本日最初のボランティアは、ジオフロントでの目標排除です。
赤いコウシン『赤光(グレア)』と、青いパラドクサ『錆朱(ヴァーミリオン)』がお相手になります。
朝からハードですが、これは同行者の方のオーダーでした。
でも私は、ちょっと疲れていました。
『いーい? ウメ。くれぐれも、くれぐれも、ライズに恥をかかせる様な戦いはだけしないでよね』
『その名前で呼ぶなといっているでしょう、フグリ』
『フグリ言うな!』
『私は【エリュテイア】プラナス・ムメ。この世界に黄昏を告げる、アモスとメシアのサイン。例えサンゼンセカイのカラスを全て射殺そうとも、ソウルラヴァーであるライズには指一本触れさせないわ』
『あんたね、カッコ良さ気になんか囀ってるけど、全体的に意味わかんないから人類の言葉で喋りなさいよ』
『何故私が愚民どもに合わせなければならないの? バカなの? おたんこなすなの? ロストするの?』
『バカでおたんこなすはあんたでしょうが! このチュウニ病患者!』
『ハハハ、お前たち、仲良く喧嘩してないで、そろそろ配置に着けよー』
本日の同行者は女性咎人二名様です。
ライズさん所属するPTの出身で、ライズさんの……えーと、オトモダチ、ということにしておきましょう。
ご覧のとおり、お二人の仲は諸々の事情で最悪で、ここに着くまでの間も色々大変でした。
そんなお二人ですが、第六情報位階権限であることと、タイプは違えど美人で胸が大きいこと、そしてライズさんが大好きなことについては共通しているようです。
ライズさんは、このパノプティコンの在留許可が今日で切れるため、今夜中に所属するPTに戻ることになっています。
なので、お二人はライズさんを迎えに来たのだと言っていました。
健気な話ではありますが、なかなかの性格のようで。
その張本人はといえば、お二人を暢気に飄々といなしていました。
慣れっこなんでしょうね。
配置場所に着き、狙撃体勢に入った私は、早速ライズさんに連絡を取ります。
「こちらデルタ、配置に着きました」
『了解、デルタ。朝っぱらから骨のあるボランティアだが、気合入れていくぞ』
「了解です」
『ブラボー、準備完了』
『こちらチャーリー、いつでもOKよ』
『了解、ブラボー、チャーリー。二人とも、愛してるよ』
通信のボリュームを下げて女性二人の歓声をスルーしつつ、改めて状況の確認です。
本日のお相手である二体のアブダクターは、配置している距離が近く、交戦開始直後から乱戦になることは間違い無いです。
エイノさんは中二階で敵を迎撃、私がそのさらに高台にある排気ダクトの上から狙撃しつつ、適宜、皆さんのフォローに回ります。
『ミーティア』
エイノさんが、EZ-ヴォルフを構えながら声をかけてきました。
『昨夜申し上げたように、本日は銃撃戦のおさらいです。ボランティアでは、銃弾を無駄に消費することなく的確に、そして迅速に目標を排除して下さい』
「了解しました」
私は答えて、狙撃銃の照準を青いパラドクサに定めました。
オニ軍曹のお眼鏡にかなう成果を出すことができればいいのですが。
そしてボランティアはスタートしました。
当然のごとく、二体は早速合流し大変賑やかなことになっています。
しかし、私たちは高台から一斉に射撃をすることで、安全に攻撃を続けることができていました。
アルファのライズさんはアクセサリー共々AAW。
ブラボーの、ええっと、エリュテ何とか何とかーこと、ウメさんは八甲重機製の機関銃、アクセサリは私と同じ狙撃銃。
チャーリーのフグリさんこと、ヴェロニカさんはナースホルンに、アクセサリはナンブです。
『このギルティバレッドに打たれてインフェルヌスへ落ちるといいわ。これが世界の選択よ』
機関銃を掃射しながら静かに呟くウメさん。
彼女の言葉を翻訳できる方がこの場にいないので、残念ながら何を言っているのかは意味不明です。
