エントマは俺の嫁 ~異論は認めぬ~   作:雄愚衛門

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アニメや漫画だと端折られたシーンを軽めにねじ込みました(´ω`)


悲劇

「では私は、この街で相場について調べて参ります」

「頼んだぞ。それと出来れば、バレアレ一家との接触も試みるように。冒険者としてやっていくなら、街一番の薬師と言われてる者達とも渡りを付けておきたいからな」

「はッ」

 

 

「お待ち下さいモモン様。一つ具申したい意見がございます」

 

 ユリ(マイコ)を外へ向かわせようとすると、セバスが待ったをかけた。アインズは、聞いておいて損は無いだろうと思い、一旦ユリ(マイコ)を止めてセバスの提案を聞いてみる事にした。

 

「許す。言ってみるが良い、タッチ」

「はッ!相場を調べると共に、薬師の方にアインズ様が所有なされている治癒薬を鑑定させては如何でしょうか?現地のポーションとの差異から、判明する情報があるのではないかと愚考致します」

「ふむ、そうだな。確かに我々の所持するアイテムが異世界側と同等とは限らない。お前の言う事は一理ある。……分かった、鑑定させるだけならば構わん。但し、鑑定させるアイテムは最も安価な下級治癒薬にせよ。それと、売るのも止せ。あちら側の手元に渡れば、問題になる可能性がある」

「畏まりました」

「では、セバス様の提案とアインズ様の御指定通りに、下級治癒薬を鑑定してもらう手筈も整えておきます」

「分かった、それとマイコ。お前もタッチのように考えが浮かんだのならば、遠慮無く言うが良い。お前達がナザリックの事をよく考えているのは、私も分かっているからな」

「はッ、慈悲深き配慮感謝致します……。それでは、失礼します!」

 

こうして、ユリ(マイコ)は街へと向かった。セバスからの提案で、現地人に下級治癒薬を鑑定させる事となった。自分達が所持するアイテムから、出所が割れる危険があるが、鑑定させる程度に留めておけば後からごまかしが利く。場合によっては、リスクを排して売却する機会が設けられれば、あらゆるアイテムを査定してくれるエクスチェンジボックスに放り込むより得になる可能性も僅かにある。目立つ云々の問題は、とっくの昔に手遅れだ。

 

 とは言うものの、最初はリスクを考慮して反対するべきかと思った。だが、アインズは意見を聞き入れる事にした。NPCが命を吹き込まれ臨機応変な対応を見せてくれている事が嬉しかったのだ。密かに称賛したい気持ちで胸がいっぱいだった。仲間達が残していったNPCは、こんなにも優秀なのだと。

 

「モモン様、計画をお引き止めしてしまい、申し訳ありませんでした」

「気にするな。マイコにも言ったが、お前なりに良いと思った事ならば何度でも意見するが良い。聞き入れる余裕ぐらいはあるぞ?」

「はッ、感謝致します!」

 

相変わらず大げさだとアインズは思う。もう少し気安くても良いと思うのだが、これもNPC達の個性として受け入れるとする。何にせよ、ナザリックにとっての最良を考慮した上で、素直に指示に従ってくれるのは本当にありがたい事だ。

 

 

 

 

ユリ(マイコ)は薬屋を探した。『漆黒の剣』に教えられた、何でもアイテムが使役出来るという異能持ちの薬師、ンフィーレア・バレアレと、その祖母のリイジー・バレアレ。二人に接触を図る事も重要な指令だが、そもそもの任務は相場の調査だ。薬屋を探しつつ、道すがら店の食品や日用雑貨品等の相場を調べて、街の地理も把握するよう歩き回っていると、思った以上に時間がかかってしまった。

 

(いけない……!これでは薬屋が閉まる可能性が……)

 

それなりに調査を終わらせると本命の薬屋へと現地人に案内を頼んだ。ユリ(マイコ)の姿を見て、快く案内を引き受けてくれたおかげで、すんなりと到着する事が出来た。

 

(始めからこうすれば良かったかしら……)

 

ユリ(マイコ)は先にやっておけばと後悔した。想定よりも薬屋への到着が遅れ、日は沈み辺りは薄暗い。至高の御方からの指令を疎かにする結果になってしまったと言って良い。ユリ(マイコ)は自分の要領の拙さを反省し、足早に薬屋に入店した。ドアのカウベルが大きな音を立て、薬屋に客が来た事を告げた。

