巨人には主に二種類存在する。
見かけた人間を片っ端から食おうとし、単純な行動を主とする通常種。
通常種の行動に当てはまらない、人が多い所を目指したり、走ったりする奇行種。
しかしこの分類は曖昧で、兵士が見て奇行種だと判断したら奇行種らしい。
「どうして俺たちを無視して……!?」
「奇行種だ!考えても無駄だ!」
そして現在、その奇行種を必死に追いかけているのが、俺のいる後衛の精鋭部隊である。
いや、違うな。
その巨人に追いかけられているのは俺なのだ。
精鋭部隊がかなりの速さで、全力でワイヤーを巻き上げても、全く追いつけない。
「おい、ミカサ!俺が足をやるから、うなじを頼む!」
「分かった」
指示した直後。
空中で振り返り、アンカーで地面を捉える。
ワイヤーを巻き取って、剣を振り抜いて巨人のアキレス腱を削ぐと、巨人は元々のスピードのせいもあって派手に前方に転んだ。
しばらく転がって、巨大な体はうつ伏せの状態で止まる。
「……!」
そのうなじに間髪入れず刃をかますミカサ。
切り取られた肉が宙を舞い、数m横に落ちた。
すぐに蒸発しだし、殆ど骨だけとなる。
「ふぅ、ナイスミカサ。……ん?」
ふと顔を上げると、そこにはまだ大勢の人がいた。
おかしい、時間から考えると避難は完了しているはず……。
しかもここはローゼに入る門の前だ。
壁が破られて時間が立っている。
それなのにこの量は……。
「……!おいおい」
その答えは、門には明らかに通らない大きさの荷台、それに積まれた、大量の物が入っているであろう布袋が物語っていた。
「……!ミカサ……」
そんな荷台を押している者達の、おそらくリーダー格の人物に、ミカサが歩み寄った。
「今、たくさん仲間が死んでいる……避難が終わっていないから、たくさん死んでいる」
剣で街を差しながら、目を少し見開いて言う。
しかし何も感じないのか、リーダー格の男は、
「当然だ!市民の財産と命を守るために、心臓を捧げるのが兵士の仕事だろうが!タダ飯食らいが100年ぶりに役に立ったからって、いい気になるな!」
その言葉を聞いて、刃を構えてしまう。
守るべき対象に刃を向けるなんて、俺はバカだな。
でも、聞いてられない。
そう思った俺は、混雑する市民の間を潜り抜け、その男の首に刃を振った。
「ひぃ……っ!?」
男は驚いて後ろに転んだ。
ただ尻餅をつき、怯えた目で俺を見る。
「あっれー、おしいな」
比較的明るい声で言う俺を、恐怖の対象として捉える男。
俺はそんな男の胸ぐらを掴み、持ち上げた。
「あのな……いいか。他の兵はどうか知らないが、俺はお前みたいな奴に心臓を捧げた覚えはない」
ついでに兵士になってから一回もない。
よく懲罰受けないよなぁ、俺。
「……さて、どうやってその荷台通しましょうかね」
その言葉に、この場の全員が目を見開いて、俺を軽蔑した。
「ふざけるな!俺たちを通せよ!」
「あなたそれでも兵士なの!?」
そんな声が四方八方から聞こえる。
そんな民衆に俺は一言。
「人に頼るな鬱陶しい」
「「「……!?」」」
「無論、俺は兵士だ。あんたらを守る義務がある。しかしその前に一人の人だ。それを邪魔する理性がある」
「「「……」」」
「残念だが理性を潰してまで……––––––
「あんたらを守ることは、到底できない」
–––––––––––––––
結局、荷物は分けて運べばいい、ということになり、誰も損をせずに済んだ。
避難も完了し、あとは兵士が壁を登って撤退。
「前衛の撤退を支援してきます」
「あ、じゃあ俺も」
「お、おい!?」
駐屯兵の制止を無視して、前の中衛付近に急ぐ。
誰も死んでいない。
そんな根拠のない希望を胸に秘めて。
◇◇◇◇
しばらく飛んでいると、見知った顔が続々と見えてきた。
同じ104期のメンバーたちだ。
その目線の先には、巨人の群がる本部。
ガス補給が出来ず、壁を登れないようだ。
「……アニ!」
屋根の上に着地してすぐ、ミカサがアニの元に走った。
「緊急事態なのを承知で、その上で私情を挟んで申し訳ないけど……エレンはどこ?」
「……?さぁ、私は知らないけど。……そういえば向こうにアルミンが居たよ」
アニが指す方向に、座り込んで下を向いているアルミンが見える。
まるで絶望を体現したような……
「アルミン!……無事で良かった……」
ミカサに声をかけられ、ワナワナと肩が動いている。
屋根についている手にも、何か力が籠っていく。
「エレンはどこ?」
ミカサが立ち上がり、辺りを見回してから問いかける。
その問いの直後、上がったアルミンの顔には、絶え間なく涙の枝が刻まれていた。
残念だが、それがもう答えとなってしまった。
安心して泣いている訳がない、この状況で。
「僕達……訓練兵第三十四班……
トーマス=ワグナー
ナック=ティアス
ミリウス=ゼルムスキー
ミーナ=カロライナ––––––
––––––エレン=イェーガー……!」
「以上五人は、己の信念を全うし、壮絶な戦死を遂げました……!」
……あぁ、なんでだろう。
なんで俺たちは何もかも奪われる。
夢も、希望も、命も。
簡単だ。
どれも軽い物だから。