薔薇と堆肥   作:小栗チカ

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第七話

息苦しい。

 

いつものように一人で、ドブ川でゴミさらいをしている子供の私が空を見上げます。

空は青くて広くて伸び伸びしていて、ヒトの気持ちなど全くお構い無しで。

その様が、子供心にたまらなく羨ましく思ったものです。

空を見上げるのに疲れ、左腕に抱えるカゴの中身に視線を移して、気分が落ち込みました。

この量では、最低限の夕ごはんを手に入れることすらできません。

今日は上流の方まで行かなくてはならないのだと、小さくため息を吐きました。

ポーチに入っている、簡易型のウィルオー灯を取り出そうとして、不意に左腕に抱えるカゴごと、川に投げ捨てたくなる衝動に駆られました。

もちろん、現実にそんなことはしません。

だけども、この衝動を抑えるのは容易なことではなくて。

そして思います。

私に力があったら良かったのに。

そうすれば、私を取り巻く息苦しさの原因を全て消し去ってしまえるのに。

でも当然そんなことはありえません。

どうにか深呼吸をして心を落ち着かせます。

そして、滲んであふれたモノを無理やり袖で拭い、腰にウィルオー灯をくっつけると、上流へと向かって歩き出したのでした。

 

私を取り巻く全てのものを消し去ってしまえば、本当に息苦しさは消えるのか。

今の私も、そして子供の私も首を横に振ります。

おそらく消えません。

ずっと息苦しいままです。

では何故息苦しいのでしょう。

無知で愚かな子供の私も、浅はかで中途半端な今の私も、答えを出せずにいます。

 

熱い、息苦しい、痛い。

 

◆

 

ハッとして目が覚めました。

熱くて息苦しくて痛い上に、あたり一面真っ黒です。

本当に目が覚めたのでしょうか。

なんか変な夢を見たような気がしますが、今の状況のせいでしょうか。

とりあえず、目は覚めたということにして、何が起こっているのでしょう。

全身に重圧を感じ、その重さに耐え切れず、手足をばたつかせようとして、全く動かないことに気づきました。

手を始めとした肌に触れるのは、砂の感触。

小さくて、柔らかくて、でもとても固い。

それらがまとまって、私の体をガッチリと拘束していました。

呼吸ができているのは、地面か岩か、とにかく何らかのくぼみに顔を突っ込んでいたからです。

我ながら、土壇場の運だけは本当にいいです。

でも、時間が経てば確実に死に至るでしょう。

閃いた考えに体が猛反発し、懸命に体を動かそうと足掻き始めます。

死にたくない、生きたい。

いや、これだけでは足りない。

生きる。

生きてみせる。

喉と鼻が痛みを発し、奥歯を血が噴き出すのではないかと思うほど噛みしめ、目から涙が溢れます。

それでも動かない。

少しでも動きを止めると、体が死の気配を感じて再び動こうとします。

体に力を入れ続けている上に、呼吸もままならず、いよいよ意識が遠のき始めます。

感情も、思いも、記憶も、何もかもが流れ出ていく感覚。

そして、真っ暗な視界に真っ白な光が溢れて埋めつくそうとしたその時でした。

 

「ミーティア、起きて下さい」

 

聞きなれた無感情な声と共に、体が軽くなりました。

砂から引き起こされ、抱きかかえられます。

ようやくスムーズに呼吸をすることが出来るようになりました。

ああ、呼吸ができることが気持ちいい。

ですが、私の体は完全に力尽きていました。

指一本、動かせません。

ひとまず、呼吸を整えることで最低限の力の回復をはかります。

無感情なエイノさんの声が、バイタルのチェックを行っているようですが、聞いた限りは大きな怪我はないようです。

そして、エイノさんは私の体を担ぎ上げ、移動を開始しました。

不安定な上に、速度も遅いです。

どこへ行こうというのでしょう。

程なくして、固い壁に私を寄りかからせました。

感触からして、正体不明の施設の壁のようです。

先程よりも、呼吸をするのがかなり楽な姿勢になりました。

そうして呼吸を繰り返していくうちに、ようやく全身に最低限の力戻ってきました。

 

「エイノさん」

 

思っていたよりも小さな声でしたが、とりあえず声は出ました。

 

「はい、何でしょう」

 

独房にいる時のようなやり取りに、ちょっと笑えました。

 

「あの、体に力が全然入らなくて、マスクとゴーグルを取ってもらえますか」

「了解しました」

 