二体が暴れまわっていることで、パラドクサへの鳥篭への攻撃が出来ないので、ひとまずバッテリーの破壊を試みます。
他の方の銃弾が、センサーとバッテリーにも当たっているので、もう少しで破壊できるはず。
と、パラドクサのエンジン音が変わり、その場でセンサーが高速回転を始めました。
私がその場を離れた瞬間、パラドクサの機体そのものも高速回転をし、同時に白い塊が射出され、あたり一面に飛び散ります。
余裕でかわせましたが、ふと見れば、不気味な赤い光を放つ弾が私の側で不気味に光っていました。
全力でその場を離れても、追いついてくるそれ。
そして、爆発。
『クリムゾンエンペラー・ディザストロに、負ける、なんて……』
そう言って、戦闘不能に陥るウメさん。
彼女が喰らったのは、クリムゾンなんちゃらーではなく、赤いコウシンの空間転移攻撃です。
戦闘ログを見れば、彼女のアクセサリ……、名前の漢字が難しくて読めません。
その彼女もまた、機能停止しているようです。
『ブラボーのフォローは俺に任せろ。他の奴は体勢を立て直せ』
「デルタ、了解しました」
『チャーリー、了解! デルタ、そちらは大丈夫?』
「ありがとうございます。エイノさんがダメージを喰らいましたが、無事なようです」
『不味くなったら、すぐに言ってね』
「了解です!」
ヴェロニカさんは、治療荊を装備しています。
お顔はキツい美人さんで、中身もそうかと思っていましたが、ウメさんよりは遥かに常識的ですし、何より普通に言葉が通じるのはありがたいです。
エイノさんの元へ駆けつけると、ダメージはかなり食らっていましたが、何とか無事でした。
「ミーティア、錆朱(ヴァーミリオン)への攻撃を続行して下さい。後もう少しで撃破できます」
煤けた顔に灯る感情の全くこもっていない緑の目が、私に攻撃の続行を促します。
私の装備している荊は捕縛荊なので、エイノさんの傷を癒すことは出来ません。
ならば、一刻も早く敵を仕留めるべきでしょう。
「了解です」
私は即座に荊を排気ダクトへと飛ばし、再び所定の位置につきました。
即座に狙撃銃を構え、攻撃再開です。
『【エリュテイア】プラナス・ムメ、太陽よりも燦然と輝くライズの愛の力で華麗に復活』
『御託はいいからさっさと戦え! このチュウニ病!!』
『愚民と言えど、レディが浅ましい声を上げるものじゃないわよ、フグリ』
『フグリ言うな!!』
『ハハハ、お前たち、真面目にやれよー』
どうやら皆さんも体勢を立て直したようです。
……このノリ、今日一日ずっと続くんですかね?
『アブダクターを排除しました。他のアブダクターも排除してください』
どうにかして、パラドクサを沈めることには成功。
後はコウシンだけです。
乱戦ではなくなったことで、ウメさんとヴェロニカさんは近接戦で戦うようです。
ウメさんの武器は、残影迅雷。
ええ、まんまです。
他にご愛用の近接武器があるとするなら、ミーマス、それもユミール・パンデモニウムでしょう、賭けても良いです。
ヴェロニカさんの武器は、グラディオンから派生した、ゴリアテ・デスブロウ。
まっすぐな性格の彼女には、ピッタリの色と武器だと思います。
私は引き続き、高台から銃撃を続けます。
ただ、コウシンは良く動くので狙撃は中止し、バーバラから派生したショットジョイIIに持ち替えます。
三ヶ月前の天罰でも大変にお世話になった、愛用の武器の一つです。
翼をガンガン責め、ダウンを取ったら頭をひたすら集中砲火。
たまにくる空間転移攻撃をかわし、たまに機能停止状態になるエイノさんを復活させつつ、効率重視で攻撃を続けます。
それにしてもです。
『泣き叫んで許しを請いなさい。その絶叫ごと、このレーヴァテインのニエにしてあげる』
『レーヴァテイン、喰らいつきなさい』
『翼は美味しい? レーヴァテイン』
レーヴァテインって、なんでしょうね?
