この世界にはロイミュードがいるらしい。
見せたい人がいる、と言われて案内される道すがら説明されたのは、先日
……川内、ロイミュード?
相変わらずぶっ飛んでるなあ、この世界。
というか、会わせたい人、じゃなくて見せたい人、なんだ。
モノ扱い?
"ロイミュード"とは、ありていに言えば人型の機械である。
狂気の科学者蛮野が生み出した機械生命体。
その数、108。
彼らロイミュードは人の記憶と姿を奪い、心や感情を知ろうとする。
全ては進化のため。
"約束の数"を揃え、
でもそれは、私の世界の、ひいては仮面ライダードライブ=泊進ノ介が戦った世界の話。
時間的に向こうもロイミュード108体の撲滅はとっくに完了して平和な時を過ごしている事だろう。
だからロイミュードがいるはずない……のは、こっちの話で、この世界とは関係ないか。
で、だ。
この世界にいるロイミュードってどういった存在なのだろう、という疑問が浮かんでくる。
蛮野博士がいなければロイミュードは生まれない。でも現実に彼らはいるらしく、なんらかの考えの下に動いていると聞いた。
川内ロイミュードを鹵獲した時の状況を綾波さんはこう説明した。
『随分大人しくお縄についたらしく、まるで自ら捕まりに来たようだった、と聞きました』
伝聞調なのは、綾波さん自身が直接鹵獲した訳ではないからみたい。
一度面会した時には、やはり"ロイミュードらしく"綾波さんの反応や心の動きを探るような言動をしたみたいだけど……うーん。話を聞いただけじゃ彼ら……彼女らの真の目的がわからない。
川内ロイミュードは綾波さんに会いたかったから来たと話したようだけど、そういった小さなスケールじゃなく、もっと大きなスケールでの話。
いったい何を目指して動いているのだろう。
約束の数を揃えるため? 艦娘の姿をとったなら、深海棲艦を倒すため?
……さっぱりわかんないや。
わかんないなら考える必要はない。学校のテストだって答えがわからなきゃ空欄のまんまにしてたしね。それでいいんだ。
大切なのは、私が元の世界に戻るとっかかりをどうにかして掴む事。
そして、このロイミュードという敵生体は、なんとなく私の帰還に繋がりそうな気がする。
女のカンってやつかな。中身二割くらい男だけど。
「ねー? 連装砲ちゃん」
『キュー?』
両腕で抱いた大きな連装砲ちゃん、『連ちゃん』に声をかければ、彼女はヘラのような手をぱたぱた振りつつ私を見上げて、不思議そうに鳴いた。
この連装砲ちゃんは、正真正銘このシマカゼの連装砲ちゃんだ。
この子達とは何年も昔にお別れしたはずなのに、カンドロイドだとか妖精さん達だとか艤装と同じように私の下に戻って来たのだ。
具体的に言うと、てきとーにカンドロイド弄ってたら連ちゃんが一匹排出された。それだけ。
ひょっとしたら装ちゃん砲ちゃんもカンドロイドの中に眠ってるのかもだけど、あいにくこいつは故障しててまともに動かせない。
非力な私を許してね。
「うっ!?」
「うん?」
おーよしよしと連ちゃんの頭を撫でていれば、急に綾波さんが動きを止めた。
抜き去って歩いてしまったので振り返れば、なんか凄い前のめりになってゆーっくり倒れようとしているではないか。
私はその現象に見覚えがあった。
ついでに、さっきまでロイミュードの事を考えていたので、すぐにピンときた。
これは機械生命体が発する重加速現象、通称どんより!
一定の範囲内の無機物有機物問わず動きをおもっくそおっそーい! にしてしまう厄介な技だ。
でも残念。私にはこの連ちゃんがいる。ついでに言えばカンドロイドもある。
ずっと昔、今は懐かしき夕張さんが連ちゃんに施してくれた改修によってその身にコア・ドライビアを搭載した連装砲ちゃんはどんよりの中でも動けるし、自らも限定的な状況下でのみ重加速を発生させる事で素早い機動が可能になった。
どんよりを打ち消す波動を発するドライビアが搭載されているのは、夕張さん謹製のカンドロイドも同じ。
これを身に着けている限り、私はずっと速い!
