「このクズ野郎が!」
「うるせぇ!これが現実だ!」
ヤイノヤイノ
アニに勝利を収めた日の夜。
食堂にて、いつもと同じようにエレンとジャンの喧嘩が始まった。
「ノウヴァ、止めに行かないの?」
珍しくミカサに問いかけられ、テーブルに突っ伏したまま、顔だけ上げて返答する。
「俺はもう無理、パス。ミカサに任せる」
「そう。……やめなさい、エレン」
エレンがジャンの胸ぐらを掴んだところで、ミカサがその手を取って降ろさせた。
「ふざけんなよ、テメェ!」
すると、今度はジャンの方からエレンの胸ぐらを掴んだ。
どっちもどっちか……。
「あぁ!?離せよ、破けちゃうだろうが!」
そこはキレるところじゃないぞー、エレン。
「服なんてどうでもいいだろうが!羨ましい!」
「あぁ!?何言って……! ……!」
「お……!?」
つい声を上げたのは、今までただの口喧嘩か、単純な殴り合いしかしていなかったエレンが、初めて技らしい技を使ったから。
ジャンの左手を掴み、引っ張ると同時に、顎を後ろに押し込み、右脚でジャンの両足を蹴って倒す。
対人格闘でエレンがやられていた技だろうか。
「ってぇなぁ……テメェ何しやがった!?」
打った後頭部を抑えながら、ジャンが吐き捨てるように叫ぶ。
「お前がチンタラしてる間に、痛い目見て学んだ格闘術だ!」
更にエレンはこう続けた。
「楽して感情任せに生きるのが現実だって?お前それでも––––––」
「兵士かよ」
その言葉は、ジャンだけでなく、この食堂に居る者全ての心を揺さぶっただろう。
兵士なら命令に従い、人を護って死ね。
俺にはそう聞こえてならなかった。
しかし、そんな雰囲気をぶち壊して開いた扉。
「今しがた大きな音が聞こえたが、誰か説明して貰おうか」
その向こうに入ってきたキース教官。
明らかに怒っているのがわかる。
「あ、すみません。俺が食器落とした音です」
ミカサの言葉を遮る形になってしまったが、実際にスプーンが床に落ちている。
他の食器は拾って、スプーンだけ忘れていた、と写るはずだ。
「お前はいくつ問題を起こしたら気が済む……気を付けろ」
「はい、すみませんでした」
教官が出て行くまで頭を下げ、扉の閉まる音が聞こえた途端に座り込む。
「はぁ……、めんどくさい。本当に、エレン達に絡むといつもこれだ……」
残りのパンを手に取り、口に運ぼうとした時、どこからか視線を感じた。
左右を見渡すが、誰も俺を見ていない。
なら前か、と首を捻ると、真ん前に居た。
サシャ・ブラウス……
「……それ、貰っても……?」
俺の盆に乗ったパンとスープを指差して、サシャは問いかけてきた。
さっきもアルミンに貰ってた気がするが……まぁいいか。
「どうぞ……どうせ不味いことに変わりはないし」
「あ、ありがとうございます!」
「お、おう……」
まるで命でも助けてもらったかのように、礼に込められた気迫。
いや、こいつにとっては食べられない=死みたいなもんか。
「今度何かお礼しますね」
平気で人のパンを取る女の口から、信じられない言葉が……。
「お、おいサシャ。いくら腹がアレでも、道端の雑草とかは食べちゃいけない」
そうだ。
何か変なものでも拾い食いしたのかもしれない。
キノコとか雑草とか。
「む、知ってますよ。私、山菜とか詳しいんですから。ほら、入団初日にお菓子くれたじゃないですか?それも含めてです」
「あぁ、そんなこともあったような……ま、してくれるんなら、何かして貰おうかな。……一応聞くけど、なん––––––」
「ノウヴァ、不埒な考えはダメ」
するとすかさずミカサからの釘。
下品なお願いをするとでも!?
「分かってるよ。誰がこんな幼気な美少女に……」
「……!?ごほっ……!げほっげほっ……!」
すると、何故か肩を上下させ咳込むサシャ。
ミカサが背中をさすってやっている。
そしてサシャは、一気にコップの水を飲み干した。
「いきなり何を言うんですか!?」
そして立ち上がり、怒鳴られる。
「うぇえ!?す、すまん、なんか気に触ること言ったか!?」
「え……!?あ、いや、そういうわけじゃ……ないんですけどね、えーと……」
言ってる間にも、だんだん伏し目がちになっていくサシャ。
もうこっちはオロオロする他ない。
「ご、ごちそうさまでした!」
「お、おい!?」
全速力で食堂から出て行くサシャ。
それをポカーンと見つめる俺。
画にしたらこんな間抜けなことはない。
「な、なぁ、エレン。俺なんか変なこと言っちゃったかな……?」
一部始終を見ていたエレンに問いかける。
「さ、さぁ?俺もよく分からん」
「そうか……明日謝ろう……」
就寝時間も近いし、今晩は一先ず寝て、明日サシャに謝ることにした。