そんな中、赤いコウシンがあちこち駆けずり回るせいで、バーバラの射程からはずれようとしていました。
一階に着地すると、目標の動きを見定めながら荊のチャージを始めます。
ウィルオードライブが唸りを上げ、炎のように燃え上がる荊の光が、自分の周辺に絡まります。
さらにチャージを続けると、大きな破裂音と共に荊の光が青色に変化しました。
よく狙いを定めます。
よーく狙いを定めます。
ここだけの話、私、二級市民でありながらこの二段目の捕縛をよく外します。
銃撃はそこそこに当たるのに、何故かこの二段目の捕縛だけはよく外すのです。
外した時の、あの残念且つ、いたたまれない空気を何度味わったことでしょう。
黙っていてくれる皆さんの優しさが逆に辛かったりします。
そして目標の攻撃が終わるのを待って、一気に荊の力をその赤黒い機体に向けて解放しました。
何かを釣り上げるような金属音と共に、荊がボール状になって機体に巻きつきます。
よーし!! 当たりましたよ偉いぞ私!
心の中でガッツポーズを取ります、イエス!
『デルタ、ナイスタイミング! 後でちゅーしてやろう!』
「ちゅーよりも、お水を奢っていただけるほうが嬉しいです」
『俺のちゅーは水以下か』
「ごめんなさい。もう、お水の存在なくしては生きてはいけない体なんです」
『あれ? おかしいな。俺、いつの間にか寝取られ男っぽくなってるよ?』
『安心して、ライズ』
ウメさんが優しく宥めるように言います。
『真にして偉大なる万物の王、DHMOの前では、非実在市民から天兵至る全ての人類が、ホールブラザー、ポールシスターよ』
『あんた達、今昼間! 真っ昼間! 雲に隠れているけど太陽出てるからね!』
しっかり者のヴェロニカさんが、しっかりオチをつけるのを聞きつつ、固まった機体に向けて銃弾を浴びせます。
捕縛のおかげで赤光の体力は削れ、後もう少しで撃破です。
『次元と時空を絶つこの一刀、そのがらんどうの目に焼き付け』
『待ってられるかあああああっ!!』
残影のチャージをするウメさんの横で、ヴェロニカさんのダッシュ突きが決まり、見事目標を撃破、ボランティアは成功したのでした。
モザイク街の広場に戻ってきた私たちは、ライズさんにお水を奢って頂きました。
みんなで飲んだお水は、美味しかったです。
その後も、皆さんと一緒にボランティアに励みました。
ウメさんの意味の分からない必殺技──捕縛荊のチャージ技です──が炸裂したり、ライズさんが巨乳美女の敵兵をナンパしようとして殺されかけて刑期を加算されたり、ウメさんとヴェロニカさんが名前の件で小規模な衝突を繰り返して刑期を加算されたり、その度に私がそれをフォローをしてかなり忙しかったです。
とは言え、子供の頃からこういうフォローをしてきましたから、苦ではありません。
ただ、その渦中の人であるライズさんですが、やっぱりただの女好きではない一面も改めて見ることが出来ました。
午前中最後のボランティアのことです。
市民奪還のボランティアが、他のPTの市民の略奪ボランティアだったというのはよくある話。
私は努めて平成を装いながら、女の市民さんをアブダクターから略奪し、自分のPTの護送機へと運んでいました。
でも、その市民さんは珍しく泣き叫び、激しく抵抗をして、自分のいたPTから離れたくない、自分の仲間と一緒にいたいと訴えたのです。
当然、聞き入れられない相談でした。
護送機の前にきて、最後の抵抗とばかりに私にしがみつく彼女でしたが、悲鳴と共にその体が離れました。
ライズさんが、私にしがみ付く彼女を引き剥がし、あっさりと抱き上げたのです。
市民さんを抱き上げたライズさんは、小さな子供をあやすように彼女の背を軽く叩き、そして顔を覗き込んで笑顔を浮かべました。
「悪いな、お嬢さん。恨むんだったら世界でも彼女でもなく、俺を恨め。女の恨みなら老若問わず、市民様だろうが天兵だろうが幾らでも引き受けてやるから。な?」
優しくそう言い、彼女を丁寧に護送機の中へ入れました。
