エントマは俺の嫁 ~異論は認めぬ~   作:雄愚衛門

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よくよく考えたらコキュートスとエントマの話を先にしたほうが良い事に気付き、話を入れ替えました!次回がデミえもんです(;;)ω`)


変化

コキュートスとエントマは、今まで味わったことの無い程の美酒に酔いしれていた。

 

 天命にも勝る至高の御方の命令。それは、至高の一柱であり、ナザリック最強の蟲モンスターと名高いアバ・ドンにより設立される独立部隊への所属。冷静さを滅多に欠かないエイトエッジアサシン達をもってしても興奮を抑えきれなかったその栄転は、二人の心を奮わせるには些か過剰とも言える衝撃を伴っていた。

 

「……」

「……やったぁ」

 

コキュートスは、隣を歩く蟲メイドがひっそりガッツポーズしたのを見逃さなかった。あえて、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンで転移しなかったのは、これから肩を並べて至高の御方に仕えるエントマに、一言挨拶をしておこうと思ったからだ。

 

(エントマノ返事ハ微々タルモノダロウガ、礼ヲ欠ク理由ニハナラヌ)

 

ただ、一言挨拶するだけで終了するだろうとコキュートスは思っていた。彼女はコキュートスに対して全くの無関心だ。恐らく、コキュートスが命を散らそうとも、エントマは、それほど親しくない隣人が死んだ程度の認識しかしないだろう。淡々と、アインズかアバ・ドンに報告するのが目に見える。

 

それはさておき、コキュートスは周囲に他の者がいないことを、鋭敏な気配察知と強力な聴覚によりしっかりと確認した後、エントマへ話を切り出した。

 

「エントマ……」

「はいぃ?」

「コレカラハオ互イニ、至高ノ御方ト密接ニナル。ドウカヨロシク頼ム」

 

 念の為に話をぼかして用件を伝え、コキュートスは軽く会釈をする。今までならばエントマから軽い返事を貰い、そそくさと持ち場に戻ってこの話はおしまいだったのだ。だが、今回は違った。

 

「水臭い事を言わないで下さいぃ。これからはしっかりと協力してぇ、至高の方々のお役に立てるよう頑張りましょうぅ」

「……!?」

 

コキュートスは最初、エントマが何を言っているのか理解できなかった。いや、言っている意味は分かるのだが、エントマの口からそのような言葉を聞く事になるとは思ってもみなかったのだ。自分のよく知る盟友も、体をひっくり返して仰天する事だろう。

 

「私の能力が必要になる時は言って下さいぃ、御協力致しますぅ」

「……」

「……?」

 

エントマがコキュートスの反応に対し小首を傾げた頃、話を噛み砕いてようやく理解が及んだ。

 

「良イノカ?本当ナラバ助カルガ……」

「当然ですよぉ、私達は言うなれば同志ぃ。これからはアバ・ドン様の為にもぉ、円滑な協力関係を築いていきましょうぅ」

「……ソウダナ、頼リニシヨウ。私モ手ヲ貸セルモノナラバ協力スル」

「畏まりましたぁ、ありがとうございますぅ」

 

エントマが、コキュートスに対しペコリと頭を下げた。

 

コキュートスは未だ困惑していたが、実際にエントマの符術や幻術は応用性に富み、自分では出来ない事でもエントマならば可能な局面が多々ある。アバ・ドンの側に仕えるならば、手数は増やした方が良い。戦いにおいても同じ事、切れる手札が多い方が戦局が有利に働くのは必定だ。

 

(コレハ良イ傾向ト言エルダロウ……)

 

だが、そんな損得を抜きにしても、志を同じくする者が出来るというのも嬉しい事だ。コキュートスはそう思いながら、エントマの言葉を快く歓迎した。

 

(コキュートス様もぉ、アバ・ドン様の威光の下で手足として奉仕するのだからぁ、今までのような態度で接するのはあの御方に不敬だよねぇ)

 

エントマはナザリックの蟲系モンスター達は例外無く、アバ・ドンの所有物になると認識している。偉大なる至高の一柱にして、己が愛してしまった御方の私物を汚してしまうのは、死よりも遥かに辛い事だ。その事によって、どこまでも慈悲深いあの人が嘆き悲しむならば、何としても防がなければならない。

 

(所有物ぅ……私もぉ、アバ・ドン様の所有物になれるということぉ……?)

