薔薇と堆肥   作:小栗チカ

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第六話

三○四です。

サンマルヨンです。

特殊ボランティア番号三○四、私の所属するパノプティコンでは、天罰級の難易度のボランティアにこの番号がふられることが多いです。

理由は知りません。

とは言え、難易度の高いボランティアなら、報酬や獲得する資源が極めて美味しいものであると普通なら思います。

ところが、三○四に限っては報酬も資源も当たり外れの落差が極めて大きく、極めてギャンブル性の高い内容だったりするのです。

そんなわけで、物好きな戦闘狂でもない限り、普通の咎人や二級市民は決して手出しをしないのが暗黙の了解となっていました。

私にとっては見たくもないボランティア番号でもあります。

私の前任のアクセサリが大破し、叔父が死んだのもこの三○四だったからです。

 

ボランティアの内容は、侵攻してきたヘスペリスPTの排除。

砂漠の前線にて、数日前にからすでに散発的な衝突と睨み合いを繰り返してきたようですが、ヘスペリスPTとの交渉は完全に決裂、いよいよ本格的な戦争の始まりとなった、とのことです。

詳しい事情は話してくれませんでしたし、話してくれたとしても多分、私の頭では理解できないでしょう。

本当は、お伺いを立てる形で断ろうとしました。

命乞いと思われても、怖気づいたと思われても仕方ありません。

でもそうではなくて、エイノさんの移動に支障があり、そんな状態で出撃できるほど、このボランティアが甘くないことは身に染みてわかっていたからです。

ですが、グスタフさんはエイノさんの状態を承知した上で参加を要請していました。

理由は単純明快で、戦うことのできる人手が足りないからとのことでした。

塩ナト並みにしょっぱい理由です。

 

「本日最後のボランティアにして、オニ軍曹の最後の戦い、そして俺がこのPTで戦う最後のボランティアが、まさかの三○四とはなぁ」

 

グスタフさんの下に配置された私たちは、護送車で目的地である砂漠に向かっていました。

オレンジ色のウィルオー灯の下、半笑いで言うライズさんに、私は俯きました。

 

「同盟しているとは言え、巻き込んでしまってすみません……」

「あー、違うって。君を責めているわけじゃないから」

「そうよ。三人とも志願してここにいるんだから、気に病まないで」

 

苦笑するライズさんに続いて、ヴェロニカさんも気遣うように笑ってくれます。

すると、ウメさんが自分の大きな胸を持ち上げるように腕を組みました。

 

「今回の敵対勢力は、ホウライPTの残党と最近しゃしゃり出てきたヘスペリスPTの部隊だったわね。聖域たる私たちのPTにも、マスかきした後のような汚らわしい手を伸ばしてくることもあったわ。戦うことしか能のない愚民の分際で許しがたい暴挙よ。そうでしょ」

 

……こういう時、どんな返事をすれば良いんでしょうね。

すると、ウメさんは深く頷きました。

 

「怒りのあまり声も出ないのね。わかるわ」

 

勝手に解釈されてしまいました。

後々、変な誤解に繋がらなければいいんですが。

 

「でも大丈夫。私の司る闇の慈悲の力と、ライズの甘美な愛の力で、貴方のPTを守ってみせるから」

「あんたね、わけのわからない言葉を飾り立てずに、素直に励ましたらどうなの?」

 

ヴェロニカさんが呆れたような表情で言うと、ウメさんは哀れみのこもった目で彼女を見つめます。

 

「魂のミソギが足りない貴方には理解できないのでしょうね、フグリ。でも、この戦いで第七情報位階権限に上がることができれば、何かが変わるかも」

「偉そうに言ってるけどさ、あんたも同じ取得考試受けるんでしょうが。それと、フグリ言うな!」

 

