勢いでこの鎮守府に入ってしまったが……。
「本当に大丈夫か?」
海戦の経験などもちろん無い。無いのだが……
「出来る気がする」
出来る気がするというよりやりたい。やりたくてしかたがない。主砲を撃ちながら敵艦に肉薄し、魚雷をぶちこみたい。
どう考えても俺の欲求ではない。如月はこんなに好戦的なのだろうか?それとも駆逐艦、もしくは艦娘全員がここまで好戦的なのだろうか?
「いや、落ち着こう」
内心はともかく、はっちゃけるのは如月のキャラではない。
指示された部屋のドアの前で深呼吸。
「よし。コホン」
如月の口調の準備よし。ドアを開ける。
「はじめまして。きさら……」
「子日アターック!!」
痛い!鼻に……鼻に何か当たって……!
「ヤバイ!誰かに魚雷当てちゃった!」
「み……深雪さまは関係ないからな……」
「……それより……だれ?」
「たぶん、今日配属が決まった新人さんかも……です」
誰か、複数人の少女が頭上で話してるのが分かる。が、無理、立てねぇ。
……うずくまったまま立てない如月(今の俺だが)を想像したら興奮してきた。
「あの……大丈夫……ですか?」
そのうちの一人が鼻を押さえる俺の手に触れ……
「大変かもです!鼻血が出てる!」
え……?
再び目を開けた俺の目に入ってきたのは自らの血にまみれた如月の制服だった。
*
現在の如月の状況。鼻に栓をして下着一枚で毛布にくるまっている。
「本当にごめんなさいっ!」
「調子に乗りすぎました!」
俺の前で頭を下げる二人の艦娘。話を聞くところによると必殺技の練習をしていたところで偶然俺が入ってきてヒットしたと言うことらしい。
「大丈夫よ。もう怒ってないから」
本当はめっちゃ怒ってる。鼻栓下着毛布が第一印象とかあり得ない。如月の美貌が台無しだろうが。
「あ……あの……。それじゃあそろそろ自己紹介に移っても良いかも……ですか?」
「ええ。睦月型駆逐艦二番艦『如月』と申します。よろしくお願いしますね」
ゆっくりと一礼。その時さりげなく鼻を隠すのを忘れない。
「よ、よろしくお願いします!夕雲型駆逐艦六番艦『高波』です……。第八八四二駆逐隊の旗艦をやってます……」
俺に続いて先程鼻血の処理をやってくれた緑髪の少女が挨拶した。それにしても高波が旗艦とは……なんというか性格に合わない気がする。
「それから……朝潮型の霰さんと初春型の子日さん、特型駆逐艦の深雪さんです……」
高波が指したのは煙突のような帽子を被った小柄な艦娘『霰』、ピンクの髪を三つ編みにした少し背の高い少女『子日』、短い黒髪の自信に満ち溢れた艦娘『深雪』。どれもゲームで見慣れた艦娘ばかりだ。……全然使って無かったけど。
ルンガで囮になった高波はともかく、霰、子日、深雪は目立った活躍エピソードが思い付かない。
「んー?何か失礼なこと考えてなーい?」
「そ……そんなこと無いわ……あはは」
エスパーかと思うようなタイミングで顔を覗きこんでくる子日に笑って誤魔化す。初対面でいきなり模擬魚雷ぶつけて来るヤツほどではない。
「ところで、今日はこれから予定はあるのかしら?」
俺的には何も無いのが望ましい。俺が如月という訳のわからない状況を整理したいし、鼻血だし、下着だし。
「えーと、今日は午後から演習の予定が入ってるかもです」
うん。まあそう簡単にはいかないよね。それに……
「おおおぉぉぉ!遂に演習だ!」
「子日アタック炸裂の日!」
「……楽しみ」
深雪、子日、霰もヤル気満々。水を差せる雰囲気では無い。
「確かに……早く太い魚雷を撃ち込みたいわ……」
俺の、いや如月の魂が既にヤル気になっている。砲雷撃戦がしたくてたまらない。我慢が出来ない。
「それで、演習相手は誰なんだ?」
「……早く、教えて……」
「はい、えーっと……」
書類に目を落とし、演習相手を見た高波の動きが止まる。
「んー?どーしたの?」
子日が高波の手から書類を奪い取る。そして演習相手を見た子日もやはり動きを止めた。
「それで、結局誰なのかしら?」
俺はさらに子日の手から書類を抜き取った。文書作成ソフトで作られたであろう規則的な明朝体の文字を読み進め、演習相手を探る。
「え……?」
見間違いかと思い、目を擦ったあともう一度書類を見るやはり書かれている文字に変わりはない。
「『ソロモンの牙』駆逐隊?」
書類の文字を読み上げる。部屋は沈黙に包まれた。