= The Chaos Wolfs = 作:No.20_Blaz
やっとこさ話が決まっての第一話です。
今回は前回のプロローグⅡラストの少し前の話。
登場するのはリヤンとジョン、そしてシンヤです。
大使館の夜から二週間。
殆ど間を空けずして新たな依頼が入った旅団は、その依頼が出された地である大西洋にある海上基地に集結。
指揮機として一機だけあるティルトローターの機内では今回の依頼に召集されたリヤンとシンヤ。そしてジョンの三人と、マザーを加えた四人がモニター付きのデスクを囲い、ブリーフィングを始めていた。
「今回の依頼は物資輸送の援護。並びに海上封鎖を行っている敵海軍の牽制だ」
「海軍たぁ穏やかじゃねぇな。政府のだろ?」
「ああ。だが、相手は方面軍。それに依頼主は一応曲がりなりにも軍関係者だ。それなりのもみ消しは効く」
椅子に深く腰掛けるマザーに、シンヤは後頭部で腕を組み気だるげな様子で尋ねる。
「………つーことは、中身はこの世界の法に触れる物?」
「かもしれんな。向こうは中身については明かさなかったが、どうにもきな臭い予感はしている。最悪こちらを切り捨てるなんて事は頭の隅に考えておけ」
「やれやれ。そんな依頼相手が私達を雇ってまで輸送する物なんて……たかがしれてるかもね」
続く彼女の言葉に三人はほぼ揃って溜息を吐き、覆面の位置を調整するジョンは憂鬱そうな様子でぼやく。
「いつもの事」と言えばそれまでだが使いっぱしりを続けさせられるというのは中々納得できるものではない。
傭兵という家業の中である不満のひとつだ。
「……続けるぞ。目的地はカリブ海諸島。政府軍の海軍基地まででコースから計算して約半日はかかる」
「それまでは海の上で海鳥観察かよ」
「まぁな。だが、今回の任務ではそうも長々と眺めている暇はないと思うぞ」
「……あ?」
年老いたが故に遅めではあるが、マザーはキーを操作しディスプレイにデータを表示させる。
数は複数。それを確認すると、それぞれが座っている席の前にあるモニターにコピーしたデータを渡していく。
一見何のデータかと思って見る彼らだが、その中で最初に反応を見せたシンヤは目を見開いてデータに食いついた。
「これは……」
「今から三週間前に監視衛星が捕らえた映像だ。場所は大西洋カリブ海寄り」
「奴等、カリブ海を根城にしてるってワケか」
「この規模ならカリブを暴れるには十分なのだろう」
同じく反応を見せたリヤンだが、彼の場合はそこまで大きなものではなく普通とも言える並の反応。軽く微笑み面白そうだという表情をしていた。
「………。」
「不思議か、シンヤ」
「……いや。俺が居て。ベールが居て。ジョンが居る。不思議とは思えないさ」
落ち着きを取り戻したシンヤは椅子に腰を落ち着けると、間を置いて答える。
そして見たことのある装備や
それはシンヤにとって実に馴染み深い者達だったのだ。
「―――ノイエDC、残党……」
―――”DC”
正式名はディバインクルセイダーズ
かつてシンヤの居た新西暦で”DC戦争”を起こした巨大組織だ。
一度はその戦争で敗れたDCだが、その残党を更に再結集、再組織化したのがノイエDC。
そして、更に残党となったのが今回彼らの行く手を阻む者達だったのだ。
「つまりは残党の残党だろ?大した戦力じゃねぇんだろどうせ」
「いや。そうとは言えんぞ。このノイエDCの残党は、残党といっても大規模な勢力だ。実際、現地政府軍も手を焼いている」
「規模はどれくらいで?」
「潜水母艦一隻と空中母艦二隻。それに収容された機動兵器がざっと五十から六十」
「キラーホエールとストーク級か……なら、搭載している機動兵器はAMのリオンが殆どか?」
「新西暦がらみなら……お前が詳しいと思ってな」
「………。」
独り言のように呟くシンヤに策を張ったような顔で語るマザー。
彼は今回の一件の中で納得出来なかったことがようやく線がつながったということで、してやられたという顔で頭を掻き、鼻から息を吐き出す。
やがて。自身がこの任務に参加させられた理由を理解し数秒ほど俯くと、決心を固め口を開いた。
「………全員。今から言うことをよく聞くように」
シンヤ曰く。今回のノイエDCの部隊規模はかなり大きいらしく、彼もその規模には息を飲むほどだった。
「今回の敵となるノイエDC。その規模は俺が見た中では大規模なものです」
「それだけ、戦力が各地散り散りになったってことだね」
「……敵の母艦三隻のうち一隻の潜水艦、キラーホエールは搭載戦力であるAMをかなりの数を搭載が可能。加えてミサイル発射管や
弾道ミサイルだ?
