エントマは俺の嫁 ~異論は認めぬ~   作:雄愚衛門

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ほとんどダイジェストでお送り致します(´ω`)
多分3、4話くらいで終了します、冒険者モモン好きな人ごめんなさいorz


二巻編
じじい無双


城塞都市エ・ランテル。リ・エスティーゼ王国にある都市で、バハルス帝国、スレイン法国の二国との境界に位置する王国の要だ。

 

 そこにある宿屋の一室。高級とは言い難い部屋の一角に人影が一つ。性別は分からない。金縁に紫の紋様が入った全身鎧を身に纏っているのだ。背中には二本のグレートソードを背負い、真紅のマントが柄以外を覆い隠している。如何にも屈強な戦士と言った出で立ちだ。

 

彼は耳に手を当てて、何やら会話をしている。魔法、<伝言>(メッセージ)による遠距離の会話だ。

 

『冒険者登録は無事終了……晴れてモモンガさん、いや、冒険者モモンのデビューが決定した訳ですね』

『ええ、宿屋を借りて一段落したところですが、思いの外夢の無い仕事ですよ、冒険者って……』

『まぁ現実はそんなもんですよ。どうです、あの人なんて言ったっけ……、ああそう、ガゼフさんより強い人はいそうですか?』

『現時点では皆無と言って良いでしょう。予断は許されませんが、ナザリックの配下を超える強者は、少数だと思います』

『そりゃ良かった。調査が進めば、俺もいずれはあの大森林に……』

『ポカリ……『黙示録』(アポカリプス)の一部にも手伝って貰いつつ、アウラに調査させる予定ですから、安全が確認出来るまでは待ってて下さいね』

『了解です……まぁ、ナザリックと森林調査は任せて下さい。ちゃんと見てるんで』

『よろしくお願いします。それじゃ!』

『はーい』

 

 定期連絡という名の愚痴こぼしを終え、アインズは一段落した。ボロボロの硬いベッドに座り、これまでの行動を振り返る。セバスとユリは外に出している。セバスはアインズが居る一室の番を、ユリは挨拶回りだ。

 

(……このままだと、セバスとユリが優秀すぎてやる事がほとんど無い!)

 

 時間は宿屋へ顔出しをしたところまで遡る。

 

 

 

 

別の任務で送り出したシャルティアと、『黙示録』の一部隊を見届け、アインズ、セバス、ユリの三名もナザリックを後にした。出発後、早速行った組合での冒険者登録で少々怪しまれたが、ユリとセバスの見事な応対のおかげで、滞り無く完了した。宿屋に向かうまでの道中も、様々な視線が自分達に降りかかる。

 

「……格好良い、おじ様」

「佇まいが綺麗よねぇ。きっと、名のある方よ」

「でも、銅のプレートを付けてたわ」

「没落貴族の末裔とかそんな感じかしら?」

 

「お、おい、誰だよあの美人」

「分かんねぇ、でも眼鏡なんてしてるぐらいだから相当裕福なんだろうよ……」

「リーダー格っぽいあの黒鎧、さしずめ漆黒の戦士か。ありゃ見事なもんだけどな」

「冒険者プレートは銅か……どこぞの貴族の道楽かね?」

「さあな、少なくとも只者じゃなさそうだぞ?」

「あっちの爺さんは間違いなく強いぜ」

「へぇ、お前ら分かるのかい?」

「少しはな。つーかさ、何かあの爺さん見てると寒気がするんだわ」

「そうそう、俺は昔トロールに出くわしたことがあってさ、あん時の感じに近い」

「そりゃあ、舐めてかからない方が良さそうだな……」

 

登録中も、男女両方からの注目が痛かった。理由は勿論従者二名によるものだ。ただ、悪い意味の注目ではない。どうやら、こちらの世界観においても、セバスとユリは相当な美男美女のようだ。すれ違う者のことごとくが、セバスかユリに見惚れて立ち止まる。

 

アインズは、ユリはともかくとして、まさか老人の見た目であるセバスすらそうとは思いもしなかった。セバスがナイスミドルなイケメンであることを、アインズも認識していたが、ここまでとは想定外である。

 

 確かに、両者共茶色いローブに極普通の冒険者装束だというのに、周囲の人間とは雰囲気が一線を画していた。アインズは、これはどうあがいても目立つだろうと、半ば諦めた。

 

