サシャとの事故から約二ヶ月が経過した今日。
教官から驚くべきことが口にされる。
「明日!4月23日に、調査兵団のお方達が来てくださる!失礼の無いように!」
誰しもが目を見開き、一言も声を発さない。
なんだこのある意味地獄絵図は。
しかし次の瞬間。
「えぇええええ!?」」
辺りは割れんばかりの……歓声?
歓声だな、きっとそう。
歓声に包まれた。
◇◇◇◇
「おい!ノウヴァ!信じられるか!?調査兵団だってよ!しかも分隊長から上の人が全員!」
夕食にて。
子供のように隣ではしゃぐエレン。
そう言えばこいつは調査兵団志望だったな。
「お、おおお落ち着け、えエレン。こ、こここはクールに行こう。クールにごほっごほっ!」
「君が落ち着こうよ、ノウヴァ」
噛みまくりの俺に、アルミンが水を差し出してくれた。
それをすぐさま喉に流し込む。
「っぷはぁ!……すまん、アルミン……」
「珍しい。ノウヴァがそんなに取り乱すなんて」
いつもと全く変わらない、淡々とした態度で言うミカサ。
何でそんなに落ち着いてられんだ二人とも?
「……まぁ、動揺続きだったしな」
〜回想 二ヶ月前〜
「なぁ、アルミン」
「どうしたの?」
いち早く風呂から戻ってきた俺は、同じく風呂から戻ってきた隣にいるアルミンに、とある質問をした。
「サシャのこと考えると動悸に襲われるんだが……どうしたらいい?」
「……!?」
とんでもない速さで顔をこちらに向けるアルミン。
頭取れるぞ。
「……はぁ、あのね。それは動悸じゃなくて高鳴り!サシャのことを考えると胸がドキドキするんだろ?」
額に手を当てて、呆れたと言わんばかりに頭を振られる。
「おう?」
二段ベットの梯子を登りながら、素っ気ない返事を返す。
「君はサシャが好きなんだよ」
「……!?」
またいつかのように顔が赤くなり、梯子から落ちた。
その際強かに腰を打ち、悶絶する。
アルミンは「結構取り乱すんだね」と、呑気なことを言っている。
「あのなぁ……そんな訳ないだろ?」
「そうだと思うけどなぁ。……ほら、みんな来たよ」
耳をすませると、アルミンの言葉通りに喋り越えが聞こえる。
「……今度ゆっくり考えるか……」
今度こそ梯子を登り、ベッドに寝転がった。
〜回想終了〜
俺がサシャを好き、か。
そんなこと、あるわけないのに。
「……部屋掃除しとくか」
「あ、俺もやる!」
夕食を食べ終え、男子宿舎へと向かう。
後ろからエレンもついて来て、なんだこいつ、犬か、と言う思いを溜息にして吐いた。
◇◆◇◆
「ハンジ・ゾエ分隊長。リヴァイ兵士長。エルヴィン団長だ。貴様ら、決して失礼はするな!」
「ハッ!」
翌日、昼食前に訪れた調査兵団の人達が、台の上で紹介された。(あと一人分隊長がいるらしいが、用事で来れなかったそう)
こそっと隣を見ると、エレンが目を輝かせている。
すると、エルヴィン団長のスピーチが始まった。
「後8ヶ月程で、君らも訓練兵を卒業する。その時は、ぜひ調査兵団に」
とは言っても、調査兵団は死亡数No. 1の不人気兵団。
一番人気は憲兵団、十位以内を取れなくても、駐屯兵団に入るやつが多い。
それを承知で言っているのなら、なんて人だ。
つい溢れる不敵な笑みと武者震いを抑え、その場から解散した。
◇◇◇◇
……食堂の空気が重い。
調査兵の三人も一緒にいるからだ。
歴戦の兵士の風格が、まだ未熟な訓練兵を寄せ付けない。
が、俺は、
「今まで殺してきた巨人で、奇行種って居ました?」
そんな空気など御構い無しにリヴァイ兵長の前に座り、話しかける。
何人かは「ダメだこいつ……」というような顔をしている。
するとリヴァイ兵長は、鋭い目をこちらに向けた。
「……あぁ、面白い奴が何体かな」
水の入ったコップを、飲み口を手で覆うようにして持ち、そう返してくれた。
潔癖症か……?
「そうですかー、でも奇行種って他と行動が違うんですよね。そしたらやっぱり、新兵の俺達じゃ難しいんじゃないですか?」
「あぁ、そうだな。実際何するか分かんねぇしな。が、その道なら同じ奇行種がそこにいる」
と、リヴァイ兵長が指差したのは、スープを書き込んでいる眼鏡の女の人。
確か名前が、ハンジ・ゾエ分隊長。
「ん?どうしたんだい?巨人について聞きたい?しょーがないなー!教えてやろう!」
まだ何も言ってないが、自己完結したようで頷いている。
なるほど、確かに奇行種だ。
「そうだね。先ずは巨人がどのように生命維持をしているのかを説明しようか。巨人というのは––––––
「––––––つまり、奇行種というのは、人間で言うところの脳に障害を持った者、という考え方ができるんだ。分かった?」
「はい!ものすごく!」
約1時間、ぶっ通しで話を続け、同時によく内容を纏めたなと感心してしまう。
まだ何か聞こうとも思ったが、昼からまた訓練がある。
遅れてはならないため、スープとパンを掻き込み、食器を返して訓練所に移動した。