その浅黒く愛らしい顔は、泣きじゃくったせいで涙と鼻水でグズクズな上に、疲弊しきって酷いものでした。
何かを言おうとして口を開いた彼女でしたが、瞬く間に転送され、ボランティアは終了しました。
……。
叔父と叔父の仲間が死んでから、私は特定の仲間はいません。
普段は、その日限りのチームを組んでボランティアにあたっています。
きっと、これからもそうでしょう。
ですから、三ヶ月ほどではあっても、同じヒトと一緒に戦うことは、ずいぶんと久しぶりのことです。
私がライズさんと一緒にいる理由は、トトと同じです。
側にいても息苦しくない上に、私の育ちと似たような境遇だと肌身で感じるから。
私の真っ黒なドブ川の部分も、私と同様に察してくれていると感じるからです。
育ちの違いは、大きい上になかなか超えることが難しい壁です。
決定的な所で食い違いが出てくる。
そこをあっさりクリアできるのは、私にとってはとてもありがたいことなのです。
それに、彼はこの窮屈な世界にあって、自由に生きているように見えます。
この世界が息苦しいと思っている私は、彼の生き方を見ることで、その理由を知りたいと思っているのです。
今日中に、わかるかなぁ。
◆
モザイク街のお店で皆さんとお昼ご飯を食べ、一時解散となりました。
休憩の後、再びボランティアへ行くことになります。
独房に戻った私は、仮眠を取るために九十七式の上着を脱ぐと、そのままベッドへ横になりました。
「三十分後に起こして下さい」
「了解しました」
そうして上着を頭に被せ目を閉じます。
考えてみれば、エイノさんと一緒にいられる時間は、ついに二十四時間を切りました。
明日の今頃は、もうここにエイノさんはいなくて、新しいアクセサリがついていることになります。
紛れもない寂しさを感じてはいても、まだ実感がなくて。
ふと気を抜けば、明日も明後日もいつまでも、エイノさんがここにいるような気がしてしまうのは、彼といる時間が長かったせいでしょう。
叔父と過ごしていた時間よりも長いのです。
それでも、私の思いなど顧みられることなく、終わりは着実に迫っています。
後一戦か二戦で、エイノさんと共に戦う時間も終わりです。
生きて戻ります。
それは、何も特別なことはありません。
いつものようにエイノさんと夜を越えて、当たり前のように朝を迎えるそのために。
そうして、意識を静かに闇に沈めました。
エイノさんは、きっかり三十分後に起こしてくれました。
簡単に身なりを整え、上着を着ます。
その間にエイノさんは、水筒の水を補充してくれていました。
「そう言えば、エイノさん」
「はい、何でしょう」
「私の銃撃はいかがなもんでしょう」
午前中の二戦を終えた時点で結果はどんなものでしょうか。
当然気になります。
エイノは表情なく私の目を見据えました。
「午前中の相手は、このPTよりも格下のPTだったこともあり、敵アブダクター撃破にかける時間は全く問題はありませんでした。ただし、相変わらず弾の無駄遣いが気になります」
わかってはいるんですけど、細かいなぁ……。
「一つの弾も我々と同じ立派な資源。適切に使用して下さい」
「はい」
「それと、今までも何度も申し上げていますが、狙撃銃を使用の際は適切な距離で、きちんと照準をあわせて弱点に当てるように。狙撃銃のダメージ変動率はプラスマイナス十パーセントあり、与えるダメージに若干のばらつきがあります。しかし狙撃銃の持つ特攻要素、そしてモジュラーによる能力向上によって、銃のダメージ変動率による攻撃力の減衰を抑え、弾の無駄遣いも確実に減るはずです」
「はい」
位置取りの甘さ、照準の甘さもばれていました。
気をつけなければ。
「この狙撃銃を始めとした武装、及びモジュラーは、貴方が膨大な時間と資源を費やし、武器プラントの市民と共に泣きながら作成したものです。それらを無駄にすることないようにして下さい」
「……はい」
嫌なことを思い出させてくれますね、このオニ軍曹は。
