。

・ケイちゃんのその後
たぶん妖精として楽しくやってる。

・改二戦闘シーン
カットカット。
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