お二人も触れていますが、このボランティアは、お二人の第七情報位階権限取得考試を兼ねることになりました。

ライズさんが私に付いて戦うことを表明すると、お二人も競ってこの戦いに志願したのです。

グスタフさんは、そんなお二人に苦笑しつつ、難易度が高いボランティアに参加する心意気をかって、その様に取り計らってくれることになったのでした。

もう何度目かの緊張感のない言い争いを始めるお二人。

それを見守るライズさんの笑顔は、心からどうでも良さそうでした。

酷いですね。

 

私がライズさんと一緒に行動している理由は、前に触れました。

では何故、ライズさんは私に付き合ってくれているのでしょう。

三ヶ月前の天罰の際に、偶然に一緒のチームになって以来、何だかんだで私の側にいてくれました。

エイノさんのパーツを集める時も一緒に探してくれましたし、ハルカさんに納品する資源集めも手伝ってくれました。

女の人が好き、というだけでここまでしてくれるのでしょうか。

だからと言って、私に対して恋愛感情があるとは到底思えません。

だとすると、何の理由があって私に付き合ってくれているのでしょう。

と、ライズさんの濃い青の目が合いました。

いつもの飄々とした笑顔を浮かべます。

 

「どうした? ついに俺の胸に飛び込む気になったか? 俺は二十四時間、いつでも戦闘準備は出来ているぞ」

「いえ、違いますよ」

 

腕を大きく広げるライズさんに、笑顔で否定します。

ブレない人だなぁ。

今考えていたことを聞こうかと思いましたが、場所と状況を考えて思いとどまりました。

私を見る目に、男の人特有の光は見当たりません。

一息つき、改めて笑顔を作りました。

 

「このボランティアが終わったらお話します。聞きたいことがあるんです」

「OK。んじゃ、何としても生きて帰らないとな」

 

ライズさんは不敵な悪い笑みを浮かべます。

あら、ちょっと渋くてカッコいい。

薄暗い上に光の加減で顔の彫りの深さが強調され、かなりカッコ良く見えました。

言うまでもなく彼はイケメンですが、それにしても人の錯覚って恐ろしいです。

その時、アラーム音がなりました。

 

「後五分で目的地に到着します。現地ではすでに本格的な戦闘が始まっているため、ウィルオードライブ、兵装、所持品の最終チェックはここで行って下さい」

 

アクセサリのアナウンスに、私たちは特に返事をすることはなく準備を始めます。

その時でした。

 

『こちらアルフレッドワン。オリバーチーム、聞こえているかね』

 

車内に緊張が走ります。

グスタフさんからの通信です。

今回のボランティアは規模が大きいため、チームごとにフォネティックコードがふられています。

アルフレッドとは、グスタフさんのコード名。

私たちのコードはオリバーになりました。

 

「こちらオリバーワン。アルフレッドワン、聞こえています」

 

リーダーの私はオリバーワンになります。

グスタフさんの話は、現在の戦況と今回の作戦の確認でした。

単純な兵力だけ見たら、私達のパノプティコンのほうが上ですが、残存のホウライPTの精鋭と技術力によって戦況は拮抗しているとのこと。

私達のチームは、先発部隊の支援及び外壁の防衛が任務になります。

外壁を突破されたら、モザイク街への被害は免れません。

このパノプティコンではありませんが、モザイク街出身としては、なんとしても守り抜きたいところです。

 

『オリバーチーム諸君の熱烈な貢献を期待する。以上だ』

 

そして通信は切れました。

一部始終を聞いていたお二人のお顔の表情は余裕そうですが、体は正直です。

挙動が固くなり、呼吸も浅くなっていました。

無理もありません。

そんなヴェロニカさんとウメさんをライズさんは抱き寄せ、二人の頭を軽く叩きました。

 

「さーて、現場はどんな状況になっているのかねぇ。お偉いさんはああは言っているけど、本当の作戦はたった一つ、生きて帰る、そんだけだ」

「ライズ」

「俺達のPTに戻ったら、思いっきり盛り上がろうな」

「ライズったら本当に元気よね。そこも好き」

 

あれ?