エイノさんの気配が近づき、ゴーグルとマスクを取って手渡しました。

無機質な光を放つくすんだ緑の目と、声同様に無感情な顔。

いつものエイノさんの様子にホッとします。

ですが、周囲がやけに暗いのはどうしたことでしょう。

ていうか、一体何がどうなっているのかさっぱりです。

 

「エイノさん、ごめんなさい。状況を説明してもらえますか」

「了解しました」

 

エイノさんは状況の報告を始めます。

私が特殊ボランティア三○四に参加し、敵性PTを迎え撃つべく砂漠に展開した部隊の右翼で戦っていたこと。

途中で左翼に、敵性PTのディオーネ二体が出現したこと。

懸命に戦って、ディオーネ一体の討伐は完了したこと。

そして、残ったディオーネが討伐寸前に爆発を起こしたこと。

 

「爆発?」

 

今までアブダクターが爆発するなんてことはありませんでした。

信じがたい言葉に思わず聞き返しますが、エイノさんはしっかりと頷きます。

 

「爆発の影響は甚大で、大量のウィルオーが放射されたことと、衝撃波で巻き上げられた砂塵の影響で、ウィルオー通信に障害が発生し、現在も通信は不能です。また視界も不明瞭な状態になっており、行動を起こすのは極めて危険です。今は無闇に動くことなく、体力の回復に専念することを提案します」

 

それでこんなにも暗い上に見通しも悪いんですね。

砂嵐の時と同じか、それ以上に酷いですよこれ。

どちらにしても、体力の回復を行うことは最優先であることは間違いないので、ここは素直に提案を受け入れます。

 

「なお、これはまだ確認は取れておりませんが、爆発直後の状況から左翼は完全に消失。中央も戦線が瓦解し、継戦は実質不可能になったと推測します」

 

…………。

え? 消失って、何?

ですが、エイノさんは構わずに報告を続けます。

 

「貴方は衝撃波によって吹き飛ばされ、巻き上げられた砂塵に埋もれた状態になっていましたが、さほど多く被っていなかったこともあり、ロストする前に救出することができました。大きな怪我はなく、ウィルオードライブにも異常は見られません。しばらく休憩をしていれば回復できるでしょう」

 

エイノさんは砂埃を気にすることなく、こちらをしっかりと見ていました。

 

「前の被監視者だったクリストフも、そして貴方自身も申し上げていましたが、貴方の土壇場での強運は、データでは計れない強さです。移動技術以外は誇れる資源価値のない未熟な貴方ですが、この強運もまた、資源価値として一考しても良いのかもしれません」

 

明らかにバカにされましたが、言い返す元気はありませんでした。

そうしている間にも頭が働き始め、真っ先に思ったのはライズさんやウメさん、ヴェロニカさんの安否です。

 

「チームのみんなは?」

「ウィルオー通信が使えないため、生死は不明です」

「ああ、そっか」

 

いつもなら目の前に展開されているはずのウィルオー通信による情報は、全て通信障害の文字出ていて使用できなくなっていることを示していました。

ついでに言うなら、初めてのことです。

そして、遅まきながらエイノさんの異常に気付きました。

エイノさん、感情をまったく表さない上に、私自身も余裕が無いため気付くのに遅れたのです。

 

「あの、エイノさん、もしかして足が」

「衝撃波の影響で歩行に障害が出ています。申し訳ありませんが、貴方の狙撃銃をお借りしてもよろしいでしょうか」

「わかりました」

 

私は頷き、どうにか体を壁から起こします。

荊が巻きついた腕をノロノロと動かすと、ウィルオードライブから狙撃銃を取り出しました。

エイノさんの言うとおり、ウィルオードライブ自体は問題なく動いているようで何よりです。

エイノさんに手渡し、再び壁に寄りかかります。

 

「ありがとうございます」

 

お礼を言うエイノさん。

中々レアな発言です。

そして、腕に巻き付く荊の弱々しい光と、自分の意志で体を動かしてみて、自分の体が思ったより消耗していることに気付かされました。

でも、ある程度回復したら、みんなを探しに行かないといけません。

 

「エイノさん、この砂埃、あとどれくらいで晴れますか? 体力が回復次第、みんなを探しに行きたいです」

「最後に更新した気象データと、舞い上がった砂塵の量を推測して、後一時間は確実にかかると予想します」

「了解です」

 

体力の回復に専念しようとして、砂埃でかすむ視界の向こうに緑の光が見えました。

見逃すはずがありません。

治療荊の光、誰かが生きている!

