エントマは俺の嫁 ~異論は認めぬ~ 作:雄愚衛門
「モモンガさん、何か用ですか?」
俺が呼ばれたのは円卓の間だった。ここで話をするって事は、だいたい俺達同士の内緒話になるだろう。わざわざ呼び出した上での事だから、何か大事な用事かもしれん。
モモンガさんは既に円卓の一席に腰掛けてたので、俺もいつもの席に座る。お互い全盛期の定位置を陣取ってる辺り、昔の癖は抜けないものだと少し可笑しくなる。
「いらっしゃいアバさん。一大決心した事があるんですよ」
「藪から棒に……まさか、ついにアルベドさんとシャルティアさんの事を」
「ち、違いますよ!説得が必要なのは確かですが」
なんだ、違うのか……。アルベドは設定上で、シャルティアは性的嗜好が元でモモンガさんに好意を寄せているそうなのだ。俺もエントマちゃんに好意を寄せられたらなぁ……。まぁがんばろ。
「それじゃ、何をしようとしてるんですか?」
「実は俺……旅に出ようかと」
「え゛ッ!?」
モモンガさんの一大決心とやらは俺の予想の斜め上であった。旅に出ると言ったって、外に出るリスクを散々語ってたモモンガさんの事を考えるとありえないとすら思えた。しかし、リスクを承知して尚行かねばならぬワケがあるのだろう。
「……理由聞いてもいいですか?」
「勿論です」
モモンガさんが旅に出たがってる理由は至極単純なものであった。曰く、ナザリック外を、自分自身の目で確かめたいとの事。現場を把握出来なければ指示を出すのもままならないからという切実な理由であった。後ついでに異世界の資金稼ぎな。
「そういう事か……むむむ」
俺はとっても悩んだ。モモンガさんが話す理由も尤もだ。俺もモモンガさんも、絶対的上位者がどういう風に采配を取るか等知る由も無い。確かに、最前線で把握すれば動きやすくもなる。それでも……
「やっぱ危なくないですか?」
「仰る通りです。なので、最大限の警戒として、俺も含め外を調査する者には
「世界級アイテム!!」
そのアイテムのレア度も筆舌に尽くし難く、一つも所持出来てない上位ギルドなんてのもザラだ。だが、そんな中、我らがAOGは世界級アイテムを11個も所持しているのだ!ドヤァ……。そんなアイテムを、現実化した世界で使えばどうなることか。
なるほど。モモンガさんは、異世界への警戒を緩めた訳ではない。てことは下腹部のアレを携帯して行くつもりだな。実を言うと、モモンガさんは常に世界級アイテムを所持している状態だ。
アバラ骨の下にある赤い玉、あれこそ世界級アイテムなのだ。正式名称は忘れたが、まぁ敢えて言うならモモンガ玉とでも呼ぼうか。ユグドラシル時代、襲撃してきた1500人のプレイヤーをほとんどぶっとばしたトンデモアイテムだ。
「それが良いでしょうね。
「俺が一番恐れてるのは
「あれかー。使用者と喰らった奴のデータを抹消する究極の自爆アイテム……確かに怖いわ。聖者殺しの槍って、レベル差とかは」
「一切関係ないです。LV1のモブが使ったとしてもアウトです」
「うへー……」
外に何があるかも分からない。近辺の村……カルネ村だっけか。その村を襲ったスレイン法国のなんとか聖典とかいう奴らは、中位程度の
「それと、俺の他に誰か一人同行させようと思います。危険は承知ですが、俺が旅に出るのは必須の事だと思うんですよ」
「うーん……」
「……」
俺は主腕を組み、肩の鎌をワキワキさせながら思考を巡らせる。何か勝手に動くねん。
何があるか分からないであろう地雷原にモモンガさんが行く。やはり、止めたいのが本音だが……。外に出るにしても、俺は変装出来る類の能力は無い。いや、出来なくもないのだが、ちょっと注目されたらあっという間にバレる。自分にそういう能力が無いのが恨めしいな。止めようにも、他に良い手は俺には思いつかない。
そうだな、モモンガさんがそうだと決めたのならば、俺がやることは一つだ。
「分かりました。そういう事なら、俺はモモンガさんの行動を精一杯サポートします」
「アバさん……!ありがとうございます」
「ただし、ただしですよ!二つ条件があります」
「聞きます。どんな条件ですか?」
「まず一つ、出立するのは最低でも3日後って事にしてください。丁度役に立ちそうなアイデアがありますので」
「それなら大丈夫です。元からそのぐらいのタイミングで出ようかと思ってました」
「OKです。そして、もう一つが……もう、一つが…………」
「……?」
俺は視線を円卓の下に向け、最後の条件を話す事を数巡躊躇った。口の中が乾くような感覚さえする。それは、モモンガさんに突き付ける事として、あまりにも残酷なものだからだ……。
それでも、何があるか分からない外に赴くのならば、きっと必要なことだ。俺は心を鬼にして、モモンガさんに最後の条件を提示した。
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ナザリックの主要な面子に招集をかけ、玉座の間にヴィクティムとガルガンチュアを除く階層守護者達と、セバス率いるプレアデスが集結した。相変わらず恐ろしい速度で集合して、正確に一礼する姿には舌を巻く。どんな練習すればそんな事が出来るのやら。全員顔を上げ、アインズさんの言葉を待ち構えていた。
俺はアインズさんの隣に設置された豪華な椅子に、無駄に良い姿勢で座っている。
「ご苦労だったな……。あー、呼び出した理由なのだが……お前達に紹介したい部下がいてだな……」
アルベドが微かに心配そうな表情を浮かべている。無理もないか……アインズさんの歯切れが明らかに悪い。心の中で必死に葛藤しているのがハッキリと分かった。最早何度精神が沈静化されたかも分からない。俺はその姿にどうしようもない程の罪悪感を抱いた……。
シモベ達は、その紹介されるであろう部下に注目していた。
アインズさんの横に控える、一体の人型モンスター。顔はピンク色のツルツルした奇怪なもので、そこに目と口らしき黒い丸が三つ。ドイツの親衛隊だかによく似た黄色い軍服に制帽を被っている。
「……さあ、お前のことを皆に紹介せよ」
「畏まりました」
踵を合わせて俺以上の良い姿勢で敬礼をし、アインズさんの指示に従う。
「皆様、お初にお目にかかります」
そのモンスターは両手を水平に広げて自身の存在を一心にアピールした。その動作は劇場で踊るように役を演じる男優のようだ。
「私の名はパンドラズ・アクター!第八階層、宝物殿の領域守護者を任されておりました!どうか、お見知りおきを……」
一息に自己紹介を終えると、彼は大仰に振りかぶり一礼をした。モモンガさんはちらりと横目でその姿を見ると、静かに天を仰いだ。
「
「うわぁ……」
今の呟きは果たして誰の声だっただろうか。俺はたまらず、指二本で目頭を押さえる。
そう、俺は開けてしまったのだ……開けてはならぬ、