ノウヴァが立体起動で本部の近くまでよると、二十体程いる巨人の半数が釣られて追いかけていった。
「……」
ノウヴァと巨人がある程度離れた所に行くと、私は立体機動に移った。
建物と建物、時には巨人の間を抜け、柄のトリガーを目一杯絞って飛んでいく。
ガスを使い過ぎているのは分かる。
しかし、そうでもしていないと、動揺して手元が狂ってしまう。
アルミンには感傷に浸るなと言った。
けれど私自身、それにどっぷりと浸かっていたのだ。
エレン、大切な家族の死。
それは、私をどん底に突き落とすには、充分過ぎるほどの事実だった。
強盗に殺された実の両親。
家族を失ってしまった。
私は攫われ、どこかに売り飛ばされる寸前だった。
そんな私を助けてくれたのが、エレンだった。
自分自身でギリギリまで戦い、私にも戦えと言ってくれた。
グリシャおじさんは、私に一緒に住もうと教えてくれた。
カルラおばさんは、私を温かい笑顔で迎えてくれた。
そんな家族をまた無くした。
おじさんは行方不明。
おばさんは巨人に食われ、エレンも同じ運命を辿った。
しかし、一つ思い出せない。
私が攫われたあの時、もう一人誰か居た。
いつの間にか忽然と姿を消して、エレンが来た時にはもう居なかった、誰か……。
「……!?」
突如、立体機動装置がワイヤーの巻き取りを停止させた。
当然私は建物に体をぶつけながら落ちていく。
そのうち、どこかの屋台の上で停止した。
「……またこれか……」
痛みに襲われて冷静になり、屋台から降りる。
飛び降りて着地する時、足元に力が入らずに、そのまま膝をついてしまう。
そんな自分に笑ってしまいそうになる。
死ぬ寸前の、割れた柘榴のような私が頭に写る。
すると、地鳴りが地面を伝って、私の体を揺らしてきた。
その音はだんだんと大きくなる。
建物の死角で見えないが、巨人が近づいてきているのだろう。
しかし、私は逃げるようなことはしなかった。
生きることを放棄した。
要は諦めたのだ。
エレンを守ることを生き甲斐としていて、その守る対象は死んでしまった。
私は、生きる意味を失った。
いい人生だった。
その言葉が頭に浮かんだ。
あれだけ温かい人たちに囲まれたて生きていたのだ。
もう悔いはない。
ついに現れた巨人は、十五m級。
その巨大な手で、私を掴もうとする。
「……!」
しかし、命を諦めた筈の私は、その手を斬りつけていた。
指が何本か飛んで行き、鈍い音を立て落ちる。
「……え……?」
再度向かってくる、反対側の手。
それを後ろに跳んで避けて、自分で困惑する。
私は何をしている?
何で、私は戦っている?
もう、生きる意味なんて無いのに、何が私を……?
「……っ!」
体を後ろに向け、逃げようとする。
しかし、その先にも十五m級の巨人が現れた。
後ろの巨人と違って、逞しい体つき。
どうするか……。
戦え!
「……!?」
戦え、戦うんだ!
……!
……ごめんなさい、エレン。
死んでしまったら、あなたを思い出すことさえ出来ない。
だから、なんとしてでも生きる……なんとしてでも戦う!
眼から溢れる、涙に誓って!
「ぅあああああ!っ!?」
直後、私の体が跳ねた。
私が自身の脚で跳んだわけではない。
何かに押し出されるように。
地面に何かが落ちた反動のように。
同時に、二体目の巨人が、巨人を殴り飛ばした。
当然、殴られた巨人は後ろに倒れる。
頭の一部が損傷しているが、あんなものじゃすぐに回復する……
「……!?……巨人が、巨人を殺してる……?」
すぐに倒れた巨人の頭を踏みつける巨人。
何度も、何度も踏みつける。
その光景に私は困惑した。
そして同時に、微かな高揚を覚えた。
ウォオオオオオ!
その光景は、人類の怒りを体現したようだったから。
「ミカサ!」
後ろから声が聞こえたが、振り返りはしなかった。
その出来事に見惚れていたから。
そして私の体は唐突に浮いて、気がつけばそこは、屋根の上だった。
「ミカサ!怪我はない!?」
声の主はアルミンだった。
横にはコニーもいる。
「ノウヴァが食われたんだ!」
その言葉に目を見開き、耳を疑った。
「……本当なの……?」
つい聞き返してしまった。
家族だけでなく、友達も失った。
その事実が信じられなくて。
「……本当だ。それで、このガスボンベを……」
コニーは、脇に二本のボンベを担いでいた。
異常なまでのキズの多さからして、ノウヴァの物だ。
食われる時に立体機動装置を外したらしい。
「残りは俺たちのよりは多い筈だ!これを着けて……やばい、十五m級が二体だ!」
コニーが指す方には、あの巨人がいた。
「いや……あの巨人は……」
「え……?」
あの巨人は、目の前にいる巨体に向かい、雄叫びを上げた。
ウァオオオオオオ!
その後あの巨人は、
そして足を踏み出し、左腕を振った。
その腕は巨人の首を捉え、上半分を吹き飛ばした。
「うっ……!?」
飛んできた頭部は建物にぶつかり、本体は前に倒れこんだ。
そのうなじを、巨人は踏み付けた。
「うなじを狙った……?弱点を理解して殺したのか?」
「格闘術の概念があるようにも感じた……あの巨人は一体……?」
「奇行種っていうしかねぇだろ……!分からねぇ事の方が多いんだからよ」
その時、腕が飛んできた。
大きさからして、十m級の腕が建物を突き破ってきたのだ。
「う、腕!?何で腕が!?」
飛んできた方を三人一斉に見る。
「……あれは!?」
ウァアアアアアアアアア!
それは、超大型巨人、鎧の巨人同様。
人類全てが知っている、異常な量の煙に包まれた巨人。
「け、煙の巨人だ……!」
それが歩いていた。