「こちらが冒険者用のプレートになります。紛失した場合罰金が生じますのでご注意下さい」

「分かった」

「これから、お世話になります」

「よろしくお願いします」

「い、いえ……」

 

セバスとユリがにこやかで丁寧な対応をすると、受付の女性はどことなくぎこちない様子で返事をする。

 

(見惚れてるように見えなくもない。本当に美男美女なんだな……)

 

クローズド・ヘルムの中に灯る眼窩の光を狭めながら考える。幸い大きなトラブルは無かった。何より二人は愛想良く礼儀正しい。冒険者登録をした際にも、周囲の人間には良い印象を抱かせた。

 

 三人の組み合わせは、所謂金持ちの遊びだと思われる可能性があった。実際にそれは正解で、周囲の視線は様々だったが、セバスが強者としてのオーラを放つ事により絡まれる事態は回避出来た。実によく出来たもので、周囲が怯えずされど嘗められない絶妙な匙加減を、セバスはやってみせてくれた。

 

そして、冒険者モモン一行は紹介された宿屋に到着したのだが……。

 

「なぁ、身なりは一丁前だがよう、金持ちの道楽息子にゃ冒険稼業は厳しいんじゃねぇの?」

「なんならコツを教えてやるぜ?そっちの姉ちゃんを一晩貸してくれたらな!」

「なあ姉ちゃん、名前何て言うんだい?可愛がるぜぇ……」

マイコ(・・・)と申します。そのお誘いは遠慮させて頂きます」

「まぁ、そう言うなって」

 

マイコことユリの魅力は、男達を燃え上がらせた。それこそ、目の前の鎧男に絡む目的を忘れそうになる程に。芸術的とすら言える顔立ちと、透き通るような肌の色、艶やかに整えられた髪。ローブ越しにも分かる抜群のプロポーションに男達は夢中になり、眼鏡属性を開花させていった。

 

「……分かりやすい程にチンピラだな」

「ああ?」

 

彼らはセバスの強者オーラによるフィルターをくぐり抜けた辺り、力には自信があるのだろう。この世界に来て初めてのトラブルである。こういうのをチュートリアルと言うのだろうと、アインズは呆れながらもぼんやりと考える。

 

「モモン様。ここは私()()()が」

「任せる。殺すなよ?」

「畏まりました」

 

タッチことセバスがすかさず前に出る。彼は、調節が甘かったかと反省し、自分の責任で接近を許してしまった相手を対処しようと思っていた。

 

そんな事は露知らず、アインズは手持ち無沙汰であった。見ているだけなのでやる事が無いのだ。目の前の男は、カルネ村で遭遇したスレイン法国の誰よりも劣る。

 

 一応、前哨戦という事で、セバス達の動向には目を光らせているし、周辺の警戒も怠ってはいない。今は、自分の視界に入る一挙一動全てが重要な情報になる可能性がある。

 

だが、どうにも妙な安定感があって、油断してしまいそうになる。アインズ自身も元営業マンとして、トーク術をそれなりに齧っているが、二人の処世術はそんなレベルではない。自分よりも二人に任せた方が、余計な軋轢を生まない事が嫌でも分かった。

 

ちなみに、セバスとユリの偽名についてだが、アインズは自分と同じノリで二人に偽名を与えた。ユリには創造主のやまいこに由来するマイコ。セバスにも創造主由来でたっち・みーからタッチだ。当初は、本名を縮めた偽名でも付ければ良いだろうと考えてたが、ユリとセバスの名前が短すぎた為、急遽代案として浮かんだ。

 

この名付けは予想以上に受けが良く、提案した直後はものすごい勢いで、それこそアインズが引くレベルで恐縮していたのだが、一度名乗らせてみるとやる気が何十段もアップしたように感じられた。自分のセンスも捨てたもんじゃないと誇らしげになり、ギルメン達に感謝した。

 

そんなタッチ(セバス)マイコ(ユリ)だが、様付けで自分を呼ぶ姿に、ふとナザリックの留守番を任せている友人と交わした会話を思い出す。

 

 

