エントマは俺の嫁 ~異論は認めぬ~   作:雄愚衛門

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墓穴

「あ、アインズ様が『正義の大英雄』ってどういう事っすか?!」

「……」

 

 ルプスレギナが吹き出した肉は、向かい側に座っていたセバスに直撃するものかと思われたが、彼は目にも止まらぬ速度で気功を発動。目前に迫る肉を圧縮し、空の皿に飛ばして戻した。肉汁が周辺に飛び散らぬよう気を遣う念の入れようである。

 

「ルプスレギナ、行儀が悪いですよ?」

「君は少々落ち着きが無いようだね。こういった場ではとやかく言わないけど、至高の方々の御前では気をつけるように」

「も、申し訳ありません……」

「全く、ルプーは……」

 

流石のルプスレギナも丁寧に謝罪した。余談だが、皿に乗った圧縮肉は使用人が回収し、第一階層から第三階層にかけて居るアンデッドや蟲達が美味しく頂いた。曰く、「硬い」との事。

 

ルプスレギナはデミウルゴスの出した結論が理解出来なかった。どうして、私達の偉大な主が人間共の味方なんてしなければならないのか?

 

「デミウルゴス、理由を説明して貰えますか?」

「お願いします」

 

セバスとユリは個人的に好ましい考えだと思ったが、それでも疑問は尽きない。

 

「勿論だとも。ルプスレギナの気持ちはよく理解できるよ。どうしてアインズ様がそんな事をしなければならないのか? とね」

「その通りっす!」

「一先ず『正義の大英雄』は置いておこう。『アインズ・ウール・ゴウン』の威光を知らしめる象徴として最も相応しいのは誰かと問われれば、君達はどう答えるかね?」

 

突如として湧いた質問だったが、三人はすぐさま答えを導き出す。

 

「……アインズ様かアバ・ドン様っす!」

「至高の41人の皆様方が適任かと」

「私達ではあの御方に比べて霞んでしまいます」

「その通り、アインズ様を始めとする至高の御方以外では成し得ない。何事においても頂点に立つと言うならば至高の御身が相応しい。たとえ人間風情の営みであってもね。そう考えれば、この度の任務は現総括であられるアインズ様が最も適任と言える。アバ・ドン様がおられる事で、ナザリック地下大墳墓は任せられると判断したのだよ」

 

三人は、この任務を実行するのがアインズでなければならない事は理解した。だが、ここまでの話ではアインズが人間の味方をする理由は分からない。三人は話の続きを今か今かと待ち構えていた。

 

「例えばの話、私がアインズ様の御指示で国を一つ征服、又は滅ぼしたとしよう。その時、人間側は我々を滅ぼそうと躍起になるのは間違いない。ではその時、討伐軍の旗頭になるのは誰かな?」

「人間側の強者。それも英雄と言われる程の」

 

ユリの回答に、デミウルゴスは満足そうに頷く。

 

「そう、ではその役目を、押しも押されぬ大英雄となったアインズ様が請け負ったとしたら、どうなるかね?」

「……おおー!」

 

ルプスレギナはデミウルゴスが言いたかった事を理解した。人間共が希望を抱いて祭り上げるのは、我らがナザリックのトップ。これほど間抜けな事はあるだろうか。人類は、アインズの手玉に取られ、操り人形となった挙句に平伏する事になるのだ。その光景を想像したルプスレギナは、心底愉快な気持ちになった。

 

「そういう事ですか。アインズ様とアバ・ドン様はそこまでお考えに……」

 

セバスは至高の御方々に、より多くの尊敬の念を抱いた。人間側をアインズの手で掌握すれば、無用な血を流さずに済む。力のみで侵略するよりも、お互いのダメージを抑えられるだろう。人類側への配慮をしている訳ではないのは分かっている。それでも、ナザリックの事を考えて計画を練っているのがセバスにははっきりと伝わった。

 

「皆、ようやく分かってくれたようだね。そう、アインズ様は表から世界を制圧しようとお考えだ。表からアインズ様が、裏からはアバ・ドン様の補佐で。そうすればどうだろう、この世の全てが『アインズ・ウール・ゴウン』に頭を垂れる」

「す、すごいっす!滅茶苦茶ワクワクしてきたー!」

 

今までの少々気まずい空気は吹き飛んだ。食堂内のシモベ達は、ナザリックの栄光ある未来に憧憬した。

 

「アインズ様はそんな計画を立ててたんだ!」

「まさに智謀の王……!」

「よーし、他の子達にも教えちゃおっと」

「アインズ様は比類なき英傑としての力をお示しになるのね」

 

 いつの間にか話を聞いていた一般メイド達も、至高の御方の計画を絶賛する。お互い与り知らぬ所ではあるが、以前アバ・ドンがこちらに来てなかった頃、アインズが冗談で放ったつもりの世界征服宣言が余計な所で機能してしまった。

 

「デミウルゴス様、ありがとうございました。……い、今の段階でアインズ様はそれほどまでにお考えを?」

「うん、有り得ない話ではない。ユリも分かってくれたようだね。ということでセバス、君は今まで以上に羽を伸ばして任務に勤しめる。良かったじゃないか」

「……私にとって、最良の天職になりそうですな」

 