意外そうな顔で言ったリヤンは軽く笑うと、その場の全員が思っていることを代弁するように口にする。
「SLBMなんざ、残党如きが持ってるかよ」
「それだけのペイロードがあるって事だ。続けろ」
マザーの遮りに例え話だよ、と口答えをしようとするが間をおかずにシンヤが話を続けたので、リヤンはふてくした顔で楽な姿勢をとるとシンヤの話へと耳を傾けた。
「―――そして、二隻ある空中母艦であるストーク級。これは大気圏内用に開発された母艦で、ペイロードはキラーホエールほどではないですが戦闘能力で言えばこちらに軍配があがります」
「航続距離は」
「結構あります。過去に軍が接収したストークの最大航続距離を測ったところ、地球一周…とはいきませんが欧州から太平洋側を飛んでカリブまでは行けたと」
流石は新西暦だな。呆れつつも賞賛するリヤンとに対し、ジョンは深く腰かけたまま顎に手を置き興味深そうに話を聞く。
普段から興味の欠片がありそうなのには決まってその反応を見せる彼はどうやら今回、敵の母艦に示したようだ。
「要は地球半周はお茶の子さいさいってワケだ」
「と言っても、それはあくまで積載している物が必要最低限だった場合。AMや武器弾薬装備。それに食料などを入れれば三分の二ないし半周程度か…」
「いずれにせよ十分輸送部隊の脅威になるのは確かだな」
「ええ。特にストーク級はAMと合わせて出てきたら厄介です。輸送部隊の方法によっては…特に」
「………。」
そういえば彼らの輸送方法は。と思い出したように尋ねるジョンにマザーは横目で彼を見ると、少しばかりの間を空けて質問に答える。
大西洋を渡るなら運搬方法は実質二つにしぼられる。
「輸送方法は二つ。空と海だが部隊を六つに分けて輸送は行われる」
「ダミー…ですか」
「そうだ。空中輸送のうち二つ。海上輸送の二つ。これが敵の索敵に引っかかり攻撃された場合、反撃する戦力のみが搭載されている」
「外れたら壊滅、当たっても…似たようなモンか」
完全に水増し戦力扱いされているのに不満なリヤンは、椅子に深くもたれかかり「あーあ」とあからさまにがっかりしている様子であったので、マザーは彼の不満げな顔に目を傾けつつも言葉を繋いだ。
「いずれにせよ本命のブツを届けるというのがこの任務の大前提だ。敵に複数の部隊を討つ余裕はないが…当たった場合は我々が対処する」
「上手く利用されたのはどっちなんだか…」
リヤンは小さくぼやくと願わくば輸送部隊に多大な被害が出て欲しい、などと口にしてはいけないことを考えそれによって自分たちに出番が回ってくることを願っていた。
◇
ここで簡潔にだが旅団が付く側、政府軍について説明しておこう。
地球系の大陸配置である世界を統治する政府軍。今回その中で空軍と海軍からそれぞれの母艦が出撃。
海軍からは空母艦と護衛艦の混成部隊。
空軍は大型輸送機と輸送ヘリの混成。更に給油型や機動兵器輸送機。
そして防衛戦力として戦闘機F-32『シュヴェールト』の五編隊。そして他の世界から流入したMS『ウィンダム』の三小隊。
この世界の方面軍としては上位とも言える戦力だ。
そこに更に水増しとして対潜ヘリや空母艦の間での人員輸送の為のヘリが加わり、見た目だけでも数は圧倒的といえた。
その中に旅団が保有するただ一隻の大型空母艦。それが今回、船団の中に紛れて航行を行っている。原型は旧式のものだが、内装は一新しているので問題なく運用が可能な艦だ。
「ティルトローターに補給を済ませたら下がらせろ!いざって時に邪魔になんぞ!!」
「艦橋の方の対空砲の弾薬は?」
「下の階に積んでる。取ってきてくれ」
「馬鹿ッその機材は下のだっての!!」
その旅団の空母の甲板ではスタッフたちが慌しく甲板の上を走っており、甲板の上に散乱しているコンテナを動かしては置きを繰り返し準備と整理に急いている。
しかしそれを他所に、というよりも他所に置かれたリヤンとジョンは二人大人しくティルトローターの機内で時間を潰すほかなく、だらけた様子で二人は暇そうに椅子に腰をおろしていた。
