エントマは俺の嫁 ~異論は認めぬ~   作:雄愚衛門

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サブタイのなんでも解決する感




名探偵デミウルゴス

パンドラズ・アクターの紹介が終わり、第七階層守護者デミウルゴスは、自身の持ち場に戻り思考を巡らせる。彼が守護する溶岩の園。並の人間ならば、溶けた大地が発する熱にやられ、その場にいるだけでも焼け死ぬ程の熱量だが、彼にとっては考えに没頭するには丁度良い空間であった。

 

(まさか、長らく謎であった宝物殿の領域守護者を外に出すとは。アインズ様は外の世界にそれほどの警戒を……)

 

 宝物殿。あらゆる階層から隔離された場所にあり、至高の41人を除き、ほとんどの者が踏み入れた事のない領域。数々の世界級アイテムも保管されている、ナザリック内でもトップクラスの最重要エリアだ。アインズ本人により創造されたモンスターが守護している事からも、その重要度が窺える。

 

脳内の整理を続けながらも、アインズからのお達しを部下に伝えるべく、魔将達の下へ向かう。

 

本来、自分の配下は呼び寄せれば手っ取り早いのだが、デミウルゴスにとって、至高の御方から預かった第七階層を歩き回る事は、己の任された仕事の重要性を再認識する儀式でもあり、心を癒す生きがいであった。

 

(そうすると、宝物殿の守護者が空席になる。空いた守護は誰が務めるか?それは、アバ・ドン様以外考えられない。今まで、パンドラズ・アクターが宝物殿にかかりきりだったのが、あの偉大なる御方の御帰還によって、改める(・・・)機会になったのは確実。何しろアバ・ドン様以上の適任者は、今ナザリックにいない)

歩み続けるデミウルゴスは、パンドラズ・アクターが外に出た穴埋めはアバ・ドンがするものだと結論付けた。宝物殿の全貌は、パンドラズ・アクターを除き、シモベ達も知らぬ所。しかも、至高の御方が守護をする場所以上に堅牢な拠点は無いだろう。

 

 行き着いた理由は間違ってるようでだいたい合っているという不思議なものであった。

 

 丁度、アバ・ドンが宝物殿を守護すると当たりを付けたところで、魔将達の所へたどり着いた。デミウルゴスの存在に気づいた彼らは、気を張って炎獄の造物主からの言葉を待つ。彼を怒らせてはいけない事は、嫌になる程知っているのだ。

 

「ああ、君達。領域守護者のパンドラズ・アクターが配置替えする事になる。今後顔合わせをする筈なので覚えておくように」

「畏まりました」

「それと、例の(・・)件について経過報告を」

「はい、万事滞り無く進行中です。痕跡一つ残さず、着々と」

「稀に、何らかの異能を持った人間も見つかりますが、残さず確保しております。このままなら、牧場として機能するのも時間の問題かと」

「よろしい。この計画はほんの僅かな失敗も許されない難しい物だ。些細な変化でも良いから、何かあればすぐに報告したまえよ?」

「心得ております。至高の御方に捧げる供物、慎重かつ迅速にご用意致しましょう」

 

魔将達の返事に満足すると、デミウルゴスは踵を返してその場を後にする。

 

(アインズ様は詳しい配置については追って伝えると仰った。しかし、パンドラズ・アクターとアバ・ドン様の入れ替えと言えば済む話を何故持ち越されたのか?人員の変化は微々たるものであるにも関わらず。容易く出せるであろう結論を出さずに後に回した訳は……?)

 

去っていくデミウルゴスの背を見守る魔将達は、今日もまた自分達の上司が至高の御方の策謀を見抜こうとしているのを察した。

 

「デミウルゴス様はまたもお考え中のようだな」

「ああ、今日も至高の御方の真意を汲み取ろうとしておられるのか」

「流石はナザリック一の知恵者……」

 

そんな魔将達の言葉を知ってか知らずか、デミウルゴスは振り向く。

 

「君達も、せめて先読み程度は出来るようになりたまえ」

「……善処致します」

 

魔将達の返事は色良い物とは言い難かった。デミウルゴスの知能をもってしても読み取れぬ真意等、自分達では到底理解出来ぬ領域だったからだ。

 

「それと、ナザリック一の知恵者とは至高の御方の事を指す。私など遠く及ばない。分かったかね?」

「し、失礼しました……」

 

許し難い部下の言を訂正させ、今度こそその場を後にした。

 

考えながら歩いてる途中、微妙な温度の変化で溶岩が弾け飛ぶが、デミウルゴスは全く意に介さない。溶岩弾はまるで意思をもっているかのように、炎獄の造物主を避けては粘着質な音を立て地面に散らばって行く。実は、潜伏している領域守護者、紅蓮の配慮なのだが、第七階層ではありがちな光景であった。

 

そんな中、尚も思考は続く。アインズとアバ・ドンは多くを語らない。二人きりの時に、どれ程崇高な会談をしているのか想像だに出来なかった。

 

だが、その深遠なる思考を少しでも理解し、偉大な方々に貢献する事こそシモベの務めであると、デミウルゴスは思っている。

 

(……もしや、何か大きな計画を実行に移されようとしているのか?)

