「ぶはっ……! げほっ、急げエレンを回収しろ!」
巨人の体から出て、朦朧とする意識の中、そこらの兵士達に叫ぶ。
もうアルミンはエレンを剥がしにかかっているが。
「ぐっ……! すごい熱だ……体が一体化してて、引っ張っても取れない!」
「……斬るしか、ない!」
言いながら刃を振り下ろしたリコ班長。
エレンを引っ張っていたアルミンは下に落ち、痛みに目を細めた。
「あ……」
そこに歩いてきたのは、二体の巨人だった。
俺はすぐに手を口に持って行こうとした。
こんな連続で巨人化できるかは分からないが。
しかし、更にその後ろに、キラリと光るものがあった。
立体機動装置の刃だ。
それを持つ影も。
そしてその二本の刃は、巨人のうなじに吸い込まれていった。
まず一つ、肉片が飛ぶ。
伸びたワイヤーが巻き取られ、二体目の巨人もうなじから肉片が落ちた。
影は倒れた巨人の上に立ち、俺たちに背を向ける形になった。
緑色のマントには、白と青の翼が刻まれていた。
「……自由の……翼……」
リヴァイ兵士長は俺たちに振り向き、問いかけた。
「おい、ガキ共。 これはどういう状況だ……?」
◇◆◇◆
あの後、壁の中に残った巨人は、榴弾によって死滅。
僅かに残った巨人も、調査兵団により掃討された。
その際、4m級、7m級を一体ずつ捕獲。
しかし、死者、行方不明者202名。
負傷者849名。
人類初の快挙に歓喜するには、代償は大きすぎた。
◇◆◇◆
「サシャ……サシャ……ん……あぁ……」
目を開けると、全てを理解した。
俺は牢の中であり、鎖で手足を繋がれている。
ベッドを用意してくれたのはありがたい。
「……すいません。水を下さい」
牢の前に立っている兵士に向かって言う。
すると、その兵士は怪訝そうな顔をして、俺に言った。
「……黙れ……化け物が」
吐き捨てるように口から漏らされた声。
その言葉は、ある種の墓穴を掘った。
「……その化け物のおかげで生きてんだけどね、あんたらは」
「な、何だと……!?」
ボソッと呟いただけのはずだが、兵士は目を見開いた。
怯えが大半を占めている。
「……あ! やっと見つけた! ノウヴァ、元気?」
その陰からひょっこり頭を出したのは、ハンジさんだった。
後ろには知らない兵士と、エレンもいる。
「あ、はい」
我ながら素っ気ない返事だと思う。
しかし、ハンジさんは相変わらずニコニコしている。
「さ、行こうか。これを着けて」
差し出された手錠は、兵士から俺に着けられた。
足の鎖を外され、牢が開かれた。
ハンジさんに着いて行き、長い通路を歩く。
……何故か匂いを嗅がれている。
「分隊長のミケ=ザカリアスだよ。彼は初対面の人の匂いを嗅いでは」
「フッ……」
「……鼻で笑う癖がある。ま、多分深い意味はないと思うね」
しかし勝手に嗅がれて勝手に笑われては、何故かムカつく。
しかも何故笑う。
その前に何故嗅ぐ。
「あー! ごめん、着いちゃった! ……うん、まぁいいや。説明なんか無い方がいい」
そんなことを言われても、説明する気があるんならして欲しかった。
結局エレンと俺は、開かれた扉の中に押し込まれた。
「健闘を祈る!」
–––––––––––––––
「おー、審議所だ。初めて来た」
こんな時だけ、ノウヴァのマイペースが羨ましい。
緊張感は無いのか。
「前に進め!」
後ろから銃で押され、前によろける。
ノウヴァも同じように押し出されている。
「ちょっと! 転けたら受身取れないじゃないですか!」
頼むから緊張して欲しい。
何故こうもこいつは変わらないんだ。
「そこに跪け」
言われた通り膝をつくと、手錠の鎖部分を固定され、立ち上がることすらできなくなった。
「跪けってもうちょっと言い方あるでしょう! 自分が上だと思って!」
頼むから黙ってくれ。
恥ずかしくて死にそうだ。
……憲兵団、調査兵団、駐屯兵団の頭が集まってる。
何だ、この面子は?
辺りを見回していると、ノウヴァの視線が一点に集中されていた。
そこに居たのは、アルミン、ミカサ、サシャだった。
何で居るのかは、俺がバカなせいで分からない。
「始めようか。エレン=イェーガー、ノウヴァ=ツェンドレス。君達は公のために命を捧げると誓った兵士である。違わないかい?」
ダリス=ザックレー総統が問いかけてくる。
「はい……」
「……? はい」
ノウヴァが違うと言う気がしたが、勘違いで終わった。
割と本当に良かった。
「君らの生死を、今一度改めさせてもらう。異論は無いね?」
「「はい」」
「物分りが良くて助かる。 では、憲兵団より案を聞かせてくれ」
これは憲兵団か調査兵団、どちらに俺たちを渡すかを決める場らしい。
「はい。憲兵団師団長、ナイル=ドークから提案させていただきます」
「我々は、二人の人体を徹底的な調べ上げた後、処分すべきだと考えます」
「彼らの力が巨人を退けたのは確かですが、それは内乱の波紋を呼んでもいる。なので、せめてできる限りの情報を残し、人類の英霊となっていただきます」
つまり俺らが怖いってことだ。
ここで俺たちの力を手放してどうなるってんだ!
