本日最後のボランティアは、敵地侵攻です。
侵攻の理由は、以前に奪われた施設を奪還するためだそうです。
真偽はわかりませんし、知る必要もないでしょう。
例えそれが嘘だったとしても、そのボランティアを止める術はなく、自分がやらなくても他の誰かがやるだけですから。
事前の打ち合わせどおり、セルガーデンの一番奥、F地点の制御装置をあっさり押さえた私は、アクセサリのエイノさんと共に、このフロアの一番高い場所で敵兵を待ち伏せ中です。
マップを見れば、赤いマークが二つ、こちらに向かってきているのがわかります。
向こうも私たちがいることに気付いているでしょう。
敵が侵入してくる扉は、直線距離にして約八十メートル。
扉の前には、荊のチャージ技で捕縛トラップを仕掛けました。
敵を捕縛してエイノさんの精密射撃で敵を倒すという、実にありふれた作戦です。
この戦況マップ、弾薬補給の場所や敵の動きを把握することは可能なのですが、地形探査に弱く、フロアの地形やトラップの有無については把握はできません。
どうやらそれは、お相手も同じ条件のようですが。
エイノさんは、私が狙撃指示を出した時から、私の横で派生強化したパルサーを構えたままピクリとも動きません。
エイノさんは子供の姿をしています。
なので、銃を構えるその姿は少年兵そのものですが、その貫禄も実績も、私では全く太刀打ちが出来ません。
そんなエイノさんについたあだ名は『クロガネの教官』『オニ軍曹』。
クロガネは鉄、硬い、オニは強い、怖いと言う意味があるのだそうです。
そんな、鉄のように硬くて強くて怖いエイノさんが得意とするのは、超長距離からの狙撃。
アクセサリなら当然の技能ですが、それでも頭一つ飛びぬけているような気がします。
ええ、身びいきです。
実際に確認したことはありません。
そんなわけで、私が観測手(スポッター)として周辺状況の確認です。
その観測手の仕事ですら、エイノさんには遠く及ばないわけですが。
「報告。歩兵二名、グリッド座標F三地点を通路に沿って移動中。移動速度は時速約二十キロメートル。制御装置が制圧されたことを受けてこちらに急行している模様。装備は不明」
「了解しました」
私の報告に微動だにせず応じるエイノさん。
その声は子供の姿とは不釣り合いな、デフォルトの男性の声です。
慣れるまでは違和感ありまくりでしたが、今はもう慣れました。
赤いマークがいよいよこちらに近づき、緊張が高まります。
こんな場面は子供の頃から幾度となく遭遇してきましたが、未だに慣れることはありません。
ついに、その時はやってきました。
空気が抜ける音と共に扉が開き、敵兵がこのフロアに踏み込んだ途端、トラップが作動。
赤い荊が敵の体に巻きつき拘束します。
ですがそれよりも早く、エイノさんの持つパルサーの銃口から青い光と共に光弾が発射され、その後ろにいた人影の頭をふっ飛ばしました。
弾け飛ぶ鉄屑と、髪の毛と、ウィルオーの青い光。
「命中確認」
私の報告に重なって、さらにパルサーの銃口から光弾が放たれ、トラップに引っかかっていた敵の頭を弾け飛ばします。
真っ赤な血飛沫を上げて、荊に絡まったまま敵は沈黙しました。
「命中確認」
アクセサリ一体とヒト一人、揃って完全に沈黙しました。
さすがはエイノさん、見本のような鮮やかな手際です。
再度状況の確認、アンド報告。
「敵、沈黙。このフロア周辺に敵対勢力はなし」
「了解しました」
私は荊を対象物付近の壁に向けて飛ばし、一気に跳躍。
壁を蹴って後方に宙返りをし、敵の近くに着地します。
それと同時にトラップが解除され、敵兵が崩れ落ちました。
女兵士と女アクセサリ。
どちらもパルサーのヘッドショットを受け、顔も頭も無残なことになっていました。
いつものことです。
弾けとんだアクセサリの頭の中身が露出し、合成蛋白質と液体と電子部品、そしてウィルオーの光が明滅しているのが見えました。
まるで生きていることを主張しているかのよう。
実際は、本格的な機能停止を前に救援要請を出しているのでしょう。
私は、ウィルオードライブからカッツェを取り出し、その頭に銃口を向けて即座に引き金を引きました。
頭部に銃撃を受けてアクセサリの体が跳ね上がり、再びフロアに倒れ伏します。
