デレマス二次   作:(^q^)!

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九話

 六月六日の木曜日。UFOがあっち行ってこっち行って落っこちる日である。学校から帰ってきた俺は今日の作業を始める。

土曜日に行われた鷺沢さんとの話し合い以降、彼女からのラインがひっきりなしだ。内容はもちろん原作についての質問であったり原稿の感想だとか、キャラクターのセリフなどの話し合いが主である。

鷺沢さんは設定魔のような部分があり、今や自分のガオガイガーの知識で話していない部分はないだろうという程に彼女はディテールに拘った。FINALの部分まで話すことになるとは思ってもみなかったが、なんでなんでと疑問を重ねられて結局は知っていることを全て吐き出すこととなった。

 

 進捗は順調と言っていい。鷺沢さんはとても早いペースで次々と原稿を仕上げてきているし、荒木さんからも次々とガオガイガーを始めとしてガオーマシンや各種武装の絵が仕上がってきている。

こちらでもチャプターごとの“勝利の鍵”のナレーションを次々と録音し終えて、現在は要所要所に入れるキャラクターのセリフを録音している。BGMはスマホにサントラが入っているので問題ない。

 

「『YEAH!!…OH!!NO!!! HE…HELP ME!!!』……上手くできたかな?」

 

 この調子なら早ければ七月の頭、遅くとも中頃までには完成するだろう。のあさんがプログラムを組む時間によりけりだが、進捗を教えた時の様子で言えばかなり余裕をもって作業に望めるということであった。

 

 順調である。この調子でガンガン行こうぜ。そんな風に思っていた矢先のことである。スマホが鳴る。着信だ。

誰からだろうと宛名を見る。そこには“from 母”の文字があった。

 

 そういえば、全くもって家族云々のことを忘れていた。やっべえよどうすんの。居留守? いやそれはまずい。さすがに電話に出ないと。いやでもどうすんの。いやいやいや。

 

 ええい、ままよ!

 

「……はい、もしもし」

 

「あー、そのなんだ、元気か?」

 

 声は母親だった。しかし様子が変だ。

 

「どうかしたの?」

 

 聞くともにょもにょと口ごもりつつ、ゲフンゲフンと咳払いをしている。何やってんの? コミュ不足の父親みたいなことになってるけど。そう考えた時にハッと気が付く。

 

 ああ、そういえば役割が逆になってるってことは母親が父親みたいになってるってことなのか? じゃあ父親が母親みたいになってるの? うわ、くっそ嫌な光景。

 

「あーその、ほら、最近連絡なかったからな。月に一度は連絡する約束だというのにしなかっただろう。父さんが拗ねてるから早めに電話してやってくれ」

 

 予想外に面倒くさいぞ。

だが役割の逆転した視点で考えてみるとこれは正当なものなのかもしれない。自分自身を一人娘が親元を離れて一人暮らししているものと考えて、それから定期的な連絡がないものとするとかなり心配をかけるのではないだろうか。

 

「ちょっとここ最近忙しくって忘れてた。ごめんなさい」

 

 そもそもそんな約束あったのねという感想がある。元の世界だと何かしらの出来事がないと連絡しなかったわけだし、こちらでもそうなんじゃないかと考えていたがそもそも立ち位置が違っているのを全く考えていなかった。

 

「ああ、次から気を付けてな。それと、次はいつ帰ってくるんだ?」

 

「うーん、お盆くらいだと思う。夏はサークルのイベントが八月中ごろにあるし」

 

「……それは泊まり込みの何かか?」

 

 幾分低い声でそう言った母親にどうしたんだと疑問を持ちつつも普通に答える。

 

「いや、コミックマーケットに出品する側として参加するらしくってその手伝い。有明だし泊まらないよ」

 

「そ、そうか。熱いだろうから熱中症とか気を付けてな」

 

 母親は少し安心したような声でそう言ってくる。なんだったんだ? よくわからないがとりあえず母親の機嫌も収まったようだし父親に連絡するからと電話を切った。

 

 その後かけた電話はちゃんと父親につながった。ただ、その内容は思い返すたびに今までの父親が崩壊してこちらの精神も連鎖的に崩れそうになるモノであった。

今後、父親はずっとああなのかと考えるだけでかなり憂鬱である。

 

 とはいえひとまず家族との邂逅という山場は超えた。何か言われるかと思っていたが意外となんともなかった。一人暮らしでたくましくなったと父親に言われた程度だろうか。少しドキリとしたが少しの変化は成長として受け入れてくれた様子だった。やはり逆転世界であろうと自分に大差はないのかもしれない。あるいは、本質は変わらないのかもと思える。

電話越しだったからこそであるかもしれないが、直接会うのはまだ二か月以上先のことだしそれだけの期間があれば何か違和感があっても時間経過によるものだと思ってくれるだろう。

 

 一つ懸念が減った。家族間で俺に違和を感じることがなかったということは、ほぼすべての人がそうであるということじゃないだろうか。

 

 この世界に来てからスカイプとラインという前の世界にもあった連絡手段をそのまま使っているが、違う部分がある。それが連絡先である。スカイプであれば連絡先が極端に少なくなっていた。ラインも同じである。しかしその中には前と同じものもある。

その相手は家が近所で、自分の妹のように感じていた幼馴染だ。彼女が赤ん坊であったころから面倒を見ていた身としては連絡を取ってみたいという思いもあるが同じだけの恐れもあった。

 

 連絡を取ってみようか? いやでも、今から連絡を取ろうとしている人物は変わっていやしないだろうか。この世界の自分が多分今の自分と同じでないことと同じように幼馴染だって同じでないかもしれない。それを俺はそのまま受け入れることができるのか? 