胸に喜びが溢れ、瞬く間に体の芯を温かくなりました。

緑の光の線がこちらに向かって描くたびに、人影がはっきりとわかってきました。

ああ、あの人影には見覚えがあります。

 

「ミーティアさん!」

「やっぱりヴェロニカさんだ」

 

荊で移動を続けていたヴェロニカさんが、勢いよく私に抱き付きました。

 

「良かった! 本当に良かった!」

「ええ。ご無事で何よりです」

 

私たちは抱き合い、しばし喜びを分かち合いました。

そして、遅れてきたヴェロニカさんのアクセサリとともに情報交換を行います。

内容は、エイノさんが話してくれた情報と変わりはありませんでしたが、ウメさんが生きていることを知ったのは大きな収穫です。

ただ体力の消耗が激しく、放置された状態の鉄鋼船の付近で、今は安静にしているとのことでした。

また、敵兵にも生存者がいるようですが完全に戦意を喪失しており、鉄鋼船付近では敵味方関係なく休んでいる人もちらほらいるそうです。

そして、比較的体力に余裕のあったヴェロニカさんが、私とライズさんを探していたとのことでした。

 

「そうですか、ライズさんはまだ見つかっていないんですね」

「ええ。ウィルオー通信も使えない上に視界もこんなだから、探すのに手間取っちゃって」

 

無理もない話です。

 

「私も後少ししたら探しに行きます。周囲の状況も詳しく知りたいですし」

「了解。でも無理はしないでね」

 

そして集合場所をウメさんのいる場所に定めて、ヴェロニカさんは再び鉄鋼船に向かって荊で移動を始めました。

彼女のアクセサリもその後に続きます。

ヴェロニカさんとウメさんが生きていたことを知り、体に力が戻ってきているのを感じました。

単純な体です。

でも、その単純さが今はありがたいです。

手にしたゴーグルを拭い、マスクを付け替えて装着します。

そして壁に手をつけると、震える足を踏ん張り、どうにか立ち上がることができました。

ゆっくりと準備運動をして、少しずつ体のエンジンをかけていきます。

改めて周囲を見ましたが、視界は相変わらず最悪で、目を凝らさないと荊の光すら見落としそうです。

まずは高台にあがって、周辺の状況を改めて確認しましょう。

この近辺の高台は……、ああ、左前方にある岩がいいですね。

 

「エイノさん、あの大きな岩、十時の方向にある岩の頂上を目指します。あそこから目視で周辺の状況を確認したいです」

 

この視界ですから、たかが知れているとは思うのですが、それでもちゃんと見ておきたいと思ったのです。

エイノさんは鷹揚に頷きました。

 

「了解しました。私は移動に支障があるため遅れての到着となります。その間、くれぐれも気をつけて行動をして下さい」

「はい。了解です」

 

よし、では行きますよ。

私が力を取り戻したと同時に、腕に巻きつく赤い荊の光も強さを取り戻したように見えました。

ホントにわかりやすいですね。

荊を飛ばして目標の岩へと向かいます。

途中、何となく振り返ってみると、砂埃にかすんだエイノさんが、狙撃銃を杖にしてこちらに歩いてくるのが見えました。

待機させたほうが良かったかな。

でも、今さらです。

ちゃんと目的地まで来てくれることを信じて、再び移動を開始します。

岩が近づくにつれて、砂埃で見えなかったその全貌が明らかになりました。

まるで建物のように垂直に切り立っている上に、緩やかに傾斜している面もあります。

あれを荊を使わずに移動技術を駆使して登れたら、昔の仲間に大いに自慢出来そうな気がします。

ですが、その根元に緑色に輝く光が見えたような気がして、気持ちをすぐに切り替えました。

目を凝らしながら移動を続け、やはり緑色の治療荊の光が灯っているのが確認できました。

予感がします。

その荊の持ち主は、

 

「ライズさん!」

 

岩にもたれ、ぐったりしているライズさんでした。

隣には彼のアクセサリが付き添っています。

荊のおかげですぐに彼の元へと辿り付けました。

ウィルオー通信が使えないため、エイノさんやヴェロニカさんに連絡を取ることもできず、ライズさんの状態もわかりません。

アクセサリに聞こうとして、すぐにその考えを捨てました。

被監視者以外とは会話をしないのがアクセサリです。

……何で人型にしたんでしょうね、一瞬でもヒトと錯覚する自分の心の動きが面倒くさいです。

手袋を取ると首筋へと手を伸ばし、脈を取ろうとして、

 

「何だミーティア、こんな状態で男を襲うとは。君にそんな意外な一面があったとは嬉しい誤算だね」

「ライズさん……」

 

ライズさんは消耗しきっている様子ですが、とりあえずは生きていました。

良かった! 本当に良かった!

