エントマは俺の嫁 ~異論は認めぬ~   作:雄愚衛門

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使い道

至高の御方の戦いぶりを再び拝見する機会に恵まれたナザリックのシモベ達。だが、アインズの一言はそれよりも更に大きな衝撃をもたらした。特に、蟲系統のモンスターであり、アバ・ドン直属の部下である者達は突然の爆弾発言に色めきたっている。

 

エントマは触角が直立し、コキュートスは口内から冷気を勢い良く噴出。驚いて姿勢を正したハンゾー達の眼前を冷気が掠めた。

 

「ア、アバ・ドン様トノ闘争……。()()()デゴザイマスカ!?」

「そう、()()()()()だ。ふふ、随分驚いているようだな」

「そりゃもう驚きますよ! アバ・ドン様と戦うなんて畏れ多すぎます! それに、至高の御方に攻撃するのはちょっと……」

 

アウラの言葉にマーレも頷いて同意する。二人の表情は少し怯えているように見えた。自らの神にも等しい、至高の御方に刃を向けるなんて出来る訳がないからだ。だが、それを指示しているのは絶対者たるアインズである。アインズも内心かなり心配なのだが、それは内に秘める。

 

「何、心配するな。お前達の懸念は私にも分かる。正確に言えば、闘争というよりは鬼ごっこのようなものだ」

「鬼ごっこ、ですか」

「そうだ、デミウルゴス。鬼ごっこだ。鬼役がそれ以外の者を追いかけて捕まえる。まあ、子供の遊びだな」

「なるほど」

 

デミウルゴスは早くもアインズの真意を探ろうと、知恵を絞っている。鬼ごっことは、古くからある子供の遊びらしい。ルールは単純。鬼役を一人決めて、残りの役が鬼から逃げ回るもの。確かに、肉体的にも精神的にも未熟な者であろうと簡単に理解できるし、手軽に遊びに興じることが出来るだろう。

 

だが、それはあくまで子供同士の遊びならばだ。

 

ここにいるのは肉体的にも精神的にも力のある者達ばかりだ。アウラとマーレは見た目こそ子供だが、階層守護者を任されているその力は紛れもない本物だ。もし、この場の者全てが鬼ごっこに興じたとすれば。

 

(遊びでは済まないでしょうね)

 

鬼役が、アバ・ドンなのか、シモベ達なのかは分からない。どちらにせよ、対アバ・ドンにおいて極めて困難な戦いとなるのは間違いない。デミウルゴスは、後に課せられるであろう指令が超々高難易度であろうことに冷や汗をかく。

 

「そうだな、後ほど詳しく説明するとしよう。今はアバ・ドンさんの戦い、いや、実験だなあれは……。実験を眺めておけ」

 

アインズの言葉に、一同勢いよく返事をする。

 

偉大なる至高の御方々の狙いは何なのか、アバ・ドンを映し出すスクリーンをしっかりと目に焼き付ける。既に戦いは始まっている。最善を尽くすためにも、アバ・ドンの動向に集中せねばならない。

 

(怖い……。怖い……。蟲、怖い……)

 

一方、ピニスンは身を丸めて震えている。涙は枯れ果てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「良い実験になりました。どうもありがとう」

 

俺の目の前にザイトルクワエだったものが佇んでいる。いや、死んではいないんだけどね。一応生きてる。だけど、なんかもう見た目がグロい。俺が呼び出した50㎝大の蟻型蟲、トビイロケアリに似た見た目をした、通称アリくんに集られ、隙間から見える全身は腐り果てて真っ黒に変色し、肌質はグズグズとカサカサの中間みたいな感じだ。地面にはザイトルクワエの溶け落ちたもので水たまりができている。ぐお、我ながらひどい臭いだ。

 

それに、幹は真ん中からボッキリ折れて、こちらに頭を垂れてるみたいになってる。これでも生きてるのか。流石はレイドボスみたいな体力してんな。まぁ俺の火力不足も原因だけど……。

 

おっと、他の蟲達が溶け落ちた残骸まで啜ろうとしてる。あれは色んな子の色んな毒が混ざったヤバイブツだ。俺の蟲でもダメージ受けちゃう。注意しとこ。

 

「あれは毒の塊です。飲んじゃダメですよ。その代わり、胴体の毒は処理しました。そっちは好きなだけ齧りなさい」

 