「………。」
「……………。」
マザーとシンヤが離れてから十分と経っていないが、二人の間では長い時間が経っているかのように思え、気まずい空気と共に静寂が流れる。
最初はそれを我慢していたリヤンだったが、あまりに嫌な静けさだったので耳を外へと傾けるが、やがて再び我慢できなくなり、適当に考えも無く口を開き話題を搾り出した。
「……そういや、他の奴等って何処に行ってたっけか」
「真紅とベルベットは二人で調査任務。
「………。」
「言いたいこと分かるけど。今は我慢するべきではないかな?」
「お前と面向かって話すと、どうにも調子狂うからな」
リヤンの言葉に残念そうな顔で溜息をするジョンはそんなに自分は変なのかと訊ねるが、間髪いれずに首を縦に振られてしまい落胆した様子でまた深い溜息を吐く。
だが本人もそのままは嫌だったのだろう。直ぐに話題を切り替えると同時に落胆から一転また陽気な態度で話し始めた。
「――ところで君の機体。随分と面白いコンセプトをしているね」
「別にいいだろ。俺が決めた理由でもねぇし」
「それなら尚更、それを設計した人物に会いたいものさ」
「やめとけ。お前でも絶対に気があわねぇ」
直ぐにでも話をやめたいリヤンは適当な物言いで言葉を返すが、彼の言葉は全て自分の経験からいう事実そのものだ。
彼の機体はジョンから見れば
「……へぇ。面白そうだ」
目を逸らされたジョンは顔を腕で支えさせると、自分の前に置いていたiDROIDを使いあるデータを浮かび上がらせる。
彼がリヤンとの話についてか、そのデータについてその言葉を言ったのかは本人にしか分からない。
だがもし彼の視点でいうなら、恐らく二つとも面白いと取れる事なのだろう。
リヤンの機体を作り上げた人物。
そして今回のノイエDC残党のデータ。
その指揮官についてのデータが既に判明し彼らの端末に転送されていたのだ。
◇
= カリブ海 ベネゼエラ近海 =
カリブ海を中心に反体制活動を続ける組織。
元は新西暦と呼ばれる世界の反連邦組織だったが、組織壊滅後に次元転移によって飛ばされた者達が居る。
ノイエDC。
かつてDCと呼ばれていた組織の残党が再度組織した彼らは一度は正しき指導者によって動かされていたが、それももう過去の話。
今では再び残党となり世界だけでなく様々な次元世界で反連邦活動を粛々と行っていた。
今回、旅団と戦闘を行うことになる彼らはこの中でも大規模な部隊で錬度や物資も申し分ないものとなっている。
当然、それだけのを纏めるには優秀な指揮官や人材が必要となってくる。
それが彼ら残党の指揮官だ。
「カトウ中佐。政府軍輸送部隊が移動を開始。予想航路から目的地はカリブ海北方の島だと思われます」
「動いたか。北方の島だと奴等の補給基地が目的地だな」
顎鬚を貯え鋭い目を光らせる男、カトウはDC戦争から参加する古参の軍人だ。
その能力は決して特筆したものとは言えないが指揮官としては優秀で部下からの信頼もある理想的な男と称されている。
そのため、彼に付き従う者も多く佐官からも三人が彼の下に加わり規模も現在の下になった。
本人はそこまでカリスマも指揮官としての素質もないと言うが、それでも彼に従う者達は後を断たない。
「それに島の中には一つだけ軍事基地がある。内陸部だな。なれば揚陸艦が居ても不思議ではないし敵も我々の存在から考えて相当の戦力を護衛につけているはずだな…」
「恐らくそうでしょう。方面軍となればあのMSといかいう兵器が居ても可笑しくない。それに規模からしても潜水艦だって…」
「ゲルニック少佐。潜水艦は難しいでしょう。なにせ航続距離が現代では制限されていますし、仮にあったとしてもこちらにはキラーホエールが居ますしこちらの母艦は潜水艦と空母です。対抗戦力だとしても性能に差があります」
「しかしだな…」