 

「大丈夫ですか。見た感じ、目立った怪我はなさそうですが」

「ああ。衝撃波で吹っ飛ばされて、岩に激突して全身を打ったけど、アクセサリに持たせていたラージエイド使ったから大丈夫だ」

「そうですか」

 

消耗しているのは、傷は治っても怪我をした時の大きなショックから抜けきっていないせいかもしれません。

安心から溜め息が出ました。

 

「ヴェロニカさんも、ウメさんもご無事です。集合場所も決めました。エイノさんがもう少しで到着しますけど、動けますか」

「軍曹殿が着くまで回復に専念するよ。あの二人に、こんなカッコ悪い姿は見せたくないからな」

 

苦笑するライズさんに、私は笑いかけました。

 

「今のライズさんは、カッコ悪くないですよ」

「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃないの。ていうか、初めてだよね? そう言ってくれたの」

「……言われてみればそうですね」

 

すると、ゴーグルの向こうでライズさんの目が嬉しそうに輝きました。

 

「よし! 凄く嬉しいから、ちゅーをしよう!」

 

この状況でもこれですか。

本当にこのヒトは!

 

「情報が更新されました。今のライズさんは最高にカッコ悪いです」

「酷い! いたいけな少年のような俺の心を弄びやがって、何て女だ! 謝罪はいらないからちゅーをしろ!」

 

普段の様子を取り戻したライズさんの両手を取り、その手の甲を両手でギュッと握って笑顔で答えました。

 

「お断りします」

「君さ、たまにお店の天使ちゃんのように見える時があるのは気のせいか?」

「気のせいですよ」

 

私は手を離して立ち上がります。

 

「どちらへ?」

「岩の上に登って周囲の様子を確認してみます」

「そうか。気をつけるんだぞ」

 

私は頷き、荊を岩の頂上へ向けて飛ばしました。

二回ほどで登りきって登頂成功。

ゆるやかに風が吹き、砂埃が流れていく戦場。

砂埃の合間に見えるその光景を目にし、息を飲み言葉を失いました。

エイノさんの言うとおり、中央の戦線は完全に瓦解し、衝撃波で吹き飛んだヒトやモノが、土砂に無数に埋もれていました。

とっさに思ったのは、中央へと回されたジャックチームと、グスタフさんが率いるアルフレッドチームです。

ジャックチームのみんなは、グスタフさんたちは生きているのでしょうか。

食い入るように地上に目を凝らし、懸命に動く人影が見えました。

生きている人がいる!

後で人を揃えて必ず助けに行くことを決意しました。

 

そして、問題の左翼の方向を見ましたが、煙と砂埃が大量に舞い上がっているせいでしょうか、黒々とした壁がそびえているように見えました。

ウィルオードライブから、観測用のスコープを取り出して今一度確認をします。

黒い壁の周辺は相当の高温になっているようで、周辺の景色は揺らいで見えました。

それだけしかわかりませんでした。

本気で何が起こっているのかわかりませんでした。

 

「何これ……」

 

エイノさんは言っていました。

左翼は消失したと。

 

「エイノさん」

『はい、何でしょう』

「左翼で、何が起こったんですか。消失したって何なんですか」

 

私の問いかけに、エイノさんはあくまで推測だと前置きして無感情に告げます。

ディオーネが何らかの原因で爆発した際、その爆心地の瞬間温度は数百万度以上に達したと予想。

そんな超高温の中では、ヒトもモノも一瞬にして蒸発することは確実で、そこに放射線と熱線とウィルオー、さらに衝撃波と大量の砂塵が左翼をはじめとした戦場一帯を襲ったのだと。