……だから何、って話だけど。
私が動けても状況がよくわからないから突っ立ってる事しかできない。
肝心の綾波さんが動けなくなってしまっているのが困りもの。
連ちゃんでも押し付けたら動くようになるかなあ、なんて考えていれば、私達が歩いて来た方の道からエンジン音が聞こえてきた。
見れば、真っ白なバイク――仮面ライダーマッハのマシン、ライドマッハー――が爆走してきているではないか。
そのお供として空中を走行してきたミニカー、青い車体のシフトフォーミュラが手に触れた綾波さんは、途端に呪縛から解放されたようによろめいて、それからすっと背筋を伸ばした。
わあ、凛々しいお顔。
「シマカゼ、それを」
「え? 痛った!?」
ぼうっと彼女を見ていたら頭になんかぶつけられた。拍子に取り落とした連ちゃんがころころ転がって行ってしまう。
すわ敵襲かと驚いてしまったけど、なんて事はない。アタッシュケースがぶつかってきただけだ。
……いや、何それ!
誰の仕業だよと怒りながらも拾ってあげる辺り、私は優しい女だね。
……って、このアタッシュケース凄い見覚えあるんですけど!
黒塗りに白字で『SMART BRAIN』のロゴマーク。
開けてみれば、予想通り中身は銀色の変身ベルトと道具一式だった。
「Let`s、変身」
しゃがみこんでケースを床に置き、懐かしいを通り越して骨董品の域に達している二つ折りケータイ……携帯型返信デバイス・ファイズフォンとベルトを取り上げていれば、横では綾波さんが仮面ライダーマッハのポーズをノリノリで披露していた。
ははーん、なるほど。私にも読めてきたぞ。
こいつは綾波さんのサプライズだな?
仮面ライダーが好き~って話した時、じゃあどのライダーが好き? って話題も出たもんね。私、その一人にファイズを挙げてたし、それでわざわざおもちゃ用意してくれた訳だ。
人間を自称し、人間として生きながらもその実艦娘である私は、なるほど『人間じゃない!?』って称号持ちで、ファイズに変身するには相応しいって訳ね?
「なーら、私もノリノリで……変身!」
さっと腰にベルトを巻いて、右手を返して持っているケータイをぱかりと開き、ノールックで『5・5・5』のキーをプッシュ。
待機音が流れる中、携帯を閉じて天高く掲げ、勢い良くベルトのバックルに差し込んで横倒しにすれば完了。
「へへー、綾波さん、どう? 似合ってる?」
「……そういうのは後にしてくれます?」
「え?」
いえーい、って感じにお腹を突き出しつつ両手でベルトを指し示したら、ギロッと睨みつけられてしまった。ほわーい。なんか悪い事したかな私。
……似合ってないのかな?
むー、でも見た目的にはおかしくないでしょ? ベルト巻いた島風、かっこかわいくないかなあ。
「聞こえてるー? ねえってばー。おーい、綾波」
はしゃいでた気持ちが沈んでいくのを感じていると、近くから艦娘の声が聞こえてきた。
川内さんだ。昨日聞いたばかりだから間違えようがない。
しかしその出所は私達が向かっていた独房の方からだ。
てことは、今のは例の川内ロイミュードか。
どんよりを発生させたのも彼女なのだろうか? ……なんのために?
「襲撃者の目星は大体ついてるからー。ね? 出してよ綾波ー」
「……誰かわかるのか」
うわ綾波さん目つき悪っ!
私を睨んだ時とは違った感じにイケナイ顔した綾波さんが独房の方を振り向く。
きっと川内ロイミュードに良い感情はあんまり抱いてないのだろう。
……というか、襲撃者って単語とか綾波さんの雰囲気見る限り、これ、もしかしてライダーごっこ遊びしましょって誘いじゃなくて、ほんとの襲撃なの?