 

"アバ・ドンの所有物"というワードに反応して、エントマはまた少しフェロモンが漏れ出てしまったのだが、コキュートスはそれに気づく暇が無かった。

 

(あっ、おやつ(・・・)も我慢しなきゃぁ。でもぉ、アバ・ドン様の為ならぁ、全然平気ぃ!)

 

彼女は生まれて初めて、目の前にいる階層守護者と、第二階層で己と同じく張り切っている領域守護者に対して仲間として接する事にしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

コキュートスは、エントマとの会話を終え、第五階層氷河の住居、大白球にてその時を待つ。来たるべき、至高の蟲王に仕える時を。

 

(エントマハ、ナザリックニイル大半ノ者達ニ対シ、無関心ヲ貫イテキタ。ソレガアアマデ変ワッテシマウトハ……ダガ、ソレハ当然ノ結果トモ言エル)

 

コキュートスはエントマの変化に尚も驚いていたが、それと同時に納得もした。

 

惚れた異性のためならば、生ある者はいくらでも変化する。求愛の為に己を違う姿に変えて見せる者。己の力を誇示し、優れた種であることを証明せんとする者。愛した雄を喰らってしまう者。コキュートスが知る範囲でも著しく様変わりする者は多数だ。

 

(好イタ相手ガ、アバ・ドン様デアレバナ……)

 

あれ程の相手に惚れたとなれば、どんなに大きく様変わりしたとしても驚くに値しない。結果的に、エントマとの連携が取りやすくなった事は嬉しい誤算だ。至高の御方のお役に立てるというのは、シモベ達からすれば至福の時なのだから。

 

(雪女郎達モソウナノデアロウカ……?イヤ、ソレハ気ニスル事デハナイナ)

 

自分が考えるべきことではない。コキュートスは、浮かんだ素朴な疑問を軽く首を振り消し去った。その後に、最も興味深く、最も重要な疑問を浮かべる。

 

(アバ・ドン様ハ何故、エントマニ告白サレナイノカ。アレ程ノ心躍ル戦イヲ繰リ広ゲ、源次郎様ノ許シヲ得ラレタ事ハ、私モ確カニ見タト言ウノニ)

 

 アバ・ドンは、常に優しくエントマを見守り続けている。お互い両想いであるならば、既に結ばれててもおかしくない。どういう訳か、アバ・ドンは少しずつ歩み寄る姿勢を貫いている。今すぐにでも閨を共にしようと誰も文句を言わないだろう。他ならぬエントマ自身もそうであるのに拘らずだ。そもそも至高の御方に文句を言う輩なぞ、ナザリックに許す者も実行する者もいない。

 

色恋沙汰にてんで疎い自分では理由が分からない。こういう時こそ、頼れる同僚に相談したいと思うが、密約なのだからそれは出来ない。

 

(思イノ外、出来ル事ハ限ラレル)

 

自分に協力出来る事はほとんど無い。そういった事に鈍い頭の硬さに辟易するが、最終的にコキュートスは、この恋の行方に直接関与しない事にした。

 

(アバ・ドン様ガ機ヲ見テイルナラバ、手出シハ無用。ナラバ、私ニ出来ル事ハ二人ノ未来ニ阻ム輩ヲ断チ切ルノミ)

 

自分の特技で二人を陰ながら支えよう。アバ・ドンとエントマの傍らに立つならば、必ず機会は訪れる。それが自分に出来る最善だと、コキュートスは信じる事にした。

 

「……ママナラヌモノダナ」

 

コキュートスの呟きは僅かな冷気を帯び、空へ溶けていった。


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