セバスはやる気が今までの何倍にも膨れ上がった。何しろ彼は堂々と、創造主であるたっち・みーのような活動が出来る。しかも、アインズと共にだ。セバスはかつてない程の喜びに包まれると共に、はち切れんばかりの気合を充分に溜め込む。

 

「ふん、嬉しそうで何よりだよ。セバスは人類に希望を与え、私は人類に絶望を与える。見事な采配です、アインズ様……。しかし、本来の目的は宝石箱であるこの世界の全てを制圧し、至高の御方に捧げる事。それをゆめゆめ忘れぬように」

「分かっております」

「畏まりました」

 

二人はこれからの計画を理解し、デミウルゴスの言葉を念頭に入れて励む事にした。

 

「さて、一区切りついたので話を変えよう。私も少々気になった事があってね」

「どうぞどうぞ、私なんかで良ければ答えるっすよ!」

「……私でよろしければ」

 

ルプスレギナとユリは乗り気だ。セバスは静かな様子だが、彼女と同じくデミウルゴスの言葉に応えるつもりであった。先の話は此処にいる全ての者にとって有意義な話だったのだから、それに応えるのは当然だ。

 

「エントマが飲み物を持ってきた時、彼女の様子が少々おかしかったのだが、姉である君達は何があったか知っているのかね?」

「え!?さ、さぁ……?」

「ああ、あれっすか」

「ちょ……」

 

面接中エントマに居合わせた者は皆、挙動が些か怪しかった事に気付いていた。デミウルゴスもその一人である。だが、ユリは知らないフリをしてお茶を濁す。この話題はアバ・ドンと源次郎の密約に触れかねない。彼女としては一刻も早く終了して欲しい気持ちでいっぱいだった。

 

「エンちゃんはアバ・ドン様に惚れちゃったんすよ」

「ほう!やはり!」

(ルプスゥー!?)

 

ユリは後でルプスレギナをしばき倒す決意をした。デミウルゴスの笑みが、非常に深いものになる。ユリは背筋が凍る思いだ。"やはり"と言う事は薄々感づいていたのだろう。

 

「そういう事でしたか……」

 

 セバスは納得したという表情を浮かべる。彼は人間に対し類稀なる観察眼を持つが、プレアデスの胸中もある程度予測出来る。それは真の貌を覆い隠しているエントマも例外では無い。ここ最近彼女は浮き足立っていた。

 

「成程……成程……!それは結構な事だよ。その事をアバ・ドン様はお気づきに?」

「きっと気づいてるっす!しかもあの御方も満更じゃなさそうだし、エンちゃんが帰る時、ちょっとだけ手を差し出したっす。アバ・ドン様はシモベ達全てに優しいけど、エンちゃんに対しては特にすごい気がするっす!あ、私も陰ながら協力してるんで」

「……」

 

床に陥没する程しばき倒そう。ユリはルプスレギナを今の内からロックオンした。

 

尚、ルプスレギナ自身に一切悪気はない。デミウルゴスの力を借りられるのならば、エントマの為にもなるだろうと判断したのだ。

 

「ほう、先の行動はそういう意味が。確かに、アバ・ドン様はアインズ様に比べて女性に対して積極的な姿勢をお見せに……。良いでしょう!私も一時悪魔である事を忘れて弓を構えるとも。二人の仲を結ぶ、キューピッドの射手になってみせましょう」

「デミウルゴス様が居れば百人力っすー!」

 

デミウルゴスの眼光が、セバスに負けぬ程の火を灯す。ルプスレギナは密かに「それ、矢も燃えてね?」と口出ししたかったが、非常に心強い味方が得られたのは間違いないと思い、そのままにしておく事にした。

 

「お待ち下さい、至高の御方に失礼が無いよう、見守るべきでは?」

「そ、そうです。私達が手を出すべき問題ではありません」

 

セバスの助け舟に乗るように、ユリは反論した。

 

「何言ってるっすかセバス様もユリ姉も。アバ・ドン様とエンちゃんの恋路がかかってるっすよ!デミウルゴス様ならきっと大丈夫っす!」

「安心したまえ。密かに、そう、ほんのささやか(・・・・)な援護をするに留めるから。アルベドやシャルティアのようにやりすぎると良くないのは私とて知っているよ」

「そ、そうですか……」

「いやはや……デミウルゴスの気持ちも分かりますがね」

「セバス様まで!?」

 

これは最早私では止められない。ユリはえらい事になってしまったと嘆く。ルプスレギナに恨めしげな視線を送るが、本人はどこ吹く風だ。ナザリックの未来に思いを馳せて沸き立つ食堂内で、ただ一人ユリは気落ちする思いであった。

 

 




「愚か者が!」「お前には失望したぞ!!」

↑コピペ用

次回からようやく書籍の話に入ります。長かった!
原作と大差無い部分は大幅に端折ります。
だいたいこんなノリが延々続きますのでご了承下さいorz

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