エントマは俺の嫁 ~異論は認めぬ~   作:雄愚衛門

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アルベド、暁に死す

「面をあげよ」

 

アインズさんの一言で、玉座の間に集合したシモベ達が顔を上げこちらを見た。いつ見ても壮観だ。だが、アルベドのみ既に許可を貰っており、アインズさんの傍らに立っている。今回の式典を取り仕切る為だ。

 

とうとうシャルティアとハンゾー達に褒美を授与する時が来た。ドキドキするね。

 

今、第十階層玉座の間にはいつもの階層守護者達、シャルティア、コキュートス、アウラ、マーレ、デミウルゴス。『黙示録』の三騎士が集合している。餓食狐蟲王を除き(大穴でアップ中)、コキュートス……はさっき言ったな。恐怖公とエントマちゃんだ。

 

最近気まずい事もあるけど、お互いの距離が物理的に近づいてる気がしなくもない不思議な関係のエントマちゃんだ。……やっぱ可愛い。

 

 そろそろ玉座の間の世界級アイテム『諸王の玉座』が準レギュラーになりつつあるが、報酬云々を偉い人が提示するなら此処が良さそうなので仕方ない。そもそも、俺とアインズさんはこの手の式典をどうするのかもよく分からん。毎度御馴染み分からん尽くしであるが、アルベドとデミウルゴスが段取りを取ってくれてたので、その心配は無用だ。

 

そんな頼れる一人、アルベドが守護者統括然として今回の褒章の対象者である部下を呼び出した。普段の『くふー!』な感じと今みたいな感じ、この公私の切り替えに関しては俺も見習いたい所だ。

 

「第一、第二、第三階層守護者、シャルティア・ブラッドフォールン。『黙示録』、ハンゾー、サンダユウ、ナガト、ドウシュン。前へ」

 

集合した面々からシャルティアとハンゾー達が玉座の前にやって来た。本日のMVPってやつだな。功績考えたらMVPという言葉すら生温いがな。

 

「此の度の世界級アイテム入手、改めて深く感謝しよう。お前達の見事な活躍を称え、褒美を取らせる」

 

ハンゾー達は跪きながらも頭を深々と下げた。シャルティアも勿論そうなのだが、彼女だけ何か頬が上気してるし小刻みに震えてるぞ……。

 

「まずはハンゾーさん、ドウシュンさん、サンダユウさん、ナガトさんへ私が贈りましょう」

「はっ!」

 

気を取り直し、世界級アイテム入手の褒美第一弾をプレゼントだ。ハンゾー達は八肢全てを背筋に合わせてピンと伸ばし、とても良い姿勢で待つ。俺は立ち上がり、どこからともなく取り出した四つの布を右主腕に持つ。

 

それぞれが薄目の色をした赤一色、青一色、緑一色、黄色一色、約1メートル四方のスカーフだ。模様も無いシンプルなデザインでありながら、手触りは滑り落ちてしまいそうな程滑らかで、上品な趣を感じさせる一品である。

 

 これにはアインズさんのバフ系魔法を俺のエンチャント能力で付与しており、更にアインズさんが永続化(コンティニュアル)を掛けている。俺がエンチャンターの職業を持っている理由は、詳しく説明すると少し長くなるので今回は省略する。まぁさっくり言えば蟲を大量に呼び出す為のコスト削減で身に付けたものだ。勿論アインズさん考案な。

 

話を戻して、この四色のスカーフは緊急で作った物だ。その効果は第九位階以上、又は防具破壊を受けないと無効化出来ない。

 

本当は神器級アイテムとか気前良くあげたかったんだけど、人数分同一のアイテムを用意となると……。このクラスまで来るとほとんど一点物だしなぁ。それに、今回の報酬は序の口と言うやつだ。

 

「では、失礼して……」

「……」

 