そんな状況で存在し続けることができるものはこの地上にはなく、左翼が『消失した』という言葉を使ったのはそういう理由なのだと、エイノさんは言いました。

あの黒い壁の向こうで、どんな事態が起こったのか、見たくもなければ想像もしたくありません。

継戦力は、敵味方共にゼロとなっていることは間違いないでしょう。

今現在戦闘不能になっている人たちは、リスポーンすることはできず、そのままロスト、死亡となります。

叔父が死んだ三○四に負けずとも劣らない、あまりにも荒れ果てた光景。

その光景に、無力さと空しさと疲労が全身を襲いかかります。

これから先、私はこんな光景を何度見ることになるのでしょう。

そして、何度こんな光景を見たら、PTのいうところの『幸福』になることができるのでしょうか。

それでも今は、立ち止まって座り込みたくはありませんでした。

撤退命令が出ていない以上、戦場にとどまり続ける必要があります。

そして私は生きていて、やれることがありました。

この戦場で生きている人たちを助けるのです。

改めて地上を見れば、エイノさんがようやくこちらへと到着したようでした。

見上げているその顔に、やはり表情はありません。

それに構うことなく、私は地上に降りて行動を開始したのでした。

 

その後、鉄鋼船付近で合流出来た私たちは、体力に余裕のある人たちを集めて、生存者の救助にあたることになりました。

ウィルオー通信も使えず、視界も悪い中、敵も味方も関係なく救助活動を続けたのです。

そして、視界を遮る砂埃が大分晴れた頃、ウィルオー通信も回復しました。

即座にPTから撤退命令が出され、救い出した敵兵も瞬く間に姿を消します。

彼らの所属するPTの性格からして、また戦場で出会うことになるのでしょうが、全く持って些細なことでした。

後悔などしませんし、これからもしないと思います。

私たちは、新たに来た咎人や安全保障局の人たちと入れ替わるように、護送車へと移動をしていました。

残りの救出作業と、調査については彼らにお任せすることになります。

ふと視線を上げれば、太陽が地の果てへと姿を消そうとしていました。

未だ砂埃で霞んだ空。

赤ともオレンジとも言える光を背景に、焦げ付いたような黒い雲が、千切れて溶けて流れているよう広がっていました。

 

「酷いものね」

 

砂埃でパサついた赤い髪をかき上げ、ウメさんが疲れを滲ませた顔で呟きました。

視線の先は左翼方面。

左翼にあった施設は原形をとどめていない上に大量の土砂で埋もれ、地面からいくつもの黒い煙が立ち昇っていました。

ですが、肝心の爆心地周辺は見ることはできません。

 

「お前たち、さっさと護送車へ行け!」

「へいへい、了解ですよー」

 

ライズさんが軽薄に言うと、安全保障局の男の人が手を振って私たちを追いやります。

この状況にあっても、市民の私達に対する扱いは決して変わることはありません。

ですが、いつもならスルーできるそれを、今の私はやり過ごすことができず、思わず拳を握りしめます。

胸に渦巻くのは、怒りと悲しみと、それをぶつけることができないやるせなさです。

 

「行きましょう、ミーティアさん」

 

思わず立ち止まった私を、ヴェロニカさんが気遣うように声をかけてくれました。

私は黙って頷き、護送車へと歩を進めました。

護送車に乗り込んだ私たちですが、ライズさんたちは座席に座って程なくして寝落ちしました。

極限の状態から脱した安心感と疲労からきたものでしょう、気絶と呼んでも差し支えはないかもしれません。

私はエイノさんの修理をPTにいる市民に頼んだのですが、お断りされました。

侵攻直後でそんな暇はないし、明日には再資源化されるアクセサリを修理するほど、資源に余裕はないとのことでした。

それどころか、今すぐ再資源化して、別のアクセサリのメンテ用の部品に回したいくらいだとまで言われました。

ただでさえ凹んでいるのに、さらに追い討ちをかけられて泣きそうになりましたが、それも長くは続きませんでした。

私もまた疲れていて、いつの間にか意識を手放していたのでした。

 




ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
誤字脱字、その他修正がありましたら、随時対応をします。

話の流れに矛盾や不備などありましても、やんわりスルーしていただけると大変にありがたいです。
戦争の流れや戦術などは、やっぱちゃんと勉強しないとダメですね。
こういう話が好きだからこそ、ノリと勢いだけで満足はしたくないなと、思った次第です。

この話で、またしてもオリジナル設定が炸裂しております。
ちゃんとした理由はあるのですが、どこかで触れることができればいいなと思っています。

次回で、主人公周辺の人達が一斉に退場し、さらにアクセサリとの別れの時間も迫ってきています。
どんよりとした話は続きますが、最後までご覧になっていただけたら、これにまさる喜びはありません。

次回は、早く投稿できそうです。
それではまた。
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