頭の中を確認すると、光は今度こそ消えていました。
「エイノさん、ゆっくりでいいですからね」
階段をギクシャクと降りるエイノさんに声をかけ、友軍に報告をするため、通信チャンネルを切り替えます。
「こちらデルタ。フォックストロット地点をクリアしました」
『こちらアルファ。デルタ、了解した。こちらもチャーリー地点のお嬢様を、後もう少しで俺色に染めることができる。引き続き、露払いを頼んだ』
「了解しました」
アルファは、今回のボランティアのリーダーである二級市民のライズさんです。
私の所属するPTと同盟を組んている、超クールな都会PTの出身。
一言で言えば、飄々としたイケメンさんです。
戦闘技術は当然優れていますが、特筆すべきは、高いコミュニケーション能力を持っていることでしょう。
初対面の人達を上手くまとめ、チーム内の調整役をやらせたら、彼の右に出る人はいません。
ただ、女性が絡むとセクハラ風味が強くなるのが玉に瑕。
その手の噂も聞き及んでいます。
とは言え、人との間に壁を作ることをデフォルト設定にしている私にとっては、極めてありがたい存在です。
彼に合わせていれば、少なくとも他の方と気まずい思いをしたり、角が立つことはありませんから。
通信を切った時、ようやくエイノさんが到着しました。
エイノさん、実は訳あり機体で、歩行に障害を持っています。
普通に歩く分には全く問題はないのですが、走行や階段の昇降に支障がある状態です。
しかも、移動速度を妨げないパルサーを持ち、さらに移動速度を上げるモジュラー──特大と大──をつけているにも関わらず、歩行速度はデフォルト状態の速度です。
そのため、重火器は装備できません。
修理をしようにも、理由があって修理ができない状態です。
そんな状態のエイノさんですが、ここで一番の大仕事を任せることにします。
「エイノさん、これをフロアの端っこ、F四地点へ、運んでもらえますか」
言いながら、倒れ伏しているアクセサリを足で軽く小突きます。
リーダーの恋路のお手伝いをしないといけません。
感情が感じられないくすんだ緑の目が、こちらに向けられました。
「理由を提示して下さい」
「これを餌に、これからリスポーンし、復帰するであろうこのヒトを迎え撃ちます」
その感情のない目に、私は自分の考えを伝えます。
「このフロアの奥、特にF四地点は比較的構造が入り組んでいて、迎え撃つには絶好の場所だと思います」
「このアクセサリは既に大破、完全に機能停止をしていますが、貴重な資源であることに違いはありません。しかし、戦況が劣性の状態で被監視者が危険を冒して資源の回収に来るでしょうか」
「このヒトは必ずアクセサリの元へ駆けつけます」
原形をとどめていない頭部以外は、極めて綺麗な状態の体は、持ち主が如何に手間隙をかけて調整したのかが一目瞭然です。
そして、色違いだけど、おそろいの衣装にイヤホン、そしてアクセサリー。
少なくともこのヒトは、このアクセサリに対してかなりの思い入れがあると思います。
「クリストフとの貢献活動を含めれば十八年、パノプティコンの幸福とその貢献のためにボランティアをこなしてきました。しかし、クリストフを含めた一部の炭素系二足歩行生物の、モノに対する異様な執着は、未だに私の中では理解不能な現象です」
「理解をしなくても問題はありませんよ」
炭素系二足歩行生物とは、もちろんヒトのことです。
エイノさんの言動は、全方位に向けて辛辣で、聞く人によっては不快に思われるかもしれません。
私はとうの昔に慣れました。
それよりも、『クリストフ』という名前を今出すのは、ちょっと不意打ちじゃないんですかね。
ですが、それに触れることなく言葉を続けます。
「エイノさん、時間はかけがえのない資源なんですよね。なら、その資源を無駄にしないためにも運んでいただけますか」
「了解しました」
言うと、その小柄で細身の体に似合わぬ力で軽々とアクセサリを担ぎます。
私の目の前に突き出された格好になったお尻と太ももは、羨ましくなるほどの美しい肉付きです。
「本当に大切にされていたんですね」
「我々アクセサリにとっては、何の意味もなさない無駄な資源の塊。文字通りの贅肉です」
