エントマは俺の嫁 ~異論は認めぬ~   作:雄愚衛門

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分割はトモダチ。次々回でモモンサイドの話。
ナザリック重点なので軽いものになりそうですが(´ω`)


メシ友?

ナザリック地下大墳墓、従業員食堂。白が基調のシンプルな食事スペースである此処は普段、一般メイドやプレアデスが利用する墳墓内でも比較的ささやかな場だ。その中で際立つ程に異彩を放つ集団がいる。

 

彼らは四人組で、内二人が違和感の大きな原因となっており、この場からは明らかに浮いていた。

 

「まさか、君と食卓を共にするとはね。セバス」

「全くです。アバ・ドン様が設けて下さった貴重な機会。お礼を申し上げなければいけません、デミウルゴス」

「そうだとも。偉大なる方々のお気遣いに感謝しなくては」

 

にこやかに談笑をしているのは家令のセバスと、第七階層守護者デミウルゴス。会話の内容、二人の様子は温和そのものだが、この場に居合わせた者達は全員冷汗が止まらなかった。それもその筈、セバスとデミウルゴスの不仲はシモベ達にとって常識なのだ。

 

四人用の席に、ユリとセバス。デミウルゴスとルプスレギナの組み合わせで向かい合うように座る。セバスとデミウルゴスが向かい合わないように、微妙な配慮がなされているのだ。

 

「ユリ姉、一般メイド達が怯えてるっす」

「……仕方ないわよ」

 

それは四人組の残り二人、ユリ・アルファとルプスレギナ・ベータも例外ではない。感情は表に出さなかったが、ナザリックの生活面最高責任者と軍事面最高責任者がいる事による影響は、プレアデスの二人も免れなかった。

 

表面上和やかではあるがメイド達からすれば、レベル100のNPC達が放つプレッシャーは食事を阻害するには十分すぎる程のものだ。実際に、戦闘時のような殺気を放っている訳ではないが、それでも落ち着いて食事が出来る状況とは言い難かった。

 

「あー、でもやっぱー、御飯おいしいっす」

「そうね……」

 

 とは言え、至高の二柱が放つプレッシャー程ではないので、ユリとルプスレギナは食事に勤しむ程度の余裕はあった。

 

プレアデスの二人はともかく、一般メイド達にとって今の環境は、導火線に火が付いた爆弾を抱きかかえたまま食事をするに等しい。プレアデス程に肝の太い者は皆無であった。

 

「よよよ、どうしてこうなったんだか……」

 

ルプスレギナは、今の状況に陥った経緯は知っているが、それらを粉砕する程の衝撃を現在進行形で受けており、無意識の内から言葉を漏らしていた。

 

事の発端は面接終了時に遡る。

 

 

 

 

「アバ・ドンさんとの協議の結果、私に同行する者はユリとセバスの二名に決定した」

「何か意見があれば聞き入れます。どうですか?」

「異存はありません」

「セバス様とユリ・アルファの同行に賛成します」

 

デミウルゴスとルプスレギナが、優雅に一礼をする。平常時ならば、ルプスレギナもまともな対応が出来るのである。両者共、自分が選ばれなかった事が内心悔しかったが、至高の二人が決定した事に異議を唱える必要性は薄く、言われたままに従う。

 

「素晴らしき栄誉を与えて頂き、感謝致します!」

「至高の御方の御希望に沿えるよう、努力して参ります」

 

採用されたセバスとユリは湧き上がる超特大の歓喜を押し殺し、忠誠を誓う絶対者二人に臣下の礼を取る。

 

「無論、デミウルゴスとルプスレギナの事も高く評価している。だが、今回の場合はユリとセバスが適任だったのだ。今後お前達にも重要な仕事を任せる予定なので、留意しておくように」

「畏まりました」

「分かりました!」

「では、準備はこちらで整えておく。シズとアルベドを連れて宝物殿に行かねばならんのでな。それまでは待機せよ。本来ならばユリも連れていく予定だったのだが……」

「時間的にも丁度良いでしょうし、四人で食事を取るのも良いかもしれません」

「食事……でございますか」

 

アバ・ドンの提案に、デミウルゴスは面食らう。ユリは、至高の御方に丸投げして食事を取る等無礼極まりないと思い、慌てて具申した。

 