慎重派なゲルニックは的確な答えを言うケインに言いたげな顔をするが、それを先にカトウが笑ってその場を制し、自身が先に意見できるようにする。
「少佐が慎重になるのは分かるが、幾ら奴等でも潜水艦は随伴させんだろう。恐らく、挟撃としてならあるいは、だ」
「挟撃…南米や北米からの援軍…!」
「数は少ないだろうが相手もこちらの力量は分かっているはずだ。挟撃で一網打尽も十分に考えられる」
「それでは…!」
「うむ。このままココに居ればいずれは叩かれる。それも前後を抑えられてだ」
「そうなれば我等は崖に立たされる…」
ただでさえ母艦などの戦力に差があるこの状況では抵抗するも空しく敗北がいいところ。最悪は抵抗する間も無く敗北だろう。
そんな結末が目に見えていたゲルニックは「あわわわ」と慌てふためく声を漏らして焦っている。ケインも冷静な態度ではあるが汗を滲ませ何か策は無いかと頭を働かせる。
しかし両者共に名案が思い浮かばず、最早ここまでかと思い始めていた時、カトウが口を釣り上げた。
「だがな。我々もそう易々と叩かれる烏合の衆ではない」
「……ッ!」
「な、何か策が!?」
「ああ。キラーホエールに居るコールに連絡しろ」
カトウは余裕げな物言いでキラーホエールの艦長を任せている大尉のコールに連絡を取らせ、ある命令をこの時下したのだった。
その間、政府軍輸送部隊はカリブ海付近まで問題なく進軍。
天気も味方し、予定通りの航行を続けていた。
途中何度かの燃料補給を行い、同時に残党の同行を偵察していたが、殆ど音沙汰なしとされ、内部からは降伏ないし正面決戦、または気づいてないのではと戦わずして勝利の意見が大半だった。
が、当然旅団メンバーはそれを信じておらずマザーも殆ど動きを見せていない彼らに疑問を抱いていた。
「旗艦からの報告は?」
「同じく「敵部隊に行動の気配はなし」と…」
「………。」
ブリッジに設置されたモニター付きのテーブルに移された残党の様子に考え込むマザー。
全くの音沙汰なしということは何か策があるのかと考えるが、それにしては動きがないというのには違和感以上に不安さを湧き上がらせ最悪のケースを予想させた。
「……これは」
「一杯くわされている、と?」
「…ジョンか」
音も無く現れたジョンは「ええ」と答えると彼女の視界に入り、モニターされている自軍の配置状況を見て呟く。
「私達が分散して輸送し、本命を隠している…それが既に相手に看破されているということですか」
「有り得ん話でもあるまい。現に、今回の作戦指揮を行う奴はかなりの馬鹿だからな」
今回の配置は海空それぞれ部隊を二つに分割、計四部隊が同時に輸送を行うというもので、その中にマザーたち旅団。そして本命の物資を輸送する本隊が存在する。
旅団は今回戦力の水増しとしてか作戦指揮官には見られていない。故に今回、戦力が少ないもう一つの海上輸送部隊の護衛につくことになっている。
一方で本隊は他の空輸部隊や旅団の居る海運部隊とは違い、多くの機動兵器等を格納。過剰とも言える戦力を持って居た。
つまり。指揮官は本命は自分たちですよ、と堂々と言ってしまっているのだ。
「やれやれ。自分を囮にして勝とうって腹積もりなんだろうけど…シンヤの話が正しければ…」
「格好の的。相手にとってはカモでしかない」
「ですよね」
「…なら、我々のやることは一つだ。彼らがそれでも囮を買って出てくれるなら、それに乗らせてもらう」
上機嫌な顔のマザーにジョンは軽く息を吐くと、心配というより不安げな表情で呟く。
彼女の意見には賛成であるが彼にも心配というものはあったようだ。
「………後で依頼主に何言われても知りませんよ?」
「…生きていればな」
そう。この作戦で指揮官が無事に生きていられればの話。つまり…
「レーダーに感ッ!!前方からSSM、数8ッ!!」
「来たな…!」
刹那、ブリッジに警告音と共にオペレーターの声が響き渡る。
艦対艦ミサイル。その先制攻撃が旅団の居る部隊へと降り注ごうとしていた。