 

大雑把ではあるが、糸口が掴めたような気がした。少しでも至高の御方の真意を見抜き、これからの計画に貢献しようと、デミウルゴスは更に思考を重ねる。答えの鍵は、先程残らせたコキュートスとエントマが握ってるのではないかと考えた。

 

(何故、あの場に残らせたのがコキュートスとエントマか。二人の共通点は、双方共アバ・ドン様と同じ蟲系統の異形種である事。数あるシモベ達の中から蟲に関係する者達を意図的に残されたのか?創造主様の大半がナザリックを去られてから、全てのシモベ達はアインズ様の配下として活動してきた。では、アバ・ドン様がご健在の今であれば……)

 

この事は、本人に話を聞けば早いが、二人を残して自分達を持ち場に戻らせて話をしている以上、首を突っ込んで良い話題ではない。二人に直接話を聞くのは、至高の御方の意向に沿わない物であると考え、控える事にした。

 

だが、デミウルゴスはまた一つ結論を導き出した。

 

(やはり、アインズ様は、アバ・ドン様の下にシモベ達を預けるおつもりか!だとすれば、答えを持ち越した理由にも納得が行く。守護者の一角であるコキュートス。プレアデスの一人であるエントマ……それだけでは明らかに少ない。あれ程の蟲の統率力。何らかの、蟲系モンスターに恩恵を与えられるスキルをお持ちだろう。ならば、主要な蟲系統のシモベ達をアバ・ドン様の下に据えるのが道理。これは大きな異動になる)

 

本当にそうであれば、早急に対応せねばならない。自分の仕事を察知したデミウルゴスは、アバ・ドンが居る事によるナザリックへの影響は計り知れないと再認識した。無論、良い意味でだ。

 

(アインズ様はアバ・ドン様の御力を私以上に理解なされている。アバ・ドン様の能力を高く評価した上での采配を取る事は最早必然……そうか!先の模擬戦には、アバ・ドン様の御力を示すだけではなく、御健在ぶりを下々に理解させる意味合いも含まれていたのですか、アインズ様)

 

デミウルゴスは、玉座の間で話をしているであろう、至高の二人への尊敬度をもう一段階引き上げた。蟲系モンスターを全て指揮下に置き、更に、最重要とも言える宝物殿の守護を兼任。アインズがいかにアバ・ドンを信頼し、重用しているかはその采配だけで充分に垣間見えるものであった。

 

(アバ・ドン様が病み上がりでおられる事を想定し、専用部隊を薦めるのは後回しにしていたが、杞憂だったようだね……)

 

自分が抱いていた心配は、傲慢と言えるほどに不敬な考えであった。アバ・ドンとアインズは、再会した時点で既に計画を進めていたのだ。結果、至高の御二方にお手を煩わせてしまった。そう理解したデミウルゴスは考えを改め、今後のナザリックの動向を考慮する。

 

(場合によってはコキュートスやエントマも本来の役職と兼任になるか。それはこれからの動き次第となる。私の考えが真実であるならば……やれやれ、コキュートス達が羨ましい)

 

デミウルゴスは、大抜擢を受けたであろう同僚につい嫉妬する。それでも、自分が為すべき事は何一つ変わらない。

 

(では行こうか。どちらにせよ、アルベドと相談しなくては。仮に間違いだったとしても、遅かれ早かれシモベ達の配置が大きく変わるのは間違いない。……ふむ、私が考えつくのはこの程度か。だが、アインズ様の事だ。これらの計画による変化も、何らかの大きな狙いが含まれていると見て良い。いやはや、そこまでは分からない己の浅はかさが恨めしいよ)

 

デミウルゴスは、またもや勝手に忠誠心を上昇させ、これから起こるであろうナザリック内の異動を見据えて行動を開始した。

 




そういやデミえもんってシックスがモデルなんですよね、そりゃ凶悪な筈だわ……(´ω`)

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