心地よい風が吹き、微睡を誘うような鳥のさえずり。
蒼く晴れ渡る広い空の下、俺たちは、
「お前……今日こそぶっ飛ばす!」
「へぇ、エレン、お前俺に勝ったことあったっけ?」
喧嘩をしていた。
事の発端は数分前に遡る。
〜回想〜
「んー、いい朝だー」
と、一番遅く起きた俺が言うのもなんだが、本当にいい朝だ。
蒼い空、白い雲。
が、それに見惚れている場合ではなく、早く朝食を食べないとエネルギー不足になる。
「おー……す……?」
やけにシーンとしている食堂。
いつもはうるさいのに。
どうかしたか、と聞かずとも、見ればわかった。
食堂の真ん中で対峙しているエレンとジャン。
考えが全く逆だからなぁ。
「お前は憲兵に行くんだろ?ならお前に俺のことをとやかく言われる筋合いは無い!」
「はっ!お前みたいな奴がいると、こっちの気が滅入るんだよ!」
「「……っ!」」
そして交差する二人の拳––––––
「いい加減にしろバカ共」
––––––を両手で受け止めて、床に叩きつけた。
握りこぶしだから結構痛い。
「ってぇ!?」
「おい!離せよ、何すんだノウヴァ!」
「うるせぇんだよ!毎日毎日!お前らは!」
〜回想終了〜
そして今に至る。
「来いよ、どうせ勝てねぇだろ」
「うるせぇ、俺も強くなってんだよ!」
何故か止めに入った俺が喧嘩するということになっているが、捨て置け!
「貴様ら!何をしている!朝食時間は終わりだ!」
「あれぇえ!?」
え、こういうのって普通喧嘩するはずだよな?
「広場に集合しろ」
えぇー……朝食食べてない。
◇◇◇◇
「今回は立体起動の適正試験だ!柱に吊るされたベルトにぶら下がりより良い姿勢を心掛けよ!」
「「「ハッ!」」」
––––––––––––––––––
「巻き上げ開始!」
その掛け声とともに、腰のベルトが引っ張られていく。
そして数秒後、足も地面から離れていく。
「おっとと」
一応教えられた通りにはやっているが……結構ブレるな……。
エレンは……?
「で、できた……」
こちらも全く問題無さそうだ。
しっかし、バランスが取りにくい……。
「ツェンドレス訓練兵。位置がおかしいぞ。……カロライナー、装備を見てやれ」
「……?」
––––––––––––––––––––
「破損ですか……」
「あぁ、ここが壊れるなど聞いたことも無いが……一応項目に入れておこう」
壊れてたのか、だからあんなにバランスが……。
しっかし、自分の才能が恐ろしい。
「じゃああいつ、壊れた装備で姿勢を……すげぇ」
……恐ろしい。
〜二年後〜
巨人の模型のむこうにある木にワイヤーを刺し、巻き取りながら両手のブレードを構える。
模型のうなじ部分に対して垂直に、ブレードを振る。
「おらっ!」
しかしブレードはうなじのクッションだけでは飽き足らず、模型本体の木を叩き壊した。
「あ……」
かなり大きな音がして、直ぐに教官が飛んでくる。
「貴様またやったのか!?今月で何体目だ!?」
「すいません!」
7体目です。
ブレードも折れてどこかにいってしまった。
ここの経費大変だろうなぁ、主に俺のせいで。
「はぁ……ツェンドレス、貴様はもう戻れ」
「……すいません」
本当にごめんなさい。
◇◆◇◆
「うぉおお!」
対人格闘にて。
突っ込んでくるエレンの木剣を左に避け、右わき腹に掌打を叩き込む。
「んぐ……っ!?」
そして空いた腹に空かさず掌打。
力の加減はしているので、骨折は無いはず……多分。
「どわっ!……はぁ……ってぇ」
「すまん、立てるか?」
横からライナーの拍手が聞こえる。
「……!おい、あれ」
「ん?」
ライナーの指差した方向を見てみると、一人の小柄な少女、アニが上手いことサボっていた。
「おい、教官の頭突きは、身長が縮むから嫌か?」
「あ……?」
うっわー、キレてるよ。
どうすんだよこれ。
「よし、行けノウヴァ!」
「えぇ!?」
なんで俺なんだよ!?
他にもエレンとかいるだろ!?
てかお前がやれよライナー!
「……はぁ、行くぞアニ」
そう言うと、アニは構えをとった。
両手は拳を作って額のすぐ近くに、右足をやや後ろに引いた構え。
見たこともない構えだが、簡単にはいかないだろうと、直ぐにわかった。
「……」
だから先ずは、木剣を持って肩の力を抜き、そのまま後ろに引く。
そして上に向け、木剣を、投げた。
「……!?」
回転しながら飛んでいく木剣を、アニは左手で去なす。
しかし、その時に左脇が空いてしまっている。
俺はそれに合わせて走り出した。
「……くっ!?」
アニはそれを恐るべき反応速度で察知し、右手で俺を撃ちにかかった。
この状況だと、誰もが隙を突いてくる、と考える。
しかし、備えるとまた別の憂いが出る。
アニの目の前でいきなり方向転換し、右半身を狙う。
左脇を守るために、右わきをないがしろにしている。
俺はそこを掌打で打つ––––––
「はっ……!」
––––––事は出来ず、アニは、右拳の突き出しと連動して右脚を俺めがけて振ってきた。
かなり鋭い蹴り。
恐らく、リーチ的に蹴りの方が速い。
が、
「ふっ……!」
「なっ……!?」
掌打の軌道を変えて、膝のあたりを打つ。
すると蹴りは停止し、アニは片足立ちの状態になった。
それを右脚で刈り、後ろに倒す。
俺が上になり、両二の腕を脚で固定する。
木剣を広い首にあてがう。
「……俺の勝ち。いい勝負だったよ」
そう言って、俺はミカサを探し始めた。
後ろでスパン!と小気味いい音がして、振り返るとエレンが宙を舞っていた。
恐らく、アニにストレスが溜まったのだろう。
……ごめん。