ある程度予想をしていたマザーはミサイルが来るにも関わらず余裕げな表情でミサイルの報告を聞き、直ぐ様命令を下す。
「CIWS撃ち方始め。甲板に居るスタッフは直ちに艦内へ。流れ弾に当たったりしても知らんぞ」
「了解。CIWS撃ち方始めッ!!」
復唱と共に空母の端などに装備されていた迎撃兵装が起動。
機銃が動き、天高くから降り注ごうとしているミサイルへと弾幕を形勢していくが、殆ど当てずっぽうの弾幕頼りの牽制のため、接近しても弾幕の攻撃は中々当たらない。
だがその間にスタッフ達が艦内に退避できる時間は稼げるようであちら此方からスタッフたちが艦内へと逃げ込んでいた。
「敵弾、二発撃破。残りは真っ直ぐこちらに向かってきていますッ!!」
「艦隊は」
「同じく迎撃を開始。ですが向こうも……!」
「着弾、来ますッ!!!」
「………!」
たかがCIWSだ、そこまで期待してはない。そう言うかのようにマザーは冷静な顔で接近するミサイルを睨みつけていた。
一方。堂々と本命だというのを見せ付けている本隊は、旅団の居る部隊がミサイルによる攻撃を受けたと知り、指揮官である男グレインは自軍に被害が出たにも関わらず余裕のある表情を見せていた。
「…ふん。奴等の方に攻撃が行ったか」
「ハッ…数は8。内二発を迎撃はした模様ですが後は…」
「構わん。あそこには大してロクな物資は積ませていない」
この時、グレインは嘘をついていた。というのも物資は確かに積んでいるが、問題はその詰んでいる中身だった。
今回の任務が友軍基地への物資補給であるにも関わらず、彼らには大した量を詰ませておらず、代わりに彼は旅団にとって都合の悪いようになる物を積ませ守らせていたのだ。
というのもグレインはそもそも旅団を信用しておらず邪魔にしか思っていない。
加えて、今回の輸送任務自体も彼にとっては単なる言い訳でしかなく、その本命は彼の居る本隊と旅団の居る輸送部隊が運んでいた。
(フッ…あいつ等がミサイルで迎撃されれば後で中米方面軍が出動。生存者回収の為に残骸を調べる。そうすればあそこに積まれていた物資を見て、奴等の信用はガタ落ち。後はいくらでもなる…)
安易な考えとはこの事かと思いたくなる考えだが、グレインはソレぐらいが彼らには丁度いいし、その程度で問題は無いと考えていた。
たかが傭兵部隊。それもそこそこ戦力があるだけの連中だ。毛の生えた程度にすぎん。
グレインの考えはそれが自分の思考全てを使った浅はかな考えだと、気づけずにいた。
そんな部隊であれば最初から政府が雇いはしないし、方面軍も
そして、その理由を彼らがまだ隠していると気づけずに居た。
何もかも浅知恵でしかない。彼の敗因だった。
「ッ!?レーダーに感!この熱源は…!!」
「どうした。敵の迎撃か?それともミサイルか」
「い、いえこれは…
敵の空中母艦二隻ですッ!!!」
「な――――」
オペレーターの報告にグレインは言葉を失う。
まさか敵が何の迷いも無くこの本隊に向かってきていたという事、そしてその距離が既に相手の射程内であった事という二重の意味。そして、自分の考えが本当に浅知恵だったのだとココに来て始めて知る事となる。
まさか最大戦力のところに来るはずが無い。まさかそれが本命であると思うはずが無い。
最後のはなしにしても最大戦力のところに最初に来るはずが無いというのは彼の浅知恵の象徴だった。
確かに本隊よりも戦力の少ない部隊に攻撃を仕掛ければ自軍の被害を抑えられるのは当然だろう。
しかし戦力に差があればどう考えてもそれが囮であるとわかってしまう。
最大戦力であれば何かを守っているはず。単純な考えしかしない者でもそうは考える。
ならばココは被害を省みず、本命だと思える最大戦力の本隊に攻撃を向けるのはどうか。
敵指揮官カトウはそれを提案し、そのための用意を行った。
「敵海上輸送部隊、射程内です」
「まさかここまで容易に引っかかるとはな」
「どうやら、こちらのハッキングが成功したようですね」
「グッ…ぜ、全迎撃部隊を出撃!前面に押し出せ!!」
