エントマは俺の嫁 ~異論は認めぬ~ 作:雄愚衛門
アバドンVSたっち・みー(ダイジェスト)とモモンガ修行中の二本立て(´ω`)
昔々、俺はるし★ふぁーさんにそそのかされて、ギルド最強を誇るたっち・みーさんにどれだけハンデを貰えば勝てるかという大変に情けない検証をした事がある。その結果
①たっち・みーが使用して良い攻撃は≪
②アバ・ドンの超位魔法を用いた攻撃に一度でも被弾したら負け。防御スキルも不可。
③アバ・ドンが妨害工作と超位魔法・
という破格のハンデを貰ってしまった。超位魔法とは、一定レベルから覚えられる魔法の強い版みたいなものだ。魔法と銘打ってはいるが、MP消費無し、一日の使用回数が制限される等、どちらかと言うとスキルに近い。
課金アイテムでないとキャンセル出来ない長大な溜め時間がある事に加え、プレイスタイルの都合上余り使ってなかったのだが、PvP、タイマン戦の時に一つだけ、課金アイテムを使って愛用していた超位魔法があった。
それが上記ハンデ中に記載されている
しかし、近接職が使う事前提であり、超位魔法特有の溜め時間を考えると、溜め時間キャンセル用の課金アイテムが必須になってしまう事から"二の金要らず"等と不名誉な蔑称が付いてるのだがそれは置いとこう。
ちなみに、黙示録の蝗害《ディザスター・オブ・アバドンズローカスト》という、自分におあつらえ向きなイカした超位魔法があるのだが、残念ながら余り使わん。勿論真っ先に覚えたのだが、俺のキャラビルドの都合もあるし、モモンガさんの方が上手く使いこなせるからだ。後、正直な話、威力が微妙という……。
まあそれは置いといて、ナザリック地下大墳墓第六階層の闘技場、
目と耳を覆い尽すような蟲弾幕によるリアル視界妨害&探知阻害。蟲には探知妨害の効果そのものもしっかりと付いている。何匹か、たっちさんの顔にへばり付いているが、微動だにしない。攻撃が一回こっきりの為だ。超位魔法ではない為セーフだが、それでもきつかろう。
更に、ムシマスターのスキルにより、幾多に混ぜこんだ囮用の偽アバ・ドンもいる。蟲弾幕に混じり、何十人にも及ぶ俺の偽物が飛び回っている。とある敵対ギルドのメンバーがこの光景を味わった結果PTSDを患ったなんていう都市伝説まで出回った。
こうした数々の準備を施し、超位魔法、无二打を発動。
たっちさんの視界は妨害蟲と俺の偽物で覆われており、常人ならばログアウトしてしまう程の大惨事だ。どこに俺がいるか等分かりもしないだろう。俺は勝利を確信し、満を持して、ハイ・キックジャンパー最強スキル、極・流星脚(見た目はエフェクトの付いた飛び蹴り)を放ったのだ。
たっちさんの背に、超スピードとなった俺の脚が迫り来る。
――だが、気が付けば、俺はたっちさんの攻撃を喰らって敗北していた。
な、何を言っているのか、わからねーと思うが、俺も何をされたのか分からなかった。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……。PvP終了後、武人建御雷さんとるし★ふぁーさんが「ないわー」って言ってたな。勿論たっちさんに対してだ。
蓋を開けてみれば極めてシンプルな結果だ。あの時たっちさんは、すぐさま振り向くと俺の流星脚に合わせて
しかも、後で録画映像を検証した結果、寸分の狂い無く、俺は真っ二つにされていた。
言葉に出してみれば簡単な話だが、はっきり言ってあり得ない。変態の領域だ。蟲で視界は覆ってたし、探知もされていなかったし、自分のスピードにも自信があった。
正確なタイミングと狙い打ち、そして限界を超越した反射神経が無ければ不可能な芸当だ。うん、あの人ニュータイプかなんかだよ……。たっちさん曰く、俺なら後ろから来るだろうと思ってたし、後はタイミングの問題だった。との事だが何なんだあの人。
とまぁ、そんな苦くも楽しかった思い出がヒントとなって、俺はモモンガさんにある修業を課していた。
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「そーら、まだまだいきますよー!頑張れモモンガさん!」
「言われなくとも!」
転移後のナザリック地下大墳墓、宝物殿。リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを用いなければ来られない一種の独立空間。今、俺は此処でモモンガさんととある修業をしている。
わざわざ宝物殿を選んだのは、モモンガさんが訓練中に失敗するところを部下達に見せない為だ。パンドラも外に出てるから、守護者達が無断で入らない限りは誰にも見られる事は無い。
金銀財宝の数々は俺の蟲パワーで整頓し、大きなフリースペースとなった空間に剣戟が響き渡った。切り結んでいるのは俺と、黒鎧&二刀流大剣が特徴的な冒険者モモンことモモンガさんだ。
