調査兵団の三人が来た日の翌日。
朝から立体機動の訓練があった。
ここでいいところを見せれば、調査兵団でいいポジションになれるかもしれない。
そう思っていた、主にエレンが。
「フッ!」
模型のうなじに向けてブレードを振り抜き、木からアンカーを外す。
同時に逆側のアンカーを別の木に刺し、振子のように地面スレスレを飛ぶ。
そして振子が上まで来たら再度アンカーを外し、森の上に飛び上がる。
「見つけた……!」
木々の隙間に模型を見つけ、その近くにアンカーを突き刺す。
体の右側にブレード二本を水平に構え、丁度いいタイミングで振る。
ブレードはうなじのクッションを深々と抉り取り、……深すぎてまた模型の首を叩き折ってしまったが、上官からはもう気にするなと言われた。
「……ノウヴァだったか、悪くない動きだ」
右斜め後ろからの声に振り向くと、
「リ、リヴァイ兵長!?」
いつの間にか立体機動装置で飛んでいるリヴァイ兵長が居た。
何故訓練兵の練習にその道のエキスパートを混ぜるのか。
「だが、そんなんじゃ刃が何本あっても足りねぇぞ。着いてこい」
リヴァイ兵長は一気に俺の前に出て、先を飛び始めた。
前にある模型のうなじに、次々と深い切り口を刻んでいく。
「っ……!」
あまりに滑らかな断面。
魚でも捌いてんのか、この人は。
「……どうした。ついてこれてねぇな」
冗談きつい。
ガスを多く吹かしているわけでも無いのに、あのスピード。
遠心力やら何やらでスピードをつけているのだろう。
「……今から本気出します。リヴァイ兵長、着いて来てください」
「ほう……」
再度俺が前に出て飛ぶ。
木の天辺にアンカーを刺し、真上から巨人のうなじを刈り取る。
と、同時に、前に両アンカーを飛ばして、隣り合う二本の木に刺したら、足を前に突き出して体を水平にする。
そのまま狭い枝の間を通り抜け、前の木に足を着けて、軌道を急変更、直角に曲がる。
巨人を見つけ、体に捻りを加えて、うなじを抉り取る。
刃の状態を確認して、刃毀れを見つけるとその刃は次の巨人の目にあたる部分に投擲、潰す。
そのまま腰の鞘から刃を柄に装着して、アンカーを巨人の左腕にあたる部分に向けて射出。
カクンとワイヤーが直角に曲がり、丁度うなじの位置まで俺を運んでくれた。
「ハァッ!」
大きくブレードを振り抜き、模型なんか気にせずうなじを抉り取る。
当然模型はぶっ壊れるが、それでも俺は狩り続ける。
少し離れた所では、リヴァイ兵長が上下左右に模型を切り刻んでいた。
後に少年Eは『地獄だった』と語る。
◇◇◇◇
「つっかれたー!」
ベッドにドサッと倒れ込んで、叫ぶように言う。
リヴァイ兵長に張り合ったのだから当たり前なのだが、明日は筋肉痛だな、これは。
「しかしお前すごかったな。あのリヴァイ兵長と競うなんて……」
そこに入ってきたのは、おなじみのエレン。
こいつは俺とかなり離れた所でミカサとやってたらしい。
そのためか若干拗ねている。
「頼めばやってくれそうだけどな、訓練」
確証は全くないが、俺と一緒に飛んでいた時は、顔に似合わずいい人だったのでは、と感じたから。
「ほ、本当か!よし、明日の対人格闘、頼んでくる!」
ついさっき来たばかりなのに、またドアを出て走っていったエレン。
落ち着きのない奴だ。
「あ、そう言えば調査兵団の人ってどこで寝るんだ……?」
ふと疑問が浮かび独り言を呟く。
「俺はここで寝る」
それに返す声。
どこかで聞いたことのある声だ。
氷のように冷えていて、でもどこか暖かい。
そんな声に振り向くと、そこにはリヴァイ兵長が立っていた。
「……合わなかったんですか?」
今出たエレンのことを指して言う。
「……あぁ」
素っ気ないその声は、明らかに誰とも会って話をしていないように聞こえる。
リヴァイ兵長はここで寝るのか。
先ほどの疑問は解決されたが、また新たな疑問が出てきた。
「なんでここで寝るんですか?」
そう聞くと、兵長は二段ベッドの裏を指で摩り、指先を見て返事した。
「……ここが一番清潔だったからだ」
その言葉に若干の嬉しさを感じながら、そうですか、と返す。
実際この部屋は余り物で、通常四人のところ三人で使っている。
故にベッドは後一つ余っている。
すると、ドドドド!とうるさい足音が聞こえてきた。
「おい、ノウヴァ!リヴァイ兵長どこいったんだよ……ってリヴァイ兵長!どうしてここに!?」
あわてて右手で左胸を叩くエレン。
リヴァイ兵長はエレンに目を向け、ふー、と溜息を吐いた。
「……誰だ、お前は」
するとエレンは、大きく息を吸った。
「エ、エレン・イェーガー訓練兵であります!自分は––––––」
「いや、普通の自己紹介でいい、うるせぇな」
「す、すいません!」
少し頭を下げ、自分のベッドに座るエレン。
リヴァイ兵長も布団のないベッドの骨に座り、唐突にこう言った。
「……お前らは、す、好きな奴とか、居る、のか……」
と。
「「……は?」」