「り、了解!全機スクランブルッ!!」
「まだだ…我が軍には奴等に勝る戦力と挟撃部隊が…」
余裕げなカトウたち。焦るグレイン。
しかしグレインはまだ策はあると信じ今出来る行動を直ぐに起こす。迎撃部隊であるMSを緊急出撃。更に部隊に居る全艦隊の兵装を解放。攻撃前にとはいかずとも反撃の用意だけでもと、余裕に見えた焦りを見せグレインは指揮を行う。
だが一方のカトウは既に命令を下した後なのか暇を持て余すかのように頬に片手を当てる。
「さて。どうするかな、指揮官殿は」
「今頃大慌てでしょうね」
余裕な態度を見せるカトウとケインは自軍の空中母艦二隻から放たれた砲撃とミサイル郡を見て相手であるグレインがどんな顔をしているかと予想する。
ケインは典型的に慌てていて、もうこの時既に逃げる算段をしていると。カトウはまだ逃げず、奥の手と称したもう一つの策に期待していると。それぞれ彼の性格を知っているかのように突いたような予想を言う。
実際はどちらも正解でグレインは挟撃部隊に期待を持ちつつも負けたときのことを考えて逃げる用意を考えていたのだ。
「対艦ミサイル着弾を確認。敵空母艦二隻中破。護衛艦一隻が大破」
「続いてAM部隊の展開を確認。現在中破した空母艦、並びに残存する護衛艦への牽制を行っています」
「バレリオン部隊の用意を。生き残った護衛艦に牽制後砲撃で沈めます」
「よし。ゲルニック。お前は空母をやれ」
『了解しました。お言葉に甘えて敵旗艦を撃破いたします』
ゲルニックが通信を切ると、待機させていた攻撃部隊を展開。
DCAM-004『リオン』とDCAM-006『ガーリオン』の混成部隊が黒煙を上げる空母へと向かって行き、迎撃に出撃したウィンダムと交戦を始める。
しかし戦力差がある為か、何機かのリオンはウィンダムを素通りして甲板に居るシュヴェールトへと攻撃を始め、次々と撃破していく。
「MSはガーリオン部隊を中心に抑えろ。残る機体は甲板と艦橋を攻撃。奴等を海の藻屑にしろ」
「ラニ小隊、レイン小隊共に敵MSと交戦開始。アーニ小隊は空母へと攻撃を始めました」
「うむ。焦らずに攻撃しろ。別に増援が来るわけではない」
本隊の迎撃部隊であるMSは半分以上の二小隊計八機。対してゲルニックの部隊だけでも四小隊が相手となれば数に余りが出て挟撃されたり本隊に攻撃が当たったりもする。
加えて迎撃機であるシュヴェールトが撃破されているので実質戦力にならないとなればいよいよ彼らに増援の見込みはなくなっていく。
「なにをしている!攻撃を当てんか!護衛艦はなにをしている!?」
「『レイ』、『ラシャ』は敵AM部隊と交戦。『ピューパ』は大破、現在退艦を始めています」
「何っ!?」
汗を滲ませ、声を張り上げ思考が真っ白になっていくグレインは揺れるブリッジで劣勢になっていくことに言葉を失っていく。
その焦りが彼の命の最期を加速させるかのように、護衛艦の一隻から再び爆発が起こるとグレインは焦ったままの表情で爆破が起こった方へ振り向く。
「ッ!!『ピューパ』轟沈!!」
「っ!?」
「『シナノ』も大破!『ワレセントウケイゾクフカ』とのことッ!!」
「ば、馬鹿な……挟撃部隊は、援軍は!?」
「…カトウ中佐。コール大尉から連絡が」
「繋げ」
カトウのストーク級艦「ハマリエル」へとキラーホエール級潜水艦から通信がつながれ、画面には艦長であるコールが若々しい姿と共に笑みを見せていた。
『カトウ中佐。こちら「スピアフィッシュ」です』
「そっちはどうか」
『作戦は成功。挟撃部隊である潜水艦隊は全滅しました』
「よし。今何処に居る?」
『予定通りそちらとの合流に向かっています。後十七分ほどで到着予定です』
「…フッ…その間にはこちらも終えている。空輸のほうの奇襲部隊もキッチリと回収しろよ?」
『はいッ!』
通信を切ったカトウは若い彼の表情に笑みをこぼした。
これで援軍の心配は無くなった。
これで援軍の望みは無くなった。
