エントマは俺の嫁 ~異論は認めぬ~ 作:雄愚衛門
配下達と諸々のお話を済ませ、現在、俺とモモンガさんは第九階層の円卓で席に座っている。毎度おなじみ、報告会&反省会だ。
「どうしてこうなった……」
「それな……」
俺とモモンガさんは二人仲良く頭を抱えて円卓に突っ伏す。デミウルゴスがザイトルクワエの使い道を提案したまでは良い。なんで、俺らの計画通りってことになってんだよぉ!?あの状況じゃモモンガさんも俺も頷くしかないよね!HAHAHA
「俺の"至高の御方も知能レベルは普通なんだぜアピール作戦"が全く活かされてないなんて……」
「長い作戦名だなぁ……。まぁ、気を取り直して今回のおさらいしましょう。アバさん、ザイトルクワエは傾城傾国で洗脳した後、法国に突撃させる方向で良いですね?」
「はい。ただ、頭の薬草が有用そうなのと、若干高レベルな部分を加味して、栽培出来ないか研究する予定です」
「OKです。そこはアバさんの主導でお願いします」
「了解っす」
デミウルゴス以外の意見もアリなものが多かったからな。ふっふっふ、元研究職のノウハウが活かされる時が来たようだ……。研究担当の司書長達がすっごい優秀だから俺必要なのか疑問だが。
ザイトルクワエはなにかと貴重な要素満載だ。いくつか体を切り取ってサンプルにしている。マーレや恐怖公みたいな森林系ドルイドのスキルを用いてなんとか増やせないか画策するつもりだ。頭の薬草も応用次第で財源か何かに出来たらいいんだが、現地産なのかユグドラシル産なのか分からんので、そこも課題の一つ。
「ブレインとハムスケの言が正しければこの世界に80レベル越えはまずいないそうですが……」
「それが本当なら法国が滅ぶの間違いなしなんですがね」
俺は机に頬杖をついて呟く。これで法国が滅んでくれればラッキー。滅ばなかったら要警戒なんだよな。どうなるか。モモンガさんが、卓の上に広げた地図を指差す。
「少なくとも、ザイトルクワエが道中で阻まれることはないかな?ああ、それと進行ルートなんですが、エ・ランテルとエ・ペスペルの間を通り抜けて法国まで直進させて下さい」
「まぁそれ一択ですよね。法国以外は喧嘩売る理由がありませんし」
「ええ。直行ルートがあったのはラッキーでした」
エ・ペスペルはエ・ランテルの隣にある都市だ。ザイトルクワエを大森林からスレイン法国へ直進させると、丁度二都市の間の道を横切る形になる。このルートには大規模な街や集落が無いから、法国以外には被害がそれほど及ばない筈だ。
まぁ、冒険者とか旅の商人が轢かれる可能性はある。冒険者モモンのお知り合いが轢かれでもしたら微妙に損だし、洗脳したときにしっかり避けるよう明言しておこう。
「後は、砕けた宝珠と冒険者の残骸をザイトルクワエの中に入れたまま向かわせれば……」
「ズーラーノーンの仕業に見せかけられると」
これも全てズーラーノーンって奴の仕業なんだ。
「バッチリですね。よし、じゃあ手筈通り、俺は冒険稼業を再開してきます」
「はーい、いってらっしゃい」
《転移門/ゲート》でその場を後にするモモンガさんに手を振って見送る。冒険者モモンのサクセスロードは始まったばかりだ。いや、ぶっちゃけアリバイ作りなんだけどね。冒険者モモンが他所で活動してる真っ最中にザイトルクワエを大暴れさせる寸法よ。意味あるかは微妙なとこだが念のためである。
「さてと……」
そろそろザイトルクワエの治癒が終わった筈だ。状態異常はそのままにしてるけど、万が一ってこともあるから見に行こっと。べ、別に大森林に行ける口実にしてる訳じゃないんだからねッ!