 

「なんだい、今日は終いにしようと思ってたのにまた客かい……。あれま、随分と美人だね」

 

ユリ(マイコ)に応対したのは老婆であった。活気があり、はつらつとしているのが見て取れる。老いてなお盛んという言葉が何より似合う人物だ。店の様子、漂う独特な薬品臭から、探していた人物の一人だと推測した。

 

「夜分遅くにすみません。リイジー・バレアレさんで間違いないでしょうか?」

「如何にも、私がそうじゃが」

「私は冒険者を務めるマイコと申します。貴方の腕を見込み、お頼みしたい事があって来ました」

「ほう」

 

一言で言えば"怪しい"。リイジーはそう思っていた。長年生きてきた中でもお目にかからなかった程の美女。ナリは冒険者のそれだが、明らかに不釣り合い。治安も悪くなる夜遅くに足を運んでまで見て欲しい物とは何か?コネが無ければ適当にあしらう事もあるのだが、ただ事では無さそうな案件に好奇心の色が宿る。

 

「そこの椅子に座ってブツを見せてみな」

 

話の早い人で助かったとユリ(マイコ)は安堵する。リイジーが指差したのは、入ってすぐの場所に設けられた応接間だ。お互い向かい合うように席に座ると、ユリ(マイコ)は懐から一つのポーションを取り出した。

 

「こいつは……まさか、伝説の……神の血……」

 

件の品を受け取りしげしげと眺めると、リイジーの顔色が変わる。それとほぼ同時に、ユリ(マイコ)は魔法を使用した気配を察知した。<道具鑑定>に<付与魔法探知>。どちらもアイテム鑑定に使う基本的な魔法だ。

 

「……くく、ふぁふぁはあははははは!」

 

 鑑定を終わらせた途端、急に笑い出すリイジーにユリ(マイコ)は困惑した。アインズ様は、アイテムに混乱系の攻性防壁を仕組んでいたのだろうかなどと妙な発想にまで及ぶ。

 

「いや、すまんね。怪しい娘が来たもんだからどんな素っ頓狂な代物が出てくるかと思ってたけど、これ程とは思わなかった!一応身構えてはいたが、予想の遥か上をいっておった!」

「そ、そうですか」

「全くの不純物も介さない完成された一個のポーション!これは私ら薬師、錬金術師が、何十年何百年かけても辿り着けない境地にある究極のポーションなんじゃぁ!」

「……」

 

レベル差的には、自分より遥かに劣るこの老婆だが、ポーションに対する執念からか、ユリ(マイコ)は気圧されていた。

 

「んで、この神の血とも言える完成された品をどうしたいのかね?もし売ってくれるならば、たっぷり色をつけて金貨32枚は出す!」

「金貨32枚……ですか」

 

つい、オウム返しに提示された金額を口にする。先程調査した相場や貨幣価値、初仕事の収入等を考えて、相当な大金である事が分かる。この下級治癒薬ですら、エ・ランテルにとっては相当なレアアイテムとなるらしい。

 

「申し訳ありません、それはお返ししなければならない物なので……」

 

ユリ(マイコ)がそう言うと、リイジーは目に見えて残念そうな表情を浮かべた。先程に比べて十年は年を取ってしまったようにも見える程の落ち込みぶりである。

 

「……仕方あるまい、お前さん、これを一体どこで?」

「さる、偉大な御方からの大切な預かり物とだけ言っておきます」

「それが誰かは……聞かないでおくよ。安心おし、私が興味あるのはそのポーションのみ。何なら今回の話は儂とンフィーの中で留めておいてやろう。それと、今後もうちの店を利用してくれるなら、色々と融通する。どうだい?」

 

リイジーは、なるべくこのポーションの持ち主にとって都合の良いであろう振る舞いをする事にした。彼女とこれからも付き合いを続ければ、いつかは考えが変わって、ポーションを売る機会が訪れるのではないかと思った。エ・ランテル一と言われるポーションババアの飽くなき執念が導き出した結論であった。

 

「感謝します、良き関係を築けるようにしましょう」

「おう、よろしく頼むわい」

 

ユリ(マイコ)は素直にお礼を言う。その方がこちらとしても都合が良かった。バレアレ家と仲良くしておく事は、エ・ランテルで冒険者を続けるにはプラスとなるのは間違いない。