そう言うと、残骸を啜ろうとしてた蟻型の蟲達が引き返してご馳走にかぶりついた。俺の蟲達は行儀がいいので、お残ししないのだ。でも、あれは流石にな……。

 

「和みますねぇ」

 

みんな嬉しそうに齧ってて微笑ましい。ほっこりするわー。もう中身は9割ぐらい俺の蟲で埋め尽くされたかな? やっぱ攻撃力低いから殺すには至らないんだよね。

 

ああ、そうそう。ザイトルクワエの手足代わりだった触手は、六本の内、四本を蟲達が美味しく頂きました。経過観察の為に二本だけ残しといた。

 

「おや?」

 

残した二本の触手を俺の目の前で擦り合わせている。麻痺のせいで動きは弱々しい。こちらへ攻撃する意思は感じられない。……もしかして命乞いでもしてるのだろうか。

 

そう考えると、こちらに土下座をして頭上で手を合わせてるようにも見える。そこはかとなく哀愁が漂う……。齧られっぱなしだけど。

 

ザイトルクワエの様子を観察していると、あることに気が付いた。頭頂部に苔みたいな草が生えてる。とか思ってたら、アリくん樹皮ごと綺麗にひっぺがした。そういや、怪しいものは食べずに回収するよう頼んだっけ。ちゃんと覚えてたようだ。偉い偉い。

 

口の中からも、黒い石の破片や、金属片を持ったアリくんが這い出てきた。もしかして、あの黒い石の破片が噂のインテリジェンスアイテム、死の宝珠だろうか。

 

(もしもしアバ・ドンさん。一段落したみたいですね)

(お、アインズさん。おつかれっす)

(無事で何よりです)

 

丁度アインズさんから連絡が来た。ザイトルクワエについて、色々報告したいことがあったからナイスタイミングだ。まぁ、ずっとみんなで見てたし。カッコ悪くなかったかハラハラするわ。

 

(今、蟲達が色々発見してくれました。そろそろ戻ります)

(了解です)

 

じゃ、みんなのとこへ戻ろうか。……と、その前に。

 

「そーれ」

 

俺の腕から十匹程の蟲が飛び出した。全て第十位階クラスの麻痺属性持ちだ。動かれても困るからこの子達に根元をガジガジさせておこう。火力は大したことないので死にはしないだろう。アリくんの回収品を受け取りつつ、俺は翅を広げた。

 

「では、殺さない程度に齧っててください。私は戻ります」

 

みんなが牙を鳴らして返事をしたのを確認して、俺は飛び立った。到着。

 

「戻りました」

「お帰り。アバ・ドンさん」

「ヒィッ」

 

アインズさんがお出迎えだ。真っ直ぐ飛んでけばあっという間である。今微かに聞こえたヒィッはピニスンの声かな? 俺がみんなの前に着地すると、エントマちゃんがお辞儀をする。

 

「お帰りなさいませ、アバ・ドン様」

「ただいま、エントマさん」

 

エントマちゃんにお帰りと言われる蟲生。素晴らしいと思います。でも、ちょっとこう……複雑な表情してる気がするの気のせい? 怖がってるような、そうでないような。というか、エントマちゃんだけじゃなくてアインズさんを除く全員そんな感じだ。俺の戦い方そんなにえげつなかった!?

 

(なんか、みんな怖がってないです?)

(ああ、怖がってるんじゃなくて緊張してるんでしょう。この後、アバ・ドンさんと戦闘訓練すること言っちゃったので)

(あ、そういうことか……。よかったー、嫌われたのかと思った……)

(そんなことはないですよ)

 

ほっとした。アインズさんそのことを話したのか。みんなの態度考えりゃ、俺と戦うとなれば緊張するわな。

 

「皆さん、お待たせしました。ザイトルクワエの生殺与奪の権は握ることに成功しました。アインズさん、一応の勝利を報告致します」

「ああ、見事な働きぶりだったぞ。アバ・ドンさん」

「恐縮です。さぁピニスンさん、もう貴方を脅かす者はいませんよ」

「は、はい、あり……がとうございました」

 

うん、すっごい表情引き攣ってる。ピニスンからすれば俺も脅かす者なのだろう。そんな気ないのにー。

 

「あ、あの……。今、どうやって戻ってきたんですか?ここから枯れ木の森まで、結構な距離があったと思うんですが……」

「ちょっと急ぎました」

 