俺は転移系の魔法が使えないから、シャルティアの《転移門/ゲート》で大森林まで連れて行ってもらうとしよう。リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンでシャルティアの元へ転移して、その後にシャルティアの転移魔法で大森林へ。電車の乗り換えみたいだな。
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トブの大森林内、枯れ木の森に到着。すぐ近くでエントマちゃん、恐怖公、コキュートス、ハンゾー達。後、綺麗に折りたたまれた傾城傾国を持ったルプーが待っていた。
ルプーは回復担当だからこっちに来てもらった。アウラとマーレは枯れ木の森周辺で使役獣や『黙示録』のみんなと一緒に警備中だ。相変わらず厳重すぎワロス。
「アバ・ドン様、到着したでありんす」
「ありがとうございました。護衛はコキュートスさん達にお願いしますので、シャルティアさんは引き続きナザリックの警備をよろしくお願いします」
「畏まりんした。転移が必要になった際は、またいつでもお頼みくんなまし」
シャルティアがいつもの変な廓言葉の後、スカートの裾を軽くつまんでお辞儀をして去っていった。カーテシーだっけ?外国式の挨拶。エントマちゃんがやっても可愛いかもと思うが、彼女は和装寄りだからな。残念。
さて、ザイトルクワエは……よしよし、大人しく痺れてるようだ。見た目は完全に元通り、と思いきや、元々6本あった触手が5本しかない。
「皆さん、お待たせしました。首尾はいかがでしょうか?」
俺が尋ねると、エントマちゃんが答えてくれた。
「ザイトルクワエのぉ、回復は完了しましたぁ」
「ふむ」
この喋り方ほんまたまらん……。公の場って程でもないので、エントマちゃんもこの口調なのだ。俺の前で、エントマちゃんとルプーがいつもの口調になるのはみんなも知ってるので問題ない。許可してるしね。
「回復後にぃ、触手の内一本を切り落としてぇ、サンプル用に回収してますぅ」
エントマちゃんが"切り落としてぇ"と言った辺りでコキュートスが冷気をちょい噴出してた。心なしか嬉しそうだ。多分切り落としたのはコキュートスなんだろう。むう、見てみたかった。
「ああ、このまま回復すると消えちゃいますからね」
「はいぃ」
そういや、原型を保ったまま欠損部位を治癒すると切り落とした部位が何故か消滅してしまうんだっけ。ミンチにしとくと消滅しないとかほんと謎仕様。てことは、こっからだと見えないけど、ザイトルクワエの頭頂部も切り落としたまんまなんだろうね。割と惨い。
「触手はぁ、コキュートス様が切り落としましたぁ。恐怖公の提案でぇ、武器は等級の低いものを使用しておりますぅ」
確かに、コキュートスが持っている武器は従来のものに劣っている。見た目は普通の日本刀だな。体力が残るよう、きちんと加減してくれたか。
「それなら、体力もそれ程減っていないでしょう。ありがとう恐怖公、コキュートスさん」
「勿体なき御言葉ですぞ」
「光栄デス」
んじゃ、ザイトルクワエを洗脳させようかね。
……あ。
「傾城傾国。誰に着てもらいましょうか……」
すっかり忘れてた。決めてなかったし。
「アバ・ドン様!」
「なんでしょう、ルプーさん」
「エンちゃんに着せましょう!」
お前まじふざけんな天才かこの野郎そうじゃない。
「えぇ!?」
ほら、エントマちゃん困ってるじゃないか。困ってる様子も中々そうじゃない。エントマちゃんの擬態は露出を避けること前提だからそんなチャイナドレスなんて着ちゃったらあばばばばばば。
「ほう、予想外の提案ですぞ」
「ワタシト恐怖公デハマズ似合ワナイ。ソウナルナ」
コキュートス、そういう問題じゃないんだ。つーか着れないだろ多分。
「ハンゾー殿、ナガト殿、サンダユウ殿、ドウジュン殿は如何ですかな?」
「……わ、我々はノーコメントで」
ハンゾーの言葉に、他の三人も困った様子で頷く。僕はエントマちゃん!と素直に言えれば良いのだが、それは色々ダメな気がしてならない。この状況、一体どうすればいいんだ!助けてモモンガさん!
「るぅ、ルプーが着た方がいいんじゃぁ」
「まぁまぁ、そこ決めるのは私達じゃないっす」
そう言うとルプーがこちらに振り向く。その顔は心からの善意で満ち溢れている。ナザリック配下の者が、俺やモモンガさんに尽くすとき見せる、心からの笑顔だ。ちょっとドヤ顔寄りだけど。ちょっと待て。ルプーさんあんたまさか。
「アバ・ドン様は、私とエンちゃんどっちが着れば良いと思うっすか!?」
聞くなぁぁぁぁぁぁあああ!!色々まずいでしょうがあああ!!
「きょ、恐怖公はどう思いますか?」
俺は恐怖公に助け舟を求めた。
「アバ・ドン様の御心のままに、ですぞ」
【悲報】助け船、来ず
ルプーがワクワクしながらこちらの様子を伺っている。恐怖公は優しくこちらを見守り、ハンゾー達は気まずい表情。コキュートスは多分よく分かってない。
ここでルプーを選んだところでそれはそれで問題だしエントマちゃんがチャイナ服着てるととことかぶっちゃけ見たいというか、世界は回っている。イッツアスモールワールド。
「あぁ、アバ・ドン様ぁ?」
「……エントマさんでお願いします」
エントマ・ヴァシリッサ・ゼータさん。本当にごめんなさい。
これがやりたかった