「必要ない! 奴等は神の––––––
あれはウォール教の……五年前は誰も相手にしてなかったのに、偉くなったもんだ……。
「ふむ……では、調査兵団の案を聞こうか」
「はい、調査兵団団長、エルヴィン=スミスから提案させていただきます。我々はエレンとノウヴァを調査兵団の一員とし、ウォール・マリアを奪還します。以上です」
憲兵団とは違い、短く終わった調査兵団の提案。
「ん? もういいのかね?」
眼鏡を押し上げ、問いかけるザックレー総統。
「はい、彼らの力を使えば、ウォール・マリアは奪還できます。 出発は東のカラネス区から……」
「ちょっと待て!」
エルヴィン団長の声に、横から制止が入った。
商会の人だろう。
「今度こそ壁を封鎖すべきではないのか!?扉の部分さえ頑丈にしてしまえば、もう壁が破られることはない!」
「よく喋るな、豚野郎」
更にその声に、リヴァイ兵長が自分の言葉をねじ込んだ。
「土地が足りずに食うのに困ってる連中は、テメェらの眼中に無ぇと?」
「わ、我々は、壁さえ塞いでしまえば……」
「よさぬか! 不届き者めが!」
壁の話になった途端、ウォール教の男が声を荒らげた。
奴等のせいで、壁上を武装するのも時間がかかった、とアルミンから聞いたことがある。
「……二人は、巨人の力を行使できるのか?」
ザックレー総統の問いが俺たちに向けられていると気づき、すぐに顔を上げる。
「は、はい! できます!」
自信を持って言える。
俺は確かに岩を持ち上げ、壁を塞いだ。
ノウヴァも巨人を殺していた。
「ほう。報告書にはこう書かれている」
「『エレン=イェーガーは巨人化の直後、同じく巨人化したノウヴァ=ツェンドレスに拳を振り抜いた』、と。本当かね?」
ザックレー総統の目が、ノウヴァに向けられた。
「……事実です」
審議所がどよめいた。
ノウヴァの言葉には俺も驚きを隠せないでいた。
「……! 私は、エレンに命を救われています!」
「お待ちください。彼女の意見には、かなり個人的感情が含まれていると思われます」
「ミカサ=アッカーマンは両親を亡くし、エレン=イェーガーの家に引き取られたという事情があります」
「更に、エレン=イェーガーとミカサ=アッカーマンは、当時9歳にして、強盗誘拐犯である三人の男を刺殺している。いくら正当防衛とはいえ、根本的な人間性に疑問を感じます」
そうだ、あいつは子供の姿でこっちに紛れ込んだ巨人に違いない。
そんな声が聞こえ出した。
「あいつらもだ……人間かどうか疑わしいぞ!」
一人の男が指は、ミカサ達に向けられていた。
もちろん、サシャにも。
「そうだ……念のため解剖でもした方が……」
待て、と叫ぼうとした時、隣から只ならぬ気配を感じた。
ノウヴァがキレている。
ミカサとアルミンのこともそうだが、何よりサシャのことに対して。
「発言いいですか?」
しかし、やけに落ち着いた声のノウヴァは、ザックレー総統に問いかけた。
「……構わん」
「ありがとうございます」
何を言うつもりなのだろうか。
「憲兵団、あんたらは俺たちを解剖すると言ったな」
「あ、あぁ」
「俺たちも分からない事が、お前らに分かるのか?分かったところでそれはどうするんだ?それがもし俺たちにしか使えなかったら?こんな貴重な兵士を失ったら、内乱の前に人類全滅だ。いつも飲んで騒いでの兵団が、でしゃばりやがって」
「な……何を……?」
「ナイル=ドーク師団長、個人的な質問をします」
「……!?」
「俺があなたの家族を殺します。あなたはどうしますか?」
「……それは、憲兵としてとりしまって……」
「嘘だな。あんたが訓練兵時代から愛していた人だ。あんたは俺を殺すだろう。まぁ、許される。正当防衛、だからな。自分もしでかすかもしれない事なのに。未来ある少年を殺そうとするなんて、その人間性を疑うよ、俺は」
「あと、お前。さっき解剖した方がいい、とか言ってた奴」
「え……俺……?」
「解剖したら人は死ぬよな? 」
「その結果何も無かったらどうする? 」
「あいつらにも、やりたいことはある」
「でも死ぬんだ」
「お前の無責任な言葉で」
「お前は大丈夫だろうな」
「そうだよな、可能性があったから解剖した」
「何もなくても別にいい」
「可能性があったからしょうがない」
「俺は悪くない」
「いくらあいつらの家族が絶望しようと、人類の戦力が落ちても、しょうがない」
「可能性があったんだから」
「いくらあいつらの家族が自殺してもしょうがない」
「お前は自分の不安が解けて安堵するかもな」
「でも悲しむ者もいる」
「息子は、娘は立派に戦った兵士なのに、何故巨人でもない人類に殺されなきゃいけない」
「でもお前は大丈夫だ、安心しろ」
「可能性があったんだからしょうがない」
「え……そ、それは……」
「大丈夫だって」
「可能性があったんだから」
「お前の言葉で、民衆の不安が一つ消えるんだ」
「結構なことじゃないか」
「ただしお前は、責任はとらないんだろ」
「まぁ、しょうがないよな、だって」
「しょうがないんだから」