何かとってもシリアスだったのに、三人の周辺のウィルオーがピンク色になっているような気がします。

もちろん、気のせいでしょうけど。

下手にガチガチになっているよりは、よっぽどいいかもしれませんが、どうしたもんでしょうね、これ。

釈然としないものを感じつつ、粛々と最終チェックを済ませた頃、護送車が止まりました。

ドアロックが解除される音が響きます。

扉が開くと同時に押し寄せる熱風。

運ばれてきたのは砂と火薬の匂い、そしてミサイルの砲撃音と銃声でした。

私はすでに準備を終えている皆の顔を見渡しました。

 

「それでは、よろしくお願いします」

「よろしくな」

「よろしくお願いします」

「よろしく」

 

そうして一斉に護送車から飛び降りました。

私は、背後から武器を携えて追随する影に声をかけます。

 

「エイノさん、よろしくお願いします」

「了解しました」

 

色々な意味での最後のボランティアの始まりです。

 

◆

 

中天にあった太陽は緩やかに傾きはじめ、それとともに空の青さは黄色みを帯びてきていました。

とは言え、この時間の砂漠はやはり暑く、しかも今日は風がある上に戦闘の規模が大きいせいで、砂ぼこりが酷いことになっています。

バリケードと砂埃の向こうには、複数のアブダクターが同時出現し、敵兵もかなりの数を目視で確認することができました。

 

『敵増援、接近中。間もなく会敵します』

 

え? どこ?

素早く視線を周囲に走らせた時でした。

 

『あー、俺いつも思うんだけどさぁ、何で主力にもなるアブダクターを、戦線の端っこに配置するのかね? 端っこが好きなのか?』

 

ライズさんの半笑いのぼやき。

ちょうど、私たちのチームが向かっている場所の目の前に、砲撃二脚丁型が唐突に出現していました。

走る速度を速めて目的地へと向かっていると、本隊から連絡が入りました。

すでに交戦中のジャックチームと合流し、確実にその場で撃破しろとのこと。

 

『こちらジャックチーム。初めましてオリバーチーム、早く来ないと僕達だけで倒しちゃうからね!』

 

本隊からの通信が切れると同時に、若く明るい男の人の声が通信に入ってきました。

声だけで判断するのもあれですが、私と同い年か年下のような気がします。

私は舐められないよう、生真面目に答えます。

 

「こちらオリバーチーム。ありがとう、ジャックチーム。どうせならそいつも倒してしちゃってもOKです!」

『えっ!? そこは私たちの分も取っておいてねとか、私たちも負けないわよって返すのが、オウドウでしょ!?』

『青いわね坊や。定石なんて、古代のローテーブル同様ひっくり返してなんぼよ』

『だからさ、あんた本当に何様なの? そろそろ本気でいい加減にしなさいよ』

 

緊張感に欠ける会話です。

そうしている間にも、敵の射程距離に入りました。

 

『んじゃま、ボチボチ頑張りますか!』

『了解!』

 

ライズさんの一声で、私たちも攻撃開始です。

とは言え、一機のアブダクターに対して八人と八体がかりは、明らかに過剰戦力です。

ジャックチームは、職人のような手際で武装を剥ぎ、的確に鳥篭を破壊していました。

岩陰に隠れていますが、ウィルオー凝集体となったアブダクターが見えます。

形からして輸送二脚のようですが、恐らくこのチームが即座に落としたんでしょうね。

このチーム、かなり優秀なようです。

銃撃とミサイルが容赦なくアブダクターの機体にダメージを与え続け、後もう少しで撃破のところで、ミニマップに複数の赤い光が複数出現しました。

視線を移せば、砂埃の向こうに武器を携えてこちらに向かってくる人影が複数見えます。

 

「対人重視でいきます」

『了解!』

『了解です!』

『OKよ』

 

私たちのチームは対人戦に切り替え、ジャックチームを援護することにしました。

バリケードから銃撃で敵兵を確実に仕留めていきます。

程なくして、アブダクターは撃破。

ジャックチームも対人戦に加わり、程なくして敵を一掃。

この地点については完全にクリアしました。

ジャックチームのリーダーが報告をしている間、私は背後でリロード中のエイノさんに声をかけます。

 