ピニスンの目がより一層死んだ。なんでや。

 

「アバ・ドン様ハ偉大ナ至高ノ四十一人ノ中デモ、一、二ヲ争ウ素早サダカラナ」

「さっきの戦いも目で追えませんでした!」

「知性のないモンスターにあれ程の恐怖をもたらし、屈服させるとは……。このデミウルゴス、己の未熟さを思い知りました!」

 

みんなが俺を褒めてくれるのは嬉しいが、ちょっと照れる。だが、デミウルゴス。なんでそんなに嬉しそうなんだね君は。

 

「では帰ろうか、ナザリック地下大墳墓へ。詳しい報告はそちらでな」

「了解です。さて、ピニスンさん、貴方はどうしますか?移住先の希望があるなら聞き入れます。但し、アインズ・ウール・ゴウンの管轄内のみになりますが……」

「え、えっと。では、ここのままで。ここで一生大人しくしてます。なので、た、食べないでください……うう」

「食べませんから」

「お前の安全は、アインズ・ウール・ゴウンの名の下に保障する。安心して根を下ろすがいい」

 

ナザリック地下大墳墓に植え替える手もあったんだけど、俺の近くにいると寿命が縮むだろうし、これで良いだろう。まぁ、この先、大森林に遊びに来ることも増えるんだが……。頑張れピニスン、頑張れ。

 

(あ、そうだ。アインズさん、墳墓に戻ったら任務で外出中の者を除く階層守護者とプレアデス全員に召集をかけて貰っていいですか?)

(ええ、大丈夫ですよ。何か思いついたんですか?)

(はい、ちょっとザイトルクワエのことで)

(ほほう)

 

 

 

 

 

 

 

 

ナザリック地下大墳墓、第十階層玉座の間に到着。戻るついでに、召集を掛けてもらったので、既に全員集まっている。集まったのは、シャルティア、コキュートス、アウラ、マーレ、デミウルゴス、アルベド、セバス、ユリ、ルプスレギナ、ナーベラル、シズ、エントマ、恐怖公、ハンゾー達だな。

 

恐怖公はコキュートスやエントマちゃん、ハンゾー達の蟲組の中にいる。女性組の何人か表情が少し引き攣ってる気もするが、すまん、ちょっとずつ慣れてくれ。恐怖公も結構頭いいんだよ!

 

俺とアインズさんが席に着き、全員に楽な姿勢を取らせる。何度も繰り返した行為なので手慣れたものである。ちなみに、この場にいないメンバーはソリュシャンとパンドラだ。

 

「集まって貰ったのは、皆さんにザイトルクワエの使い道を考えて欲しいのですよ」

 

アルベド、デミウルゴス、恐怖公以外が戸惑っており、プレアデス達は顔を見合わせている。首を傾げるエントマちゃん可愛すぎやしませんかね。

 

(アインズさんが考えてた使い道がなくなっちゃったので、その埋め合わせにどうかなと思って)

(良いですね。みんながどうするのか、俺も興味あります)

 

俺とアインズさんは、考え込む部下たちを温かく見守る。今後、NPC全員に養ってほしいのは、考える力だ。アインズさんは成長の可能性を模索している。能力の成長や、スキルの強化だけでなく、NPC達自身の経験や精神的成長のことだ。

 

連携を取らせる為の実験台という案もあったのだが、それは俺が代わりを務めるから必要なくなった訳だな。果たして、どんなアイデアが出るか?

 

ちなみに頭の草は、回復効果のある薬草らしいので、研究用に司書長へ預けている。

 

「無論、私達にもいくつかの案はあるが、今回は敢えて、お前たちに判断を委ねたい」

 

(案あるんですか? アインズさん)

(樹皮をスクロールの材料にするとか)

(なるほど)

(まぁ、アルベドかデミウルゴスが良いアイデアを出すでしょうから)

 

頭脳担当二人なら俺やアインズさんが考えるよりも良い使い道を思いつくのは確かだ。

 

「うーん……。むむむ……」

 

なんかナーベラルがうんうん唸っている。恐らくなんとしてでもアイデアを出したいのだろう。あんまり仕事ないもんな。すまぬ……。

 

「はいはい! 思いつきました!」

「はい、アウラさん」

「憂さ晴らし用のサンドバッグにしましょう! 体力がある分、叩き甲斐があります!」

「私もアウラ様に賛成します」

「私もです!」

「……私もそれがいいかと」

 

ユリ、ルプー、ナーベラルがアウラに賛同した。ナーベラルは先を越されて落ち込んでいる。

 

(意外と脳筋!)