 

リイジーの狙いがポーションにあるのは心が読めなくとも分かる。一つの物に執着する人間とはこれ程の熱を持つものか。好奇心や探究心が人間を大きく動かす原動力になっているのだと、ユリ(マイコ)は強く実感した。こういった人間はある意味信用出来る。

 

「それと、これは忠告だがね、持ち歩くのなら闇夜には気をつけな。そのポーションは、殺してでも奪い取ろうとする輩が現れる程の品じゃよ」

「分かりました」

 

ユリ(マイコ)は心の中で冷や汗をかく。もし、当面の資金に目が眩んでポーションを大々的に売りさばいていたなら、どんな問題が舞い込んでくるか分かったものではなかった。

 

まさに、アインズが危惧していた通りの結果であった。しかも、下級治癒薬一つで老婆が凄まじい勢いで変貌したのだ。これ程までの想定外を想定していた事に、絶対者への尊敬を禁じ得なかった。

 

「ところで、お孫さんがおられると思うのですが、今はどちらに行かれてるのでしょう?」

「ンフィーかい。ああ、もう一人冷やかしに来た客がいてね。奥の方で相手してるよ。いや、その客がね、ポーションが割れたとかで涙目になってるんだよ。困ったもんさ」

「私もお会いしてよろしいですか?」

「好きにしな。それとついでだ、そのポーションとうちのポーションと見比べてみな。お前さん、どうにもそいつの価値を分かってないみたいだからねぇ。私が教えてやろう」

「はぁ、ではお願いします」

 

年寄りのお節介とも言えるが、この世界の情報は少しでも集めておきたかったので、素直に申し出を受ける事にした。

 

 用事の一つは無事(?)済んだ。後は、冷やかしの相手をしているというンフィーレアと渡りを付けつつ、現地のポーションを確認すれば、残りは結果を報告するのみである。等と考えつつ、ンフィーと客がいるであろう奥のドアを開ける。

 

「あらぁ、見つかっちゃった」

「……ひっ!ご、強盗!?」

 

奥に続くドアを開けた先でには露出度の高い服を着た金色のミディアムヘアの女性がいた。金髪の女性は、スティレットを片手に赤髪の女冒険者を追い詰めている。丁度その現場に居合わせたと言わんばかりに、彼女が握り締めるスティレットは血が付着していた。

 

「た、助けて……」

 

 追い詰められていた女冒険者は尻餅を付いて壁際で歯をガチガチ鳴らして怯えていた。彼女の足から相当の出血が見られ、店の床を赤く染め上げていた。出血箇所から足の腱を切ったものとユリ(マイコ)は推察する。

 

ユリ(マイコ)とリイジーがやり取りをしている間にこの凶行が行われた。だが、物音一つ無かったのは、何らかの阻害魔法によるものだろう。

 

「チッ、遊びすぎたな……。クレマンティーヌ」

 

奥側から、ローブを纏った痩せこけた土気色の肌の男が現れた。まるで死人のようにも見える。その男は、仲間らしき女性に不満の目を向けている。

 

「ごめーん、カジッちゃん。見られたんじゃ、仕方ないよねー。こいつらも殺すしかないよ?」

 

 男の責めるような視線に、クレマンティーヌと呼ばれた女が、ちっとも反省していない様子で詫びを入れる。それどころか、獲物を見つけて喜色満面といったところだ。

 

「ああ、ンフィーや!なんてことだよ!」

 

リイジーが目に見えて狼狽している。彼女の視線は男の後ろを向き、その先では痩躯の男の部下らしき者が少年を担いでいた。その様子から、ユリ(マイコ)は担がれている少年がンフィーレア・バレアレであると断定した。どこからどう見ても誘拐現場に遭遇したとしか言えない状況だ。

 

「貴様は元よりそのつもりだろうが……」

「あっ、分かるー?」

「……」

 

この二人は我々にとっても重要人物であるバレアレの者に対し、害する行為を働いているのは明らかだった。個人的な気持ちからも、二人の成す仕打ちは看過出来ない。

 

「どうやら、仕置きが必要みたいね……」

「あん?」

 

ユリ(マイコ)は、目の前のカジッチャンとクレマンティーヌなる人物を敵と認識した。

 




誰が悲劇かは言わなくても良いよね?(´ω`)

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