「エイノさん、全体の戦況ってどんな感じですか?」

『我々のいる右翼と中央の戦線は安定していますが、左翼方面で複数のアブダクターによる乱戦状態になっているようです。ですが、現状は比較的有利と判断して差し支えはないでしょう』

「そうですか」

 

いつものボランティアだったら、すぐに左翼の援護に入るところですが、今回の戦闘では持ち場から離れることはできません。

いつ増援が来ても良いように、ここで待機です。

 

『こちらジャックワン。オリバーワン、聞こえてる?』

「こちらオリバーワン。聞こえていますよ」

 

哨戒を続けるジャックチームのリーダーさんからです。

 

『対人掃討ありがとう。手際良いね』

「こちらこそ、アブダクターのお相手ありがとうございます。本当に全部お任せしちゃえば良かったです」

 

すると、ヘッドホンの向こうでジャックワンは明らかに苦笑しました。

 

『いやいや、僕達のチーム、どちらかと言うとアブダクター戦の方が得意だから助かったよ。しばらくよろしくね』

『はい、こちらこそよろしくお願いします』

 

雰囲気の良さそうなリーダーさんです。

戦い方も効率的で無駄がない上にお上手ですから、上手く連携をとることができれば、かなり有利に戦いを進められそうです。

良いチームに当たって良かった。

 

『ところでさ、変だと思わない?』

「変、ですか?」

 

ジャックワンの口調が変わりました。

 

『三○四だからさ、僕らもかなり気合入れてきたんだよね。でも、最初からここで戦っているけど、ずっとこんな感じでさ。拍子抜けっていうか……』

「……確かに現状は、第七、第八情報位階権限のボランティア程度ですね」

 

少し考えて、答えます。

私の記憶にある三○四は、空気からしてもう普通のボランティアとは違っていました。

普通に戦っていたら死ぬ、頑張っても死ぬ、何をしても死ぬ、そんな絶望感が戦場を支配していました。

 

『やっぱそう思うよね。うーん、何だかなぁ』

 

どうやら、戦況に疑問を抱いているようです。

 

『気のせいだったら、それに越したことはないんだけどさ。ま、油断せずにいくよ』

『了解しました。こちらも気を引き締めていきます』

 

弾薬補充を行い、周囲を警戒しつつその場で待機します。

情報では左翼方面の乱戦も、そろそろ終わりを迎えるとのことでした。

このまま終わりなのでしょうか。

風の音を聞きながら、砂埃でかすむ船を眺めていた時でした。

産毛が一斉に総毛立つ感触に、思わず動きを止めます。

 

「ミーティアさん、どうしたの?」

 

背後からヴェロニカさんの声。

ですが、答えることはできませんでした。

何か、空気が変わったような──。

 

「あれ? 今、俺、便所行って、そのままPTに逃げ帰りたくなったよ」

 

隣にいるライズさんが呟きます。

ふざけた口調ですが、ライズさんも歴戦の二級市民です。

恐らく、戦場の異変を感じ取ったんだと思います。

 

「ライズ。敵前逃亡は重大なPT法違反です。刑期加算と情報位階権限の降格、最悪の場合、再教育を受ける可能性が」

「うんうん、わかってるよー」

 

アクセサリ忠告を遮り、ライズさんは面倒くさそうに頭をかきます。

普段なら何かしらのツッコミを入れるはずの、ウメさんとヴェロニカさんも、ライズさんの様子に顔を見合わせていました。

そうしている間にも不安が胸に競りあがる一方です。

 

「エイノさん、周辺の状況確認を──」

「警告。左翼方面に巨大なアブダクター反応を二機捕捉」

 

エイノさんに指示を飛ばそうとして、先を越されました。

 

「巨大って……」

 

ヴェロニカさんが不安げに呟いた時、戦場に咆哮が轟き渡りました。

この咆哮って──。

 

「敵アブダクターの種別判明。ディオーネ二体と判断しました」

「えっ!?」

「……おいおいおい、嘘だろ」

 

エイノさんの淡々とした発言に、全員が息を飲みます。

私にとっては恐怖を喚起するには十分の存在であり、ライズさんの表情からも余裕の色が消えて、完全に引きつっていました。

まさかあのディオーネが、しかも二体同時に出てくるなんて。

あ、そうだ!