「し、至高の御方が準備をして下さっている間に食事など……!私も宝物殿へ赴きます!」

 

「良い。セバスとデミウルゴスの交流の機会としても、悪くない提案だと思うぞ? お前もセバスとよく話をしておきなさい」

「私はついこの間メイド達と食事を摂りました。おかげで、皆さんの事を理解する一助となった覚えがあります。ただの経験則ですし、デミウルゴスさんとセバスさんの関係から強制はしませんが……」

「いえ、素晴らしき提案かと。仰られる通り、四人で食事を共にし交流を深める事にします。セバス、構いませんか?」

「はい。アバ・ドン様、我々への配慮ありがとうございます」

 

デミウルゴスはにこやかに同意を示し、セバスもそれに追随した。だが、横に控えるユリとルプスレギナの表情が少々固くなった事にアバ・ドンは気づいてしまった。

 

「そ、それは良い傾向です。会話を交わさずとも、何か兆しが見えるかもしれません。たとえ仲が悪くとも、相手の事はよく知る必要はありますから」

「全くでございます」

「では、私とデミウルゴス、ユリとルプスレギナの四名で食事をして参ります」

「う、うむ、では以上で解散とする」

「いってらっしゃい……」

 

アバ・ドンは、失敗したかなぁと後から後悔した。

 

(モモンガさん、俺達もしかして余計な事しちゃった?どっちみち離れ離れになるからって踏み切っちゃいましたけど)

(微妙なところです……。ただ、セバスとデミウルゴスは今の関係を改善しようという気持ちが見えました。損は無い筈です。悪い結果になったらなったで、今後を考えましょう)

(そうですね……。良い結果に転んでくれると良いなぁ)

 

 

 

 

「ところで、デミウルゴス様は何で食べる場所を食堂にしたっすか?……お、この肉血が滴ってていい感じ」

 

微妙な静寂が醸し出す恐ろしい空気を打破すべく、ルプスレギナは勇気を振り絞って話題を振り、更に食事を再開した。食べながら話を聴ける程度には打ち解けたようだ。

 

「……」

 

ユリとしてはルプスレギナの態度に物申したい気持ちだったが、今回に限っては良い方向に話の流れを導いているので黙認した。

 

「アバ・ドン様はメイド達と食事をしたと仰った。交流を重んじた配慮をなされたからこそ、あの御方と同じ結論に至るのは当然。至高の御方の真似をするだけでも、深謀思慮を理解する手がかりになるのだよ」

「おかげでみんなが怯えてるっすけどね……」

「どうにも、彼女達は誤解しているようだ。別に取って食いはしないと言うのに」

 

デミウルゴスが頭を振る。彼は、セバスを除いたナザリックの面々には基本的に温厚だ。本人が言っている事は紛れも無い事実であり、メイド達もその辺の理解はある。

 

だが、今回に限っては取合せが余りにも悪すぎた。よりにもよって、セバスと一緒なのだから。

 

「日頃の行いを省みるのも重要ですね」

「忠言、痛み入るよ」

「そう言うセバス様も原因の一人っすよー?」

「今の発言は、私も含めてです。彼との関係は改善したいと思っています」

「偉大なる主が心を痛めているのだよ?私だってそうさ」

「うーん、どっちも仲間思いなのに……本当に不思議っす」

 

二人の謎とも言える仲の悪さは折り紙付きだが、至高の御方への忠誠心も屈指であるが故に、こうして苦心しているのだ。

 

(この食事会でセバス様とデミウルゴス様の仲が余計悪くなったら、アインズ様とアバ・ドン様に泥を塗る事になるっす)

 

ルプスレギナは肉類を味わいつつ軽口を叩くように会話している。しかしその実、内心は綱渡りをしているような気持ちだ。アバ・ドンの好意を補助しようという彼女なりの親切なのだが、本人は今の状況を楽しんでる節があるので、同情の余地があるかは疑問だ。

 