このオニ軍曹さん、精神的な甘えも許しませんでしたが、武装にも一切の妥協を許しませんでした。
武器の厳選とモジュラー装着で精神的にヘトヘトになり、武器プラントの市民さんと協議の末に妥協をしようとしたその横で、エイノさんは感情なく言ったものです。
「本当に、その希少度と成長タイプでよろしいのですか。無様に床掃除をすることになった際、その妥協した武装で戦ったことを後悔しませんか?」
「そのモジュラーで妥協するのですか。もう少しダメージアップができていれば、もう少し弾を多く持っていればと、戦闘中にそのような雑念に捕らわれることはない言い切れますか?」
「貴方がた市民は、咎人と二級市民の不断の努力によって守られる存在です。己を守る武装をその程度の出来で良しとするのですか?」
「武器プラントという、このPTの幸福拡大と防衛の要でもある製造業に勤務する者として、このような半端な武装で良しとし、咎人の貢献の証たる恩赦ポイントを取るとは、モノづくりに対するプライドが欠けているのではありませんか?」
私と武器プラントの市民さんを冷徹に煽り──エイノさんは煽るつもりは全く、あくまでも提案なのですが──私たちは誇張でも何でもなく本気で泣きながら、今の武装に仕立て上げたのです。
しかも武装を最高のものにしたため、ケアレスミスを武装のせいにすることはできなくなりました。
エイノさんは徹底的に私に技術の未熟さを指摘し、私は必死で改善の努力をせざるを得なくなったのでした。
感謝はしているのです。
感謝はしているのですが、ねぇ……。
「ミーティア」
エイノさんに呼びかけられ、我に返ります。
「はい」
「午後の貢献活動ですが、予定が変更する可能性があります」
「え?」
何かあったのでしょうか。
「安全保障局社会防衛群社会調査会にて、先日から経験の豊富な第八情報位階権限所属の咎人と二級市民を中心に招集がかけられています。人員が足りない場合、貴方にも招集がかかる可能性がありますので、情報には十分ご注意下さい」
今までの経験から、答えは一つしか思い浮かびません。
「それって、やっぱり朝に私が触れた件ですか」
「はい。貴方の鼻の良さは、絶滅した炭素系四足歩行生物『イヌ』を髣髴とさせるものがありますね」
何でこのアクセサリさんは、一言多いのかな。
叔父さんは一体どんな教育をしたのでしょう。
しかし、エイノさんは私の気持ちを察することは一切なく、言葉を続けます。
「ヘスペリスPTが侵攻を開始しているとの情報があります」
やはり、今朝の私のカンは当たっていたのです。
今更な情報ではありますが、それでも知らせたのは、状況が逼迫しているからでしょう。
ヘスペリスPTとは、私の所属するパノプティコンから少し離れた場所にある、元々は人畜無害の小さなパノプティコンでした。
でも最近になって、急進的な咎人や市民、そして消滅したホウライPTの残党が集まって、急速に力をつけているらしいのです。
当然、私たちのパノプティコンを含めた、周辺のパノプティコンとの関係は最悪です。
「現在は小規模な衝突を繰り返しているようですが、過去の記録から大規模な戦闘に発展する可能性があります。先程も申し上げましたが、今後の情報には十分注意しつつ行動をして下さい」
「わかりました」
素直に頷きましたが、水を差されたようで良い気分とは言えません。
午後はエイノさんが活躍できる、程よく大変程度のボランティアを選ぶ予定なのです。
二脚がいっぱい出てくるボランティアとか。
銃撃で頭も鳥篭も狙いやすくて、私でもエイノさんに良いところを見せるチャンスだと思ったのです。
それは、誉めて欲しいというよりは、安心して欲しいという気持ちからです。
明日にはいなくなるエイノさんに、私は大丈夫だということを見せたいのです。
まあ、アクセサリには心はないので、安心も何もないですけど。
「ミーティア。集合時間、十分前です」
「では、行きましょう」
さあ、午後も生きて帰るために頑張りましょう。