『見た感じ、様付けの方が違和感ないですし、ナチュラルな態度でいかせれば良いんじゃないですか?二人の雰囲気じゃ、金持ちの道楽息子って考えは絶対出てくるでしょうし、思い切って開き直っちゃうのも手ですよ』

『なるほど。まぁ、遅かれ早かれ目立つでしょうしね』

『そうそう』

『あ、ユリの眼鏡どうしよう。向こうの時代背景考えて取った方が良いんじゃ……』

『な!?モモンガさん!それだけは絶対にやっちゃだめです!』

『な、何故です?』

『眼鏡は本体ですから、取ったらユリさんがユリさんでは無くなってしまうんです!』

『ええ!?そんな設定が……!』

『って、ペロさんが昔言ってました』

『ペロロンチーノ……』

 

 

眼鏡はさておき、実際アバ・ドンもナチュラルに敬語を使って周囲に接している。それが一番やりやすいのが大きな理由だ。どうやらセバスの方も素であの言葉遣いらしく、いっそ様付けのままで冒険させるのも良いだろうと考えた。ユリも似たような様子だった為、アバ・ドンの提案通りに行くのも良いかと判断したのだ。

 

 チンピラ男はガントレットを装着すると席を立ち上がり、怒り肩で威圧するように近づいていく。宿屋内の人間達はタッチ(セバス)の事を、過去の栄光にしがみつくロートル程度にしか見ていなかった。顔立ちはハッとする程整っており、醸し出される気品に一部の女冒険者はつい見惚れてしまったが、男共には余り関係無かった。むしろ、癇に障るようだ。

 

「ようよう、老いぼれた爺さんが何の用だよ。俺とやろうってのか?」

「そうですね。本来ならば、貴方のお話を伺うべきなのですが、現在は急務でして、時間を割くわけにはいかないのです。ご了承下さい」

「は?何を言って……カッ……ハ……」

 

タッチ(セバス)が何か言ったかと思うと、チンピラが腰を抜かしガクガクと震え出す。数秒ほどで、白目を剥いて気絶した。その様子を見ていた者達は、アインズとユリを除いて呆然としている。

 

「ご安心を。軽く殺気を飛ばしただけです」

「……投げ飛ばすよりは穏やかで良いか」

 

 どうやら、絡んできたチンピラのみ、タッチ(セバス)の殺気に当てられたらしい。その余波は宿屋内の全員にまで及んでいたが、許容範囲だろう。実に穏やかに対処してくれたとアインズは評価する。

 

タッチ(セバス)が男の仲間と思わしき者達の座る座席へ向かうと、座っていた男達はやにわに立ち上がり頭を下げる。今のやり取りだけで、格の違いを思い知ったのだ。

 

「お連れ様は気絶なされたようですね。申し訳ありませんが、お引き取り頂けますか?」

「あ、はい!も、勿論ですよ。連れがご迷惑をおかけしました!」

「いえいえ、お互い無事なようで何よりでございます」

 

白目を剥いて泡を吹く男が無事とは言い難いが、無傷で事を成したのは確かなので、この話はこれで終わりでいいだろう。と言うより彼らは「終わって下さい」という気持ちで頭がいっぱいだった。余波だけでも、男達の心をへし折る程度の威力はあったようだ。

 

「さて、私達は二人部屋でいいな?相部屋は好まん」

「お……おう。好きにしろや。あ、連れ用の寝床も用意すっから少し待ってろ」

「感謝する」

 

ビビらせて試すつもりが、自分がビビらされてしまった。宿屋の主人は、個室に寝床を追加しつつ己の隠居を検討した。

 

「それでは皆様、お騒がせして申し訳ありませんでした」

 

そうタッチ(セバス)は言い残し、三人は宿屋の一室へと去っていった。

 

「……おっきゃあああああ!」

 

女冒険者の一人は、ナイスミドルなタッチ(セバス)に見とれて、弾みでポーションを床に落として割ってしまい絶叫するのだが、それはまた別の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

(もうちょっと苦労すると思ったんだけどなぁ。俺、ほぼ何もしてないぞ……)

 

楽なのは良いが、もっとこう、自分の見せ場みたいな物は無いのだろうかと、アインズは贅沢な悩みを抱いていた。

 

 




モモンの見せ場もあります。いつか…………(´ω`)

なんかモモンガ様がまったりしてる描写を書くのが超楽しい。何故だ

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