ヲ級改が……ヲ級改がぁ……
あ、丙だとボスは大したことないですね。ボスは。
左手にマウントした単装砲を夕立に向ける。さらに俺の意思に呼応するように空中に三基の単装砲な浮かび上がる。史実通り、実艦と同じ数の砲だ。
「撃ち方は……体が覚えている。行ける……。いや、行けるわ」
突進してくる夕立に砲撃を開始する。
「狙いが甘いわ。そんなんじゃ当たらないっぽい」
夕立が速度を上げる。俺の放った砲弾は夕立の後方に着弾する。夕立はさらに速度を上げ、構えた連装砲で前方の海面へ砲弾を叩き込んだ。
「あっ……見失った?」
水柱が立ち、足下の海面が波立つ。夕立の姿は水柱に隠され、海面の揺れでバランスを崩される。
回り込んで来るか……いや、彼女の性格を考えると……
「正面!」
水柱を突き破り、拳を振りかぶった夕立が飛び出して来る。
「ぽいぃっ!」
振り下ろされる拳を両手をクロスすることで咄嗟にガードするが乱れた海面のせいで踏ん張れない。そのまま数十メートルも飛ばされる。
「砲雷撃戦しろ……しなさいよ!」
「甘いっぽい」
夕立は勢いを殺さず、海面を蹴ってさらに加速し、落下中の俺に肉薄する。
「そんなこと言ってると、戦場で沈むよ」
俺の体に強い衝撃、夕立の回し蹴りが叩き込まれる。
「がはっ……」
さらに数十メートル、海面を転がるように飛ばされる。どう考えても船の動きじゃない。
「い……た……」
立ち上がろうとするが蹴られた脇腹が痛くて立ち上がれない。というより痛みが怖くて動けない。
「これで終わりね」
真上から夕立の声。膝をついた状態のまま振り返ると上空に魚雷を逆手に構えた夕立が急降下してくるのが見える。
心の中で、得体の知れない苛つきが起こる。この身体はまだ戦闘を終えたくない。そう思っているらしい。さらに絶対に勝つという意思も感じる。
「ぐっ……」
痛みを怖れる反射に逆らい、心の奥から生じる衝動に身を任せ、全力でその場を飛び退く。一瞬遅れて今までいた場所に巨大な水柱が立ち、舞い上がった水が雨のように海面に降り注いだ。
「勝手に終わらせないで欲しいわ」
もう痛みは気にしてられない。しっかり海面を踏みしめ、主砲を夕立に向ける。
「へえ、あれで倒せなかった新人さんは始めてっぽい。さあ、早く続きを……」
夕立は右手に主砲を、左手に魚雷を、そして副砲をこちらに向ける。
「最高に素敵なパーティーしましょう!」
二人同時に主砲を発射、そして全速力で相手に接近する。俺の放った砲弾は夕立の遥か後方、夕立の放った砲弾も俺の後方に着弾する。
夕立はさらに左手に持った魚雷を俺に投げ付けてくる。それを主砲で迎撃、小規模な爆発が起きて赤いペンキが撒き散らされる。命中率はそこそこ。行ける。
全力で接近した俺たちは互いに右の拳を握り、前へ突き出す。
「くっ……」
右手には確かな手応え、しかし左頬にも強い衝撃が走る。
「ようやく本気になったみたいだけど……そんなんじゃ無理っぽい」
さらにとんできた左ストレートを防御。受け止めた腕がビリビリと痺れる。
「あなたの出力では私に勝てないっぽい」
さらに二連撃。
「楽しかったけど……これで、終わりっぽい」
夕立両拳を握りさらに攻撃を続ける。一撃受ける度にガードしていても体力がごっそり削れるのがわかる。このまま殴りあっていてもこの身体では勝てない。夕立の言う通りパワーが足りない。なら……
「ぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽい…………ぽおぉぉぉい!!」