気を取り直し、私たちは独房を出ました。
モザイク街の待ち合わせ場所で、再びライズさん、ウメさん、ヴェロニカさんと合流です。
「よお。ちゃんと仮眠は取れたか?」
「はい、おかげ様で」
ライズさんも仮眠を取ったらしく、疲れが微塵と感じられません。
ウメさんと、ヴェロニカさんの体調も良さそうです。
「それじゃあ、午後のボランティアはミーティアさんの希望のものから行きましょう」
「ありがとうございます。それじゃあ──」
ヴェロニカさんの勧めに従い、ボランティアを選ぼうとした時でした。
視界の端に赤い不穏な空気。
ライズさんの目が、スッと細くなりました。
複数の靴音と共に現れたのは、アクセサリを二体連れた安全保障局の男の人です。
ついでに言えば顔見知りです。
「お前たちちょっと待て」
静かな威圧感のある重低音の声は、普段巡回している警邏の人たちよりもずっと貫禄があります。
エイノさんの話が脳裏をよぎり、嫌な予感がいよいよ現実のものになったと察し、一気に憂鬱になりました。
彼は私を見、そして手に持っていたタブレットをササッと操作して、ライズさんを見ました。
「ミーティア・“N”・リュティと、君は同盟PTの二級市民だな。ライズ・“H”・ノイマン」
「ええ、そうっスけど、お宅はどちらさんで?」
ライズさんはくだけた態度で頷きますが、その目は真面目で、隠しようもない背中には緊張感が漂っていました。
無理もありません。
明らかにライズさんよりも年上で、言動は穏やかながらも重厚。
纏う空気と存在感は、私たちとはあまりにもかけ離れていました。
「あ、あの、この人は」
私は彼を紹介しようとして、しかし彼は手で私を制すると、一歩前に進み出ました。
「私は、安全保障局第二十九社会防衛群社会調査会隊長、グスタフ・“11(イレブン)”・マルヘインだ」
グスタフさんは静かに自己紹介をしました。
ヴェロニカさんもウメさんも、ライズさんの後ろで緊張した面持ちで彼を見ています。
完全に気を飲まれていました。
中々お目にかかることのない上級市民が目の前にいるのです。
当然の反応でしょう。
そんなグスタフさんですが、叔父が存命の頃からの知り合いで、叔父とは比較的仲が良かったように思います。
叔父が死んでからも、私のことを気にかけてくれて、二級市民に上がるまでの情報位階権限取得考試では本当にお世話になりました。
ええ、本当に。
グスタフさんは、薄い黄緑色の目で私を見据え、そして口を開きました。
「二級市民ミーティア・“N”・リュティ。君にはこれから特殊ボランティアに参加してもらう。このPTの皆の幸福のため、熱烈に貢献してもらうぞ」
当然、私に拒否する権利などありませんでした。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
誤字脱字、その他修正がありましたら、随時対応をします。
公私共に多忙で、投稿が遅れました。
シルバーウィーク中に、推敲と校正をして、また日が開かないように投稿できればと思っています。
さて、今回の話ですが、私個人の鬱憤を晴らすかのような内容になりました。
本当は、中二な彼女のエピソードもあったのですが、テンポを良くしようとバッサリと削除しました、残念。
中二なセリフは、なかなか語彙として思い浮かばず、ネットの力を借りる必要がありました。
中二病の皆様の柔軟な発想は、年をとった私には遠く及ばないところであります。
しかしあれですね、読み返してみると色んな意味で本当に恥ずかしいですw
生あたたかい目で見ていただければと思います。
ちなみに、漢字にルビをふることはしませんでした。
主人公に、その知識がないためです。
次回はいよいよ大規模戦闘に突入となります。
とはいっても、そんなに大した描写はできませんし、ゲーム内でも大規模戦闘はありません。
それでも、こんな感じかなと試行錯誤して書きましたので、お読みいただければ嬉しく思います。
それではまた。