 俺は手ずからスカーフをエイトエッジアサシン達の首へ結びつけるつもりだ。ハンゾーは直立不動であるにも拘らず、より体が強張っているのが分かった。生真面目な分、緊張の度合いも大きいのかもしれん。

 

アインズさん曰く、勲章の授与とか取り付けるのってお偉いさんが直接やるらしい。恐らく、昔好んでいた某軍隊を参考にしてるのだろう。ネオなのか旧なのかは知らん。と言う訳で、ハンゾー達の首にスカーフを巻く。絞めすぎないように気をつけねば……。

 

「苦しくないですか?」

「はっ、はい、素晴らしい手際です……!」

 

 スカーフを少し太めの紐状、バイアス折りにして均一にねじり、二重巻きで付けるダブルツイストチョーカーというスタイルだ。サイクロンとかジョーカーは関係ない、念の為。こうすると、布をチョーカーの如く首にしっかりと巻ける。垂れ下がったりしないので任務の邪魔にならないだろうと言う、恐怖公の提案だ。サンキュー恐怖公。

 

やり方も恐怖公が快く教えてくれたので問題なし。俺は同じ調子で、ドウシュンに青、サンダユウに緑色、ナガトに黄色のスカーフを巻いた。

 

(オオ……)

(あぁ、アバ・ドン様直々にぃ、お巻きになるのぉ!?ううぅ、羨ましいぃ……!)

(御見事ですぞ。アバ・ドン様)

 

な、何か『黙示録』達の目力が尋常じゃない事になってんだけど。そんなに見られると流石に緊張するなぁ。元コキュートス配下、現『黙示録』所属の蟲系異形種達も熱い視線を送ってくる!

 

「よくお似合いですよ。これからもよろしくお願いします」

「は!!此れを励みに、より一層任務に取り掛からせて頂きます!!」

 

声が少し上ずっていた。みんな、ちょっとは喜んでくれただろうか?

 

「では、次はシャルティアさんですね」

「うむ、まず、シャルティアには手始めとして……」

「……はい」

 

シャルティアは緊張と恍惚の面持ちでアインズさんの言葉を待った。

 

「二人きりの際、私を"モモンガ"と呼ぶ事を許そう」

 

玉座の間は妙な空気に包まれた。

 

(え!え!何この雰囲気!?もしかしてダメなの!?)

(わ、分かんないです!)

 

 俺もアインズさんも大慌てだ。もしかして報酬として見合わなかったのだろうかという懸念が広がっていく。やはり物的な褒美にするべきだったか!? 

 

「ナ、何ト……」

「そんな、だ、大胆な……」

「……」

 

わなわなと震えるコキュートスや、ドギマギするアウラと目のハイライトが消えたマーレ等を皮切りに静寂がどよめきに変わる気配を感じる。

 

――すると、ドサリと崩れ落ちる音が二回した。

 

「……え?」

 

アインズさんは何が起こったか分からなかったようだ。俺も分からなかった。音のした方を見ると、集合していた筈のシャルティアと、アインズさんの隣にいたアルベドが姿を消していた。いや、消えたように見えただけだ。

 

「ちょ……」

 

慌てて視線を下の方へ移すと、そこにはアインズさんの傍ら顔を横向きにうつ伏せで倒れ伏すアルベドと、俺達の目の前で大の字仰向けにぶっ倒れたシャルティアの姿があった。

 

「お、おい!アルベド!シャルティア!どうした!?」

「これは……」

 

俺は一足先に精神が安定化したようだ。エントマちゃんとの刺激的すぎて刺激的すぎる経験により、精神力が図太くなってるのかもしれん。ともあれ、この事態を冷静に観察し、アインズさんへ個人用伝達(メッセージ)を送ろう。

 

(アインズさん、二人は気を失っただけのようですよ)

(そ、そうですか。良かった……)

(ただ、何で気絶したのかは……)

(うーん)

 

「嘘……嘘よ……」

「きゅ~……ふへ……へへへ……」

 