「はぁ、セバス様とユリ姉がうらやましいなー……アインズ様と一緒に旅出来るとか最ッ高じゃないっすか!枕を濡らしちゃうほど大洪水っすーシクシク」

「全くだよ、私も嫉妬を隠しきれない。セバス、粗相の無いようにね?」

「無論でございます」

「しかし、私もセバス様と同じく同行者に選ばれたにも拘らず、何故アインズ様ご本人が危険を冒してまで旅立とうとお決めになられたのか分かりません……。こんな有様ではやまいこ様にも申し訳が……」

 

 ユリは、同伴する者として選ばれたが、その真意が汲み取れない事に焦っていた。御側に仕えるにも拘らず、至高の御方の意に沿わぬ働きを見せてしまえば、無能の烙印を押されたとしても文句は言えない。

 

「そうそう、それっすよ。しかも、何で人間と仲良くしようと?後から叩き潰しちゃうなら納得っすけど……うひひ、想像したらぞくぞくしちゃう」

「ルプスレギナの想像は私としても心躍るよ。だが、それは禁忌になるだろうね」

「どうしてっすか?」

 

咀嚼していた食べ物を飲み込んだルプスレギナの疑問に対して、デミウルゴスは優しく答えた。

 

「いいかい、セバスとユリの組み合わせで、何が良いか考えてご覧?アインズ様とアバ・ドン様のご両名は、人間への扱いが温和な者をお選びになっている。恐らく、容姿が人間に近ければペストーニャも候補に入っていたのではないかな?彼女はレベルこそそれほど高くないが、神官としての能力は申し分無い」

 

セバス、ユリ、ペストーニャなど。アライメントが善性に偏ってる者は、ナザリックでは極少数だ。選抜した中から二人が選ばれた理由の一因になってるのは間違いないと、デミウルゴスは当たりを付けていた。

 

「デミウルゴスの言う通りです。外で仮初の冒険者として名を上げるなら、その方が効率も上がるでしょう。表立って活動するなら、友好的であれば都合が良い」

「はー、セバス様の謎思考も役に立つ事あるんすねー、びっくり」

「そう、セバスのような考えの持ち主はナザリックでは少数派だ。しかし、それを否定するのは間違いだよ。創造主様がそうあるべきとしているならば、我々は快く受け入れるのが義務なのだから。……であるにも拘らず、私はどうにもセバスに対して否定的になってしまう」

「私も、彼が至高の御方の事を一心に考え、シモベ達に配慮した行動を心がけている事を理解しています。しかし、どういう訳か対立してしまうのです……」

 

デミウルゴスとセバスが改めて胸中を吐露する。その物珍しい光景を見たユリとルプスレギナは、あの方々による提案が、少なからず効果を発揮しているのだろうと思った。

 

「失敬、話が逸れてしまったね。では本題に入ろうか」

「よろしくっす」

 

デミウルゴスが仕切り直すと、ルプスレギナは肉を頬張りながら話に集中した。

 

「ユリの疑問は尤もだ。アインズ様の狙いは非常に大きなものだし、見抜くのは困難。私も先立って計画を練っているが、かなり大規模な作戦になることは間違いないよ。そこで、私が垣間見た偉大なる方々の真意だが……」

ひはへへほひいっふ!(聞かせて欲しいっす! )

「デミウルゴス様、是非お聞かせ下さい!」

 

二人はすぐさま食いついた。ルプスレギナに至っては口の中に食べ物を残したままである。

 

「デミウルゴス、差し支えなければ私もお聞きしたいのですが」

「当然セバスにも教えるとも。君はこれからアインズ様のお供として身辺を補佐しなければならない。喜んで手を貸そう」

「感謝します」

 

(す、すごい。デミウルゴス様がセバス様に協力を……!)

(やっぱ至高の御方ぱねぇっす!)

 

ユリもルプスレギナも、目の前で繰り広げられているやり取りを信じられないという気持ちで見ていた。至高の御方の意向を以てすれば、このような事も容易なのかと驚愕する。だがそれよりも今は、デミウルゴスが推理した至高の御方の狙いについて聞かねばならないと、気持ちを整理して次の発言に注目した。

 

「アインズ様は、『正義の大英雄』になろうとしているのだよ」

 

ルプスレギナは頬張っていた肉を吹き出した。

 

 




吹き出した肉に手を付けると漏れなく牧場行きです(`ω´)

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