現在、俺とエレン、リヴァイ兵長の居る、ここ十五号室には、静寂が訪れていた。
リヴァイ兵長が唐突に俺らの好きな人を聞いてきたからだ。
「……」
そのリヴァイ兵長は、何を思っているのか。
ただただ床を睨んでいる。
リヴァイ兵長の話では、こういう時は恋話が盛り上がると聞いたので、実践したらしい。
とんでもない空気になったが。
「……」
「……」
だめだ。
いくら空気を読まない俺でも読まざるを得ない、そこまで濃い空気……!
これは弱い奴なら失神できるんじゃないか?
「……」
「……!」
すると、この空気を打破してくれるように扉が開き、誰かが現れた。
縁のある眼鏡をかけ、うっすら茶色の髪を後ろで無造作にくくっている女性。
調査兵団 分隊長ハンジ・ゾエさん。
「やぁやぁ!こんばんは!……あれ?なにこの空気?恋話は?」
「……盛り上がってないですね。だだ下がりです」
そう言うと、ハンジさんは額に手を当て、あちゃーと唸った。
どうやらリヴァイ兵長に何やら吹き込んだのはハンジさんらしい。
「……私の好きな奴はねぇ」
あ、ハンジさんが話すんだ。
「前の壁外調査で見かけた奇行種なんだけどさ、まさか巨人が跳ぶとは思わなかったよ。いつかまた会って、捕獲したいね」
……それは好意じゃなくて興味というんじゃ……。
そんな疑問は置いといて、ハンジさんが流れを作ってくれたんだ、ここで話さなきゃいつやる!
しかしここで問題が。
好きな人がいない。
ここで好きな人がいません、なんて言ったら確実に冷める。
なにか、なにかいい方法は……、……!
「ノウヴァは誰かいないの?」
まだ床を睨んでいるリヴァイ兵長の横に座り、話を振ってくるハンジさん。
「俺は……そうかどうかはわからないんですけど、好きかもしれない人がいるんですよね」
「ほうほう、好きかもしれない、っていうのは?」
まだ話すのか……、それじゃ。
「いや、そいつのこと考えると動悸に襲われたり、あいつの顔を見ると安心したり、隣に居れたら、幸せだろうな、って思ったり……。これって好き、なんですかね……、……うぉ!?」
顔を上げると、号泣しているハンジさんの顔が目に入った。
「いいね……私が捨てた青春だね……」
「あ、あの……」
「大丈夫、君とサシャはうまくいくよ。私が保証しよう。おっと就寝時間だ。それじゃ」
そう言うと、ハンジさんは出て行ってしまった。
……俺とサシャはうまくいく、かぁ……。
「……俺、サシャの名前とか言ってないよな……」
冷静に分析すると、一気に思考がクールダウンする。
同時に、自分の恥ずかしい言動に頬を紅く染めて後悔。
穴があったら入りたいとはこのことか……。
「……ノウヴァ、サシャが好きだったのか?」
「いや、俺にもわかんねぇよ」
俺は、サシャが本当に好きなのだろうか。
事故での、一時的な物なんじゃないか……?
俺は、一体どうすればいいのだろうか。
◇◆◇◆
「で、サシャと相部屋の私達に相談した、ってことか」
「あぁ」
俺は現在、食堂で朝食を食べながら、サシャと相部屋のクリスタ、ユミルに相談していた。
「……サシャはなにか言ってないか?俺のこと……」
「はぁ……お前らはホント似てんな……ほら」
そう溜息を吐いたユミルは、斜め後ろのテーブルを指差した。
そこにはいつもの男子メンバーと、サシャが座っている。
俺と同じく聞いているのか。
「……!?ちょっ、あいつ!?」
エレンの口の動きから読んで、「動悸」「好き」などの言葉が浮かび上がる。
すぐに立ち上がり、サシャの肩に手を置––––––けなかった。
なぜか体が制止をかけた。
緊張している?
俺が?
確かに同年代の女子には触りにくいが、サシャにはできた筈だ。
それは俺がこいつを女として見ていなかったから?
言うなれば、男友達の様な接し方をしていたわけだ。
それを今は、出来ない。
俺は今サシャを、一人の女として認識している。
認識の仕方が変わったのは何故か?
決まっている。
俺が、サシャを好きになったから。
「……!」
俺にも、恋が芽吹いたということか。
「好きかもしれないー?はっ!」
が、ジャンがそう言って、鼻で笑った。
おい、やめろ。
「んなもん、どうせ……」
やめてくれ。
芽が……
「からかってるだけだろ?」
摘み取られる……。
「……っ!?」
立ち上がり、走り出したサシャ。
……俺と同じように、どこかで期待していたのだろうか。
俺とあいつは、同じ場所にいたのだろうか。