俺は右主腕にくっ付いたブロードソードのようなものをモモンガさんめがけて振りかざす。一見ただの剣に思えるが、これは俺が呼び出せる蟲の一匹、剣刀蟲というモンスターだ。所謂、蟲武器というヤツで、エントマちゃんが愛用しているヤツだな。俺も昔はよく使っていたんだ。
切り結ぶ度、大きな音と共に火花が飛び散る。しかし、剣刀蟲も大剣もへっちゃらだ。頑丈で何よりです。
蟲武器は、状態異常の抵抗力や攻撃力の判定が呼び出した蟲に依存する。画期的な事に、俺のパッシブスキル強化込みでも、剣刀蟲のレベルは60に満たない。
何故画期的なのかと言うと、モモンガさんは上位物理無効化Ⅲによってレベル60以下の攻撃を無効化出来る。つまり、超安全に近接戦闘の訓練が出来る寸法だ。
無論、俺も心配無用だ。モモンガさんの物理攻撃ならダメージらしいダメージにもならんだろう。後衛職の物理攻撃ぐらいなら俺も余裕で耐えられる。
「隙有り!」
「むっ!?」
俺はモモンガさんに大振りの攻撃をわざと振りかぶる。こいつは囮で、本命はモモンガさんの後ろに迫る大きなてんとう虫、硬甲蟲(俺カスタム)だ。
この蟲は元々盾用に使う蟲だ。そんな硬甲蟲を十匹程飛ばして、多角的な攻撃を繰り出しているのだ。ちなみに、俺の硬甲蟲はまん丸でてんとう虫柄にアレンジされている。かわいいだろ。……エントマちゃんのはどんなんだろうな。
こうすることで、一対多の訓練も兼ねる。当然、硬甲蟲もレベル60に満たないので、モモンガさんのダメージにならない。そんな巨大てんとう虫こと硬甲蟲の一匹がモモンガさんの背中に体当たりしようと迫り来る。
「はっ!」
「おお」
俺は感心の声をあげた。モモンガさんは、俺と硬甲蟲の挟み撃ちに対し、大剣を一本ずつ用いて見事に防ぎきった。目に見えて上達している、恐るべしモモンガさん。始めたばかりの時は何度か硬甲蟲の攻撃に被弾していたが、その数も徐々に減ってきている。
だが、これならどうだと言わんばかりに、硬甲蟲に四方八方から一斉攻撃を仕掛けさせた。
「なんのぉ!」
華麗な回転切りだ。硬甲蟲は弾き飛ばされる。しかし、何匹かは撃ち損じモモンガさんに尚も突進する。
だが、モモンガさんは巧みなステップで攻撃を避け、俺に反撃する。
「おっと」
俺は持ち前のスピードでひょいとかわす。俺に攻撃を当てるのも課題の一つだ。……まさか、俺がモモンガさんにこういう事をする立場になるとは夢にも思わなかった。
「やっぱ速いな……。アバさん」
「ふははは、モモンガさんの賜物です」
「どういたしまして。いや、見るのと実際にやってみるのとは全然違いますね。勉強になりますよ」
「こちらこそ、良い訓練になります。じゃ、更に追加しちゃいますか?」
「お願いします」
「ほいほい」
会話を交わしつつも、修業は続く。硬甲蟲を更に五匹程追加し、俺の剣刀蟲と硬甲蟲のラッシュは激しさを増す。それでも、モモンガさんは攻撃をきっちりと捌ききっては反撃を繰り出す。やはり呑み込みが早い……。
モモンガさんは、経験が無くともユグドラシルオンラインに関する知識はギルド一……いや、世界一だ。しかも状況判断能力にも優れているので、後は体が覚えるかどうかという段階だったのだろう。この人、近接キャラビルドでも上位になれると思うよ、俺。
「しかし、中々当たりませんね」
「伊達に切り込み隊長やってませんからね、ふふふ」
俺はドヤ顔だ。表情筋は無いのだが、多分ドヤ顔に見えている。
「さて……どうしたものか」
モモンガさんは攻撃をいなしながら考えている。どうやら俺に一太刀浴びせる方法を模索しているらしい。俺は移動スピードは結構本気でやっているので、まだ直撃は喰らっていない。やはり、ゼロからの超加速は回避に有効だ。体を動かす練習になっているので、必然的に俺も上達している。
昔は、俺自身が貧弱だったのも有り、超スピードをやや持て余し気味だった。しかーし、身も心も蟲になったおかげで、以前よりこの身体能力を使いこなせるようになって来た!今なら弐式炎雷さんにだって及べるかもしれないという自信があるぞ!
……"かもしれない"が付いてる辺りまだまだかもしれんが。
何にせよ、攻撃を簡単に喰らうつもりはない。ラッシュを捌いては反撃を暫し繰り返していると。モモンガさんが口を開いた。
「よし、良い手が浮かんだぞ」
げげ、何か閃いたようだ。な、何をする気だ。この人は敵へのメタを組むのが抜群に巧い。手の内をよく知る俺相手なら尚更にな。俺は大きく警戒しながら攻撃を繰り返す。
「そうそう、アバさんはエイトエッジアサシンにハンゾーって名前を付けましたけど……」
「はい」
な、なんだ。揺さぶりでもかけようと言うのか。その手には……
「使える傭兵モンスターにハンゾウという名前の忍者が……かぶってますね」
「え」
「隙有り」
「ぐえっ」
俺は頭頂部に良いのを貰ってしまった。なんてこーかつなせんりゃくだ。
无二打《二の打ち要らず》発動⇒ド派手なエフェクト、課金アイテムでチャージタイムキャンセル⇒極・流星脚(ド派手なエフェクトの飛び蹴り)=素敵なあの必殺技(*´ω`)