あとタイトル詐欺でしたすみません。
「すまない、俺もこんな事はしたくないさ」
「お前は何も悪くなかった。悪いのは全部あの野郎だった」
「だがお前のやったことは大本営にとっては都合が悪い。そして本来ならあり得ないことらしい」
「俺たちはそれがねじ曲げられるのを見てしまった。俺が独り身ならそれでも良かった。だが俺には姉貴がいるんだ」
「許してくれとは言わない」
「だが……せめて祈らせてくれ。次があるなら、もっと良い人間の元へ……」
「ああ……、終わったよ。霞、摩耶、潮、天龍、龍田、羽黒、春雨、浜風、神通……。全部終わった、アイツがやってくれたよ。そんなアイツを……俺は……」
*
古い夢を見ていたようだ。
眩しい朝の光がまぶたを越えて網膜を刺激する。ゆっくりと目を開けると目の前には女の子の寝顔が見える。俺の手は彼女の手をしっかりと握っていた。
「は……?あ、あぁ」
口から漏れる声は高い。
そういえば今の俺は如月なんだった。……夢じゃなかったのか。
これはもう戻れないのか……?いや…………まあいいか。
無理矢理考えるのを止め、高波を起こさないようにベッドから出る。周りを見ると他のみんなもまだ起きていないようだ。たぶん、まだ起きなくても良い時間なのだろう。
「とりあえず、着替えようかしら?」
小声で呟きつつ支給された寝間着を脱ぎ、あらかじめ借りていた睦月の制服を着た。
「ん……?」
服に首を通したとき、髪の毛が一瞬引っ掛かるのを感じた。
寝癖だ!
そう思った瞬間俺の心の奥底からある衝動が沸き上がった。直さなければ。寝癖など有ってはならない。だがこの部屋には必要な道具が揃っていない。
「そうだ……お風呂」
たしか脱衣所にはくしやドライヤーが完備されていたはずだ。時計を見ると時刻はまだ四時半。俺はみんなを起こさないようにそっと部屋を出た。
*
やっぱりだ。脱衣所の複数並んだ洗面台にはくしとドライヤーがちゃんと置いてあった。これでこの寝癖を……
「あれ?那智さん。先客がいるみたいだよ」
「む?見ない顔だな。新入りか?」
後ろからかけられた声に振り返る。そこには二人の艦娘が立っている。一人はセーラー服を着た、髪に隠れた片目と長いリボンが特徴的な少女。重巡洋艦の加古。もう一人は紫の制服を着た長い黒髪の女性。重巡洋艦の那智だ。
「は……はい。昨日配属された駆逐艦如月です」
自己紹介して一礼。もしかして挨拶回りとか行ったほうが良いのだろうか?
「あたしは重巡洋艦加古。こっちは……」
「重巡洋艦那智だ。これから共に戦っていこう」
二人に差し出された手を握る。身長差のせいで屈んでもらわないといけないのが申し訳ない。
「さて、では行くか」
俺との握手を終えた那智はいきなり自分の服に手をかけた。
「貴様らも早く脱げよ」
そして一瞬で服を脱ぎ、タオルを巻いた入浴スタイルに変身した。
「あ、待ってよ那智さん。ほら、如月も脱いで脱いで」
それに続いて加古もタオル姿に早変わりし、俺の服まで一瞬で引っぺがした。加古は俺に向かってタオルを投げ、俺の服をくるくると丸めると籠に放り込んだ。それ皺になるから止めて。
「よし、行くぞ」
二人の顔を見るとなんとなく赤い。明らかに酔っぱらってる。俺はなすすべもなく風呂場に連行されていった。
*
濡れた長い髪に手を突っ込む。そしてあとは如月の体が動くままにまかせる。何も考えずとも体が覚えているのか手はなんの迷いも無くスムーズに髪の手入れを行う。
「いやー、お湯が体に染みるぅー」
「うむ。やはり朝風呂はいいものだ」