……そりゃ怒られるね、うん。
でもだって、それならこう、仮面ライダーとかに変身してくれたらわかりやすかったんだけどなあ。
音だけ鳴って見た目はそのままだったら玩具だと思うよね。うん、仕方ない仕方ない。
「ねー、連装砲ちゃん」
『キュー』
ちょこちょこ歩いて足下まで戻って来た連ちゃんを拾い上げながら言えば、彼女は首を傾げて一鳴きした。
ひゃーん、かわいい。
「とりあえず彼女に話を聞きに行きます。遅れないように」
「ん、ちゃんとついてくから」
くいっと顎で独房の方を示す綾波さんは、見た目は華奢な女の子なのに、妙にサマになっていた。
格好良い女の子ってこんな感じかー、なんて眺めてたら、風を残して掻き消えた。
……ちょっ!
「っとぉ!?」
慌てて私も走り出せば、思っていたよりも速度が出た。
驚いた事に身体能力がかなり上がっている。
体を動かせばわかる。ベルトからエネルギーが腕の先、足の先まで送り込まれているのが。
変身アイテムをパワーアップキットとして運用してるんだ。お洒落な発想ね。
原理としては艤装と同じようなもんなのかな。
「遅れないように、と言ったはずですが」
独房へ辿り着いた時には、既に綾波さんは川内ロイミュードを解放した後だった。
悪戯っぽく言った綾波さんにわざとらしく拗ねてみせる。
説明もなしに競争を始めるなんてずるい。
……でも、綾波さんにもお茶目なところがあるんだね。
彼女は小さく笑って――ちょっと子供っぽい笑い方だった――、それから真剣な表情で川内ロイミュード……長いな、川内でいいや。呼び捨てにするのは変な気分だけども。……川内を見上げた。
それにしてもこの川内、見た目は私の知る川内さんとなんら変わりがない。
ロイミュードの能力上、それは当然の事なんだけど……朗らかで元気そうな笑みを浮かべた表情も同じとなると、それって同一艦と何が違うの? って思ってしまう。
姿形も性格も違う同一艦の艦娘は、育った環境と経験した戦場で微妙に性格や言動が異なってくる。
でもそれはロイミュードも同じ。
コピー当初はまったく同じような人間でも、その後過ごした時間と環境で幾らでも変わっていく。
なら……この川内も、もはや艦娘と同じなのかもしれない。
「それで? 襲撃者って誰だ」
綾波さんは、例の口調で静かに問いかけた。
頭の後ろに両手をやった川内が答える。
「うちのバカ、もといレ級elite」
まーたお前か。
『レ級』と聞いた瞬間、懐かしいような、呆れたような、はたまた怒りに似た感情が胸の中を渦巻いて、危うく変な声を出してしまいそうになった。
が、先に綾波さんが「またあいつか」って言ったので、なんとか口の中に留められた。
レ級……レ級ねぇ。良い思い出ないなあ。
さんざん苦しめられたし、さんざん戦った。
難しい話はするわ、理不尽だわで、ほんとヤな奴だった。
しかしこの世界のレ級は私の世界の『戦いを永遠に続けさせる役割を持つ』だとか『強くなりすぎた者を間引く』だとか、ヘンテコな目的を持ったボスみたいな奴ではなさそう。
敵の一種、といった感じ?
それでも同じレ級に苦しめられている者同士、うんざりした様子の綾波さんに妙に親近感が湧いてしまった。
ぽんぽん、と肩を叩けば、胡乱げな目を向けられてしまったので、私はあなたの気持ちわかるよ~って目で見つめ返してあげた。
……なんで溜め息がもっと深くなるのかな?
「ねぇ!」
するり、私と綾波さんの間を抜けて通路側に立った川内が満面の笑みを浮かべて綾波さんと、それから私を見た。
今から隠しに隠してきたとっておきで驚かせちゃうぞーって気持ちが見て取れる悪戯っ子な笑み。
「次の戦闘でさぁ」
けど、その瞳の奥の冷たさは、私の知る川内さんとは全然違っていて。
「私の進化態、見せてあげるよ」
息を呑む綾波さんの横で、「ああやっぱり、こいつは川内さんじゃないんだな」って思う私であった。
……なら、遠慮なく壊せるね。安心安心。
TIPS
・変身ベルト
ここでの変身ベルトは艦娘専用、着用者の能力値を底上げする形になっているみたい。
見た目上の変化が出ないので、シマカゼは玩具だと思った。