連撃の後、最後にあった一瞬の溜め。その一瞬で狙いを定め、突き出された腕を掴み、投げ飛ばす。
夕立はさっきの俺のように飛ばされ、海面に落下するとさらに転がっていく。同時に俺の腕もミシリと軋む。俺は合気道をやっているわけでもない。衝撃を殺しきれてない。
「うーん。なかなかやるっぽい?」
夕立が立ち上がる。髪や服装が乱れているが気にしている様子はない。
「でも、それでもまだ夕立が上っぽい。次で終わりね」
夕立がぐっと身を沈める。どうする……殴り合いでは勝てないしあの投げ飛ばしはもう一度使うことは出来ない。どうすれば……
握り込んだ拳が足の魚雷発射管に当たる。…………忘れていた。この身体は駆逐艦だ。夕立があまり殴るから忘れていたが俺は主砲も魚雷も持っている。そして工廠で見つけたアレも。
「煙幕展開」
背中の艤装から煙が上がり、俺の周辺を包む。視界が無くなる直前、夕立が真っ直ぐに突撃を開始するのが見えた。だがこの煙幕は逃げるために張ったのではない。
「魚雷って太いわよね!」
決め台詞とともに三連装魚雷発射管から六本の魚雷を発射する。さらにその魚雷を追うようにして俺も突撃を開始。煙幕を抜けると変わらず真っ直ぐに突撃してくる夕立が視界に入る。夕立は魚雷を認識すると直ぐに飛び上がって回避した。
「まだよ!」
俺は空中の夕立に向かって四つの爆雷を投げつけ、主砲で狙い射った。爆雷は砲弾を受けるとペンキをぶちまけながら爆発する。
「おしいっぽい」
しかし夕立は空中で激しく身を捻り、ペンキを全て回避した。そしてそのまま握り込んだ拳を振り上げる。
「あと一手あれば捉えられていたっぽい」
なら、こちらにはアレが残っている。
「そう。ならこれでいいのね」
背中の艤装からアレを引き出し、夕立に投げつける。アレは夕立に巻き付くとペンキを撒き散らしながら爆発した。
「な……何これ?こんな兵装知らないっぽい!」
顔までペンキまみれになった夕立が海面に落下する。
「知らなくて当然よ。この『一号機雷』は睦月型までしか装備されなかったもの」
一号機雷は六つの機雷がワイヤーで繋がったもので、日露戦争時代に開発されたかなり旧式の兵装である。白露型どころか特型も知らないだろう。
説明しながら夕立に主砲を突きつける。夕立は離れようとするが、その前に……
「急いで逃げなくても良いわよ。今、如月が楽にしてあげる」
夕立の額に向けて主砲を放つ。夕立の顔はさらにペンキで汚れ、髪の毛にまでべったりとくっついていた。
「ふう、終わった」
主砲を下ろし、一息つく。夕立との戦いに夢中で忘れていたが他のみんなは大丈夫だろうか?苦戦しているに違いない。
「早く誰かのところに……」
「その必要は無いわ」
独り言が遮られる。顔を上げるとマスト状の槍を担いだ叢雲が仁王立ちしていた。
「まっ、スジは悪くないわね。アンタも他の奴らも。『ソロモンの牙』最弱とはいえ夕立を倒すなんてね」
叢雲はチラリと夕立を見たあと少し嬉しそうに言ったり。
「そうだよ。まさか本当に倒しちゃうなんで思わなかったよ」
声に振り向けば右舷には吹雪が立って手を叩いている。
「はい。思わず見入ってしまいましたー」
さらに左舷には綾波の姿が。
「まあ、最後のは良かったわ。でも途中の殴り合いは余計ね。あんなのレディじゃないわ」
そして後方には暁。囲まれている。いや、戦うのは一対一だからそれ自体に意味は無い。だがもう魚雷は無いし。一号機雷も見られてしまった。そして何よりももう体力が保たない。圧倒的に不利である。
「さあ、如月。次は誰とやるのかしら?」
*
演習結果
敗北 D
ぽいぽいラッシュ