おお……アルベドもシャルティアも女がやっちゃいけない顔で倒れている。

 

アルベドは大きく口を開け、血涙を流し、泡を吹いて痙攣している。その顔は、太古の昔に存在した凶戦士漫画のベヘなんとかみたいだ。この世の終わりが訪れた時、人はこんな顔をするのかもしれない……。

 

 一方シャルティアの方は、何とも言い難い顔だ。だらし無く口角を釣り上げ、笑顔のようにも見えるが、顔を真っ赤にした上に白目まで剥いており、かなり歪だ。昔ペロさんが語っていたアヘ顔という表情がコレなのかもしれない……。うん、まぁ幸せそうな表情という気がしなくもない。下半身については見なかった事にした。俺は何も見てない。

 

「な、何故二人共気絶したんでしょうかね?特にシャルティアさんはアンデッドですから、精神系の異常は『血の狂乱』でない限りは……」

 

俺は、ハンゾー達の後ろで守護者共々に控えていたデミウルゴスへ目配せしつつ呟いた。さりげなーく、気絶した理由を教えて貰おうと企んでます。……わざとらしすぎたか。

 

アインズさんに個人メッセージで「ナイス!」と言われた。

 

「はい、是非とも御説明させてください!」

 

 と言いつつ、すごく嬉しそうなデミウルゴス。こういう細やかな頼み事でも喜々として応じてくれるのはありがたいが、喜びすぎじゃなかろか。

 

「それとアインズ様、説明後、私が場を進める許可を頂いてもよろしいでしょうか?」

 

あー、進行役が気絶しちゃったからな。アルベドェ……。

 

「許可する。では説明せよ」

「お願いします」

 

アインズさんが許可を出し、俺もそれに続く。

 

「畏まりました。アルベドとシャルティアは、気絶したと言うよりは、脳内が極限まで煮え滾っている状態になっていると思われます。シャルティアは喜びすぎ、アルベドは嫉妬によるものでしょう。偉大なる御二方の前で臣下の礼もままならぬ有様になるとは、無礼千万だと思いますが、それ程までに頂いた褒美が大きいものだったとも取れます」

 

(大きいの!?)

(それ大きいのか!?)

 

シャルティアとアルベドがぶっ倒れている傍ら、二人揃って似たような突っ込みを個人メッセージで叫んだ。

 

 ともあれ、置かれている状態が非常に良く理解出来た。シャルティアとアルベドが呟くように発する謎の奇声がBGMという状況下ではあったが、デミウルゴスの説明は分かりやすかった。何よりその思いは俺もたくさん味わっている。あ、思い出しただけで精神安定化が……。

 

「"二人きり"の時に限りアインズ様の"偉大なる旧名を呼ぶ"許可。……言葉にするだけでも甘美な響きです。他の者もそうですが、特にアルベドとシャルティアならば殊更でしょう」

「よく、分かりました。ありがとうございます、デミウルゴスさん」

 

 俺もアインズさんもてっきり褒美がショボすぎたなんてマイナス方向に考えていたが、『モモンガ呼び』はナザリックの面々にとってすっごい価値があったようだ。ジャブだと思って繰り出した技がワールド系スキルだった気分……。

 

「安心したぞ。私はてっきり、褒美として不十分だったのではないかと危惧していた」

「ご謙遜を。世界級アイテムを超越する、至高の褒美でございます」

「お、おう」

 

この様子。分かっちゃいたがマジで言ってるようだ。こういった"特別"が効果あるのは、何もシャルティアだけじゃなかったみたいだな。

 

であれば……。

 

「うぅ……あ、アインズ様ぁ……何故……何故……」

 

設定が"モモンガ"を愛しているアルベドのダメージはとんでもないって事だ。俺は、この世の終わりを体現したような表情で倒れ伏すアルベドを見ながら、この想定外へのフォローをどうするか頭を悩ませた。

 

 

 


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