優劣が決定的となった瞬間、両者の指揮官の表情が変わる。
「全艦攻撃を敵旗艦に集中ッ!もう援軍の心配はいらんッ!!」
「SSM攻撃開始。目標、敵旗艦空母!!」
「馬鹿な…援軍の潜水艦隊が…!?」
「『ラシャ』からの通信、『レイ』のブリッジに直撃!艦橋脱落とのこと!!」
「うっ…!?」
「『シナノ』轟沈ッ!!迎撃部隊も損耗率六割を超えました!!」
響く轟音と爆発音、軋む船と音に指揮官である彼の背には敗北と死の二つが脳裏を過る。
戦況は劣勢。艦も殆どが轟沈寸前の壊滅状態。MS部隊は足止めを食らっており押されるのも時間の問題だ。
「ウィンダム小隊、損耗率二割を突破ッ!!」
「『ラシャ』中破!航行不能ッ!!」
「あ…ああ…」
戦況が覆される。
勝てると思っていた戦いに敗北していく。
今まで勝っていた自分たちが負けていく。
それが自分の実力ではないというのを、グレインは最後まで信じなかった。
「え、SSMが本艦に…!!」
「艦長、『アマギ』が…!!」
ラシャのブリッジでは艦橋に直撃し崩壊していく旗艦『アマギ』の姿が鮮明に見えていた。
幸い、甲板にまでは被害が及んでいなかったようだがそれも時間の問題。いずれあの空母貴艦も沈むだろうと艦長であるサカキは敗北を受け入れていた。
「…もはやここまでか。他の輸送部隊が無事に着けばよし。その為に…私はこの艦と運命をともに…」
「なっ…」
「MS部隊が本艦周辺に集結。陣形の立て直しを図っています」
幸い部隊のある程度は残存している。
汚名を自分だけに着せれば彼らへの非難は軽くなるだろう。
それに指揮官であるグレインの横行のために捨てていい命ではない。
サカキは残った彼らを生かすために自らを犠牲にしようとしていた。
「………MS部隊ならびに全部隊に通信。本艦が臨時旗艦となり敵部隊に…」
その刹那。
彼の肌にわずかな殺気と気配が過った。
殺気は確かなものとなり、気配は彼の目の前に現れる。
桃色の一閃。その一撃が目の前に迫っていたガーリオンの胴部を打ち抜いた。
「あ…」
「え…」
「あ、アーニ機、撃破!?」
「なにっ――――」
それだけに止まらず、攻撃は次々とリオンたちの上に降り注いでいき彼らの命を奪っていく。直撃を避けられたものは誰一人としていない。
たったその一瞬の内に小隊ひとつが全滅したのだ。
「アーニ小隊が…」
「馬鹿な…一体どこから!?」
「今の攻撃…上から…!」
カトウの声に観測手が上の映像をモニターに映す。
天から降り注いだかのような一撃。考えれば上からが常識だが一体誰がそんな攻撃をしたのか。
答えは直ぐに彼らの前に現れた。
「モニターに出しますッ!!」
「何故だ…レーダーに反応は…ッ!?」
「か、艦長ッ…!?」
「な――――」
天空高くから飛来した一機の人型機動兵器。
それを目にした者たちは一瞬にして言葉を失ってしまう。
まるで神の使いである天使のように、天空に人の影があったのだ。
青と白のカラーリングと白いV字アンテナ。
二つの目は人のように光り、怪しくも美しい輝きを放つ。
手には一丁のライフル。剣との複合武装だ。
「全く…仕事が多いのも楽じゃないな…」
緑の粒子が天使の周りで舞い散り、まるで本当に浮いているかのようにしているが全てその粒子の恩恵によって機体は宙に浮いていた。
天使の名を冠する機体。
人はそれをこう呼んだ。
“ガンダム”
―――”ガンダムエクシア”と
「ガンダム…だと…!?」
「そんな…どこから!?」
「あれは…あの青いガンダムは…!?」
「確か、ローマでも現れたって言う機体です!」
両陣営の長たちは突如として現れたガンダムに驚き、更に今まで分かれていた双方の表情がここにきて再び変化する。
政府軍の残った艦である『ラシャ』の艦長のサカキは「もしや」と。
今まで優勢だったカトウは「まさか」と言った表情に。
二人の表情は互いに入れ替わった。
「エクシア…目標を駆逐する…!」
天使の裁決
それは誰も望みはしない無慈悲な決定だった。