 

「エイノさん、天兵は!?」

「確認できません。左翼に敵兵と小型アブダクター、多数出現」

 

え? え? どういうこと!?

 

「パール、ディオーネの識別番号を調べろ。今すぐに!」

「了解しました。現在、該当の機体識別番号を調査中」

 

パールとは、ライズさんのアクセサリの名前です。

銀髪ロン毛に赤い目をしたパイオツカイデーな女性型です。

 

「調査完了。機体識別番号からヘスペリスPT製のディオーネと判断しました」

「嘘!?」

「あのPTにそんな技術力があったなんて、世界が彼等を認めようとしているの?」

 

ディオーネは天獄の象徴とも言うべきアブダクターです。

その証拠に、この地上のパノプティコンで、ディオーネを製造できるところは今まで皆無でした。

ですが、もし製造できるようになったとしたら、地上の勢力図どころか、この世界の戦局すらも大きく激変する一大事になります。

驚く私たちを尻目に、立て続けに警告音が鳴ります。

 

「敵増援、接近中。まもなく会敵します」

 

そして、私たちの待機地点から百メートル以上離れたところで、いくつもの光が閃きました。

現れたのは、耐電、耐火、耐冷二脚丁型。

耐熱と耐冷はシールドジェネレーターを装備しています。

さらに敵兵が、先ほどの倍以上の数でこちらに向かってきていました。

 

『こちらジャックワン。オリバーワン、聞こえてる?』

 

ジャックチームのリーダーさんから通信です。

 

「こちらオリバーワン、ジャックワン聞こえてます」

『提案なんだけどさ、さっきと同じ方法でやらない? 僕らがアブダクターを、君たちは敵兵を叩く』

「了解しました。周辺の掃除は任せて下さい。ただ、シールドジェネレーターを先に落としていただけると助かります」

『了解。言われずとも速攻で落とすよ』

 

私はライズさんたちに、引き続きジャックチームの援護に入ることを告げます。

皆さんは異議を唱えることなく頷きました。

敵を引き付けるだけ引きつけて、いよいよ交戦開始です。

シールドジェネレーターの影響で、アブダクターの周辺にいる敵兵への狙撃は出来ません。

装備を狙撃銃から、エアズナイフに切り替えます。

 

「シールドジェネレーターを落とすまでは、これでジャックチームを援護します。エイノさんはシールドジェネレーターの範囲の及ばない敵を片付けて下さい」

『了解しました。ミーティア、左翼にいるディオーネの行動については逐一報告しますので、貴方も十分に注意して行動して下さい』

「了解です!」

 

そしてバリケードから飛び出すと、ジャックチームに群がる敵兵に攻撃を仕掛けます。

アブダクターの動きに注意しながら、隙の少ない横切りを主体に、的確に敵兵を仕留めます。

槍を持つ敵がいるとちょっと厄介ですけど、この場にはいないようで一安心です。

あ、ミサイルがノロノロと、こちらに向かってきているのが見えました。

素早くアブダクターのシールドジェネレーターの範囲に入ってやり過ごし、荊をナンブを持つアクセサリへ飛ばします。

接続成功。

そのままダイブアタックで吹き飛ばし、そのまま馬乗りになって喉を一突き。

機能停止を確認して、素早く周辺の状況の確認します。

 

ジャックチームはガトリング砲を装備する耐火に二人と二体、耐電、耐冷に一人と一体ずつで戦っていました。

シールドジェネレータは、各機共にあと一つ残っていますが脅威の早さです。

特に耐冷は一人と一体だというのに、捕縛荊を活かして恐ろしく手馴れた様子で戦っていました。

もはや職人芸です。

敵兵も大分数を減らしていましたが、リスポーンした敵兵がこちらにやってくるのが見えました。

シールドジェネレーターの範囲外なので、狙撃銃に切り替えて迎え撃ちます。

 

『よっしゃあ! シールド落としたぞ!』

 

おお! 早い!