ちらりと、後ろの浴槽スペースを振り返る。頭にタオルをのせ浴槽の壁にぐったり寄りかかる加古。さらに同じく頭にタオルをのせ浴槽で胡座をかく那智。艦娘と風呂に入るというので緊張したが心配なかった。酔っぱらってるせいか仕草がオヤジ臭い。というか彼女たちの髪は如月よりも長いがそんな雑で大丈夫だろうか……などと遂に他人の髪の心配まで始めたところで髪を洗い終わる。
「お、早く来い」
那智に誘われて浴槽に足を踏み入れる。そしてそのまま膝立ちになり、肩まで湯に浸かる。膝立ちになるのは呼吸を確保するためだ。つまり完全に腰を下ろすと身長が足りない。
「ふぅ……」
ゆっくり息を吐き浴槽のふちに両手とあごを乗せる。寝起きの少しダルい体に湯の温かさが染み渡る。確かにこれは気持ちいい。ここに来る前は朝風呂など入ったこと無かった。家の湯船と違いここは常に(掃除時間は有るだろうが)お湯が張ってある。毎日来てもいいかも知れない。
「気持ちいい……」
「そうだろ?」
「だから私たちも止められんのだ」
自然と漏れた言葉に二人が反応する。危ない。如月の話し方で喋るのを忘れてしまいそうだ。
そんな危機感をいだきつつ湯に浸かっていると出入口の磨りガラスに人影が写る。誰か他にも朝風呂に入りに来た人がいるのだろうか?
出入口が開かれる。そこにいたのは二人の重巡洋艦の艦娘だった。奇妙な事に浴室の扉を開いたというのに服を着ている。彼女たちの制服はそれぞれ共に湯に浸かっている二人と同じデザインをしている。一人は加古と同じセーラー服を着た茶色い髪のオッドアイの少女。もう一人は那智と同様の紫色の制服を着用し、髪を上品に纏めた女性。つまりそれぞれ彼女たちの姉、重巡洋艦古鷹と重巡洋艦妙高だ。二人は険しい表情で自分の妹を見ている。
「げっ……古鷹」
「う……妙高姉さん」
二人の妹重巡はその姿に慌てた様に声をあげる。
「やっぱりここにいたのね加古。いま何時だと思っているの?」
「貴女もですよ那智。また朝まで飲んでいたのですね」
姉二人は厳しい口調で問い詰める。それに対し、妹二人は姉から露骨に目を逸らしている。それにしてもいま何時って……
「えーと、そこの貴女も」
「は……はいっ!」
ヤバイ。古鷹の矛先がこちらを向いた。
「見かけない顔だけど……」
「昨日着任した駆逐艦如月です」
相手は俺のことを知らない様なので自己紹介をする。古鷹は多少納得した様子で続けた。
「この鎮守府の運営は午前五時三十分からなんです。次からは気をつけて下さいね」
「はい」
返事をしつつ浴槽からあがる。手早く、多少雑に髪を拭いてすぐ脱衣所へ向かう。
「二人とも、夕方に私の部屋に来てくださいね」
加古と那智の断末魔が響いた。
*
服を着て外に出ると既に時計は五字十五分を指していた。
「急いだほうがいい……わね」
慌てると語尾を間違いそうになる。とにかく小走りで部屋に向かう。
「お、如月。ちょっといいか?」
その途中、男性の声に振り返る。俺の存在を知っている男性など一人しか思い浮かばない。提督だ。無視するわけにもいかず停止する。
「おはようございます」
「ああおはよう。お前に伝えたいことがあってな」
提督がこちらに歩いてくる。
「お前が洗濯に出した服を確かめたんだがな。あ、俺がじゃねえぞ。鎮守府の名前が書いてなかったんだ。たぶん元々鎮守府所属じゃなかったんだな」
つまり、ドロップ艦と言うことか?
「そんなわけで、お前は正式にずっとここの所属だから。じゃ、いっていいぞ」
提督は言うだけ言うと去っていった。ということは、俺はずっとここで生きていく?いや、今は部屋に帰らなくては。後で考えよう。
俺はすべての疑問をさっさと頭の隅に追いやると部屋に向かって走った。