いや、俺自身を受け入れてもらおうと思っているのだったらこちらだって受け入れなければおかしいだろう。だが、理性でわかってはいても感情が受け入れるかが未知数だ。その結果、彼女を傷つけてしまうことは嫌だった。

 

 高垣先輩は変わりなかった。だがそれは彼女が元の世界でもこの世界でも立ち位置が変わらない人柄を持っていたからではないだろうか。この世界でも、前の世界でもモデルなんていう仕事ができる人物だ。自分という芯がしっかりとしている彼女だからこそ変化が少なかった、あるいは無かったのではないだろうか。

今連絡を取ろうとしている人物はこの逆転した世界で前と同じ様子であるのか? わからない。俺を兄と慕ってくれているあいつは変わっているのではないだろうか。

 

 考えているうちに九時を回ってしまい、まだ小学生の幼馴染に連絡する時間としてはさすがに遅いよなという言い訳をして連絡をあきらめた。

 

 小学生に連絡するのに小一時間迷うって普通に考えて不審だよねと頭の片隅で冷静に考え付いたが極力考えないようにして眠りについた。

 

 そして次の日。今日は久しぶりに新しい曲を録音しに行こう思い、準備を済ませる。その際にUSBメモリーがないことに気が付いた。

そういえばキャラクターのボイスやBGM毎に分けて録音していたために相当な数を使ったのだった。

 

 ちょろっと池袋まで足を運んで買いに行かなきゃなあと考え、ついでだしお昼ご飯はチェーン店で取ってしまおうと計画した。

十二時を少し回ったくらいの時間に池袋へ到着し、昼食をとってから買い物を済ませた後のことだった。あたふたとリュックサックを漁っている少女がいる。

 

 その顔は今にも泣きそうであり、歩道に荷物をぶちまけてしまいそうな様子で必死にリュックをあさっている。

お昼時なので人通りもそこそこに激しい。道行く人は忙しげで少女に構う様子はない。それもそうだよなと思いながら近づく。

 

 小学生か中学生くらいにしか見えない少女であるが、なぜ平日の昼ごろに学校に行っていないのかという疑問はリュックをあさっているときに道に落とした『修学旅行のしおり』という物から察することができた。

 

「落としたよ」

 

 とりあえず少女が落したしおりを拾って手渡すと、ビックリしたような様子でおずおずと受け取った。

 

「何か困ってるようだけど、どうかしたの?」

 

 丁度昨日、幼馴染のことを思い出していたからか目の前で泣きそうになっている少女が在りし日の彼女と重なった。腰をかがめて目線を合わせる。すると少女は緊張が緩んだのか涙を流し、嗚咽交じりに現在自身が置かれている状況について話し始めた。

 

 曰く、自由行動中に班のメンバーとはぐれてしまった挙句に財布を落としてしまい、はぐれた際の集合場所である駅にも行けなくなりスマホも自分は持っていないのでここで死んでしまうのではないかと思って怖かったようだ。

 

 背中をさすりながら泣き止むのを待ち、やっと落ち着いてきた様子だったので手をつないで駅まで連れて行くことにする。

場所はサンシャイン通りの近くである。このあたりの土地勘があれば迷うようなことはないが、小学生ではじめてくる場所であれば迷うのも仕方のないことだろう。

 

「駅のどこに集合とかわかる?」

 

「えっと……確か、いけふくろう? って場所だったと思います」

 

 幾分か落ち着いてきて、ゆっくりと歩きながら会話をすると彼女も笑顔を見せるようになった。心なしか少女の表情が笑顔に見えるのは、安心からテンションが上がっているせいだろう。どん底に沈んだ状況が解決の兆しを見せているから高揚していると思われる。

十分もかからずに駅前まで来ると彼女は茫然とした様子を見せた後に恥ずかしそうにしていた。まあ死ぬかと思った場所が集合場所から十分しない場所だったらそりゃそうなるよなと思い、触れないでおいた。

 

「いけふくろうはここまっすぐ行って階段降りたところにあるから、迷うことはないよ」

 

 そう言うと一層顔を赤くしたが、其の後はハタと佇まいを正してぺこりと頭を下げた。

 

「あ、あの、ありがとうございます」

 

 言葉少なではあるが彼女の態度は純粋だった。今度から気を付けるんだよといったアドバイスをして彼女を送り出した。

 

 しかし、あれだな。小学生女子と平日の昼間に歩いてるとかどう考えても通報案件な気がする。いや、もちろん邪まな気持ちとかは無かったが状況的に言葉だけ並べれば十分に通報されてもおかしくないのでは?

その点でいえば男女の役割が逆であったおかげで周りからの視線も犯罪者を見るが如き物では無いということだろうか。

 

 逆であるということはつまりは関係性や周りの評価だって自身の感性とは違うのだ。それはそのまま逆であることもあるし、そうでない予想外な反応があるときもある。

今回のことも、通報案件になるかもと二の足を踏んでいたら少女はどんな風になっていただろうか。おそらく何らかの形での解決はあっただろうが不安に苛まれる時間は確実に長くなったことだろう。

 

 よし、今日の夜に幼馴染に連絡を取ろう。

 

 その後は曲を何曲か録音し、夜に電話をした。結局幼馴染は特に変わりなく、俺の様子がまるで昨日の母親のようだったと気が付いたのは電話を終えてからだった。


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