耐火については、両腕のガトリング砲に注意すれば問題なさそうです。

何気に鬱陶しいんですよね、あれ。

耐冷は一人なので、さすがに時間がかかっています。

狙撃銃で敵兵を一掃できたのでサポートに行こうとしたら、ライズさんが既に耐冷のサポートに入っていました。

さすがに大量の増援を前に、真面目にかつ積極的に行動しているようです。

ええ、何だかんだで言っても、やっぱりライズさんは頼もしいです。

そして、耐冷の肩から呆気なく最後のシールドが落ちました。

 

『シールドクリア! オリバートゥ、援護ありがとう!』

『どういたしまして、ジャックフォウア。そのクールビューティな顔と白い肌に、情熱的な赤い荊が映えるね。思わず見惚れてリロードを忘れたくらいだ』

 

前言を撤回しますね。

ライズさんは、やっぱりライズさんでした。

目敏い上にブレないなぁ。

 

『オリバーワン、何で彼はこの状況で、僕らの紅一点を口説いているのかな?』

「ジャックワン、それは誤解です!」

 

私はバリケードに戻りながら、ジャックワンの誤解を解き、ライズさんの名誉を守るため言葉を続けます。

 

「あれは彼にとっての深呼吸なんです。独自の生態なんです。難儀な仕様なんです。チュウニと並ぶ不治の病のようなものでして」

『ミーティア、君とは帰ったらよく話し合う必要が』

『警告。ディオーネの周辺の気温上昇中』

 

ライズさんの声を遮る、エイノさんの報告。

と、地面に赤い火柱が幾つも立ちました。

これって!

 

『ディオーネの火炎弾だ! 攻撃中断、回避に専念しろ!』

 

ジャックワンの声に被って、空気を切り裂く鋭い音が聞こえました。

来た!

そして火の玉が次々と地面に落下して爆ぜます。

爆発する火の雨に加えて、地面に爆ぜた際に巻き上がる砂塵。

しかもアブダクターは三体共に健在で、この火の雨の中、私たちを倒そうと元気に攻撃を仕掛けています。

戦場は一気に混乱の度合いを高めました。

逃げる私の耳に悲鳴が飛び込んできました。

この声は、ヴェロニカさん!?

 

『ご、ごめんなさい……』

 

声と共に、ヴェロニカさんの戦闘不能が戦闘のログに上がってきました。

 

『ヴェロニカ!』

『ライズ、フグリの蘇生は私がやる。貴方は自分の回避に専念して』

『無理はするなよ!』

 

火炎弾の雨が止み、ミニマップで状況を改めて確認します。

私達のチームも含め、青いバツが幾つかついていました。

ジャックチームにも多少の被害が出たようです。

ついでにエイノさんもダメージを受けたようですが、致命傷にはいたっていません。

 

「エイノさん、敵兵が来たら優先的に仕留めてください」

『了解しました』

 

敵兵がリスポーンして、またこちらに向かってきます。

シールドがなくなった今、エイノさんにも頑張ってもらいましょう。

 

「ジャックワン、敵兵は引き続きこちらで対応します」

『オリバーワン、了解。こちらの建て直しも出来たから、さっさと片付けるよ』

 

そうして、再びアブダクターに対峙するジャックチーム。

動画データーに残して、お手本にしたいくらいの建て直しの早さです。

 

『こちらオリバートゥリー、フグリことオリバーフォウアを蘇生したわよ』

『ウメ・“真紅”・バローネ、本当にありがとう。本当に感謝しているわ、ウメ』

『垂れ乳フグリの分際で、命の恩人の名前を間違えるなんて、一度本気で雌雄を決する必要があるようね』

『こらこら、お前たち、喧嘩している暇があったら周囲の皆さんを見習って、ちゃんと真面目に戦いなさい』

 