(三人はともかく、ユリは意外)

(一緒に行動して分かったけど、ユリは結構脳筋なんですよ。やまいこさんの影響でしょう)

(子は親に似る……)

 

改めて、ユリは創造主のやまいこさんによく似てんなぁ。真面目なのは分かってたけど、意外と脳筋なとこまで似てたのか。NPCの中で一番親似なのはユリかもな。

 

「はん、おチビは発想が野蛮でありんすね」

「んな!? じゃあ、シャルティアは何を思いついたのさ?」

「ザイトルクワエとやら、大きさはそれなりでいんす。トブの大森林がアインズ様の所有物である証として、飾り付けてモニュメントにしてしまいんしょう」

「私もシャルティア様に賛成……」

「ぼ、僕もそれがいいです!」

 

シズとマーレが同意見のようだ。

 

(悪くないのでは?)

(ありっちゃありですね)

 

でもこれ、絶対みんな方向性違うよな。シズは可愛らしく。シャルティアは多分十八禁。マーレは想像できん……。

 

「なるほど、どちらも興味深い提案です。他に誰かいませんか?」

「ハイ」

「はい、コキュートスさん」

「言イソビレマシタガ、ワタシモアウラニ賛同シマス。タダ、理由ハ少シ違イマス」

「ほう」

「ザイトルクワエハ今マデ遭遇シタ者ヨリ高レベル。武技習得ニ何カ役立ツノデハナイカト」

「面白い。武技習得に手こずっている原因は、レベル差にあるということだな?」

「仰ル通リデス」

 

(コキュートス、結構面白いこと考えるなぁ)

(アインズさんが狩ったヤツにはそこまでのレベルはいなかったですもんね)

(そうそう)

 

武技習得出来ないのレベル差説。あると思います。

 

「う……」

 

サンドバッグ案にちゃんとした理由が出てきたためか、シャルティアがちょっと気まずそうな表情だ。アウラを煽ろうとするからだぞー。

 

「では、私からも」

 

セバスが挙手をする。さて、彼の意見は如何に。

 

「樹皮をスクロールの材料にしては如何でしょう? ザイトルクワエのレベルならば、今までよりも質の良い素材になると思いますが」

「な、なるほど」

 

(被った……)

(被りましたねぇ)

 

思いっきり被ったけど、守護者の口からきちんとアイデアが出たのは事実なので良し。

 

「我輩も思いつきましたぞ」

「恐怖公。どうですか?」

 

俺が恐怖公の名を呼ぶと、何人か恐怖公に対して羨ましそうな表情をしている。なんだろう?俺が恐怖公のデザインをしたからだろうか。いわば親子の会話だもんな。

 

(アバ・ドンさんって、恐怖公だけ呼び捨てなんですね)

(え? ああ、そういやそうかも)

 

言われてみればそうだ。ん、もしかして皆呼び捨てを羨ましがってる? ま、まぁ、それはともかくとして、恐怖公の意見を聞いてみよう。

 

「アバ・ドン様の眷属達が現世に留まれるようになった時に備え、食糧として保管しておくのは如何ですかな? 樹皮はスクロール、中身を食糧にすれば兼用もできますぞ」

「私も恐怖公に賛成します。ご飯は種類が豊富な方が、みんな喜ぶと思います。アバ・ドン様の蟲達は、ザイトルクワエを美味しそうに食べてました」

「おやおや、二人とも嬉しいことを言ってくれますね」

 

(エントマちゃんマジ好き)

(元からでしょ)

 

「ふふ、私の蟲達もきっと喜んでますよ」

 

後、意見を出してないのはアルベドとデミウルゴスだけか。二人とも何やら深い笑みを浮かべてるのが怖いんですが……。

 

「デミウルゴスさん。何か良いアイデアが浮かびましたか?」

「はい、僭越ながら、ご提案させていただきます」

 

さて、デミウルゴスからは一体、どんなアイデアが出てくるのやら……

 

「ザイトルクワエを『傾城傾国』で洗脳し、スレイン法国へ送り込むのは如何でしょう?」

「え」

 


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