思わず口に出た言葉に律儀に反応するエイノさん。
私は苦笑しました。
「持ち主にとっては、モチベーションを高める大切な資源なんですよ」
「生きて戦果を出し、PTに貢献できなければ全く意味がありません。炭素系二足歩行生物の考えは、やはり理解不能です。運んでいる間の援護はお任せします」
「了解です」
リスポーン待ちの敵兵を置いて、私たちはF四地点へと移動します。
エイノさんの移動速度はガクッと落ちましたが、私はアクセサリを運べませんので、エイノさんに頑張っていただくしかありません。
ウィルオー通信の情報では、こちらの継戦力は減っておらず、拠点の占拠はほぼ完了している様子。
そして作戦の残り時間は後五分強。
まだまだ予断を許さない状態ではありますが、こちらの優勢は揺るがないでしょう。
その後リスポーンし、予想通り物凄い形相でやって来た女兵士さんを難なく迎え撃ち、油断することなく周辺を警戒して回っていたところで、ボランティアは無事に終了したのでした。
「お疲れさん。今日はありがとうな」
「お疲れ様でした!」
モザイク街の広場に戻ってきた私たちのチームは、リーダーのライズさんの挨拶とともに解散です。
ライズさん以外は今日初めて会った人たちでしたが、皆さん強くて良い人たちでした。
ですが、この人たちと会うのは、これっきりになる可能性が極めて高いです。
生きての再会を願ってフェローカードを交換します。
今は亡き叔父が言っていました。
「気に入った奴がいたら、フェローカードの交換をしろ。交換したカードは、お前が自分の意思で手にし、手元に残すことが出来る数少ない持ち物だ。貰ったカードは、交換した奴が生きて戦い続けている限り更新される。離れていても、二度と会えなくても、この地のどこかで、お前と同じように戦い続けていることを教えてくれる。たとえ交換した相手がロストしても、お前の手元に残り続けて、そいつが生きていた証になる」
今以上に愚かだった当時の私は、叔父の言っていることの半分も理解できていませんでしたが、今ならそれがいかに大切なことなのか、よくわかります。
あとで独房に帰ったら、過去のフェローカードとともに見ておきましょう。
私の数少ない楽しみの一つなのです。
笑顔で立ち去る二人を見送ると、その場に残されたのはライズさんと私だけになりました。
私はライズさんに、頭を下げます。
「今日もありがとうございました。おかげ様で無事生き延びることができました」
「いやいや、礼には及ばんよ。今日のボランティア、比較的楽だったしな。あーあ、いつもこんなんだったら良いんだけどねぇ」
「三○四(サンマルヨン)がなくて良かったです」
「そうね。どこのPTもそうだけど、君んとこの三○四は強烈だからなぁ」
整った顔に、苦笑いを浮かべるライズさん。
三○四とは特殊ボランティアの番号です。
他のPTのことは知りませんが、私の所属するPTでは、三○四の番号がつくボランティアは天罰クラスの難関であることが極めて多く、ロストする咎人、二級市民が後を絶ちません。
叔父がロストしたボランティアも、三○四でした。
その為、このPTではこんな言葉があったりします。
「三○四へ行け」
察しはつくかと思いますが、ロストしろ、死ねという意味で使われいる罵倒語です。
ライズさんの台詞に、私は思わず笑います。
「例えあったとしても、エイノさんがこれだから、行くことはできませんけどね」
「そうだな。……でも、いよいよ明日がラストなんだな」
「はい」
頷く私に、ライズさんはいつもの余裕のある表情を消し、私の後ろに控えるエイノさんを感慨深く見やります。
「十八年間、戦い続けたアクセサリの引退か」
私たちの思いなど知るよしもないエイノさんは、無表情で私を見ているだけです。
その姿をしばし見ていたライズさんは、大きく溜め息をつきました。
「全く、情緒もへったくれもないふてぶてしい表情しやがって。オニ軍曹の二つ名は伊達じゃないってか。勝手に錯覚して、勝手に盛り上がって、勝手に感傷的になっているコッチが、バカバカしくなってくるわ」
「はあ」
曖昧な返事をする私の頭に、軽い衝撃。
ライズさんが私の頭に手を置いて笑顔を浮かべていました。