やっぱり相変わらずなお二人を窘めるライズさん。

一瞬この場の空気が微妙になったは、気のせいではないでしょう。

ライズさん、決して間違ったことは言っていないんですけど、つい先ほどのことがありますから。

 

何はともあれ、私たちのチームの建て直しも完了です。

建て直しができたことで、対人も問題なくクリアできています。

結果、ジャックチームも心置きなくアブダクターに専念できるため、三体のアブダクターを沈めるのは時間の問題となりました。

敵兵を一掃し、耐電二脚のサポートへと向かう私は、ウィルオー通信の継戦力を見て、未だ戦況は厳しい状態であることを確認します。

敵の継戦力も順調に減ってはいますが、こちらの継戦力も先程よりゴッソリ削られていました。

左翼のディオーネ二体に手こずっているせいでしょう。

随時入る本隊からの連絡では、中央の戦力の一部を左翼に回して対応しているとのこと。

こちらが若干有利とは言え、全く油断のできない状況です。

 

「救いはディオーネがこっちに来る様子がないことか」

『そういえばヤツら、不思議とこっちに来ないねぇ』

『言われて見れば、一度も空を飛んでないような。いや、ありがたいけどさ』

 

呟いた独り言に、ライズさんとジャックワンが反応しました。

左翼が死に物狂いで足止めをしているのでしょうか。

それでも、一度や二度は確実に飛ぶはずなんですけど、今日のディオーネは二体とも大人しい子のようです。

ディオーネがこちらに来る前に、さっさと片付けてしまいましょう。

リスポーンする敵兵を潰し、ディオーネの火炎弾をかわしながら、ジャックチームの援護をしつつ、三体のアブダクターの討伐がようやく完了。

バリケードに戻って、弾薬とアイテムの補充を済ませます。

本隊からの報告では、ようやくディオーネを一体撃破でき、左翼の戦線もどうにか維持できているようです。

継戦力も再びこちらが上回り始めました。

 

「それじゃあ、僕らは行って来るから、ここは頼んだよ」

 

ジャックチームが装備を整えて、こちらを見ます。

本隊からの命令で、ジャックチームは左翼に回した中央の戦力の補強のため、中央の部隊と合流することになったのです。

このチームなら、ぶっちゃけ激戦が続く左翼でも問題はないと思います。

 

「はい。どうかお気をつけて」

「この戦いが終わったら、みんなで飲みに行こうね」

 

そう言ってジャックワンは私に手を伸ばしました。

私は少し躊躇い、でも手を伸ばしてグローブに包まれたその手をしっかりと握ります。

 

「楽しみにしています」

「朝まで華やかに痛飲だよ」

 

しっかりと握り返すジャックワン。

その目が、ゴーグルの奥で楽しそうに笑っていました。

チーム全員で握手をすると、ジャックチームは小さく手を振り、中央に向かって移動を開始しました。

その背を、ちょっと寂しく見送ります。

戦闘の連続でそんな暇もありませんでしたが、お互いに正式に自己紹介をしていませんでした。

無事に帰ったら、ジャックチームの皆さんとフェローカードの交換ができたらいいな。

 

「さて、優秀なチームがいなくなって、俺達の実力がいよいよ試されるな」

「試されることがないまま、終わってくれるといいんですけどね」

 

そう言うと、マスクを取ったライズさんが、ウィルオードライブから水筒を取り出しながら笑いました。

 

「違いない」

「敵増援、接近中。間もなく会敵します」

「……あらあら、水ぐらい飲ませてよ」

 

苦笑いをし、それでも水を一口飲むと素早くウィルオードライブに戻すライズさん。

ミニマップを見ると、アブダクターのマークが一つと小さな赤い点が再び現れていました。

即座に役割分担を発表します。

 

「私とライズさんは敵兵の掃除。ウメさんとヴェロニカさんはアブダクターのお相手をお願いします」

「了解っと」

「了解です!」

「ミーティアさん、私の名前は」

「さあ、行きますよ皆さん!」

 

号令と共に、再び戦闘開始です。

現れたアブダクターは耐電二脚の丁型。

タフな機体ではありますが、シールドジェネレーターを装備していないのは幸いです。

それと対峙するウメさんとヴェロニカさんの戦いは、目に見えて安定していました。

先ほどの激戦で戦闘に慣れたこともあり、この戦いは私たちのチームにとって、心身ともに極めて楽なものになりました。

ジャックチームを中央へまわしたのは、正解だったと言えるかもしれません。

敵兵の掃除を完了し、耐電二脚へ注意を向けます。

損壊率は、もう少しで五十パーセントを超えようとしていました。

良い調子です。

みんなと力を合わせて、耐電二脚に集中攻撃を仕掛けます。

耐電二脚一体だけなら、私たちの敵ではありません。

 

『敵増援、接近中。間もなく会敵します』

 

難なく耐電二脚はクリアしたものの、立て続けに増援がやってきます。

今度は大型のアブダクターではなく、敵兵のみです。

そして、敵の継戦力は半分を切っていました。

こちらの優勢は揺るぎません。

敵を迎え撃つため、バリケードに戻ろうとしたその時でした。

 

『左翼から高エネルギー反応を捕捉』

 

右手からの鋭い光を捉えた瞬間、反射的に体は大きく跳躍して岩陰に飛び込みます。

そして、その光を確認しようと顔を向ければ、施設のさらに向こう側に、目を焼くような巨大な緑と青と白が入り混じった光の玉が。

ですが、ちゃんと確認することはできませんでした。

天が崩れ落ちたかのような轟音と、足元がおぼつかなくなるような地響きとが、私の体勢を崩したからです。

 

『ミーティガガガガガッ、伏せザザザッ』

 

ビー! ビー! ビー! ビー!

 

耳鳴りの向こうでエイノさんの声とノイズ音、そして聞いたことのない警告音。

無意識のうちに地面に身を伏せたのと、エイノさんがその小さな体で私に覆いかぶさったのと、抗うことのできない空気の塊と土砂が私の体を襲ったのはほぼ同時でした。

 

『ガガガッ、ザザザザザッ』

 

ビー! ビー! ビー! ビー! ビー! ビー! ビー! ビ──。

 




ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
誤字脱字、その他修正がありましたら、随時対応をします。

複数のチームが動き、一つのボランティアの達成を、ゲームにある材料で書いてみようと思ったのが、今回のお話です。
次回に続きます。

戦争の知識がありませんから、現実の戦争ものと違う! おかしい! ということがあっても、不勉強なりに頑張ってるんじゃね? FWの雰囲気はあるよね? くらいに思っていただければと。
そんな不勉強な私ですが、戦闘で書いてみたいと思っているものがもう一つあって、それは味方アブダクターとの共闘です。
無謀な上に、そもそもゲーム内でアブダクターと共闘するのは、たった一回しかありませんし、そもそも道案内ですから、書こうにも書けないですw
そんな技術力のないPTなのに、よく生き残れているなと感心するばかりです。
他に理由があるのかな?

さて、現在のFWの動きといえば。
公式では、歌とキャラだけが取り上げられている現状ですが、好きな人には申し訳ないと思いつつも暴言を。
そんなんどうでもいいから、ゲーム作ってほしい。
ゲームじゃなくても、世界観に関する資料集を出して欲しい。
いま出ている資料集は、ビジュアル面の補完はできると思いますが、世界観に関しては、次回作の為か、伏せられている部分があまりにも多いので。

……ゲームが出ても、また一から百万年を消化することになったり、次回作と課金を匂わす尻切れトンボなストーリーだったり、協力プレイ前提の難易度だとしたら、ソロでライトプレイヤーの私は、確実に心が折れるでしょうw

愚痴になりそうなのでこの辺で。
それではまた。
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