それはいつものおちゃらけた笑顔でしたが、どこか温かいものが含まれているように感じられました。
「明日も付き合ってやるから、この百戦錬磨の古強者に有終の美を飾ってやろうな」
「はい。ありがとうございます。よろしくお願いします」
丁寧に頭を下げると、ライズさんは極めて自然に私の肩に腕を回しました。
「そんなに畏まるな。あの三ヵ月前の天罰からの付き合いだろ」
ええ、これが彼の彼たらしめるモノです。
呼吸をするように、女性を口説く。
彼にとっては習慣化した挨拶のようなものだと思います。
「寂しくなったり辛くなったりしたら、ちゃんと口に出して言えよ。俺がちゃーんと側にいてやるからさ」
「ありがとうございます」
顔を寄せる彼に、私は小さく笑います。
「ライズさんは、いい人ですね」
すると、ライズさんは大げさに顔をしかめました。
「俺は、その『いい人』っていう言葉が好きじゃない。それにな、感謝をしているなら態度で示そう」
「態度?」
「そうだ」
ライズさんは深く頷き、私の肩に手をおいたまま正面に立つと、真剣な表情で私を見ます。
「ちゅーをしよう」
今日も元気良く欲望に正直なヒトです。
私は笑顔を浮かべてお断りしようとして、
「おや旦那、今日も今日とて幸せを求めて精が出てるっすなぁ」
ライズさんの背後から軽薄な声。
思わず体を強張り、ライズさんの表情が素に戻りました。
ライズさんは私の肩から手を離し、声のした方に体を向けます。
そこには、あまりにも特徴的な姿の男の人が、手に腰をあてて立っていました。
黒いスーツに、派手な色のシャツとグローブ。
そしてガスマスク付きのフルフェイスメットを被っています。
この世界の人なら知らない人はいないでしょう、『フラタニティ』の構成員です。
ライズさんに気を取られていたとは言え、全く気配に気付きませんでした。
「どこから湧いて出たよ、君は」
「はっはっはー。やだなぁ、無限湧きする天兵のように言わないで下さいっすよー。道なりに来たに決まってるじゃないっすか。それよりも、そんな地味でモブな二級市民Aに幸せを求めるより、もっといい情報があるっすよ」
失礼なことを平然と言いつつ、彼は一つ手を打ち、大げさに両腕を広げました。
「幸せの量自体が少ないこのご時世、それでも幸せを求めて戦い続ける旦那のような男にこそ、安らぎのひと時が必要っす。そこでおすすめなのが、フラタニティ印の安心安全、明朗会計! 可愛くて優しい天使ちゃんのお店っすよ! 旦那好みのパツキンパイオツカイデーな天使ちゃんも、ポイントか資源次第でいくらでも召喚してみせるっす!」
右手の人差し指を顔の前に立てて、軽薄な調子で営業をする彼の名前はハルカさん。
私の次の『仕事』のお相手です。
ライズさんの表情が、不機嫌に歪みました。
「君も毎度毎度しつこいね。間に合ってるってーの」
「ハッハッハ。地道で粘り強い営業が花開くこともあるっすよー」
ライズさんの台詞に、ハルカさんは肩を揺らしました。
「いつか旦那の心と財布の口が開いてくれることを信じて、俺は誠心誠意、継続的な努力をするだけっす」
「ハッハッハ。あのさあ、俺からの比較的真面目な提案なんだが、そろそろ君は、俺に対する営業活動を止めるべきだと思うんだ。どう考えても、時間っていう貴重な資源を無駄にしているぞ」
「ハッハッハ。その提案は却下っす。ねぇ旦那、旦那がどんなにハイスペックなイケメンでも、流れる月日には敵わないっすよ。旦那ご自慢のジュニアがいつ使えなくなるかもわからない。なら、使えるうちにいろんなことにチャレンジすべきじゃないっすか。プロカスも言ってるっすよ、『できる 天使の誘惑 ぶっこむ勇気』」
「ハッハッハ。そんなスローガンがあったら、逆にプロカス信奉するわ。貢献促進用ヘッドギア着けて、三○四に行っちゃうわ」
「おお! それ凄ぇ! さすがは旦那。そん時は俺らも是非呼んで下さいっすよ。旦那の勇姿をしかと動画データに納めてやるっすよー!」
「そんでそれを恥ずかしい動画として、市民の有料ネットに流すわけだな。ハハッ、ふざけんなよ!」
「ハハッ、ふざけてこんなこと言わないっすよ。広告も挟んでガッツリ稼いでやるっす!」
笑い合う二人の間に、ウィルオーの火花が散っているように感じるのは、気のせいではないでしょう。
実際この二人、顔をあわせるといつもこんな感じです。
笑顔で、しかしこめかみを振るわせながら、ライズさんは応対を続けます。
「ハハハハハ! 君さあ、ホント三○四に行けよ、この資源至上主義者め」
「あら、酷ぇ言われよう。俺は真面目にコツコツと働いているだけなんすけどねぇ」
「だったらこんな所でアブラ売ってねーで、さっさと仕事に戻れよ。辺境の奈落の底に。お前らの詰め所に」
すると、ハルカさんは大げさに手を振りました。
「いやいやいや、俺がここへ来た目的は、ツンデレな旦那への営業活動だけじゃないっすよ。債権の回収も立派な仕事でして」
その台詞に、私の体は再び強張り、ライズさんの表情が嫌悪へとすり替わりました。
そして口元を歪めて笑います。
「おーおー、本っ当にマメなこって」
「この小さな一つの回収が、たくさんの未来を作るっす」
「いい加減、プロカスのスローガンから離れろ」
私は側で控えているエイノさんを見やります。
「エイノさん、先に独房に戻っていただけますか」
「了解しました」
彼は素直に、PTへと向かう通路へとゆっくりと歩き出しました。
それを見たライズさんが、深く溜め息をつきます。
「ま、しゃーねーわな」
ライズさんは頭を掻き、私の左肩に手を置きました。
「また後で明日の件で連絡するから、消灯時間前には戻ってくるようにな」
ライズさんは、私の次の『仕事』の内容をわかっています。
女性の敵だと評する人もいるくらい女癖の悪い彼ですが、温かい血の通う本当に良い人なのです。
私にその意思があれば、彼の力でこの場を凌ぐことは出来るかもしれませんが、根本的な解決には至りませんし、何より、世界中にネットワークを広げているフラタニティを敵に回すのはあまりに無謀です。
いつものことですが、そのお気持ちだけ受け取っておくことにします。
「わかりました」
「じゃあな」
頷く私の肩を二つ叩いて、ライズさんは広場を抜けて、街の奥へと消えていきました。
ハルカさんとすれ違う際、侮蔑のフィンガーサインをしていきましたが、ハルカさんは軽薄に手を振ってお見送りです。
ライズさんの姿が見えなくなり、ハルカさんの肩がおりました。
「今日も今日とて通常営業な御仁っすなー」
ええ、否定はしません。
半ば呆れたような調子で彼は言い、おもむろに振り向きました。
私に向けてグローブに包まれた手を伸ばし、右手の人差し指を軽く触ります。
「今日も生きて会えて何よりっすよー。ちゃーんとお使いは出来たっすか?」
「持ってきました。だから」
手を放して下さい、と言う前に、彼のほうからあっさり引き下がり、人差し指を立てます。
「んじゃ、場所を移動するっすよ。いつもの場所でいいっすよね」
「はい」
私の肩を払うように叩き、歩き始める黒くて広い背中を、憂鬱な気持ちで付いていきます。
さながら、これから罰を受ける罪人のような気持ちです。
三ヶ月前までは、文字通りの罪人、咎人でしたけどね。
重い足を無理やり動かして歩く私の耳に、緊張感の欠片もない音楽が聞こえてきます。
PTのマスコットキャラクターの、ありがたいお話です。
『皆さんこんにちは。こちらは生産計画局民生委員からの定期広報です。皆さん元気ですか? 元気ですよね。疲労により満足な貢献ができないなど、正しい社会不適合者の姿ではありません。疲れた時こそ人として楽しく生きられるという夢と希望を持ってレッツ貢献! に望みましょう』
毎回聞いていて思うのですが、正しい社会不適合者って、どんなヒトでしょう。
ヒトとして楽しく生きられる夢と希望って何なんでしょうね。
そんな益体のないことを考えながら、次の『仕事』へと向かうのでした。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
誤字脱字、その他修正がありましたら、随時対応をします。
今回の話で、この物語のノリのようなものはつかめたのではないかと思います。
前作とは打って変わって、勢いは全くないです。
テンションが低い上に、この先、所々で主人公の過去話等も交えていきますので、読みにくいかと思います。
それでも、読んでやってもいいぜという方は、今しばらくお付き合い下さいませ。
それではまた。